KANTAのショールーム
http://w.atwiki.jp/kakakakanta/
KANTAのショールーム
ja
2009-03-14T21:42:44+09:00
1237034564
-
the new world
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/65.html
*the new world
-[[1.ボーイ・イン・スノウ・カントリー]]
-[[2.エルダー・シスターズ・イン・ノース・ゴレン]]
-[[3.ザ・ルーンズ]]
-[[4.シー・イズ・バスターズ]]
-[[5.ひとさらい]]
-[[6.ノイジー]]
-[[7.イト・イズ・ア・ウィアド]]
-[[8.ザ・ハンガー]]
-[[9.ドリーム・ドリーム・ウイングス]]
-[[10.オーディン]]
-[[11.ザ・キング・リヴァイバル]]
-[[12.アプローチング・ピープル]]
-[[13.ヘルプス]]
2009-03-14T21:42:44+09:00
1237034564
-
12.アプローチング・ピープル
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/87.html
「お前は、おれを必要とするよ」
ツバサのその言葉が、頭から離れなかった。
そんなことは、ない。無いはずだ。
しかし、本当にない、と言えるか……?
「……」
どこかへ消え去ったノイジーも、何事もなかったかのように来なくなったウィアド達。それが、荒らしの前触れのような気がして、ならなかった。
「……」
僕は……僕は……
「僕は、誰なんだ……?」
「誰もがそういう疑問には、ぶつかるよねー」
聞き覚えのある声に、咄嗟に振り返った。
「……ウルズ……!」
そこにはウルズが居た。しかし服装はドレスではなく、ジーンズにラフなティーシャツだ。
「ういーっす」
「どうして、ここに?」
「ん? 暇だったしね。後……」
そういってウルズは、うつむいた
「いいや。」
「?」
久世が頭を傾げると、その瞬間、巨大な何かが降りる音がした。
「……」
ウルズは目を大きく見開いた。
「まさか……」
家から出ていこうとするウルズを小走りで追いかけると、そこには数十体のアームヘッドが居た。
「……」
「ウルズ、あれは?」
久世の問と同時にそのアームヘッド達は一斉に銃口を向け、銃弾を放ってきた。
その爆音をきくと、久世は反射的に身をかがめた。
しかし、痛みはない。
「……」
恐る恐る目を開けると、そこには銃弾が、止まっていた。ウルズが両手を前につきだしている。そこで、銃弾はきれいに止まっている。
「チッ。こいつに手を出そうモンなら、細切れにして、潰して、ころしてやる」
アームヘッド達は一瞬うろたえたようだったが、すぐにまた銃口を向けた。
『レーザーに変換。』
音声がそうつげ、銃弾がレーザーに変換される瞬間……
アームヘッド達は次々と、次々とズレていった。
「……言っただろ? 細切れにする、って。」
アームヘッド達は形すら残らず、地面に転がっていた。
「……」
「言っただろう? 力をお前は欲しがる、と」
その声に驚き、後を振り向いた。
ツバサが、いた。
ツバサはゆっくりと久世に近づくと、肩に手を置いた。
「この女は、お前に害をもたらすだろう。」
「……そんな、バカな。ウルズが? まさか」
「お前を殺すために、近づいてきたのだとしたら……?」
「僕を守ってくれたんだ。」
「そうだろうか。まあ、この女は、もうすぐ、死ぬだろうな。」
ツバサがそういった瞬間、先ほどとは比べ物にはならない量のアームヘッドが、空を、飛んできた
2009-02-19T21:20:18+09:00
1235046018
-
11.ザ・キング・リヴァイバル
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/86.html
「菊田アッ!」
そう叫んで飛び込んできた宝生のキックを菊田は避けることができなかった。
「ゴメスッ」
奇怪な事を言って菊田は倒れた。
「あら、おじさん、こんにちは」
宝生は菊田の横にいた武藏に気がつき、あいさつをした。
「な、なんのようだ? 宝生」
菊田は宝生に踏まれながらうなるように言った。
「そうだった、これ」
宝生は菊田の上から退きながら、持ってきた鞄の中から、あるものを取りだした。
「……これは」
それは、輝くアームコア、ユグドラシルだった。驚く菊田に対して、武藏はあまり驚く気配を見せない。
「やはり、もどってきたか。ユグドラシル」
武藏は呟いた
「……おじさん?」
「宝生、君に見せなければならない、物がある。言左右衛門、お前も、ついてきてくれ」
武藏に従うまま歩くと、菊田重工本社内のもう使われていない試験プラントにたどり着いた。
「父さん、ここは?」
「……これを、みろ」
そういって試験プラント内の電源を入れた。部屋の中が明るくなると同時に、一体の赤いアームヘッドがそこにあった。
