還月 朔


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還月 朔


  • 前置き-
御機嫌麗しゅう、皆様。
こちらは『前編』になります。
物語は唐突に始まりますが、しかしこちらを待ってもくれます。
時間に余裕が出来ましたら、どうぞこのまま下方に読み進めてくださいますよう、宜しくお願い致します。
ちなみに構成としては、
前編「奮闘」→中編「撃沈」→後編「出たとこ勝負」
です。筆者の気力の推移です。
皆様にクロノスの導きがあらんことを。






────────────






「・・えらく殺風景になったものね・・・。」
腰まである黒髪を風に踊らせながら、キロハは先程まで戦闘が行われていた荒野を複雑な心境で見つめる。
そこにあった筈の武骨な建物は霞の如く姿を消し、今はただ、基地跡地を砂風だけが撫でるのみ。
別にお気に入りでもなんでもない基地だったが、いざ無くなってみるとどこか寂寥感が漂う。
しかし何故だろう、絶望だけは感じなかった。
人類が火星に移住してから僅か十年。その短い期間の内に、人間は火星に地球と何ら遜色のない文明を築くことが出来たのだ。
失ったものは大きいが、きっとまた、ここにも活気は戻ってくる。
キロハはそう自分を落ち着けると、先程発見した“異常”へと歩みを寄せる。
コマンドキャリバーと共に遥か上空に退避していたキロハは、破滅の光に呑み込まれることはなく、また事の全てが終わった後、空からこの荒野を見下ろしていた。
その時に発見した、一つの“異常”。
ドウラン一家と謎の魔術師の強襲があった激戦区を中心として、大量の瓦礫が連なり描く、半径約1.5kmの正円。
ありえなかった。荒野と平野を隔てる境界線に、瓦礫が密集しているのだ。まるで吹き飛んだ後に、壁か何かに隔たれたかのように。
物理的にはありえない、ならば、物理以外の力によって、この即席ミステリーサークル現象は引き起こされたことになる。
そう、例えば円筒状の結界のようなもので。
「莫大な被害を出したのが魔術師なら、被害を最小限に抑えたのも魔術師、か・・・。これは、私たちもこれに対抗できるくらいの魔術師を投入する必要がありそうね・・。」
正直なところ現在の科学では、魔術に対抗し得るだけの技術は発展途上。
土俵が違いすぎるのだ。逆にそれは、有利になることもあるのだが。
しかし、NISA配属の魔術師部隊では全く歯が立たなかった相手である。
教会が敵に回ったと考えられる今、その教会の精鋭に対抗できる魔術師など、何処を探せば見つかるというのだろうか。
「困ったわね・・・魔術に長けた者が自ずと教会に所属してる現状で、その教会以外で凄腕の魔術師が見つかるとしたら・・・・完全な外部から現れるくらいしか・・・。………!!」
そこまで呟いた瞬間、意識の水底から朧気(おぼろげ)な記憶がだんだんと浮き上がってきた。
何処かで聞いた気がするのだ。しかもつい最近、確か他部署からかの報告だった気がする。
確か、連邦配下の研究機関にいきなり乗り込んできて、そこを鎮圧。その挙げ句研究への協力を申し出てきたなんていう、理解に苦しむ身元・正体不明の二人組。
研究施設とは言えど、連邦の重要な施設である。防衛線は強固なものだ。
しかし、そんなものをいとも容易く突破する、“平行世界”からの来訪者。
彼等しか、いない。
キロハは口元に不適な笑みを浮かべ、素早く指で空中に矩型を描くと、即座にスタンバイから復帰したパソコンの画面から、メーラーを起動する。
バーチャルキーボードを叩き、無意識に高揚しながらメールに綴った文章は、端的であるより他なくて。
送信から受信まで、最大で見積もれば22分かかることも忘れて、逸る心のままに、送信ボタンをクリックする。


