題:つらねの逆襲


満天星国。
足をぷらぷらさせながら、私、オンサ・エルケは都築つらねを待つ。
少し空を見上げる。青い空から夏の日差しが眩しいほど降り注いでいる。
今日も暑くなりそうな予感。
でもあまり気にならないのは・・・。
私はちょっと熱くなった頬を感じながら気にしないふり。

オンサ・エルケか。
うん。悪くない。
自分の服装に目を向ける。
前とは違う、少し露出を抑えた格好。
意識して再び顔を赤くした後、ふるふると首を振る。
だって仕方ないじゃない。つらね以外にはそんなに見せたくなくなっちゃったんだから。
そう。これは私の意思。つらねは、関係ないので、アール。
出した結論に満足し、再び足をぷらぷらさせながらつらねを待つ。


/*/


「オンサー」

手をぷらぷらさせながらつらねがやってきた。
白にして秩序。私の旦那様。
会うのはずいぶん久しぶりだ。

「暑い、暑い。暑いの苦手でねえ。」

つらねが手で顔を仰いぎながら言った。
そんな姿をじーと見つめる。
うん。ホントに久しぶりだったんだ。じんわりとした喜びが胸を満たす。
ここにつらねがいる。なんだか嬉しい。
嬉しくて私はにこっと笑う。

「昨日は涼しかったのにねー」
「久しぶり、元気してた?」
「まあまあ」

だってつらねがいないんだもの。元気も曇るというものよ。
でも言ってやんないー。
私がそんなことを考えているとも知らずに、つらねは会話を続ける。

「そうだねえ。雨でも降ってくれりゃ、少しは良いんだけども。」

雨、かあ。

「じめじめするだけだよ」

雨の日は時々さみしくなる。
だってとなりにいるべき人がいないんだもの。

「その間だけでも涼しくなるからね・・・まあじめっぽいのは確かに。ただ、夏の夕立ちは、けっこう好きでさ。」

つらねの言葉に耳をかたむける。そうか。つらねは雨が好きなんだ。
じゃあこれから雨の日はつらねがそばにいるみたいに感じられるかもしれない。
そう考えて、はたと気づく。

「んー。この国、そういうのは少ないのよね」

ちょっと残念。
つらねはそんな私を見透かすように手を差し出してきた。

「まあ、たまにくらいがちょうどいいさ。あんまり降られても有難身はなくなっちまう。」
「少し山でも行かない?あそこならたぶん涼しいし。」

私は差し出されたつらねの手をとる。
つらねのぬくもりが私を癒してくれる気がした。
そのまま手をひかれて立ち上がる。

「うん」
「うん。」

へらりとつらねが笑った。ちょっとかわいいかもしれない。
そのまま一緒に山に向かった。なぜか電車で。まあいいか。


/*/


目の前にそびえたつ大きな山。

「この山は?」
「守人山、うちで一番高くてエライ山だね。流石に一番上までは登らないけれど、上は見晴らしが良いよ。海まで綺麗に見える。」

へえ。
というか、つらねは暑そう。上が涼しいならそちらがいいのかもしれない。

「飛ぶ?」
そうすれば歩くより早く涼しいところにゆける。
つらねはなぜか、え。という顔をした。

「・・・飛ぶっていうと、山?オンサ?」

私はふわりと浮いた。
え?なあに?どうして驚いでるの?

「お前はほんとスゲーな・・・いや、飛べる知り合いはそんないないからさ。というか、そういえばオンサが何できるかも、俺、あんまり知らないね。」

他人事のように言ってる。
まあいいけどね。
飛んで行こうと頷いているので、私はつらねの手をとった。
ふわりとつらねも浮き上がる。

そのときつらねが何かをつかんだ顔をした。
一心に想いを描き始める。

そして普通に飛んだ。
もー。そんなところまでかわいいんだから。知らず微笑みが浮かぶ。
飛べるじゃない?と目で言ってやった。

「やればできるもんだねえ・・・」
「誰だって、そうだよ」
「じゃまあ、いこっか」
「うん、まったくだ。」

そう。やってみれば案外できることのほうが多いんだよ。
山の景色を二人でみながら頂上に向かう。


/*/


頂上にふわりと降りる。
体が重い。飛んだ後はいつもこうだ。本来オーマは足はあまり使わないものかもしれない。なぜかこの国ではよく使うけど。
手をつなぎながら、つらねは私をエスコートした。