「……これは?」
「あと、角をつければ完成なんだ。」
「これはなんなんだっ父さんッ! また、また変な物を作って居るんじゃないだろうな? 答ろッ!」
叫ぶ菊田に対して、武藏は冷静に答えた。
「これが何? 簡単だ。私が、託された物だよ」
「……託された?」
「そうだ。ラグナロク消滅の少し前、その老人はやって来て、私に、見えない設計図を託したんだよあたまになかにね」
凶人とも取れるその発言に、菊田は舌打ちした。
「……オーディン?」
宝生は、ついそう呟いていた。違うかもしれない、だが確かに、これはオーディンのようにも見える。
「……君がそう思うのなら、これはオーディンだ。」
武藏は、にっこりと笑った。
「……それを、貸してくれ」
武藏は宝生からアームコアを奪うと、なにやらよく分からない作業をし、手元にあった金槌で叩き始めた。
アットいう間に、巨大な、それでいて美しい一本のアームホーンが完成した
「……これは?」
宝生の問いかけに武藏は答えることなく、それを持って、赤いアームヘッドの頭へ続くはしごを、その巨大なホーンを持ったまま上がっていった。
そして少しすると、それは完全にアームヘッドの一部となった。
「完成だ。」
そのアームヘッドは、その瞬間、赤く輝き、コックピットが開いた。
「APPDシステムを稼働させたアームヘッドの機動力の二倍以上の機動力を持つアームヘッドだ。名前は。君が決めろ」
武藏の言葉も無視して、コックピットに乗り込んだ。
色々なシステムを起動させる。
「……」
つい、息をのむ。なんていうアームヘッドだ。触って分かる。
(久しぶりだ、宝生)
心に触れる、懐かしい声。
「……久しぶりだね、オーディン。」
武藏がやってくれたのか、それとも菊田のねぎらいか、試験プラントの天井ハッチが開き、アームヘッド射出用のレールがせり出した。
「……行くぜぇ……オーディンッラグナロオオック!」
2009-01-31T21:58:48+09:00
1233406728
-
10.オーディン
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/85.html
(私を、解放しろ、宝生)
そんな声が聞こえ始めたのは、一週間ほど前から、毎晩聞こえてくる
(……だれ?)
(……世界を、変革する者。違う意味で。次こそ、世界の終わりが。一枚の羽根のよって巻き起こされる。)
(……)
(いいから、早く、私を解放しろ。お前が、よく分かっているだろう? 私の存在は。)
そういわれて、宝生は驚いた。
(まさか、お前は)
(……世界で、待つぞ)
宝生はベッドの上から飛び上がると、自室のタンスをあさくって、黒い革鞄を取り出した。鍵を半ば壊すようにして、それを開けると、現れたのは光を失ったアームコアだった
「……ラグナロク……」
宝生はさっきまで使っていた枕をどかし、それを置き、枕として仰向けになった。
急に眠くなり、眠りの世界へと飛び込むのに時間はかからなかった。
「……」
目の前にあらわれた世界に、宝生は息をのんだ。
金色の玉座が、そこにはあった。
「……」
「来たんだな。宝生」
そこには、黒いスーツに身を包んだ男が居た。
「……ラグナロク……」
「……いかにも、私が、そうだ」
「随分、イメージが変わったな。私を廃人にしよう、とかいう気はないだろうな?」
「まさか、あのころとは、状況が変わった。我々は、蘇る。ただのアームコアではなく、あのころの輝ける存在として。」
「……どういう事だ?」
宝生が尋ねる
「わからんか。まだ、お前も若かったからな。」
「?」
「……」
ラグナロクが息をすっとすうと、叫んだ
「蘇るのだ! 誇り高く! 美しく! そして、力強く! 大いなる樹・ユグドラシルに祝福された子供達が! 今! それぞれの武魂へ!」
「……もしかして、あいつも? オーディンも?」
「そうとも。宝生。眼を覚まし、今お前が今枕にしている物を、見るがいい。」
そういわれて、眼が覚めた。
枕を見ると、輝いていた。一転の曇りもなく、まるで太陽のように
2009-01-31T20:50:17+09:00
1233402617
-
9.ドリーム・ドリーム・ウイングス
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/84.html
ふ、と眠くなり、ハッとして久世は頭を横に激しく振った。
「……こんなモンかな」
ウルズが、またギターを壊したのだ。
(どんだけ壊すんだよ……)
タンスの奥に眠っていた来客用の布団の上で猫のように円くなっているウルズに目をやった。
菊田重工の廃プラントから帰ってきてすぐ、彼女は現れた。
「……壊れた」
そういって、一本のギターを差し出したのだ。
(……まあ、いいんだけどさ)
背筋に、ゾ、っとする何かを感じる。……なんだ? そう思って振り返ると、そこにいたのは黒い、何かだった。
(……なんだ?)