『この前そちらに乗り込んできた魔術師で魔法使いの二人、貸しなさい。』


急いでいても、開封確認とデジタル署名は忘れない。




    【第玖話】

 《魔眼と禁眼と人工眼球》




ソウスケはバイクのギアをトップに入れたまま、見知らぬ工業地帯をひたすら走り続ける。
カナメが保護されていた連邦の施設から、キロハのコマンドキャリバーが飛んでいった方角、NISAという組織、またスカが強襲を掛けたという報道、それら些細な情報を寄りに寄りてバイクのナビと格闘すること数時間、もう日は昇ってしまったが、関係無い。会社には休むと連絡も入れてある。
ナビによると、この直線道路を抜ければ、広大な敷地の中、NISAの基地である建物が見える筈だ。
昨夜は眠れていない。ラーメンをたらふく食ったお陰であまり空腹ではないが、体力はもう限界に近かった。
隙間無く連なるビルに挟まれた道は、まるで渓谷の亀裂の底を走っているような錯覚を覚えさせる。
こんなこの上無く面倒臭いことを、何故自分はやっているのか。
ぃゃ、答えは明確なのだが、そう、一言で言うならば、
「らしくねぇ・・・」
こういう時に、クオの言う、眠いと自分の性格が変わるっていうのを実感する。
いつもはやる気の欠けたサブキャラが、今は変にキザな主人公みたいだ。
なんにしろ、らしくない。
しかしそれでも自分がここまで動いているのは、全て、一人の少女のため。
たった一人の、不思議───特別───な、少女のため。
ソウスケは感覚の薄れてきた四肢でバイクにしがみつき、脳裏に強くカナメを描く。
ナビに移る距離表示の単位が変わり、最上桁がゆっくりとカウントダウン。
両サイドの絶え間ないビルの途切れが見えてきた。
もう少し。
ここを抜ければ、そこには───

───何も、なかった。

「・・へ・・・・?」
予想外の出来事に頭が追いつかない。
ナビのGPSは、自分が確かに目的地の敷地内に侵入したと表示している。
「何の冗談だこれは・・・地下にでも潜れってか・・?」
ソウスケはとろとろとバイクを止めると、空中にやや大きめの矩型を描き、現れたPCの画面から、大手検索サイトの3D地図サービスにアクセスする。

 rァ【現在位置を表示】

間もなく画面に現れたのは、スカの一件のニュースで見たのと同じ、ゴツい建物だった。
しかしそんなもの、何処を見渡しても存在しない。
───カナメの身に何かあったら・・・。
そう思うと、ソウスケの中に黒いナニカが湧き上がってくる。
「あら、誰かと思えば。」
不意に視界の外から声が聞こえた。
振り返った視線の先には、カナメをヘリで連れ去った張本人。
「っ!!」
一瞬、掴み掛かって尋問したくなるような衝動に駆られる。
それをぐっと堪えながら、ソウスケは奥歯を食い縛り、キロハの顔を睨みつけた。
「よくここがわかったわね。」
口元には冷たい笑みが浮かんでいる。
「けどお生憎様、昨日ここ襲撃受けて、全部吹き飛んじゃったのよ。」
「・・・カナメは何処だ・・」
「ふふ、ナイト気取りで捕らわれのお姫様を助けに来たつもりかしら。」
「質問に答えろ・・っ!」
「あら怖い顔。そんなに彼女を連れて行った私が嫌い?」
腕を組んだまま、キロハは溜め息を一つ。
「・・生きてるわよ。ここが襲撃される前に別の基地へ移したから、危険な目にも遭ってない。」
───ほっと、ソウスケは胸中で安堵の息を吐いた。
よかった。カナメは無事らしい。
そしてやはりここは目的の基地だったようだ。
最も、その目的自体がここにはもういないのだが。
よっぽど安心したのか、自分でも、張り詰めていた緊張の糸が切れたのがわかる。
「・・・カナメは何処の基地にいるんだ?」
「機密事項。ここが見事に跡形も無いのを見れば、どれだけ彼女が重要な存在かわかるでしょ?」
皮肉混じりのキロハの言葉に、ソウスケは違和感を覚えた。
「それはどういうこt」
「相手は彼女を狙って襲撃を仕掛けてきたってことよ。」
事態を呑み込めないソウスケの言葉を遮って、キロハを話を続ける。
「きっとまた襲撃がある。彼女に基地を転々とさせても、不利なイタチごっこには変わりないわ。何かもっと確実・効果的で意表を突くような措置を取らないと、いずれ彼女は奴らの手に落ちることになる・・・。」
キロハの顔に翳が差す。きっと、自分が認識している以上に、事は深刻なのだろう。
しかしそこに、初めから抱いていた疑問が再び沸き上がってきた。
「なぁ・・・」
キロハは不機嫌そうに、視線だけで 何よ と返事を返す。
「カナメって結局何者なんだ?」
「本人に訊けば。」
なんとも的確なお答えで。
「ぃゃでも今逢えないし、カナメが何で狙われてるのかわからないと、俺も現状の打開策が考えらんないから。」
不意に、キロハがこちらをじっと見詰める。