目の前に広がる、輝く海。
同じく輝くつらねの表情。

「うん、やっぱ、夏の海は良いわ・・・山から見るのは。」
「って、あー・・・いつも見てる?飛べるなら。」
「見えるけど、そういう風には考えないね」

自然は眺めるものでなく、ただともにあるものだ。
つらねのうきうきした表情にこちらまで嬉しくなる。
自分と違う感性に心が暖かくなるのを感じながら笑いかける。

「いいんじゃない?」

うん。自然の美しさに感動するものがいてもいい。
つらねの頭をなでなでする。
だってかわいいじゃない。

「うん。いやさ、俺、山育ちでね。こういう景色は好きなんだよ。」

つらねはなでなでされながら、ぬうとした顔をした。
あ、発見。こんなつらねもかわいい。


「・・・いや、うん、なんだ。」
「たまには山に帰りたかったってのもあるけど(笑)」
「・・・俺がとっておきだと思うのは、オンサにも見せたくて、さ。」

私はたまらなくなってつらねの頬を指で押した。
なんてかわいいことを言うのだ。私の旦那様は。
うぐーと変な声をあげるつらね。
面白い。すごくいい。
私がにこっと笑うと、つらねが悔しそうに言った。

「今回は負けだなあ・・・」

何の勝負かわからないけど、つらねは負けたらしい。
なんて、ホントはわかってる。手加減なんてしてやんない。



話題を変えるように、つらねは私の好きなものを聞いてきた。
んーと考えると、頭のなかでぴちぴちした魚が浮かんだ。塩コショウと小麦粉がふられ、フライパンでいい音を立てながらこんがり焼かれる魚。
うん。あれは好き。

「魚?」
「お魚のムニエルとか。鮭?」

一瞬つらねの頬がゆるんだ。

「あー、鮭は秋だな・・・てか、それなら釣りにでも行けば良かったかな。」
「つらねは?」

また頬を押したくなるのを我慢して聞き返す。

「お酒。お米のお酒、ニホンシュだね。」
「あ、魚も好きだよ。川魚釣って焼いたりとか、子供のころはよくやってた。」

ニホンシュ。
どこかで・・・ああ、あれか。いまわしいあの!
過去の醜態を思い出す。あれが好きなのか。つらねは。

「それ、顔赤くなるのじゃない」
「あー、なる人はなるね。でもお酒は人によるんだよ。俺はほとんど赤くならないからなあ。」
「オンサは、お酒飲んだことは無いの?」

なんてイジワルなことをきいてくるのだ。もう!

「飲んだから赤くなったに決まってるでしょ?」

頬を膨らませて抗議すると、つらねは、わははと笑いながら「ああ、なるほどね」 なんて言ってる。そんなことをいうのはどの口だ!
私はつらねの頬をぐりぐりしてやった。

「飲みすぎなきゃ大丈夫だよ。それに、良いじゃない。お酒飲んでも、可愛いと思うし。」

頭をなでられた!
うー・・・・! 嬉しいのと悔しいのと安心するのでしてやられた気分。

「そういうのはどこかずるいと思う」

私の弱気な抗議に「んー、そうかな・・・。」 なんていってるつらね。真面目に考えてるあたりがやっぱりかわいい。
私は微笑んだ。

そういえばさっきから気になってるんだけどこの髪。長さも中途半端で邪魔な気がする。
指で払っているとつらねの手が髪を分けた。
大きな手。

「・・・でも、お前は、ほんと可愛いけどな。」
「は?」

私が可愛い?!どこが?
おもいっきりブスの顔をしてやってつらねをにらんだ。
つらねはくすくす笑うと私に言った。

「俺は、何から何までひっくるめて可愛いし、好きだから、お前と一緒にいると約束したんだよ。」

なんという大逆襲!!
心臓が止まるかと思った。体が熱くなる。
一瞬言葉を失いかけながらもなんとか声にする。

「そー。ですか」

口をすぼめて言った言葉は負けを認めたようだったけど・・。

「まあ、いいけどね」
つらねが一緒にいてくれるのは、嬉しい。うん。嬉しい。
いつのまにか機嫌を良くさせられた気もするけど、まあいいか。
つらねは「そー。です。」といいながら、うむと頷く。
微妙な位置で隣り合う私とつらね。触れていないのに、ほのかに体温が伝わる距離。
頭をなでた大きな手も、すぐ横にある。少し指をのばせば絡み合う距離。
つらねのにおいがする。つらねも私のにおいを感じているのだろうか。

