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「穏やかなる日曜日 小説」(2009/02/20 (金) 23:42:57) の最新版変更点
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<p> 自由を約束された日曜日。<br />
適当な温度を保ち、高いレベルで心地よさを提供しているベッドに包まれている私を、日中最高高度になったであろう太陽から発せられる光線が起こす。<br />
片目を開いた私。正面にあるブラインドの隙間から太陽光線が燦々と降り注いでいる。朝とは違う明るさや室温。<br />
目覚ましなんかで受動的に起こされるよりも、今日みたいに能動的に起きるほうが気分がいい。毎週毎週このひと時のためにがんばっているのかもしれない、と思えるほどだ。もし人間に……というか私自身に食欲や排泄欲が無かったらなかなかベッドから出られないだろう。流石は生理的欲求の睡眠欲を満たす空間だ。<br />
両目が昼の明るさに慣れてきたところで視床下部が空腹を訴えてきた。それに呼応するかのように各消化器官も音を鳴らす。<br />
睡眠欲の薄れた今は食欲に対抗できないので、私は視床下部消化器官連合軍に早々と白旗をあげ、ベッドを出た。<br />
12月の半ばだけあってなかなか寒い。あまりにも寒いので、ベッドに戻りたいという気持ちが芽生えたが食欲はそれを許さず、私は食欲に背中を押されるままリビングへ向かった。<br />
「おっはよ~……?」<br />
食料と暖を求めてリビングへ足を踏み入れると、かのロダン作品である地獄の門に引っ付いている有名なアレを連想させる体勢を維持している妹がいた。<br />
ソファーに重々しく腰をかけ、右腕の肘を膝に付け、その右手を顎に当てているその姿は、正に実写版考える人だ。その実写版考える人は左手に持ったスプーンを正面に掲げ、ジッと睨んでいる。<br />
「何をしてるの?」<br />
悟りの境地に達したんじゃないかと思うくらい石像らしい妹。これをスルー出来ないのは妹と親しい人間だけだろう。<br />
「エスパーになるための訓練」<br />
姿勢そのままスプーンに焦点を合わせた状態から放たれた妹の言葉は、私の予想の斜め上をいっていた。<br />
どこでそんな電波を受信してしまったのだろうか、と少し悲しくなる。<br />
おそらくスプーン曲げの練習だろう。それ以外に予想が付かない。<br />
悪魔召喚ならばエスパーという単語とは無縁に思えるし、UFOを呼び出すにしても、室外でやったほうが効果的だと思う。きっとスプーン曲げだ。こんな妹の姿をユリ・ゲラーさんが見たら、昔を思い出すよ、と言って苦笑するに違いない。スプーン曲げだ、絶対。<br />
薄いピンクの生地に赤や濃いピンクの水玉模様が乗ったパジャマで、散々私に自慢してきたフェザーボブという外ハネパーマのかかったショートヘヤーが、寝起きらしくぼさぼさになった状態の妹。<br />
妹というステレオタイプの如く、小柄でぱっと見おとなしそうな少女が、考える人の姿勢よろしくスプーンとにらめっこしている光景はなかなか乙なものだろう。<br />
まぁなにはともあれ、いつもグータラしている妹がこれほど真面目に物事へ取り組む姿はなかなかお目にかかれないので、例え電波な臭いが漂っていたとしても応援してあげることにする。<br />
「がんばれ、我が妹よ」<br />
「言われるまでも無いわ」<br />
若干ツンツンしているのは年頃という事で解決してほしい。<br />
妹に意識を奪われているときも食欲は自己主張を止めず、そろそろクーデターでも起こすのではないかというくらいお腹がすいてきたので、私は朝食をすっ飛ばして昼食を取るべくキッチンへ向かった。<br />
我が家はダイニングキッチンなので、ここでトーストを作りながら超能力養成訓練に励む妹の顔と向かい合う事が出来る。<br />
「う~ん」<br />
テレビもコンポもついていないリビングに、妹のうなり声とトースターの音が響く。妹は眉間にしわを寄せ、必死そうにスプーンを見つめている。<br />
あの飽きっぽい妹が、変化の無いスプーン曲げ訓練によく1分持っているものだ。<br />
「う~ん……」<br />
寄り目というヤツだろうか? 妹の大きな瞳が顔の中央に寄った。<br />
あの顔ならにらめっこは百戦百勝だろう。妹を知る男子が今の状態の妹を見たら、きっと失望する。それくらいすごい顔だ。手元にカメラ、もしくはそれに準じる何かが無いのが非常に惜しい。<br />
――トースターのタイマーは後3分。<br />
「うぅぅぅん……」<br />
顔がプルプル震え始めた。相当頭に血が上っているようだ。陶器と絹を足して2で割らない様な白さの肌が、みるみるうちに赤くなっていく。<br />
しかし、スプーンに仕掛けも無しでユリ・ゲラーの様にクネクネと曲げれると本気で思っているのだろうか。思っていたならそれはそれでおめでたい話だが、一体誰がそんな事を吹き込んだのだろう。スタンドとか、絶対可憐な少女たちに興味のある彼氏でもできたのだろうか?<br />
――トースターのタイマーは後30秒。<br />
「ッ!?」<br />
――チーン。<br />
トースターが役目を果たし終えた音が鳴り響くと同時に、薄紅色に染まっていた妹の顔から、黒々とした赤い液体が飛び出した。<br />
「は、鼻血出た……」<br />
少し離れているのでこちらからは詳しい状況はわからないが、結構勢い良く飛び出た様だ。妹の目の前にあるテーブルにも赤い液体が飛んでいる。<br />
スプーンを放り投げ、ティッシュ箱をむしる妹。大きな目がさらに開いていて、平常時よりも切迫した心理状態にあるように見える。……実に面白い。<br />
「パジャマに血が付いたぁ! もぉヤダぁ!」<br />
鼻にティッシュを詰め、血が付着したであろう箇所をティシュでふき取っている。<br />
私はそんな1人で楽しんでいる妹を隅に、冷蔵庫から取り出したマーガリンを出来立てホヤホヤのトーストに塗りたくりかぶりついた。<br />
そんな穏やかなる日曜日。<br /><br />
――Fin.</p>
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