題:彼と私は病室で

コメント
ご依頼ありがとうございました。
らぶらぶなログで、らぶさにノリノリで書いてしまいました。



#以下ご依頼の作品になります

愛鳴之藩国の病院の一室。
ベルカインは、自分に抱き着いて泣きじゃくる女性を抱きとめた。
肩に赤い髪がさらりと落ちる。細い肩。
赤い髪を、ベルカインはゆっくりとなでる。
「ごめん……」
精一杯いたわった言葉を発したたつもりであった。
長い時間離れていて、側にいることさえできなくて。
そんな自分が恋人であるなんておこがましいにも程があると思ったのだ。
たとえ恋人でなくとも彼女なら見舞いにきてくれるのではないかと思った。だって・・・。
きっと彼女は優しいから。
わかっているから。たとえ他の誰かに心変わりしても責めたりしないから。だって貴女は優しい人だから。幸せになってほしいから。
だから「恋人だったんです」と過去形にした。
胸にちくりとした痛みを感じながら。




山吹弓美のことを特別な存在だと意識しはじめたのは、一緒にチェーンを買いに行った頃からだったろうか。
鎖がないとはいえベルカインにとっては大切なペンダントである。
面識の薄い彼女は息をするかのようにそれを理解してくれた。
鎖をプレゼントしたいという申し入れを聞いたとき、ベルカインは自分の過去と現在をこの女性に抱かれたように感じた。
だから、自分は彼女とこれからも一緒にありたいと思った。
今も胸元に輝く鎖。「山吹」色の鎖と山吹弓美はそのときからずっと自分とともにある。
今までも、これからも。
二人は逢瀬を重ねた。
しかし世界は彼女との穏やかな日々を許してはくれなかった。自分も彼女も戦闘にあけくれ、会うこともままならなかった。
会わないと気持ちは薄れてゆくということはよくわかっている。
辛いときは遠くの恋人より近くの友人のほうがよほど頼りになるものだ。
もちろん自分はそんなことで彼女を想わなくなるなんてことはないが、相手にはそれを押し付けたくはなかった。否。押し付けてはいけないと思ったのだ。
死の砂の影響でベルカインは病の床に臥した。

そんなある日の市民病院に、山吹弓美が訪ねてきた。


ノックの音。
「こんにちはー」というかわいい声と一緒に、山吹弓美が病室に入ってこようとして、ぶったおれそうな顔をしてベルカインをみた。
「……え、えーと、ベルカインー?」
ベルカインは不思議そうな顔で弓美をみた。
もう何日もトレーニングしているので、自分に対する違和感はすでにない。
「お久しぶりです。お元気ですか」
懐かしくて愛おしい顔に、思わず疲れも忘れる。
トレーニングを中断しようと軽く汗を拭いていると、「お、お久しぶり……うん、ものすごく久しぶりなのよね。あなたが無事だって分かったら元気よ」といいながら弓美が入室した。
仕上げに顔を拭くと、弓美をみる。
弓美は「……っていうか、何かすごく元気そうでほっとしちゃった……よかった……」と言いながら、へたり込むように椅子に座った。
相変わらず愛おしい人ですね。何がというよりその存在が。
ベルカインは春風のように笑った。
「お久しぶりです。本当に」
「ごめん……ごめんね。ずっと来れなくて」
しゅんとする彼女が心配しないように、思っていたままを口にする。
「いえ。会える日を、楽しみに出来ました。ありがとう」
「……そ、そっか。でも、もっと頑張って来れるようにするね」 
そういいながら弓美はじーっとベルカインの腕を見ていた。
その様子がまた可愛らしくて、ベルカインは微笑む。
そして、彼女が何をそんなにじっと見ているのか不思議になり、小首をかしげる。
彼女の視線は腕から、そのまま首のほうに移動する。
そして、驚いたような困ったような顔。
「……えーと、ベルカイン。その首輪、なに?(汗)」
彼女の言葉に反応するように首輪がにょろにょろと動き出す。
どうやら「彼」が目を覚ましたようだ。
彼女の顔が引きつる。
「なんやなんや。最近うるさいなあ…だれや」
めんどくさそうに頭を持ち上げる白い蛇。
「……え、ええと、もしかして、詩歌のウイングバイパー様ですか?」
蛇のほうも聞かれなれたように返答する。
「んなあほな。おっちゃんはそんな格好ええヘビとちゃうで。まあ、そうなやあのすんごい神さんとくらべると月とすっぽんパチョレックとランディバースや」
「まあ、そんなことはどうでもええ。なんやねん」
看護師や医師、見舞客にさんざん聞かれたことだからか、蛇は全くめんどくさそうに答える。いや。この話し方が「地」というものかもしれない。
納得したのかしないのか、弓美は「そ、そうですか、申し訳ありません。弓美と申します。ええと、ベルカインとは仲良くさせていただいております」と言って、ぺこりと頭を下げた。
素直さに引っ張られるように、「わいはパイ……パイパイ大好きマユミ=カトリじゃ」 ときわどいところで偽名を口にする。
全くわかりやすい。
「んー。弓実ちゃんはなんでこんなところにおるんや」
医師でも看護師でもない弓美に不思議に思ったのかマユミと名乗った蛇が尋ねる。
「ではえーと、マユミさんとお呼びすればよろしいでしょうか? すみません、当時はまだ子供でしたのであまり詳しくなく」
微笑ましいやりとりを、ベルカインは笑いながら見ている。
「ベルカインに会いに来ました」
ベルカインが弓美の言葉に付け加える。
「恋人だったんです」