声が、出ない。しかし、気のせいではない。絶対に。何かが、‘いる’
(なにが、いる?)
風が吹き抜けるように、何かが聞こえた。声のようにも聞こえたし、ただの物音のようにも感じた。
「……夢だ……」
そう呟いた。
ゆっくりと、歩いている自分がいた。暗闇の方へ。
急に脚の感覚が無くなった。
落ちている。
身体が
(?)
やはり、声が出ない。
急に落下が止まったように感じると、目の前には一人の男が現れた。
「……」
「よお」
その声は風のように吹き抜けた。心地よくはない。むしろ、まとわりつくような感じだった
「……」
「強く、なりたいとは思わないか? 相棒」
『相棒』と、そいつは久世のことを呼んだ。久世はそれが気持ち悪くてしょうがなかった。
「……僕が、強くなる必要が、どこに、あるというんだ。‘ツバサ’」
気がつけば、そいつの名前を呼んでいた。そいつの顔は、ゆっくりと歪んでいった
「ある。ある。大いに。ありまくりだよ、相棒では、聞くがお前の周りは、今まさに変動していないかな? 知らないルーンの娘達。黒いアームヘッドとヘッドホン女。まさしく、変化の時だ。……お前の身体に危機が現れれば、迷わず、俺の名を呼べばいい。」
ツバサが、闇に消えようとする
「……まて、お前は誰なんだ、ツバサ。」
「……くくく、矛盾たっぷりだな。今、俺の名前を、呼んだじゃないか、相棒。」
そういわれて、ハッとする。
「……ツバサ……まて……!」
消えようとするツバサを止めようとして叫ぶが、ツバサは、闇に消えた。
2009-01-31T12:48:14+09:00
1233373694
-
8.ザ・ハンガー
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/83.html
菊田重工のプラント、と言っても、こんなものとは思わなかった。
(まあ、そりゃあそうか)
売れなかったからか、人員的な問題なのかそこは寂れて誰も居そうにはなかった。
(菊田重工のプラントなんて、聞いたこと無かったしな)
「……」
ここがどこか問おうとしたが、ノイジー今、巨大なヘッドホンからでも聞こえてくるような爆音で音楽聴いていることに気がつき、やめた。
どこかで、聞いたことあるな。と思って、思い出した。昔、白黒のテレビで流れていたあれだ。
リ・ビット「ドリームドリーマー」
その曲名が出てくるのには時間がかかった。何も言わず、そのプラント内に入っていくノイジーを追いかけ、今、やっと追いついた所だった。
「……」
沈黙の間を、ディストーションギターが右往左往駆けめぐる。
目の前に現れたのは、巨大な色あせた銀色をしたハンガーが現れた。そこには、一機のアームヘッドがセットしてあり、その下に作業服を着た誰かが、横たわって何かをしていた。
彼はノイジー達に気がつき、駆け寄った。
「君、来たんだね。」
と彼が言うと、ノイジーはまるですべて分かっているかのように頷き、彼に言われるがまま何かを話し込んでいるようだった。こちらの方に、視線が来ることはない。それを疎外感を含んだ瞳で、久世は見つめていた
「……」
(それにしても、凄い機体だ)
心からそう思う。
アームヘッドの美しさとか、そういうのはよく分からないけれども、凄い、それだけは分かった。
百戦錬磨と言いたげな、黒く、艶のある装甲の上にも細かな傷が入り、光を受けるごとに、それは目立って見える。
肩に背負っている巨大なブレードは、アームヘッドの仰々しさを物語っているようだった
「どうだい? きみ」
と、作業服の男が叫んだ。灰色の蓄えられた髭が目立つ。
「……そうか。完璧、か……このほかに、何か、追加して欲しいものはないかい?」
ノイジーが、アームヘッド用のはしごから下りてくる。最後は二、三段跳び抜かして床に着地した。
「最近まで稼働していた工場だからね。レーザーサーベルが六、七本あるけど、格闘用にマウントしておくかい?」
男がそういうと、ノイジーは口を動かさないが、会話は成立しているように思えた。
事実、成り立っていた。
「え……? それは、凄いね。あと、遠距離用の……? わかった。動作が少なくてすむように、手首部と……うん、わかったよ。じゃあ、また二週間はかかると思う。何せ、つける量が量だからね。……うん、それじゃあ」
ノイジーは何も言わず、そのハンガーから出ようとする。久世は、それを追いかけた。
2009-01-30T22:05:56+09:00
1233320756
-
一頁
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/82.html
ハーモニカを吹きながら石を削りだして作られた壁に腰掛ける青年がいた。