「そうかしら。」


心なしか、勝ち誇った顔をしているように見えるのは気のせいか。


「私はもう、見つけた気がするのだけれど、打開策。」


  奇妙な間が、あった。


「・・・・目の前に。」


「・・・・・・はい?」






────────────
中編に続く。

還月 朔


  • 確認ダイアログ-
こちらは『中編』になります。
前編既読の方は、そのままこのメールを。
前編未読の方は、前編からお読みください。
確かに前編も唐突に始まりますが、いきなり中編から読み始めるよりは、幾らかマシかと思われます。
例えCtrlキーやEnterキーを押しっぱなしにしようとも、
如何にオプション画面を開こうとも、
既読文しかスキップできない仕様となっております。

 物語を読み進めますか?

  rァ はい
    いいえ







────────────






基地が消え、ソウスケ達がハチワンの奢りでラーメンを食べた夜から僅か一週間。
夕闇に翳る世界の中で、
ドウラン一家と魔術師による、二回目の強襲が始まろうとしていた。
ドウラン一家としても、NISA乃至連邦に喧嘩を売るのはリスクが大きい。
幼い魔術師二人が現れなければ、こうも立て続けに凶行に走ることは無かっただろう。
しかしそんな危険な行為を厭わないくらい、価値のある、“契約”。
「前と同じ時間に決行だって、」
「わかった。」
「うーん、今度こそカナメさんがいる予感っ!なるべく早く助けてあげないとだねっ♪」
「そう・・・だね。」
───時折、彼女のこういう前向きで明るいところが羨ましくなる。
私にはないものだから。
眩しくて、掻き消されてしまいそうになるくらい、
尊い、光。
「どしたの?」
「ぁ、ううん。何でもない・・。頑張ろうね。」
「うんっ!」
日は間もなく沈む。



「・・・・・。」
キロハはコーヒー片手に虚空を見詰めていた。
「どうかされましたか、准尉。」
気が付けばすっかり冷めてしまたコーヒーを机に置き、何とも煮え切らない表情で口を開く。
「曹長、何か・・・・・・。ぃゃ、何でもないわ。気にしな」

 『You've got mail!』

突然目の前に、メーラーのショートカットアイコンが現れ、アラートが鳴る。
即座にアイコンを選択し、新着メールを開くと、とても短いが、軍人宛とは思えないほど可愛らしく装飾された文章がそこにはあった。
「ふふ・・・っ、予感的中・・・。」
キロハから思わず笑みが零れる。
「曹長、コマンドキャリバーを出して。アキダリア基地がドウラン一家の襲撃を受けてる。」
「なっ、襲撃!?そのような報告はありませんが!!?」
「もうすぐ命令が来るわよ。でもそんなの待ってらんないの。とにかく出しなさい。ぁ、脱出用のポッドを一個余分に積んどいて。」
そう言うとキロハは、机の引き出しから一冊のノートを取り出した。
「?、それは・・」
「・・・助っ人を呼び出す秘密の道具、かしら。」
曹長は首を傾げたが、キロハは無視してノートにペンを走らせた。



パラパラパラパラ・・・
ノートが独りでに捲られていく。
「おや。」
それに気付いた男は、開かれたページを覗き込むと、ノートに一言書き込み、それを閉じた。
そして同時に、ベッドに座ったままの少女に声を掛ける。
「仕事だ、ノエル。」
「はい、ウルユスさま。」
窓から差し込む双つ月の光の下、手を繋いだ二人を、複雑な球状紋章が包んだ。



