「秘宝館 日向美弥さん(091104)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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依頼者名:24-00459-01:日向美弥:紅葉国
イベント名:あなたのそばで
イベントログ:http://muu-muu.at.webry.info/200909/article_2.html
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2432&type=2357&space=15&no=0
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&bold(){題:あなたのそばで}
宰相府。東館の一室。
羊水ベッドのなかに日向玄ノ丈はいた。
ゆらゆらと光を照らして揺れる水面。
わずかな光が時折、玄ノ丈の瞼をなでてゆく。
羊水の中ではすべての音が夢のなかのように遠い。
にぶくノックの音がした。
玄ノ丈は、無反応。
”音”は確かに届いていた。
しかし、彼は今、深い眠りのなかにいた。
いくらか前のこと。
ひどく疲れた、気がする。
全身がちぎれんばかりに痛んだ、気もする。
彼は彼の正義を守るために力を尽くした。
そして。今はただ、羊水という、人肌のぬくもりの中でまどろみ傷を治す。
まるで生まれる前、母の子宮にいたときをまねるようにして。
また微かに”音”が聴こえる。
「今、入っても大丈夫ですか?」
かけられた言葉を"言葉"と認識はしておらず、ただ歌のような”音”として感じる。
きもちのよい、おと。
「こんにちは、失礼しますね」
深いレベルまで沈んでいた玄ノ丈の意識が”音”をたよりにゆるやかに目覚めに向かう。
ドアをあける音。
人の気配がこちらに近づいてくる。
不安が融け、和らぐ気配。
「遅くなって、ごめんなさい。こんにちは」
ありったけのぬくもりをこめて、そっとかけられた、声。
み、や。
やっとのことで目を開ける。
そこにいたのは、会いたくてたまらなかったひと。日向美弥。
自分のすべてを受け入れてまるごと愛してくれた女。
彼女はやつれた顔で自分を見ていた。
目を覚ましたことに気づいたのだろう。
美弥はこちらに向かって微笑みかけてきた。
何か言いたげだったのでそのまま言葉を待つ。
「やっと時間とれたので、会いに来ました」
玄ノ丈はうなづいた。
NWの状況はだいたい把握している。
秘書官である彼女の仕事も多いのであろう。
そしてなにより、裁定をやりなおす。
これが急務であったはずだ。
「よかった、です」
「あなたに、また会えて、よかった…」
言いながら、美弥は泣いていた。
あとからあとからこぼれる涙。
わかっているから。玄ノ丈はそう伝えたかった。
そんなに心配しなくてもお前のことは俺が見ているから。
涙を止めたくて、手を伸ばそうとするが思うように動かない。
そんな自分を見て美弥は羊水ベッドの側に寄る。
羊水に手を入れ、触れる。
羊水との温度差からか、手は少しひんやりとしていた。
やわらかな手の感触。前に触ったときより細くなっている気がする。
たまらないな。そう思う。
そんな身体で美弥は微笑みながら「早くよくなって、あなたにぎゅーっとできますよう」、などとかわいいことを言うのだ。
玄ノ丈は目でうなづいてみせる。
同じ気持であることを伝えたかった。
身体が自由なら真っ先に抱きしめているシチュエーションである。
全く。身体が動かないのが残念でならないなと冗談めかして少し思った。
「そうだ、お花もってきたんですよ」
プリザーブドフラワーのプチバスケットを見せながら美弥が言葉を続ける。
「見やすい場所に、置いておきますね」
トルコキキョウとセルリア。
淡いイエローとオレンジ、ピンクの組み合わせが目に優しく美しい。
花の種類や色も考え抜いて調えてくれたのだろう。
気持が少しでも晴れるように、永く楽しめるように。気遣いが感じられる。
玄ノ丈は少し微笑んだ。
「これからは、時間作ってちょくちょく会いに来ますね」