もう寒くなるのに動きやすい半袖の服を身につけ、腰には剣が一本差してある。青色のクセのある髪と、覇気のない緑の眼は静かにハーモニカを奏でていた。
ティンクである。
「ここにいたんだ」
優しげな顔をしてゆっくり近づいてきた彼女は、フィーレーである。
フィーレーの声も無視して、ハーモニカを吹く。
「へえ、うまいね」
フィーレーはそういいながらティンクのとなりに座った。
ハーモニカを吹くことをやめたティンクはそのハーモニカをベルトに備え付けてある小さな袋にしまった。
「どうかしたの?」
「ん? ちょっとよったから、アルフォンモに会うついでに、ここまで来たんだよ」
「それはお疲れさま」
ティンクは微笑んだ。嘘の笑い、嘘笑みである。
「やっぱり、怒っているよね」
「……あたりまえだろ」
「ターミーになりたければ、うんたらかんたら、とか言われて、もう何年経つと思ってるんだ。いろんな資格を受けないとターミーにはなれない、とか言われてさ。」
ティンクが自嘲気味に言うと、フィーレーはなだめるように笑った。
「それだけ君を離したくないのさ。いま、その年でそれだけ強い人は居ない。もっと強くなれる。だから、はなしたくなんだ」
「放したくない? 僕を戦争の道具にするつもりか」
「……そうじゃなくて」
「だったら、どうするつもりなんだ? 僕を、僕の人生を、どうするつもりだ? 君は、あいつは、お前達は」
「ティンク……」
フィーレーがなだめるように言うが、ティンクはため息をついた。
「このままなんだろうか、僕は」
「……そんなこと無いよ。いつか、彼女も君を手放してくれる。」
フィーレーがそういうと、ティンクは頷いて笑った。
「よし、じゃあ、交渉しよう。フィーレー、またな」
ティンクは勢いよく立ち上がると、皇室へ走っていった。
「どうぞ」
ノックした後、彼女の声だ。
「失礼します」
そういってはいると、そこには黒く、長い髪をした女性がいた。
「ティンクか。どうした?」
「ターミーにならせてください。」
「却下」
沈黙が流れる。
「お前の力は、この国に必要なんだ。根無し草の旅人になられるのは、正直言って困るんだ。」
「一つ、言わせてください。」
「なんだ?」
「僕は、いつからあなたのような人間の道具になったんです?」
「……口の訊き方には、気をつけた方が、いいとおもうぞ。」
「あなたが強いのは知っています。僕より、強いのも知っている。」
「それを知っていて、なぜ、私にそんなことを言うのか、神経が分からないな」
ざわりとした空気。怒っている
「僕はあなたの道具じゃあない。」
「黙れ、と言っている」
「犬でも飼えばどうです? あなたの言うことをきいてくれる犬でも。」
「だまれ!」
落雷の走ったような声が部屋中に響いた。
「そんなに死に急ぎたいのなら、やってやろうか」
「やってみたらどうですか?」
「後悔するなよ」
アルフォンモが腰の鞘から剣を抜いた。
「後悔はしません。僕の、人生ですから」
ティンクがそういうと、アルフォンモは目を見開いた。
「母が政治をとっていたころ、母のまだ若い頃にも、そんなことを言った人間がいたそうだ。」
「昔話ですか?」
「……正直な、本当の話をしよう」
「……お前を、放したくない。お前が必要なんだ。これは女王として、ではなく、人間として、お前が必要なんだ。」
ティンクは何も言わずにそこから出ていった
2009-01-05T09:36:02+09:00
1231115762
-
ドリーム アザー サイド
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/55.html
*ドリーム アザー サイド
**[[第一章 アナザー・モーニング]]
**[[第二章 ハード]]
**第三章
[[一頁]]
[[二頁]]
[[三頁]]
[[四頁]]
[[五頁]]
[[六頁]]
[[七頁]]
2009-01-05T08:56:18+09:00
1231113378
-
第二章 ハード
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/81.html
空は青く、雲は白く、地面は緑に包まれ、木々の恵みを、大地の、すべての恵みを、世界は謳歌している。
〈ハード〉はそんな場所だと思っていた。
そんなティンクの想像を、悪い意味でそれらは裏切った。
空は鮮血をまいたような赤。雲は黒く、地面は乾き、植物なんて見あたらない。
「……」
これじゃあ、〈ホーム〉と何ら変わりは無いじゃないか。ティンク思った。
これが、これが楽園なのか?
ティンクは今、荒野の上に立っていた。荒涼としていて、何もない。
「……」
ただ、口は動かせても、言葉は出ない。これは、自分が夢にまで見ていた、〈ハード〉か?