「潜入成功♪」
「壁を壊して入るのは、潜入じゃなくて侵入って言うの。」
「どっちだって良いじゃん。カナメさんどこだろね~?」
ドウラン一家の強襲を陽動として、あっさり基地内に入り込んだ二人の魔術師は、前回同様行き当たりばったりの手当たり次第で基地内を探索し始めた。
「こういう場合、やっぱりダンジョンの一番奥にいるのかな?」
「だとしたら、この基地の場合は地下になるね。ドウランさんによると、地上よりも階数多いらしいから。」
「よし、じゃあ地下目指してしゅっぱ~つっ!」



「キロハ准尉、間もなくアキダリア基地上空ですっ!」
「そぅ、ありがとう。」
キロハはレイヴァテインに弾倉を装着すると、メインディスプレイから基地の様子を確認する。
「まだ魔術師との交戦にはなってないみたいね・・・。」
不可解な炎が現れたり、いきなり謎の光に全てを吹き飛ばされたりはされていないようだ。
「曹長、私は降りるから、あとよろしくね。」
「降りる!?お一人でですか!!?」
「えぇ。本鑑は基地上空で待機。ヤバくなったら逃げなさい。」
キロハは脱出用のポッドに乗り込むと、呆然とする曹長を後目に、件の基地目掛けて落ちていった。



「次元間跳躍完了・・・。目標の世界です。」
「クライアントによると、アキダリア基地、だそうだ。座標覚えてるか。」
「えっと、3番目に行ったところですよね?。覚えてます。」
「よし、行くぞ。」
「空間跳躍、開始しますっ」
少女が男に抱きつくと、
二人は再び、球状の紋章に包まれた。



「いたぞ!!侵入者だ!!!」
「ありゃりゃ~、また見つかっちゃったね~。」
「もぅ隠密行動と言うより強盗沙汰でしょ?」
ザンッ!!
無銘塔一閃、兵士が引き金を引くより早く、一瞬で間合いを詰めたコスモスの、必殺の一撃。
断末魔を上げることも叶わず転がった首に見向きもせず、二人は進む。
「ぁ、階段発見♪」
「降りれるとこまで降りよう。」



アキダリア基地地下二階。

柱と壁の的以外何もない、殺風景でだだっ広い射撃訓練場。
「広い部屋だね~。」
「錆臭い・・・。」
「火星なんてどこも錆臭いじゃん。」
「それでもここは臭いキツいよ。」
「じゃあ急いで抜けよっ」
丁度部屋の反対側に扉が見える。
他に道は無さそうなので、そこに向かって一歩踏み出した、
その時だった。
『っ!!!!?』
その扉の目の前に、突如として謎の球体が現れたのだ。
キィイイイイ・・・
紋章術特有の耳鳴りのような音が響き渡り、光を放つ球体は、やがて帯状に解れていく。
「なに・・?あれ・・・。」
「わからない・・・魔力は感じるけど・・・。」
球体が完全に消滅すると、そこには、若い男と、その男に抱き付いたままの少女がいた。
「空間跳躍完了ですっ。」
少女が男に笑いかけながら言う。
「ご苦労。」
そんな少女の頭を、男はくしゃりと撫でる。
満面の笑みを漏らす少女は、なんとも満足そうだ。
「何あの人達・・?」
コスモスの理解が追いつかない。
「気を付けて、この人達、ただ者じゃない。」
幼い魔術師二人は身構える。
「さてノエル、仕事開始だ。」
白髪の男が囁いた。
「・・・はい。ウルユスさま。」
少女は名残惜しそうに男の体から離れると、深く目を閉じる。
そのまま幼い魔術師二人を正面に据えると、深呼吸を一つ。
───再び開かれたその両眼に、感情は無く。
先程までのそれとは明らかに違う冷たい瞳は、ただ純粋に、澄んだ黒色をしていて、
逆に、銀灰色の瞳を持つ男とは、至極対照的に見えた。
「これは警告です。」
少女が無機質に語り出す。
「今すぐこの基地への襲撃を止め、早急に立ち去ってください。今後一切このような凶行を起こさないと誓うならば、連邦、NISAの両組織は、あなた方をこの件については追求しないそうです。」
口振りからして、少女自体はNISAの人間ではないらしい。
事務的な言葉は、誰かからの口伝だろう。信頼もできる。
「・・・イヤ。」
しかし、諦められない。
「ここから先に行かせてくれないってことは、ここさえ抜ければカナメさんがいるってことだもん。私は、あなた達を倒して先に進む・・!」
コスモスが詠唱を開始する。
「終焉を告げる災禍の焔よ、罪深き者に等しく裁きを!土は土に!灰は灰に!!」

