冬の夢
 ~カレン・サイド


外は雪。
暖炉の前にソファーがある。
鈴藤の膝枕でまどろむカレン。
時折、鈴藤の無骨な指がカレンの髪をすくう。
それはくすぐったくて、とても気持ちがいい。
どうしてそんなことになったか、もはやそんなことはどうでもよくて・・。
カレンは眠りのなかに落ちてゆく。


古代人はよくわからない。
心の構造からして自分たちとは違う。
そして脆くて儚い。

心臓マッサージをしながらカレンは思った。
身体が弱いのは、遺伝子的な要因が大きいと考える。
彼らは生存に有利になるように生きることをしないのか。
結婚。
それはより優れたDNAを伝えてゆくための儀式。
恋愛はよくわからない。
DNAで選ばれた相手と子孫を残す。
そこに恋愛が必要とも思えない。
むしろ感情にまかせるような、非効率的かつ、種族としての生存戦略に欠いた行動こそが、このような弱さを生むのではないだろうか。
吹き返した息がまた止まる。
悲しむより、効率を考える。
彼を生かすために。
3度目に彼が息を吹き返したとき、火花のような生命を今度こそ消さないように、祈るような気持ちで彼の体をさする。
砂浜の上。
鈴藤は今度こそ、やっと目をあけた。

「うぅ、頭痛い……」
こんな状態で話せるほうが奇跡だと、カレンは思う。なんて儚い。そしてなんて・・・。
「弱すぎるデス・・・・」
自分は親切のつもりで手を取ったのだ。泳ぐのは気持ちのよいことだから。鈴藤もきっと泳ぎたいのではないかと。
でも、こんなに弱いのなら先に教えてもらわないと、困る。
親切すら毒になるのなら。
「あの、大丈夫ですよ。 ちゃんと生きてますから」
能天気な鈴藤に事実を伝える。
「……3回くらい呼吸とまったですよ?」
「あー、まぁ、気にしないでください。 俺が音速をなめてたのが敗因です」
全く申し訳なさそうに、彼が私を心配する。
「なんだか、悲しそうに見えます」
そんなの
「嬉しそうに笑ってたら犯罪です」
命はなにより尊い。
それが無知な自分の手によって失われようとしていた。
なのに笑えるわけがない。


それなのに何でもないことのように鈴藤はカレンを案じるのだ。
カレンさんが悲しそうなのは、俺が悲しいです、と。
持っていたハリセンで彼の頭を軽く叩く。音もしないほど優しく。
「あう……あ、いたく、ない?」
彼の穏やかで満ち足りた笑顔を見て、カレンも少し微笑む。
ひどいことをした自分に、この人はなんて顔で笑いかけるのだろう。



この後、カレンは鈴藤に告白される。
しかし、決まった相手がいることに疑問を感じなかった自分はすぐに事実を告げる。「私の相手は決まってますよ?」と。
あの頃の自分はなんて幼かったのだろうと思う。
心を満たす、ぬくもりと疼きには、まだ名前がなかった。
DNAで決められた相手。
どうしてそんな相手と一緒に生きて、平気だと思ったのだろう。


そうして、言葉にならないほどの出来事が、彼女の心に名前をつけた。
愛、と・・。



深い安らぎが彼女を支配する。
こんなとき、思う。
彼にとらわれているのは、私ではないかと。
彼の愛情に包まれながら、こんな深くて熱いものを知ってしまったら、身動きがとれない。
しかし同時に彼女は知っている。
ミズキの支えがあれば、怖いものなんて何もない。


優しく髪をなでる手がふと止まる。
もっとほしい。
カレンが無意識に思ったときミズキの声が聞こえる。


「もちろん水着姿も素敵です!!」


とたん彼女は覚醒した。
「ナニを力説するですか!」


華麗にハリセンをふるうカレン。
地に転がり、己の鼻血に溺れる鈴藤。
絶対の正義を背負い、カレンは足元の鈴藤を見下ろす。頬を赤くして幸せそうな鈴藤。
やはりこの男はよくわからない。
しかし。
先ほどまでの夢を思い出し、カレンは急に不安になる。
もしかしたら・・
「ドコか壊れたですか?」
頭を抱き、異常がないか調べる。
そうしてみるが、一見いつもと変わらない様子にまた不安になる。
ミズキがいないと生きてゆけない。
この支えを知ってしまったら。
血をそっとふき取ると、ミズキの頭を恐る恐るなでる。
「ミズキ、壊れるのはダメです。許しません」
命を抱きしめるように、カレンがミズキの首に腕をまわす。
はい、カレンさんと返事をした彼が、彼女を抱きしめる。
そしてやっと不安が払拭される。


よくわからないことも多い。
でもこれだけは確定した。
彼のとなりで私は幸せだ。
これまでも、そしてこれからも。



~Fin
















ふゆのゆめ
  ~すずふじ・さいど


外は雪。
暖炉の前のソファーでカレンに膝を貸しながら鈴藤はカレンの頬に落ちる髪を指先でそっとすくった。
細い肢体。柔らかでしなやか。黒髪のツインテールがさらりと流れる。
鈴藤はその体の美しさと強さに驚愕した。
鈴藤はその心のまっすぐさに心を奪われた。
自分のふるう暴力に嫌悪する潔癖な少女。
警官という職種の意味を彼女は存在するだけで語っていた。

いつからか、会いたいと思った。
自分のことを好いてほしいと望んだ。
ただ会うだけでも幸せだったが、心の底ではいつも不安でたまらなかった。
嫌いな暴力をふるうほど、自分が嫌いなんだと思った。
会いたいと願えば願うほど、彼女を束縛し、死ぬ自由すら奪ってしまった自分を消し去りたいと思った。
そして・・・、そんな傷もあれよという間に彼女が癒してくれた。
いつからだろう。
彼女のハリセンが愛情表現に変化していたのは。
彼女が望むならなんだってしたいと考えた。
彼女が水着のような未来服をいつでも自由に着られるよう、また彼女の愛情表現を受け止めるために、それができる自分であろうと誓った。


わかっていますか?
僕は水着が好きなんじゃない。カレンさんが着る水着だから好きなんです。
あなたの輝きがまぶしすぎて、僕はいつも不安だった。
この女性に愛されたい。
初めて思った。
わかっていますか?
僕は貴女が好きなのです。
「もちろん水着姿も素敵です!!」と鈴藤が握りこぶしをつくり頬を染めると、次の瞬間鈴藤の体が光速で吹き飛び、目の前が赤く染まった。


「ナニを力説するですか!」
鼻血の海でヒクつく鈴藤をカレンの見下す目が襲う。
仁王立ちでハリセンを持ち腕を組むカレンさん。
ああ、そんな姿も素敵です!!
血にまみれながらもうっとりする鈴藤に、カレンは不安な顔。
「ドコか壊れたですか?」
優しく頭を抱き、鈴藤の額に手をあて、熱を測る。
そしてまた小首をかしげると、血をふき取り、優しく鈴藤の頭を撫でた。
「ミズキ、壊れるのはダメです。許しません」
そうして細い腕をまわして鈴藤を抱きしめる。
「はい。カレンさん」
包み込むように鈴藤はカレンに手をまわした。
安堵したカレンの笑顔がこぼれる。

こうして夜はふけてゆくのであった。


~Fin