ティンクは、ゆっくり歩き始めた。
ティンクの足跡は、すぐに乾いて、風にさらわれて、消えていった。時々吹く突風は乾いた砂をティンクにぶつける。
脚が、痛いことを思い出した。唐突に。そういえば、そうだった。ノックに……
あの時は自然と身体が走り出していたが、今はもう、走れなくなっていた。全身が痛い。疲労感はズルズルとティンクを捕らえた。
まるで、泥に足を取られているように、歩けない。倒れてしまおうか、と、ティンクは思った。しかし、今、それはできない。自分言い聞かせる。
歩かないと。進まないと。
――何処に――?
ティンクは、倒れた。
揺れる炎が見える。
ただ揺れている。
不規則に、何の規則性もなく揺らめくそれは、ただ、自分を見据えている
炎はゆっくり、大きくなっている。
燃えながら、食い尽くす獣のように
ゆっくりと――
ティンクが目を覚ますと、目の前には石でできた暖炉があった。
「……」
まだ、夢がつづいているのか、とはぜながら燃える火を見て思った。暖かい。何だろう、毛布もある。ふわふわしていて、暖かいそれらは、ティンクを、また心地よい眠りの中に誘おうとしていた。
ゆったりとまどろみ、瞼が重くなっていく。寝ても、大丈夫だよな。自分自分自身に聞いてみた。
(ウン、大丈夫だよ)
そうか――目を暗闇に閉ざそうとした瞬間、しゃがれた女性の声が耳に飛び込んできた。
「起きたのか?」
飛び起きて見てみると、顔に皺をたためた老婆だった。
「え?」
「アルセイムの荒野に倒れていたのを、わしがひろってやった。」
と、老婆は言って、パイプを取り出した。
「吸うか?」
それをこっちに向けられても、何かよく分からないティンクは、首を横に振った。
「ふむ」
ティンクは、彼女が何故かティンクのご機嫌を取ろうとしているような気がした。
「……」
「……」
「いや、お前くらいの孫が居たもんだからな。」
「……そのお孫さんは、どうしたんですか?」
「……ターミーになった。それで、行方不明だ。」
ターミー、と言う者が何か分からない。
「旅人のことだ。……お前、どっから来た?」
ティンクが黙ると、老婆は一人で頷いた
「いや、いいや、言わなくて言い。トレイスから来たんだろう?あそこは戦争の影響で、沢山の難民が出たと言うからな。」
違う、と言いたいが、言えるはずもなく、頷いた。
「……そうか、大変だったな。傷の手当てはして置いた。あれは、火薬兵器か」
火薬兵器って何?と思ったが、言わないことにした。
「……火薬兵器というのは気念の銃弾を火薬で飛ばす兵器だろう?」
気念って何? ティンクは思った。
「お前、臭いぞ。……風呂に入れてやろう。そうだ、もうすぐ、フィーレーが来るじゃないか。あいつにやらせよう」
と、老婆が言った瞬間、誰かの声がした
「ツァーばあさん、お変わり無いですか?」
「おお、丁度良いところに来た、フィーレー。上がってくれ。」
「はあーい」
女性の声だ。まだまだ若い。
現れたのは、皮と厚い布の服を着て、腰には何かをぶら下げている女性が居た。彼女がどうやらフィーレーらしい。
(あれが、剣か……)
と、おもって、自分を不思議に思った。
(何で、分かったんだ?)
「何ですか? この子。」
「……わたしが拾ってきた。トレイスから逃げてきたらしい」
「ええ? あのトレイスからですか?そりゃあ、大変だったでしょう」
「うむ、だから、風呂に入れてやってくれ。」
「……はあい」
彼女は一瞬ためらったようだったが、ティンクを見て、頷いた。
「じゃあ、こっちに来て。」
ティンクは、服を脱がされ、たわしで全身をこすられ、熱いお湯の中に放り込まれた。
「わたしも、君くらいの弟が居たらな、と思ってたんだ」
たわしでこする途中、フィーレーは言った。
その顔は、にこやかに笑っていた。それを見た瞬間、「ここは、〈ハード〉なのだ」と初めて実感した。こんな笑顔が〈ホーム〉にはあっただろうか
「あなた達は、みんな、そんな風に幸せに笑うんですね。」
言った後、あ、と思った。何故、こんなことを言ってしまったんだろう。自分でも不思議に思った。
「……それは、幸せだからだよ」
……しあわせ?幸せって何だ?