「・・・そういや、聞き忘れてたんだけど。」

唐突につらねが言った。
なんだろうと思っているとつらねの逆襲その2がきた。

「エルケ。気に入った?」

心臓が一瞬跳ねたのは気のせい!
再び熱くなる顔と体を無言で立て直し、私は目をそらした。

「さあ?」

おもいっきりすっとぼけてやったけど・・・。きっとつらねは気づいたに違いない。私がまんざらでもなく思っていることを。





あなたは秩序。私は無秩序。
全く違う二人だけど、だからこそ仲良くできるのかもしれない。
あなたは私の理解者。
私もあなたをもっと理解したい。理解しあいながら飛んだり歩いたりしてゆく。
うん。そんな人生も悪くないね!
だってつらねがいるんだもん。絶対言ってやんないけどね。



Fin







■◇■おまけ■◇■


題:秩序と無秩序




ある日のことである。
都築つらねは満足していた。
手には大きな秋鮭。
今朝、自ら釣ってきたものである。


「全く、やればできるもんだなあ」


大満足のつらねである。
もちろん市場で新鮮なものを買い求めることもできたが、自分の手で釣ったものを食べさせたかったのだ。


クーラーボックスに入れて、お願いしてあった店に向かう。
あと数時間先にはオンサとの待ち合わせである。
内緒にしていたかったので、このことは話していない。
オンサの驚く顔が楽しみだった。



/*/



案内されたのがフランス料理の店だと知って、オンサは苦い顔をした。
どうしてよ?と目が語っている。
まあまあとなだめつつ、つらねはオンサを中へと招き入れる。


通されたのは、カウンター席。
目の前で料理ができるようになっている。
つらねはオンサを座らせると、手を洗い、店員さんから渡されたエプロンをつけ、キッチンに入る。


「前に鮭が好きだって言ってただろ。今朝釣ってきた」


はあ?オンサが大口をあけて首をかしげる。
きっと頭のなかではクエスチョンマークでいっぱいであろう。


「で、今からムニエルを調理しますよっと」


つらねは慣れた手つきで塩コショウを鮭の切り身にふりかけた。
あれよあれよという間に、見事なムニエルがオンサの前に出された。
こんがりしたよい香りがレモンの香りと相まって食欲をそそる。


つらねはキッチンを店員さんに返し、オンサのところに戻ってくる。


「実は、何度か練習に通わせてもらって、今日は魚をさばくところからやったんだ。」


確かに切り口はプロの仕事と比べると少しぎざぎざだ。


「料理はわりとするんだけど、どうせならおいしいものを自分の手で食べさせたいって思ってね」


どう?と少々おどけ口調でオンサに問いかける。
オンサは無言。
やってしまったか?!と不安になるつらね。


「オンサ・・・さん?」
「もう!!」


つらねに抱きつくオンサ。
そして無言で、小さなピクニックケースを出す。
そこに並んでいるのは、なんとも無秩序な形をしたおにぎりだった。
驚くつらね。


「絶技はつかってないわよ?全く、こんなにタイミングが合うなんてね」
「えっと、これはオンサが?」


少々顔を赤らめたオンサが頷く。


「なんだかやってみたくなって。水の量から教えてもらったわ」
「うわー、嬉しい。本当に嬉しい。ありがとう!」


思わずオンサを抱きしめるつらね。抱きしめかえすオンサ。



/*/



その後、二人はムニエルとおにぎりを食べ、店員さんがサービスで持ってきてくれた日本酒をみてつらねは不機嫌になるオンサをなだめつつ、一緒に呑み、楽しい時間を過ごした。


店員さんはその後気をきかせて二人だけにしてくれたので、オンサの顔が赤かったかどうかは、つらねにしかわからない。
ただ、二人がこれまで以上に仲良くなったのは言うまでもない。



おしまい