歌をうたうミケネコ(笹下)



笹下の成就院の下の坂を、坊坂といいます。その寺が、成就坊といわれていたころの話です。

寺に、一匹のミケネコが飼われていました。御新造さん(奥さん)はこのネコをとてもかわいがり、ネコもとてもなついていました。
ところで、この御新造さんは、とても歌が好きで、きれいな声でよくうたっていました。
ある日、村人が坊坂を通りかかると、御新造さんの歌声に、かわいい声が重なって聞こえてきました。

「おや、この寺に子どもがいたかしら」

 村人が寺の中をのぞいてみると、御新造さんの足元に、ちょこんとミケネコがすわって、いっしょにうたっていたのでした。

「これはこれは、めずらしい。ネコがこんなにじょうずにうたうとは」
「いつも私のそばにいるので、いつのまにかまねをするようになってしまつたのですよ」
「おやおや、そうですか。ミケや、これからは、村の人たちにも聞かせてあげておくれ」

それからというもの、ミケネコは、坊坂を人が通るたびに、いっそうきれいな声で、歌を聞かせるようになりました。
そして、歌をうたうネコの話は、となりの村々にまで広がり、わざわざミケネコの歌を聞きにくる人もいました。
ところが、ある日のことです。ミケネコが寺の山門の石段に、しょんぼりとすわっているのです。

「どうしたんだい。今日は、いつものようにうたわないのかい」
 と村人が開きました。

「きのう、うっかり、池に落ちてしまったのです。ニャーン」
「それでカゼをひいたのかい」
「御新造さんが、体をふいて、オジヤまで作ってくれたので、もうよくなりました」
「それなら、どうしてうたわないのかね」
「オジヤが熱くて、舌をヤケドしてしまったのでうたえないんです」
「そりやかわいそうだ。よしよし、いまお前の好きなマタタビを取ってやるからな。元気をお出しよ」

四、五日すると、坊坂のあたりでは、前にもまして美しい歌声が、聞こえるようになったということです。






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