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たちこめる湯気が視界を奪う。
高い湿度がこんこの皮膚を覆う。
やはり場所の選択を誤ったか・・・。
こんこが悶々と悩んでいると、湯気の向こうから声がする。
「こんこー?何やってるの?早くおいでよー」
思わずどきりとするこんこ。
「きもちいいよー!」
元気一杯の雷蔵の声からは上機嫌な様子が伺える。
「うーん、本当に俺、そっちにいっていいん?」
念のため再び声をかける。
「早くおいでったら。まだ誰もいなくて貸切だよ!」
倫理的に、とか。道徳的に、とか。
そんなことばでは雷蔵には通じない。
こんこは覚悟を決めた。

「ごめんね、遅くなって」
「おそいよー!もう」
こんこの謝罪をふくれたほっぺで受ける雷蔵は、ほんのり桜色で、色っぽかった。
顔を見るのも罪な気がして、こんこはふと目をそらしながら声をかける。
そんなこんこに罪のない笑顔を向ける雷蔵。
「えへへへ。きもちいいでしょ?東国は温泉が有名だものね。美容にもいいし」
タオルで頭をまとめているが、少々こぼれた髪がかなりかわいい。
「えっと・・。本当によかったん?」
「大丈夫だって。混浴だから誰が入ってもいいんだよ?こんこは気にしすぎ!」
えーいという声とともに、こんこの頭に湯がかけられる。
「うわっと!びっくりした!」
おもわす振り返ったこんこを笑いながらよけようとして、湯に足をとられる雷蔵。
とっさに抱きしめたものの、二人は勢いのまま湯に倒れこむ。
「大丈夫?!頭打ってない?!」
けふけふと咳をしながら雷蔵はうなづく。
そして・・・。
しっかりと抱きしめるような格好になってしまったこんこに、雷蔵の鉄拳が下される。
そして動けない雷蔵は、そのままこんこに運ばれてゆくことになる。


「はい、こんこ」
ちょっと怒ったような声はばつの悪さの表れだろう。
雷蔵は冷たい飲み物をこんこに渡した。
そしてぼそりと一言。
入りすぎだったかなあ・・。
その声に罪悪感を感じながら、しかしそれほど長く待たせたわけでないのを思い出したこんこはそっと尋ねた。
「えっと、俺と約束の時間の前からかなり長い時間温泉につかってた?」
返ってきたのは罪のない笑顔とうんという元気な返事。
思わず脱力するこんこ。
「温泉は肌にいいんだよ?ほら、こんなにすべすべ」
こんこの手をつかみ二の腕をさわらせる雷蔵。
すべすべした肌より先に華奢な腕が気になる。
顔を真っ赤にしたこんこを気にもせず、雷蔵は自分の肌の具合に満足げに微笑んだあと、こう言った。
「またこようね!」

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10/8/3