トミタケ


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τομιτακε


施設上空300フィート

指揮管制輸送ヘリコプター
「ECH-230Nコマンドキャリバー」機内

全長18メートルを超える大型ヘリコプターのキャビンには灰色の大型コンソールが四台づつ向かい合わせで二列並び、同数の乗員がディスプレイとキーボードを相手にしていた。

彼らは着席したまま既に二時間が経とうとしていたが、オレンジ色をした座席の座り心地は折り紙付きだった。

指揮システムを構成するコンピューターの排気音と二基のターボシャフトエンジンの回転音が機内を満たしている中で無線のやり取りが行われている。

「アルファ1からロメオ3、対象区画を制圧完了」
「了解、"対象"の探索を継続」

機内のT-18型デジタル無線機からは幾度と無く情報が伝えられ、コンソールに備え付けられた19インチの液晶画面の表示と共に現在の状況を伝えていた。

コンソール群から少し離れた場所にある窓際の座席に一人の少女が掛けていた。

――ビシェイ・ハル・キロハ準尉。口元を飾る洋銀のピアスが印象的な彼女は航空国防軍、国家情報保安局に所属している。

華奢な体に整った顔立ち。腰ほどまである長髪とレースで彩られたワンピースは暗闇に溶け込んでしまいそうな程に黒一色で纏められていた。

向かいの壁に設置された50インチ程のメインディスプレイの表示を見つめるその吊り目気味な彼女の目は、その左目に紅い瞳の人工眼球を収めていた。

彼女の衣裳と黒い瞳の右目とは対象を成すそれは赤外線知覚能力を持ち、暗闇での視力を彼女に与えている。

黒装束を身に纏い、紅い左目を持つ彼女の出で立ちは見る者に畏怖の念を抱かせて止まなかった。

「こちらロメオ4、"対象"を確認。C-186区画です。繰り返す…」

突然、無線機が探し物が見つかったことを教えてくれた。彼女は手元の送信ボタンを押すとその細い桃色の唇を開いた。

「…ありがとう。そのまま待機。対象への発砲は禁止。後は任せて。敵武力行使に対しては発砲を許可。」
「了解。待機。屋上エリアは確保、降下状況クリアランス、グリーン。」
「えぇ、今から向かうわ。オーバー。」

短い会話をスピーカーとマイクを介して行うと彼女はヘリコプターのパイロットに降下の指示を出した。

「屋上に降下。SAM(地対空ミサイル)やAAA(対空砲)には留意して。」
「了解。RWR(警戒レーダー装置)反応及びIFF(敵味方識別装置)アンノウンなし。このまま降下。」

パイロットはキロハの指示を受けるとコレクティブピッチレバーをゆっくりと操作し、高度を加速度的に下げていった。
施設の屋上がみるみる大きくなり、待機している兵士がライフルを構えている事もコクピットからよく見えた。

エンジンの回転数を落としながらランディングギアを作動させ、そのまま着陸態勢に入る。

軽い衝撃と共にヘリコプターは屋上に着陸した。
メインローターの吹き付けと甲高いエンジン音の中、気密を保っていたキャビンドアが開かれる。

同時に自動的に降りた小さなタラップを使って、キロハは屋上に降り立った。

吹き付けるローターの風が彼女の黒いワンピースにあしらわれた柔らかなレースをたなびかせる。

それとは対象的に右肩には無骨な直線で形作られたライフルを引っさげていた。

それは弾倉を後部に備えたプルバップ式のリニアガン、「レイヴァテイン」。

制式名称「7.62mm装薬式電磁加速自動小銃」

最先端の軽量複合材と軽合金で作られ、重量が5キロ弱と誰にでも扱いやすく作られている。

構造は大出力の結晶電池と小型半導体化された高圧変圧器、高エネルギー蓄積コンデンサーで作られた電力を恒温超伝導体の電磁石で構成される銃身に超高周波のパルスとして送り込む事で、装薬によって発射された7.62ミリ徹甲弾を秒速六千メートルまで加速させるというものだ。