「クリメイト・カタストロフィ!」
    「業火葬!」

コスモスから放たれた朱き奔流は、圧倒的なエネルギーで以て、眼前に立ち塞がる全てを飲み込んだ。
「やった!?」
「わからない、けど逃げ場なんて・・・!!!?」

「颶風旋刃」

不意に、少女の声が、聞こえた気がした。

「ウィンドミルレイジ」

次の瞬間、炎の中から風の刃が現れ、コスモスたちに襲い掛かる。
「くっ!!」
ナナが間一髪の所で防壁結界を展開。
「交渉決裂だな。」
若い男の声が響く。
いつしか炎は掻き消され、謎の二人は何事も無かったかのように、そこに立っている。
「そんな・・・なんで・・?」
防壁のようなものを張った様子は無かった。
しかしあの二人は、コスモスの魔術を食らっていない。
なんて───不条理な。
「魔術がだめなら・・!!」
コスモスが無銘塔を構え、走る。
どんどんと間合いが近くなる。
あともう少し。
もう数歩で。
無銘塔の間合いに。

 「・・・・・ぇ・・?」

鈍い音を立てながら、
無銘塔が、落ちた。

急激に本来の質量を取り戻したそれは、コスモスの両手から滑り落ち、地面に刺さっている。
目の前には、白髪の男。
「ノエル。」
その右に立つ少女は、いつしか拳銃を手に。
「はい、」
コスモスの眉間に、銃口を突き付けた。





────────────
後編に続く。

還月 朔


  • information-
こちらは『後編』になります。
緊迫した空気を壊したくないので、ちゃんと前編→中編を読んでからにしてね、としか言いません。
では。







────────────






額に当てられた、冷たい感覚。
鈍く光る銃と、引き金に当てられた、少女の指。
「ゃだ・・っ・・・やだよぅ・・こわぃ・・・・やめ・・・ょ・・・」
声にならない。
死の恐怖とはこんなにも強大なものか。
「コスモスさんっ!!」
ナナがコスモスを助けに行こうと走り出す。
が。
「動かないでください。動けば、この方の命はありません。」
銃を構えたままの少女がそれを制止する。
「っ・・!!」
ナナには止まる以外無かった。
「最後のチャンスです。今すぐ撤退し、二度とこのような凶行を起こさないと誓ってください。」
コスモスは俯き、動かない。
「・・・・コスモスさん・・。」
沈黙が、部屋を支配する。
「・・・・答えは?」
少女が問う。
コスモスが目を閉じたまま顔を上げ、告げる。
「・・・イヤだ。」
開いた眼は、魔眼。
「!!?」
少女が驚いている隙に、コスモスは無銘塔を掴むと、大きく後ろに飛び、距離を取った。
「大丈夫ですか!?」
コスモスが駆け寄る。
「だ、大丈夫・・。」
顔に余裕など窺えず。
「ほぅ・・・その眼、何かと思ったら、“魔眼”か。」
男が語る。
「ノエル、どうだ。自分以外の“赤眼”に逢った感想は。」
少女は、コスモスを見つめたまま、
「何か、複雑です。」
その眼を赤に染めた。
「!?」
幼い魔術師二人は呆気に取られている。
「ノエルが“禁眼”、そちらが“魔眼”。“赤眼”が二人揃うなんて、滅多に」