「……」
全身を泡で磨かれ、布で身体を拭かれたティンクは自分の服を着ようとした。
「ああ、ちょっと」
ティンクが止まると、フィーレーは畳まれた布の束を見た。
「あそこ、あそこにあるのを着なさい」
ティンクは嫌々したがった。その服からは、森のにおいがふんわりと漂っていた。
「うん、ツァーばあさんのだけど、丁度良いじゃないか。」
フィーレーは一人で頷いた。動きやすいし、丈夫そうな服だ。
ティンクは適当に腕や脚を動かしてみた。脚がずきずきするが、大丈夫だろう。フィーレーはその様子をまじまじと見つめた。その後、ティンクをこの家の庭に引っ張ってきた。
「なんだ?」
「ちょっと、ちょっとで良いから。」
そういってティンクに肘から手のひらまでの木の棒を渡した。
「?」
「いいから、振ってみてよ。お願い」
家の中のツァーを見ると、楽しげに首を傾げた
ティンクは適当に振った。それをまたフィーレーはまじまじと見ていた。
「……」
フィーレーも、木の棒を拾うと、ティンクに向かって、それを振り下ろした。
ティンクはそれを当然のように受け止めた。
第二撃。脇腹めがけて水平に振る。
それも、同じように防御された。
「……」
フィーレーは木の棒を両手で構えた。木の棒が青白く発光する
「……ちょんと受けろよ」
フィーレーはそれだけ言うとティンクめがけてそれを思いっきり振った。青白い残像をみながら、ティンクの見る景色は線となって消えた。
ぼんやり目を開けると、フィーレーが居た。彼女はティンクを見た瞬間ホッとしたように表情をゆるませた。
「良かった……」
「ふつう、子供に気念刀技なんてつかうか?」
ツァーが呆れた風に言った。
「……」
フィーレーは頭を掻いて恥ずかしそうにした後、ティンクをまじまじと見た。
「君、ターミーにならない?」
フィーレーがそういうと、ツァーが静かに彼女を睨みつけた。ああ、そだ、そうだった。孫が、なくなっているんだった。
「……どうする?」
ツァーのその視線を無視し、フィーレーは続けた
「わたしが保証する。君は、強くなることができるはずだ。」
ティンクは、首をゆっくり横に振った。ツァーは、少しホッとしたようだったし、フィーレーは悔しそうにしていた。
「僕は、やらないといけないことがあるから。」
「……それは、どういうこと?」
「探すべき、人が居る、んだ。」
それが誰のことかも分からないまま、そういってしまっていた。誰かは、考えてみたら分かることだった。
ルームノック・ノーウェー。彼、か、はたまた彼女か。ノーウェー、彼女を捜すことがいつの間にかティンクの最重要課題となりつつあった。
「この国にいるの?」
「分からない。居ないかもしれない」
フィーレーは少し考えているようだった。ツァーが口を開いて止めようとした瞬間フィーレーはしゃがみ込んで、ティンクの顔を覗き込んだ。
「だったら、どの国にでも行くことのできる、ターミーの資格を持っておいた方が、いいよ。受けることのできる特典も、沢山あるわけだし」
「……」
「それは、本当ですか?」
「もちろんだよ。」
「僕が、その資格を取れなかったら?」
「……大丈夫だ、わたしが教える。」
その瞬間、ティンクの意識は空高く昇り、一気に急降下して、地面の寸前で止まり、また地面に沿って一直線に駆け出す。
農地、荒野、森、石畳の街をすり抜けながら進んでいく。
一人の少女を見つけた瞬間に、意識は元に戻った。
「……うん、今、決めました。」
ツァーは静かにティンクを見つめる
「僕は、旅人になります」
フィーレーは嬉しそうに顔を明るくし、ツァーは何も言わず、頷いた。
「じゃあ、ツァーばあさん、彼は、預かっていいね?」
「さっきも言ったが、彼は孤児だ。……好きにしなさい」
フィーレーはにっこりと笑った。
「じゃあ、わたしの家に行こう、いいね?」
「んで、ターミーの特典なんだけどね?」
馬車に揺られながらフィーレーは説明してくれたが、ティンクの頭には何も入っていなかった。
「……聞いてる?」
と、聞かれ、顔を上げた。
聞いてない、何て言えない。
(どうごまかそうか)
「まァ、いいや。」
ティンクは無事乗り越えられた事にホッとして自分の新たな服と、腰にささった黒く、艶のある白色銀鋼……プリズナーで作られていた。
プリズナーという金属は、最も一般的な金属で、金属の基本値が、すべて規定を少し上回る数値で最も安価であり、手に入りやすく、加工も楽だという。
(結構、憶えてるもんだな。)
すべて、先ほどフィーレーが教えてくれた。
この服も、特別なんだよな?
青みを帯びた、軟らかい、服。
これは蒼金というやらわかく、丈夫な性質を持つ糸らしく、少々値が張るが、フィーレーはこれを無理して買ってくれたようだった。
(……誰かに何かを買って貰う、なんて初めてだな……)
それだけ、期待されていると言うことなんだろうか。気が重い。期待される、嫌な感覚だった。
「お城の近くについたら、まずは宿を取って、少し休んでから、女王と謁見だね」
……女王?