莫大なエネルギーを与えられた弾丸は厚さが20ミリ以上の複合装甲をも貫通でき、最大有効射程距離は1800メートルにも達する。

発射自体は液体装薬を用いる事で使用する電力を抑え、さらに流体金属による強制冷却システムによって発射時に発生する大量の廃熱を処理する構造になってはいるが、連続で数十発を連射すると銃身が焼き付きを起こす上に回路を焼損させる恐れがあった。

さらに電源ユニットのコンデンサーは高電圧に曝される為に劣化し易く、百数十発を発射する毎に交換が必要である。

この為に扱いは簡単であるが、ある程度の技術的な知識と少々の慣れが必要だった。

「…対象はこの下?」

キロハは弾倉を一度ライフルから取り外し、弾薬を確認しつつ屋上からの階段を下りた先に居た兵士に尋ねた。

「ええ、バイタルスキャナーで存在を確認しました。突入準備も完了しております。」

バイタルスキャナー、壁の向こうの人間が発する微弱な電界を検出できる装備だ。

「そう、じゃあ行きましょうか…。」

そう言うとキロハは弾倉をライフルに勢い良く装填し直した後、華奢なその腕でコッキングレバーを引いた。

同時にボルトが後退し、撃鉄が起きると弾倉内の弾丸が薬室に送り込まれる。

そして彼女はその「対象」が居る部屋の扉の前で近付くと、その周囲で待機している兵士たちに向かって口を開いた。

「デルタ隊、突入準備!ドアブレイク!」




カナメたちが居る部屋はロックが掛けられた強固な金属製の扉によって護られていた。

スチーム・スカは胸ポケットに突っ込んであった拳銃を手にしながらソウスケたちに何度も落ち着きたまえと連呼している。

しかし一番落ち着きを失っていたのは彼以外の何者でも無い事をカナメやソウスケは知っていた。

突然、室内を耳を劈く炸裂音を襲った。

扉に背を向けていたスチームが振り返った先では、金属塊が宙を舞っていた。

それは大きく拉げ、大量の火花と共にその役割を失った扉らしきもの。

ロック機構があった辺りに大穴が空き、蝶番は完全に引き剥がされている。

その一秒後に、一秒前までドアの役割を果たしていた金属塊は部屋の床に叩きつけられた。

キロハのレイヴァテインだった。極超音速で射出された銃弾が扉のロックを撃ち破り、有り余ったエネルギーが扉ごと十数メートルも弾き飛ばした。




ほぼ同時に照明が落ち、焼けた臭いと暗闇が室内を襲った。

「耳が、耳がぁぁ」

暗闇の中でソウスケはスチームの叫び声を耳にした。扉の近くに居た彼は、先ほどの爆発で彼の耳が一時的に聴力を失っているのだろう。

不意に部屋に明かりが戻った。非常電源が作動した旨を伝える自動放送が流れ、非常灯が点灯している。

気が付くと黒いワンピースの女と数人の兵士がそこに居た。




聴力が戻りつつあるスチームが拳銃を構え、何者だとでも言う様にキロハに向ける。

それに応えるようにキロハは何処からか身分証を取り出し、スチームに向けて突き出すと半ば機械的に自らを名乗った。

「航空国防軍、NISA(国家情報保安局)のキロハ準尉です。スチーム・スカ少尉、彼女の身柄を引き渡して頂きたい。」

そう言うとキロハは視線をカナメへと向ける。

引きつっているスチームの顔とキロハの目線。それらを認知したカナメは背筋に冷たい何かが走るような感覚に襲われた。

そしてソウスケが気付くとカナメは彼の背中に身を隠そうとしていた。

キロハはその様子を一瞥すると不敵な笑みを一瞬浮かべ、再び口を開く。

「本日、国際指定テロ組織のドウランが彼女の拉致目的で当施設を急襲するとの情報をNISAが掴んだ為、非正規戦措置法に基づき、NISA隷下の空挺部隊が緊急展開中しました。」

