依頼者名:26-00500-01:月光ほろほろ:たけきの藩国さま
イベント名:桜の花の満開の告白







桜の花の満開の告白



台所からトントントンと音が聞こえる。
軽やかなリズム。

料理をするのは、好き。
手をかけて、想いをこめることができるから。

煮立つ湯に野菜を順にいれて下茹で。
この下茹でをするのとしないのとでは風味がまるで変わってくる。
竹で編んだザルにあけると真っ白な湯気がたちのぼる。
鍋を洗い、油を加え、鶏肉を投入して軽く炒める。
下茹でした野菜も入れて竹の杓文字でまぜる。
にぎやかな音。
出汁と調味料を加え、落し蓋をする。
弱火にしたら鮎の塩焼きをセットする。
そしておにぎりの準備。

あの人は喜んでくれるでしょうカ…


言葉にならない想いまで自然に感じて微笑みかけてくれる愛しいあの人を思い浮かべ、ヨーコは真っ赤になった。



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春の園。

今日の服装はおとなしい、長い巻きスカートに、つばの長い帽子、花柄の長袖のカットソー。
咲き乱れる桜の下でヨーコは想い人を見つけた。

「綺麗だなぁー」
感じたままを真っ直ぐに表現する月光ほろほろ。
その姿は潔く、すがすがしい。
ヨーコはそっと側に寄った。

「はい」
「おっ!!ビックリした!…逢えて嬉しいよ、ヨーコさん」

自分に向けられるお日様のような真っ直ぐな笑顔。
その笑顔が嬉しくてヨーコもにこっと笑った。

「お、お弁当作ってきました」
恥ずかしそうに下を見ながら月光の様子を伺う。
勇み足でなかったか、まだそんなタイミンクでなかったか。
ヨーコの迷いを吹き飛ばすように月光が言う。

「嬉しいなぁ。お腹すいてたんだよね。花も綺麗だし。どこで食べようか?」
「あちらはどうでスか?」
「うん、行こう」

ヨーコは速度を落としておずおずとついていった。
そのとき月光が自分の手を優しくとった。
月光のあまりに繊細な動作に、自分は大切にされているのだと感じて嬉しくなる。



一緒に歩きながら桜を眺める。
薄い花びらが風にふかれてはらはらと流れてゆく。
こちらは八重桜。
一重とは違うふくふくとしたかわいらしさがある。
八重桜をみながら月光がつぶやくように言う。


「桜って本当に綺麗だよね…」
ヨーコは上をみあげた。
青空のなかに咲く柔らかな花。本当に綺麗。
「はい」

そんなヨーコの様子をみて少し頬を染めながら月光が言葉の続きをつむぐ。
「なんだかこう、ポップコーンみたいに弾けるというか、こう…良いな。一緒に見れて嬉しい」


ヨーコは恥ずかしそうに下を向いてうなずいた。
顔が赤くなる。
ヨーコは少しだけ月光の側に寄った。
月光の顔も真っ赤だった。


あふれる笑顔で月光はベンチに誘う。

一緒に座るとヨーコはお弁当の包みを開いた。
わくわくしながら見ている月光の前に、今朝作った花をあしらった弁当を差し出す。
春の恵みと愛情を詰め込んだお弁当。
月光は感嘆の声をあげた。


「うわぁ…美味しそう。それに綺麗。時間かかったよね。ありがとう、嬉しい」


「い、色々食べてもらいたくて・・・量が」
三段重ねを広げながら心配が口に出たヨーコに月光がおおらかに笑ってみせる。
「ぅははは!大丈夫。俺、身体が大きいから!美味しそうだなぁ!!」
「わ、私もたべます」
小さくなりながらヨーコが言うと、

「うん。一緒に食べよう。桜も素敵だけど、ヨーコさんと一緒に食べるのが一番のご馳走だよ」
にこにこする月光に励まされ、ヨーコは照れながら頷く。


「美味しい!本当に美味しいよ!!」
おにぎりを大事そうにかんで食べる月光に、ヨーコは嬉しくなって微笑んだ。


佃煮だけで六種類。わかごも作った。
「ヨーコさんも食べて、美味しいよ!…って知ってるか」
「はい」
「おススメのオカズはある?」
「鮎を焼いてみました」
ヨーコは鮎を月光の目の前においた。


「鮎とおにぎりなんて、至福だ。じゃあ鮎いただくね」
「はい」


月光の食べる姿をじっと見るヨーコ。
口に運んでもらう瞬間はいつも緊張する。


「美味しい…身がホロホロで、あたたかくて。まるで今焼きあがったみたい」
その言葉にほっとするヨーコ。
作ってきてよかった。
ヨーコは心からそう思う。
だって、愛しい人が喜んでくれるから。
この人を好きでよかった。この人に好いてもらってよかった。
幸せがあふれそうになる。


それに・・・。
「美味しい。それに作ってきてくれて嬉しい」
こんなふうに言ってくれるから、喜んでくれるから。お弁当を作るのは好き。料理をするのも好き。
なにより、この人が好き。

「この鮎美味しいよ。ヨーコさんも食べる?」
「見てるだけで、しあわせ・・・デす」




月光は鮎の身をつまんでヨーコにさしだした。
顔が赤くなるのを感じながら下を向いてうなづき、口をあける。
そっと口に入れられた鮎。
なんだか自分が作ったときより、おいしかった。


「美味しいよね。あー楽しいなぁ。桜の花の満開の下、お弁当最高」
清清しく微笑む月光ほろほろ。
もう駄目・・。
ヨーコはあふれる想いを言葉にのせる。


「……好きデス」
「あ、アナタが」


「俺も好き」
いつも以上のまっすぐさで月光が答えた。
お弁当をおとさないように気を遣っているのが嬉しい。
自分のこめた想いを真摯に受け取ってくれるのが伝わってくる。

「好きなんだ。…うん、本当に心のそこから好きだ」
ヨーコはうなづいた。

月光はヨーコをじっと見つめた。
ヨーコは目をつぶった。



ぬくもりが落ちてくる。
優しい感触。



ヨーコはうなずいて照れていた。
月光をみると同じように頬を熱くしていた。
心臓がばくばくいっているのがわかる。

「た、たべましょウか?」
「う、うん。食べましょう食べましょう!」


ヨーコは箸をとって、卵焼きをつかむと月光の口元にもってゆく。


「ぁ、あーん」
「美味しい…優しい味がする」

はいと言ったあと何も言えなくなって、ヨーコは下をみた。
そんなヨーコの口元に月光は卵焼きを運んだ。

「はい。あーんして?」
「はい」

ヨーコの少しだけあいた口に、月光は優しく卵焼きを入れる。


優しく食べるヨーコ。
そして照れてしまい、本当に言いたいことは言い損ねてしまった。



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料理が好き。
想いを込めることができるから。
そして想いを受け取ってくれるあの人が好き。


だから今日もヨーコは料理を作る。
愛しい月光の笑顔を思い浮かべながら。