〈ホーム〉にも、統治する人間がいたらしい。それを国王、と呼ぶことを、ティンクは昔ムシクから習っていた。
女王、つまり、最も偉い人間に会う、ということ。
「え、ええ?」
ティンクが取り乱すと、フィーレーはなだめるように笑った。
「大丈夫。きさくな人だよ。」
「……フィーレーとは知り合いなのかい?」
「うん、そうだよ。小さい頃からの、友達でね」
それを聞いた瞬間、フィーレーがとても偉い人間のように見えた。
「……」
ティンクが絶句すると、フィーレーは慌てて取り消した。
「そんなに、凄いモンじゃないよ。ただ、公務から逃げ出した彼女と一緒に遊んでた、ってだけで。」
「……すごいね、それ」
「まあ彼女はわんぱくだったから。」
フィーレーは、その彼女が凄い、と思ったようだった。
「アルゴン地方の警備兵になってから、会わないけど、元気にしてるかな。」
彼女の目は、遠くの城に向けられていた。
昔の友達と会う、か。
(みんな、どうしてるだろうか)
もう、良くなった脚をさすっていた。
「……世界を、改革する、ね」
ノックの言葉が堂々巡りをしていた
「あ、あと、女王と面会するときの、注意事項を、一つ」
フィーレーは苦笑しながら言った。ティンクが小首を傾げると、顔は苦笑したまま言った。
「堅苦しいことをすると、ぶっ飛ばされるよ」
「……?」
どういう意味かは、分からなかった。
その瞬間、馬車が轟音を立てて止まったかと思うと、その瞬間ふわり、と浮き上がると、落ちていくのが分かった。
「なんだろう?」
「影悔いだ……」
ティンクが「なんだい?それは」と尋ねる前に馬車は地面に叩きつけられ、バラバラになった。
他の乗客は少なかったので、怪我をした人間は居なさそうだった。
目の前に、真っ赤な真紅の薔薇が咲いている。とても巨大で、茨のあるツタが蠢いていた。
「影悔いの薔薇か……」
フィーレーは嫌そうに言うと、腰の剣を抜いた。細身の青い色の剣だ。
ティンクも、それに見習って剣を抜いた。
ゆらゆら蠢くツタ。
ティンクは剣を上段に構えた。
その瞬間ツタは鞭のようにしなりながらフィーレーの腰を直撃し、そのままティンクの頭をめがけて飛んできたが、剣に阻まれティンクを後の木にぶつかるまで吹き飛ばした。
「あぐ」
思いっきり木にぶつかったティンクがあえいだ。
「……」
剣を杖のようにし、ゆらゆらと立ち上がり、そいつを睨んだ。
薔薇の方も、ティンクをじっくり睨んでいる気がした。
(力を抜けよ。どうなるかは、自分で分かるだろ?)
ティンクは息をのんだ。なぜ、知っている?
(自分のことは一番自分が分かってるもんだろ?)
ゆらゆら蠢くツタたちを睨んだあと、フィーレーを見た。
早くしないと、フィーレーが危ない……
(そうだ。)
ティンクは目を瞑り、力を抜いた。
ゆっくりと、剣が発光し始める。
(ブランクがあった割には、いい出来じゃねえか)
全身の血液が、流れ、回る感覚。空気を吸った瞬間の爽快感。
ティンクは、笑いが止まらなかった。
ツタがティンクを攻撃しようとした瞬間、ティンクは剣を下段から上へ斜めに振り上げた。
ツタは地面に落ちた。
ジリジリと近づき、飛んだ。
薔薇の花弁の真ん中に着地すると、一回転回る。それによって、殆どのツタが切り落とされた。
一回転してからすぐ、薔薇の花弁に剣を突き刺した。
本当の意味で、全身から気力を失ったティンクは、ふらふらと地面に伏せた。
体の中が動いているような感覚だった。それに従って、動いていた。僕に、あんな動きができるとは。
無心で、勝手に身体が動いた。
頭の中で、繰り返す。
変なにおいがする。かいだことのない様なにおいだ。
ゆっくり、目を開けると、ティンクは白いベッドの上に横たわっていた。四方を囲む木製の壁は、ティンクを見つめていて、天井のキャンドルは部屋に影を落としていた。
「ティンク!」
目の前のフィーレーが叫んだ。彼女に名前で呼ばれるなんて、初めてじゃないだろうか
(僕の名前知ってたんだ)
つい、思ってしまった。へたをすれば声に出してしまいそうだ。
「すごいじゃないか」
「なにがですか?」
「影悔いを倒したそうじゃないか。城中の噂だぞ」
「え?」
「……お前じゃ……ないのか?」
ティンクは目を瞑ってゆっくりと記憶をたどった。
倒した……ような気もする。どうだったっけ
「倒したような、気はするんですが、倒していないような……どうだったんでしょうか」
フィーレーは黙り込み、こめかみを押さえた。
「……もしかすると、見間違いだったのかもしれない。」
「……そうですよね」
