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 ハーモニカを吹きながら石を削りだして作られた壁に腰掛ける青年がいた。
 もう寒くなるのに動きやすい半袖の服を身につけ、腰には剣が一本差してある。青色のクセのある髪と、覇気のない緑の眼は静かにハーモニカを奏でていた。
 ティンクである。
「ここにいたんだ」
 優しげな顔をしてゆっくり近づいてきた彼女は、フィーレーである。
 フィーレーの声も無視して、ハーモニカを吹く。
「へえ、うまいね」
 フィーレーはそういいながらティンクのとなりに座った。
 ハーモニカを吹くことをやめたティンクはそのハーモニカをベルトに備え付けてある小さな袋にしまった。
「どうかしたの?」
「ん? ちょっとよったから、アルフォンモに会うついでに、ここまで来たんだよ」
「それはお疲れさま」
 ティンクは微笑んだ。嘘の笑い、嘘笑みである。
「やっぱり、怒っているよね」
「……あたりまえだろ」
「ターミーになりたければ、うんたらかんたら、とか言われて、もう何年経つと思ってるんだ。いろんな資格を受けないとターミーにはなれない、とか言われてさ。」
 ティンクが自嘲気味に言うと、フィーレーはなだめるように笑った。
「それだけ君を離したくないのさ。いま、その年でそれだけ強い人は居ない。もっと強くなれる。だから、はなしたくなんだ」
「放したくない? 僕を戦争の道具にするつもりか」
「……そうじゃなくて」
「だったら、どうするつもりなんだ? 僕を、僕の人生を、どうするつもりだ? 君は、あいつは、お前達は」
「ティンク……」
 フィーレーがなだめるように言うが、ティンクはため息をついた。
「このままなんだろうか、僕は」
「……そんなこと無いよ。いつか、彼女も君を手放してくれる。」
 フィーレーがそういうと、ティンクは頷いて笑った。
「よし、じゃあ、交渉しよう。フィーレー、またな」
 ティンクは勢いよく立ち上がると、皇室へ走っていった。

「どうぞ」
 ノックした後、彼女の声だ。
「失礼します」
 そういってはいると、そこには黒く、長い髪をした女性がいた。
「ティンクか。どうした?」
「ターミーにならせてください。」
「却下」
 沈黙が流れる。
「お前の力は、この国に必要なんだ。根無し草の旅人になられるのは、正直言って困るんだ。」
「一つ、言わせてください。」
「なんだ?」
「僕は、いつからあなたのような人間の道具になったんです?」
「……口の訊き方には、気をつけた方が、いいとおもうぞ。」
「あなたが強いのは知っています。僕より、強いのも知っている。」
「それを知っていて、なぜ、私にそんなことを言うのか、神経が分からないな」
 ざわりとした空気。怒っている
「僕はあなたの道具じゃあない。」
「黙れ、と言っている」
「犬でも飼えばどうです? あなたの言うことをきいてくれる犬でも。」
「だまれ!」
 落雷の走ったような声が部屋中に響いた。
「そんなに死に急ぎたいのなら、やってやろうか」
「やってみたらどうですか?」
「後悔するなよ」
 アルフォンモが腰の鞘から剣を抜いた。
「後悔はしません。僕の、人生ですから」
 ティンクがそういうと、アルフォンモは目を見開いた。
「母が政治をとっていたころ、母のまだ若い頃にも、そんなことを言った人間がいたそうだ。」
「昔話ですか?」
「……正直な、本当の話をしよう」
「……お前を、放したくない。お前が必要なんだ。これは女王として、ではなく、人間として、お前が必要なんだ。」
 ティンクは何も言わずにそこから出ていった