言葉にうなづいてみせる。
「しばらく、作業で無理しすぎちゃって。
それでここに来るのが遅くなってしまいました」
自分がうなづくのを確認した後、彼女は続けた。
「無理して倒れたりしたら、ここにも来れなくなっちゃうし。
気をつけて、時間作るようにしますね」
ちゃんとわかっているじゃないか。それでいい。
伝えたかったことを感じ取ってくれたのか。それとも彼女自身がそうしようと決めたのか。
なんにせよ、そこをわかっていてくれるのが嬉しい。
玄ノ丈は微笑んだ。
美弥も微笑んでいる。
そんな彼女に愛情を感じる。
すると。
美弥は羊水ベッドごしに軽く、キスする仕草をした。
そんな手段があったとは。
そしてその振舞いはいかにも美弥らしくて。
ちょっとしてやられたような、それでいて面白い気持になる。
「もう…だって、できないんですもん」
頬をほんのり染めて笑いながら美弥が言う。
拗ねたというより甘えた声。
それもわかっているさ。
玄ノ丈はうなづいてみせた。
楽しいやりとりだったが、身体はまだ無理はきかないようだ。
疲れを感じ、目をつぶる。
「おやすみなさい。しばらくはここにいますね」
やさしい声に導かれるように、玄ノ丈は眠りについた。
棚に何か置くような音がした。
たぶんさっきの花だろう。
そして何かをひきよせるような音がして、愛する女の気配が近づく。
どんどん再生されてゆく玄ノ丈。
遠くなった意識にやさしい”歌”が届く。
「早く、よくなりますように」
美弥が、微笑んだ気がした。
FIN
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おまけです
&bold(){題:りはびり}
羊水ベッドのなか。
日向は指先に神経を集中させる。
新しく再生された身体は、まだうまく動かせない。
だからこその”訓練”だった。
指先に力がこもる。
ぴくり。
わずかな動きであったが、日向は手ごたえを感じる。
そのままゆっくりとコブシを握りしめる。
握るというより指を動かすに近いが、それでも昨日よりもいい。
筋肉の痛みを感じながら、気を良くして思わず笑みがこぼれる。
そのとき。ノックの音とともに扉が開き、看護婦が入ってくる。
不意打ちをくらった日向。
羊水ごしに看護婦の声が聞こえた。
「日向さん調子はいかがですか?あら・・・」
日向のかすかに握られた手を見て、看護婦がにこにこ笑う。
「リハビリをされていたんですね。本当はまだ少し早いんですから、無理なさらないでくださいね」
看護婦の視線が棚に飾られたブリザーブドフラワーにゆく。
よく吟味された花は心を和ませる。
「奥様からですか。よかったですね」
もちろん日向美弥のことは看護婦の間では話題である。
あれから時間をみつけては日向のもとにかけつける姿はとても可愛らしい。
一方日向はというと。
美弥からの見舞いがあった翌日には自主的なリハビリを始めていた。
始めは止めていた周囲だったが、日向に根負けし、無理のない範囲でならと黙認する形に落ち着いた。
黙々とリハビリを続ける日向に、そんな姿がいいよねーとは、看護婦さんの話である。
きっと彼女のためよ。きゃ。
どうしてみんなこうも恋バナが好きなのだろう。
看護婦のそんな噂話もなんとなくわかっている日向は、いよいよ顔を赤くした。
表情を隠そうと思わず帽子に手をやろうとして、手が動かないことに気づき、せめてもの反抗で目をそらす。
そういえば帽子もなかったっけな。
全くこんなときに不便でたまらない。
気の利いた言葉で応酬もできず、退院前に恥ずかしさで死にそうである。
それから幾日も後のこと。
普通ベッドに移ったと聞いた美弥がかけつけてきた。
ベッドに近づきゆっくりと側による美弥の頭をなでて、力のない腕でそっと引き寄せた。
抱きしめるというにはあまりに弱い腕力。
驚いた顔をした美弥は、なんともいえず嬉しそうな顔をした。
そのままそっと日向を抱きしめる。
棚の上の花が二人を見守っていた。
FIN
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依頼者名:24-00459-01:日向美弥:紅葉国さま