フィーレーは安心したように息を吐こうとしたが、それは予想外の声で遮られた。
「本当の戦い方、というものは身体が、知っている物だ」
声のした方を見ると、赤いドレスに身を包み、長い裾を引きずりながら歩いてくる女性がいた。
「久しぶりだ、フィーレー」
「……お久しぶりです。アルフォンモさま」
「堅苦しいのは、好きじゃないんだ。」
そういわれてもまだ頭を下げ続けるフィーレーを彼女は睨んだ。
「顔を、あげなさい」
フィーレーはゆっくり顔を上げた。
「よく、いきていたな。」
というと、二人は抱き合った。
「何年ぶりだ?」
フィーレーは黙りこくってただ、抱きしめあっている。
「アルフォンモ、久しぶりだ。」
「そうだな。……フィーレー。……昔のように呼び合おうじゃないか。」
フィーレーは頷いた。
「彼が、ティンクか?」
アルフォンモが尋ねると、フィーレーは頷いた。
アルフォンモはしゃがみ込んで、ベッドに座っているティンクと眼を合わせた。
「……かわいいな」
と、呟くと、長い袖から白い素肌を取り出し、ティンクの目の前につきだした。
「ソルディナの女王、ソルディナ・アルフォンモだ」
「……オルティーバ・ティンクです」
と、ティンクが呟くと、アルフォンモは白い手をさらにつきだした。
「手を、握るんだ」
とフィーレーが耳打ちした。
ティンクは、ゆっくりアルフォンモの手を握った。
「……」
アルフォンモは一瞬、ふらりとバランスを崩しかけ、倒れる直前で踏みとどまると、ティンクを睨んだ。
「……お前……」
といいかけ、周りを気にしたのか、咳払いを一度だけすると、言った。
「午後、私の皇室に来い」
と、言い捨てるとひらりと部屋から出ていこうとした
「フィーレーはついてくるなよ。彼だけに、聞きたいことがあるからな」
と、フィーレーに釘を差すと、部屋から出ていってしまった。
「……来たか。」
アルフォンモはティンクに言うと、椅子に腰掛けるよう促した。
「まあ、お茶でも飲みなさい」
紅い色の熱いお湯が出てきた。それにいい香りだ。
「結構です」
知らない物だったから、ということもあり、ティンクはそれを断った。
「そうか……では、本題に移ろう。と、その前に。」
「?」
「我々、光帝のちすじ、というものは様々な能力を与えられている、というのは……」
アルフォンモはティンクを見た。
「……知らなかったんだな。」
ティンクは頷いた。
「様々な能力がある。我らソルディナの者は、そのものの、過去が分かる。うそじゃあ、無い。」
そう聞いて、ティンクはぞくり、とした。
すべてばれているのだ。自分が、この世界にいてはならない〈ホーム〉の者であるということが、すべてばれてしまっている。
「……僕を、どうするつもりですか?」
「本来なら……」
どうする?戦って、勝てるかもしれない。このままでは、きっと殺されてしまう。
ティンクが無意識に立ち上がった瞬間、肩に威圧感を憶えた。ゆっくりとアルフォンモの方を見ると、紅い色の怪物がティンクを睨んでいる。
部屋の四方にあった黒い影はするすると部屋の中に忍び寄り、天井の明かりが意味をなさないほど部屋の中が暗くなったような気がした。
「すわれ。」
脚が震える。
「すわれ。」
脚の力がスッと抜け、落ちるようにしてティンクはまた椅子の上に座った
「『本来なら』だ。」
「本来ならば、即刻死刑、が、しかし。」
『しかし』その言葉でティンクはホッとした。
「お前のその戦闘能力を買う。その年で影悔いを相手に殆ど怪我無しで戦えるものはそういない。君の秘密は、私が守ろう。その代わり、君には今から五年間、この城で訓練を、受けて貰おうと思う。」
「五年間? 僕はターミーにならないといけないんだ!」
「ターミーになるための訓練だ。これで君は、もっと強くなる。では、私はこれで。公務があるんだ」
アルフォンモが出ていった後、ティンクは、ずっと座っていた。
2009-01-05T08:55:36+09:00
1231113336
-
小説
https://w.atwiki.jp/kakakakanta/pages/14.html
*長編
-[[ARM HEAD STORY BEFORE THE WORLD CHANGES SOME TIME]](08/11/22 完結)
-[[the new world]]
-[[Shining Princess]]
-[[ドリーム アザー サイド]]
*短編
-[[サイクロン・ゴー・トゥ・シティ]]
2008-12-28T20:48:22+09:00
1230464902