「へえ。これがユッキーのおうちなのかあ」 私は廊下に置かれておいる骨董品に当たって落としてしまわないようそっと歩いた。 「そんなに気にしなくても大丈夫よ。おじいちゃんが安い値段で買ってきた物だから」 「え?そうなの?」 「うん」 村井は私を奥のリビングに案内した。 「私は、基本的にここで一人暮らしなの」 ユッキーがバカみたいに広いこの家を歩きながら言った。 「広いなあ」 「そう。だから独りで住むのは寂しかったの。旬香が来てくれて嬉しい」 と、村井は微笑んだ。ぎゃあ!全ての男を射止める天使の矢!けど私にそっちの気はないから安心だぜ! 「なんだか、アームヘッドが飛び立っていきそうでしょ?」 私は頷いた。確かにここの地下のハッチが開いてプリュヴィオーズが発信するのさ。って言われても、私はそれを鵜呑みにしてしまいそうだ。何だ。ここは新手の基地なのか? 「ほんっとでかいよ。この家」 私が言うと、彼女はまた、静かに微笑んだ。う。わ、私が女で良かったな!村井 「それで、木堂が狙ってた、その設計図っていうのは?」 「ああ、それだったら……」 私は今まで握りしめていた設計図を村井に見せた。村井は、その少し湿った羊皮紙の設計図を受け取ると、神妙な顔つきでそれを見始めた。 「……まさか、これは……」 「なんなの?それ」 村井は設計図から目を離さない。 「……これは、アームヘッドの設計図。しかも、そこらのレベルの低い量産型なんかじゃない。菊田重工の特殊機体、オーディン」 「オーディン?」 「……これは、すぐにしまって。それに、もう他人には見せない方が良い」 「へえ。オーディンていうのか。これ」 村井は不思議そうに私を見る 「これ?まさか、何かヘンな声が聞こえたりとかは、無いよね?」 私は少し考えた。 「ヘンな夢ならあるかな」 「……」 村井は呟いたが、何を言ったのかは聞こえなかった。 「お腹、空いてない?」 「え?あ、うん」 私が答えると、村井は後を向き、ゆっくり歩き出した 村井は、厨房の戸棚の中から、フライパンを取りだした。火のつく音がする。 何かを炒める音。 「手伝おうか?」 「いいよ。座ってて」 村井が笑ったようなきがした。顔は、見えない。背中しか見えない。あと、真っ黒の艶のある長い髪だけだ。 私はゆっくり忍び寄り、村井の後につくと、おおきな声を出した。村井は案の定、身体を置きくゆらして、驚いた。 「よし」 「よ、よしじゃない!」 村井は床にへたり込んだ。眼には涙が浮かんで、髪の毛は乱れていた。 「び、び、びっくりしたあ!」 「あはは。驚きすぎ」 村井は私を睨んだ。 「後から忍び寄られて驚かない女性はあなたぐらいよ」 「お、おこらないでよ」 「ふん」 村井はそっぽを向いた。こ、これはやばい。何とかしないと 「ご、ごめんなさい」 「べ、別に謝るような事じゃないけど」 村井は立ち上がり、涙を袖で拭くと、髪の毛を直した。ああ、また冷静沈着な村井に戻った。このギャップが面白いからやめられない。 私はまた、そーっとおどかそうとした。 「旬香?いいかげんにしなさい」 「……はい」 お見通しだった