スチームは思った。限定的ながら全軍への指揮命令権限を持つNISAが直々にお出ましの理由とは何なのかと。

「その為に彼女、カナメさんの保安の為に身柄を確保させて頂きたいのです。」

キロハは言い終わると、一時的に掛けていたレイヴァテインのセイフティを指で弾いて解除した。

その音で我に返ったスチームはわかったとでも言うようにキロハに向けたままだった拳銃を慌てて胸ポケットに戻した。

それを見届けたキロハは歩みを進め、立ち尽くしたままのスチームに対して擦れ違い様に一言忠告を呈した。

「それ、ハンマーが起きたまま。デコッキングしといた方がいいんじゃないかしら。」

スチームは発射可能な状態のまま拳銃を仕舞っていたのに気付くと再び慌てながらデコッキング操作で撃鉄を戻した。

キロハはその様子を一瞥するとカナメの目の前で立ち止まった。

「貴方がカナメさん?」

カナメは目の前の女が自分の年齢とさして違わない事に気付くと若干気を許したかのようにそうだと頷いた。

「ここは危険です。国防軍が貴方の身柄を最優先で保護する必要があると判断しました。ご同行をお願いしたい。」

「…何故、私が?」

体を半分ほどソウスケの背中に隠したままカナメは恐る恐る口を開いた。

ソウスケはと言えば先ほどからの状況が全く理解出来ず、狼狽しきったまま喋る事すら叶わなかった。

「情報機密保護の為に詳しくお話できるのがご同行して頂いた上でとなります。申し訳ありません。もちろん、彼らの身柄も安全に保護させて頂きます。」

そう言うとキロハはソウスケを一瞥し、視線を再びカナメに戻した。

「…わかりました。すぐに…帰れるんですよね?」

「い、いいのか…?」

決心したようにキロハの申し出を承諾したカナメに追従するようにソウスケもやっと言葉を発した。

今のカナメにはそうする他に選択肢が思いつかなかったのだろう。

それを察したソウスケは何かを言おうとは思いつつ、口を突いて出した言葉はそれで精一杯だった。

カナメはその気遣いだけで十分であるとでも言うようにソウスケに微笑んで見せる。

そしてソウスケの気遣いに応えるようにカナメもソウスケに精一杯気遣って見せた。

「すぐ戻れるから、きっと」

ソウスケはそのまま何も出来ぬままその場に立ち尽し、キロハに連れられていくカナメの背中を目で追い続けた。




カナメはキロハが乗ってきたヘリ、コマンドキャリバーにキロハと共に搭乗した。

キャビンのハッチが閉じられるとターボシャフトエンジンの回転数が上がり、それに乗じた浮力に任せて機体は屋上から浮き上がる。

カナメはキロハの後ろの座席に掛けていた。キロハは後ろのカナメに向けて言葉を掛けた。

「悪く、思わないでね」

カナメが小さくはいと返事をすると、機内を満たすのは回転数が上がりつつあるエンジンの音だけとなった。




ソウスケは施設に残った兵士に連れられて屋外に出てきた。

あとは気をつけて帰れといった事を兵士に言われ、そのままバイクに跨って帰ろうとした時だった。

テロ組織のドウランとは一体、何だったのかとある疑問が彼の頭にふいに浮かんだ。

さっき施設から出てきた訳だがそれらしき者は途中に一人も居なかった。

それに屋内にもさしたる戦闘の痕跡が無かったように思う。

じゃあ、カナメの身柄を確保しに来たキロハとか言うヤツは何なのか。



突然彼の考えをかき消すように爆音が轟いた。

上空には大型のヘリコプターがローターを回しながら空中に舞い上がっていく所だった。

その機体にはローヴィジブル塗装でNISAのロゴが描かれている。

キロハとカナメが乗っているヘリだ。

あの時カナメに一つしか選択肢が無かったように、ソウスケも自らに選択肢が一つしか残されて無いことを悟った。

ソウスケはバイクのエンジンを掛けると右手のグリップを手前に勢いよく捻るとアクセル全開でヘリの後を追った。


―To be こんてぬぅ―
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