「三人よ。」

不意に、コスモスたちの後ろから、声がした。
「片目だけで、人工眼球だけど。」
レイヴァテインを抱えたキロハが降りてきたのだ。
「挟まれた・・・。」
ナナが呟く。
後ろにはキロハ、前には“禁眼”と男。
「あの二人の周り、キャンセル型の結界みたいなのが張られてるみたい。だから魔術も効かないし、無銘塔に送ってる魔力も掻き消されちゃった・・。幸い、無銘塔の魔法自身は消えてないみたいだけど、・・・勝てないかも・・。」
コスモスが弱音を吐く。
「あら、そちらの金髪は確かバラバラにした筈なんだけど。どうして生きてるのかしら・・・。」
キロハがレイヴァテインを構える。
「・・・・・逃げよう。」
コスモスが呟き、ナナは頷いた。
二人は即座に踵を返すと、キロハの方に向かって走り出す。
「くっ・・・」
銃は間合いが近すぎると不利になる。
慌てて放ったレイヴァテインによる射撃は、無銘塔の表面を撫でるようにして軌道を逸らされ、そのまま壁に一直線。
接近してきたコスモスによる袈裟切りを側転で回避するが、階段への道を開けてしまった。
「ノエル。魔弾発砲許可。」
「はい。」
ノエルは数歩前に出ると、銃を構え、手前を走るナナに狙いを定める。

パァン!!

火薬の弾ける音と共に、銃口から放たれた、時速50km程度の、呪詛の塊。
「ぇ・・!?」
キロハは目を疑った。
銃から放たれた割には些か遅すぎるその弾は、物理法則に反し、複雑に軌道を変えていく。
───全ては獲物を捉える為に。
最早階段を登り自分の視界からも消えてしまった目標へと、壁や天井すら透り抜けて。
「何・・今の・・。」
思わず疑問が声に出た。
「魔弾。実弾であることを捨て、物理法則から解き放つことで、弾速と引き換えに“絶対命中”を得た、呪詛の弾だ。儀式魔法の一種だな。」
男が答える。
「絶対命中・・?」



「はぁ・・・はぁ・・・・」
幼い魔術師二人は走る。
出口目指して。
アイツ等は、ヤバい。本能がそう告げている。
「追って来ないね」
コスモスが言う。
「そうみたいだ・・・ね・・?」
腹部に違和感を感じた。
走りながら、そこに触れる。脇腹の辺り。
「ぁっ・・く・・!!!」
次に感じたのは、激痛だった。
足が止まる。
「ナナ!!」
それに気付いてコスモスも止まった。
修道服が血で染まっていく。
どうやら体に穴を穿たれたらしい。服は無傷なのだが。
───それでも、再び走り出す。
「ナナ!?大丈夫なの!!?」
「大丈夫・・だよ・・。」
「でも・・血が・・・」
足を伝い、床に赤い斑点を残していく。
「大丈夫。」
心配するコスモスに、笑いかけながら言った。
「私・・・バケモノだから・・。」
会話はそこで途切れ、二人は走り続ける。
基地の出口は目の前だ。