イベント名:あなたのそばで
イベントログ:http://muu-muu.at.webry.info/200909/article_2.html
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2432&type=2357&space=15&no=0
ご指名ありがとうございました。そしておまたせいたしました。
ログを拝見して、なんだか羊水に包まれているようなぬくもりと優しさにあふれたお二人の世界だなあと思いました。じんわりと温かく優しい世界です。
オマケも書かせていただきましたw
口調や行動で何か気になることなどございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ。
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&bold(){題:あなたのそばで}
宰相府。東館の一室。
羊水ベッドのなかに日向玄ノ丈はいた。
ゆらゆらと光を照らして揺れる水面。
わずかな光が時折、玄ノ丈のまぶたをなでてゆく。
羊水の中ではすべての音が夢のなかのように遠い。
にぶくノックの音がした。
玄ノ丈は、無反応。
”音”は確かに届いていた。
しかし、彼は今、深い眠りのなかにいた。
いくらか前のこと。
ひどく疲れた、気がする。
全身がちぎれんばかりに痛んだ、気もする。
彼は心のままに力を尽くした。
今はただ、羊水という、人肌のぬくもりの中でまどろみ傷を治す。
生まれる前。母の子宮にいたときと同じやり方で。
また微かに”音”が聴こえる。
「今、入っても大丈夫ですか?」
かけられた言葉を"言葉"と認識はしておらず、ただ歌のような”音”として感じる。
きもちのよい、おと。
「こんにちは、失礼しますね」
深くまで沈んでいた玄ノ丈の意識が”音”をたよりにゆるやかに目覚めに向かう。
ドアをあける音。
人の気配がこちらに近づいてくる。
不安が融け、和らぐ気配。
「遅くなって、ごめんなさい。こんにちは」
ありったけのぬくもりをこめて、そっとかけられた、声。
み、や。
やっとのことで目を開ける。
そこにいたのは、会いたくてたまらなかったひと。日向美弥。
自分のすべてを受け入れてまるごと愛してくれた女。
ほおが少しこけたように見える。
彼女は自分を見ていた。
目を覚ましたことに気づいたのだろう。
美弥はこちらに向かって微笑みかけてきた。
何か言いたげだったのでそのまま言葉を待つ。
「やっと時間とれたので、会いに来ました」
玄ノ丈はうなづいた。
NWの状況はだいたい把握している。
秘書官である彼女の仕事も多いのであろう。
そしてなにより、裁定をやりなおす。
これが急務であったはずだ。
「よかった、です」
「あなたに、また会えて、よかった…」
言いながら、美弥は泣いていた。
あとからあとからこぼれる涙。
わかっているから。玄ノ丈はそう伝えたかった。
そんなに心配しなくてもお前のことは俺が見ているから。
涙をぬぐってやりたくて、手を伸ばそうとするが思うように動かない。
そんな自分を見て美弥は羊水ベッドの側に寄る。
羊水に手を入れ、触れる。
羊水との温度差からか、手は少しひんやりとしていた。
やわらかな手の感触。前に触ったときより細くなっている気がする。
たまらないな。そう思う。
そんな身体で美弥は微笑みながら「早くよくなって、あなたにぎゅーっとできますよう」、などとかわいいことを言うのだ。
玄ノ丈は目でうなづいてみせる。
同じ気持であることを伝えたかった。
身体が自由なら真っ先に抱きしめているシチュエーションである。
全く。身体が動かないのが残念でならないなと冗談めかして少し思った。
「そうだ、お花もってきたんですよ」
プリザーブドフラワーのプチバスケットを見せながら美弥が言葉を続ける。
「見やすい場所に、置いておきますね」
トルコキキョウとセルリア。
淡いイエローとオレンジ、ピンクの組み合わせが目に優しく美しい。
花の種類や色も考え抜いて調えてくれたのだろう。
気持が少しでも晴れるように、永く楽しめるように。気遣いが感じられる。