その一言で、蛇はなにかに撃たれたように倒れた。落ちた。
すりすり去っていった。
「お邪魔しましたー」
一方の弓美はといえば、なぜか落ち込んでいる。
どうしたんだろう。落ち込ませるような言葉を言っただろうか。
「かこけいorz ってあら、えーとマユミさーん」
去ってゆく蛇に謝るようなしぐさをみせた弓美。
弓美のかわいらしい行動がみられたことや、ずいぶん久しぶりに二人きりになれたことは嬉しい。
ベルカインは笑っている。
弓美はベルカインを見つめる。
「うぅ……やっぱり、長いこと会ってないと過去形になっちゃう?」
その目に涙があふれ出すのをみたとき、ベルカインは動揺した。
貴女はどうして泣くのですか。過去形にしたのは・・。
「僕は貴方の気持ちを確認してませんから」
自分だけ好きでも恋人とは呼べないだろう。
彼女を想うあまりの精一杯。
弓美はベルカインに抱きついた。
「ベルカインだってはぐらかすこと多いじゃないのー!」
そのまま大泣きする弓美に、申し訳なさと一緒になぜか嬉しさを感じる。
まるで夢をみているかのような。
抱きとめながら髪をなでる。優しく、優しく。

「ごめん……」
ベルカインの言葉に泣きじゃくる弓美が感情をぶつける。
「嫌いだったら会いに来ない! 私はあなたにもし嫌われてたらどうしようって、ほんとは凄く怖かったんだからー」
恋人の嗚咽を聞きながら、ベルカインはにこっと笑って小さくうなづいた。嬉しさがこみあげてくる。
身体は離さず、顔をあげベルカインの目をみつめる弓美。
「えと、えとえと、……私は、ベルカインのこと、ずーっと好きなままよ。ベルカインは?」
もちろん。
「はい」
「…好きです」
ベルカインの不安や痛みを打ち消すように弓美がぎゅーっと身体を抱きしめてくる。そうしてベルカインの胸にすり寄る彼女にベルカインは思う。
ああ、かなわないな。と。
それだけで癒される。
ベルカインは赤くなった顔をそらす。
様子に気づいた彼女がベルカインの顔をみた。
「あれ? どうしたの?」
「ひさしぶりで、匂いを感じたら恥ずかしくなりました」
先ほどのこともあるので、そのまま伝える。
そうしても受けとめてくれる相手だから。
「なんで? 私はベルカインのにおい、うれしいよ?」
言いながら嬉しそうにぎゅーっと抱きしめてくる弓美。ベルカインも照れたまま弓美を抱きしめた。

「えへへ。よかった、嫌われてなくて。好きでいてくれて」
安心したような弓美の言葉にベルカインは「嫌ったことなど一度もありませんよ」
と素直に返す。
「ほんと? ……うーん、私が自分に自信がないのかなあ。誰かに嫌われたらどうしよう、とかよく考えちゃうのよね」
「そうなんですか?」
ベルカインは不思議そう。
「うん。頭いいわけでもないし、運動神経も多分人並み以下だし、……せめて言葉遣いで人に嫌われないようには心がけてるけど」
弓美の良さはそんな表面的なところではないと感じるベルカインは思ったままを伝える。僕は・・。
「貴方の心を、愛しています」

「ありがとう、ベルカイン。それで、自信が湧いたような気がする」 
にこっと笑う弓美にはげまされるようにベルカインは誓う。
「僕も。もう少しがんばってみよう」
「何を?」
「生きることを」
「うんっ!」
満面の笑みを浮かべる弓美。本当に嬉しそうな顔だ。この顔を守りたいと改めて思う。
「えと、えとえと、お手伝いするからね!」
「お願いします」
愛おしさのあまり、ベルカインは弓美が欲しくなったが何も言えない。
「なに?」 にっこり笑って体重を預けてくる無邪気な様子に、自分が少々浅ましくも思え「いえ。なにも」 とごまかすように答えると、
「んもー」といいながら、背をのばして口づけされた。
ベルカインは照れた。
そして思う。やはり彼女は黄金の心を持つ者だと。


愛しい弓美が自分との未来を歩んでくれるというのなら、僕は頑張れる。
この胸にあるのは暖かで熱い思い。
弓美が鎖をつけてくれたペンダントとともに、明日を生きよう。
弓美の笑顔がますます輝くように。