「さて、ノエル、昇果解除。仕事終了。お疲れ様。」
少女の瞳から赤味が消える。
顔にはいつしか感情が戻っていた。
銃を仕舞うと、真っ先に男のもとへ向かい、
男の左手を両手で掴むと、喜々とした表情で、
「ご苦労様ですっ」
と笑った。
「予想以上に強いのね、あなた達。」
キロハがこちらに歩きながら言う。
「逃がしたがな。」
「上出来よ。機密は守られたし。それに、当たってるんでしょう?魔弾。」
「確かに当たりはしますが、“目標に当たる”が満たされれば役目を終えてしまうので、ほんの少し掠っただけでも消えてしまうんです。深手を負わせたかは・・わかりません・・・。」
「いいの。どうせ金髪の方はバラバラにしても死なないみたいだし。」
「ほぅ、不死者、もしくは影か傀儡の類か。この世界にもいるとはな。」
男が感心するように言う。
「あなた達の世界には、そんな御伽噺みたいな存在がうようよ居るの?」
キロハは少したじろいだ。
「こちらの世界とは次元分類記号が異なるので、科学があまり発達していない代わりに、魔法や高位魔術がポピュラーなんです。」
「逆を言えば、こちらの世界の科学では再現可能な“魔術”も、私達の世界では、科学が追い付かないために“魔法”と称することもある。それくらい科学技術に差があるからこそ、私達の世界では“魔導”(魔術と魔法を総括した呼び名)がこちらの世界よりも発達している訳だが。」
「へぇ・・・一長一短ってことね。」
キロハの銃とノエルの銃。魔導的処理を除けば、どちらが強力な武器かは一目瞭然である。
「この世界で次元間跳躍を行える者がいないのも、“次元同士の距離”を感じる感覚が発達しなかったが故に、次元を越えるという理念が理解できないだけで、その感覚機構が出来上がってしまえば、あとは才能さえあればできる、ある種の“技術”に成り下がる。まぁ、そんな感覚が芽生えるのも、ここまで科学的な世界では無理かもしれん。」
そう言うと、ウルユスは空中に指で矩型を描き、パソコンの画面を呼び出した。先日家電量販店で、即金買いしていた最先端のものだ。
ノエルはその画面を物珍しそうに見ている。
「ねぇ・・・魔導が発達してるって言ったわよね?」
どことなく真剣な声色でキロハが切り出した。
「時間を・・・遡ったりできないの・・?」
─── 一瞬の沈黙が、場を支配する。
男はパソコンのディスプレイを閉じ、ゆっくりと、口を開く。
「・・・それができたら、私達は、今この場には居らず、貴方々に協力もしていない。この世界に関わることすらなかっただろうな。」
キロハは、何かえもいわれぬ重みを感じた。
「・・・そう。」
少しだけ、俯く。
「こちらからも一つ、訊きたいことがあるのだが。」
男が幾分軽い声で言った。
「?、何かしら。」
「さっきの魔術師二人が探してたカナメって奴。どうせこの基地にはいないのだろう?。場所は答えなくて良い、機密だろうからな。今、何してると思うかだけ、答えてくれ。どんな奴か興味がある。」
少し予想外な質問だった。
キロハは顎に手を当て思案する。
「そうねぇ・・・今頃・・・・」────




「はぁ・・やっと終わった・・・。」
ソウスケは出来上がったばかりの報告書を目の前に、一息吐く。
「お疲れさん。今日はもう上がっていいよん。」
仕事をしていた素振りのまったくないハチワンが、ひらひらと手を振る。
「お疲れ様です。これ、どうぞ。」
「あぁありがと。」
差し出された緑茶を受け取る。
熱いお茶で一服。最近の日課だ。
「ハチワンさんもどうぞ。」
「気が利くねぇ。そこのソウスケ君の3倍くらい。」
「つまり貴方の9倍ってことですね。」
「言うねぇ・・給与明細をお楽しみに。」
「・・・すみません言い過ぎました・・・。」
職権乱用とはこのことか。
外野はくすくすと笑っている。
今週に入ってから、会社が少し賑やかになった。
ソウスケはお茶をすすりながら、キロハの言葉を思い出す。


「───株式会社デブリブデ、『宇宙廃棄物処理課』。他の部署からも碌に相手にされず、給料泥棒としか見られていない・・。まさかそこにVIPがいるなんて、誰も思いやしないでしょう───?」


ソウスケは茶を飲み終えると、湯呑みを流しで濯ぎ、乾燥棚へと置く。
席に戻りパソコンを終了させながら、時計を確認する。丁度定時くらいだ。
鞄を掴むと、似非割烹姿の少女に声を掛けた。
「帰ろう、カナメ。」
「はい、お疲れ様でしたー」
「おつかれさーん」




───「お茶でも汲んでるんじゃない?」
キロハが少し投げやりに答えた。
男は少し笑みを零す。
「さて、そろそろお暇するぞ、ノエル。」
「はいっ」
二人はキロハから少し離れる。
「また何かあったら連絡するわ。」
「心得た。」
男がノエルに合図をすると、二人は瞬く間に球状紋章に包まれ、キロハの目の前から消え去った。
遥か彼方、隣の世界へと。



────────────
To be continue...
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