玄ノ丈は少し微笑んだ。
「これからは、時間作ってちょくちょく会いに来ますね」
言葉にうなづいてみせる。
「しばらく、作業で無理しすぎちゃって。
それでここに来るのが遅くなってしまいました」
自分がうなづくのを確認した後、彼女は続けた。
「無理して倒れたりしたら、ここにも来れなくなっちゃうし。
気をつけて、時間作るようにしますね」
ちゃんとわかっているじゃないか。それでいい。
伝えたかったことを感じ取ってくれたのか。それとも彼女自身がそうしようと決めたのか。
なんにせよ、そこをわかっていてくれるのが嬉しい。
玄ノ丈は微笑んだ。
美弥も微笑んでいる。
そんな彼女に愛情を感じる。
すると。
美弥は羊水ベッドごしに軽く、キスする仕草をした。
そんな手段があったとは。
そしてその振舞いはいかにも美弥らしくて。
ちょっとしてやられたような、それでいて面白い気持になる。
「もう…だって、できないんですもん」
頬をほんのり染めて笑いながら美弥が言う。
拗ねたというより甘えた声。
それもわかっているさ。
玄ノ丈はうなづいてみせた。
楽しいやりとりだったが、身体はまだ無理はきかないようだ。
疲れを感じ、目をつぶる。
「おやすみなさい。しばらくはここにいますね」
やさしい声に導かれるように、玄ノ丈は眠りについた。
棚に何か置くような音がした。
たぶんさっきの花だろう。
そして何かをひきよせるような音がして、愛する女の気配が近づく。
どんどん再生されてゆく玄ノ丈。
遠くなった意識にやさしい”歌”が届く。
「早く、よくなりますように」
美弥が、微笑んだ気がした。
FIN
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おまけです
&bold(){題:りはびり}
羊水ベッドのなか。
日向は指先に神経を集中させる。
新しく再生された身体は、まだうまく動かせない。
だからこその”訓練”だった。
指先に力がこもる。
ぴくり。
わずかな動きであったが、日向は手ごたえを感じる。
そのままゆっくりとコブシを握りしめる。
握るというより指を動かすに近いが、それでも昨日よりもいい。
筋肉の痛みを感じながら、気を良くして思わず笑みがこぼれる。
そのとき。ノックの音とともに扉が開き、看護婦が入ってくる。
不意打ちをくらった日向。
羊水ごしに看護婦の声が聞こえた。
「日向さん調子はいかがですか?あら・・・」
日向のかすかに握られた手を見て、看護婦がにこにこ笑う。
「リハビリをされていたんですね。本当はまだ少し早いんですから、無理なさらないでくださいね」
看護婦の視線が棚に飾られたブリザーブドフラワーにゆく。
よく吟味された花は心を和ませる。
「奥様からですか。よかったですね」
もちろん日向美弥のことは看護婦の間では話題である。
あれから時間をみつけては日向のもとにかけつける姿はとても可愛らしい。
一方日向はというと。
美弥からの見舞いがあった翌日には自主的なリハビリを始めていた。
始めは止めていた周囲だったが、日向に根負けし、無理のない範囲でならと黙認する形に落ち着いた。
黙々とリハビリを続ける日向に、そんな姿がいいよねーとは、看護婦さんの話である。
きっと彼女のためよ。きゃ。
どうしてみんなこうも恋バナが好きなのだろう。
看護婦のそんな噂話もなんとなくわかっている日向は、いよいよ顔を赤くした。
表情を隠そうと思わず帽子に手をやろうとして、手が動かないことに気づき憮然とする。
そういえば帽子もなかったっけな。
全くこんなときに不便でたまらない。
気の利いた言葉で応酬もできず、退院前に恥ずかしさで死にそうである。
それから幾日も後のこと。
普通ベッドに移ったと聞いた美弥がかけつけてきた。
ベッドに近づきゆっくりと側による美弥の頭をなでて、力のない腕でそっと引き寄せた。
抱きしめるというにはあまりに弱い腕力。
驚いた顔をした美弥は、なんともいえず嬉しそうな顔をした。
そのままそっと日向を抱きしめる。
棚の上の花が二人を見守っていた。
FIN
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