※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 中学生のときまで、私はこんな人間だった。世界の何処かでは、今日もアームヘッドの崩れる音が青い空に響いているわけだし、銃を撃つ子供の倒れる音。息子が無事な事を祈りながら死んでいく母親が響かせる頭蓋骨のおちるおと。そんな中で、私はこうやって椅子に座って、手につけられないような勉強をしたつもりになっている。そう考えていたし、その考えは正しいと思っていた。
 けど、違った。そんな考え方だった私は、いつものように空を見つめた。
 それを見つけたとき、只の雲だと思った。けど、違ったそれは確実に動いていたし、何より、血のような色をしていた。輝かしいその流線型の流れるようなフォルムは、天使のようだった。天使は、急降下して、低空を飛行しながら私の目の前を通り過ぎた。
 私は息をのんだ。純白のボディに赤い色。緑色の眼。それは一瞬にして過ぎ去った。けど、私の脳裏にそれは焼き付いて離れなかった。
「オイ、宝生」
 アームヘッド構造部門講師の、木堂が私の頭を軽く叩いた。もう七時限目らしい。
「夢を見るのもいいけど、現実をみろ。おまえ、身体能力は村井以上だけど学力は小学生以下だろ?もうちょっとがんばれよ」
「……」
 私はそっぽを向いて外を見た。外はもう日が落ちかけていた。帰ろうとする頃には、オレンジ色の太陽が空を染めていた
 私が何故こんなふうに空を見るか。というと、理由は簡単で、いつか昔みたいにあの天使が舞い降りるのかもしれない。と思っていた。けれどこの天使はアームヘッド。セイントメシアという奴だった。
 そのせいで、私は大のアームヘッド好きになってしまった。将来は御蓮の正規軍に入りたいと思っている。
 そう思いながら、学校の坂の下にある、バス停に立った。後少しで、来るだろう。
 となりに、眼鏡を掛けた黒髪の美女が立った。手には分厚いカバーの本があって、かなり速いペースで頁は繰られている。
「ユッキー」
 鼻筋の整った、すっきりとした顔がこちらを向いた。
「何?」
 彼女は指で髪の毛を直しながら言った。
「ユッキーに勝ったよ」
 私は腰に手をあてていった。彼女の持つ本の頁がめくられる。
「そう。それは良かった」
 彼女が微笑む。むう。これが男子を射止める天使の矢か。女子ならば誰もが嫉妬を抱くというこの天使の矢。けど私には通用しないぜ。
「ユッキーさ、ホントに美人だよね。いいなあ」
 彼女の白い肌は赤くなって、顔をうつむけた。本を読む速度が上がった気がした。
「ああっ!宝生先輩!」
 ああ……この声は、なんで私の周りにはこうも美人が多いんだ?腰まである長い髪を揺らしながら迫ってくる人。此花だ。
 此花は息を切らしながら私の目の前で立ち止まった。
「よう。咲夜ちゃん」
 私は右手を挙げて挨拶をした。
「今、帰ってるんですか?」
「うん。まあね。」
 此花は、私の横にいる人を見て、言った。
「雪那先輩も、こんにちは」
 そうすると、バスが一台走ってきた。
「遅かったなあ」
 そんな愚痴を漏らしながら、ドアが開くのを待ってから乗った。
「じゃあ、また今度」
 此花は私に手を振った。私もそれを返す。
 ゆっくりと走り出したバスの中には、本のページを繰る音だけが静かに響いていた。
「ユッキー、そんなに本ばっかり読んでて飽きない?」
「飽きない」
 即答だった。
「ふーん」
 私が降りるべきバス停に着くと、私は村井に別れを告げてバスを降りた。空からは雪がおちてきた。灰色の空からおちてくる白い雪は私をとても寒がらせる。その雪は次々とおちてくる。あっという間に結構な量が積もった。
「……降りすぎ」
 私は防寒対策をしてくれば良かったと嘆きつつ、自分自身の考えの足り無さを恨んだ。手をこすりあわせると、少しは寒さが和らいだ。
 早く家に帰ろうかと思ったが、家のすぐ上の公園に何かがある。黒い、巨大な何かだった。
「……?」
 そこでかえれば良かったのに、私は公園まであがって、それが何かを見た。
 黒い、アームヘッドだ。真っ黒。悪魔をも思わせるようなデザインだ。
「……なんだろ……このアームヘッド」
 見たことのない型だ。何処で製造されたかも分からない。
「……お前、何をやっている?」
 そこにいたのは水色に髪を染め、眉毛は元の色のままの若い男性だった。
「……いや、その、あ、邪魔しちゃいましたよね?さようなら」
 私が踵を返して走り去ろうとすると、その青年は私の肩を掴んでいった。
「俺はもうここを去る。そんな気遣いはいらないぞ。」
「あ、そうですか」
 彼はそのアームヘッドの中に乗り込むと、バーニアを起動させ、走り去った。
 もう、かえろうかな。そう思って、帰ろうとしたとき、何かに呼び止められるかのようなきがした。私が振り返ると、そこには一枚の羊皮紙がおちていた。