獣人スレ @ ウィキ
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2012-11-03T21:20:45+09:00
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単発作品
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&italic(){&sizex(6){単発作品}}
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&bold(){名前がないものは申し訳ないですが、勝手に名前をつけさせていただきました}
&bold(){本スレで名前が出た場合、すぐに変更します}
&bold(){※1&color(red){が付いてるのは、ちょっとだけえっちぃです、ワンクッション置いてます。}}
&bold(){※2&color(red){が付いてるのは、血糊・出血有、ワンクッション置いてます。}}
***&bold(){&italic(){&sizex(4){単発絵}}}
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タヌキと酒
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1150.html
**タヌキと酒
ある夜、一匹のタヌキが空の酒瓶を前にして腕を組んでいた。
「ついに無くなってしまった……。」
神社から盗んできたお神酒の味を覚えて以来、自分で集めた木の実やら、人間から貰った食べ物やら、
はたまたお地蔵様のお供え物やら……兎にも角にも、食べられる物を手に入れてはそれを肴に酒を飲むという日を続けていたタヌキ。
しかし、そんなことを毎日していれば酒が無くなるのは当然である……が、そんな日々を当たり前に過ごしていたタヌキの頭は
『いかにして新たな酒を手に入れるか?』でいっぱいになっていた。
「また、あの神社から盗むか?……いや、数日前に通ったらタコみたいな神主が怒りでテンタクルと化していたし……
人間みたくスーパーで買おうにもお金は無いし……第一、葉っぱを使ったお金の偽造はタヌキ的にも倫理違反だし……。」
そう言いながら、近くにあった葉っぱを指でつまみながら回すタヌキ。
その時、突如強めの風がタヌキの体を通り抜け、そして葉っぱをタヌキの指から解放するのであった。
ジェットコースターのように孤を描く葉っぱ。
そして、それは風に戸惑っていたタヌキのおでこに着地した。
その瞬間、タヌキにひとつの悪知恵が浮かんだ。
「そうだ!これで行こう!!」
それから数分後、タヌキは闇夜が広がる道の草むらに隠れていた。
「ふふふ……ここで人が来るのを待つ。その間に、この葉っぱで人間に……そうだなぁ、『お涙頂戴路線』で行くなら、
『鬼のような亭主に「酒を買ってくるまで帰ってくるな!」と追い出されたか弱き人妻』に変身して、お酒を買って来てもらう!
……設定としては『お金を落としてしまい、買いに行くことが出来ない。お金を再度取りに帰ろうにも、亭主が怒りを露わにしている。
どうか、お助けを……』ってな感じ……かな?……お?」
独り言を続けていたタヌキの眼に飛び込む、自転車のライト。
そこには、酒瓶のような物を買い物袋に入れてペダルを漕ぐ男の姿があった。
「ナイスタイミング!それじゃあ、この葉っぱで変身を……。」
そう言って、タヌキはおでこに葉っぱを乗せるのであった。
「3……2……1……変身!可哀相な人妻キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「どわぁっ?!な……何だぁ?!?!」
テンション高く現われた女性の出現に驚く男。
そして、その拍子に自転車から落ちそうになる……が、ギリギリで踏み留めると、男はその場に自転車を止めるのだった。
一方、タヌキはタヌキで若干バツの悪い表情を見せてはいたが、すぐさま落ち着きを取り戻し、
先程自分の脳内で組み立てていた脚本を男の前で演じ始めた。
「……申し訳ありません……私、夫に頼まれてお酒を買いに行こうとしていたのですが、お金を落としてしまい……
お金を取りに帰ろうにも夫は暴力的なため、酒を買わずに帰って来た日には何をされるか分かりません……申し訳ありません、
お礼は致しますから私の代わりにお酒を買って来ていただけないでしょうか?それか……失礼なお願いではありますが、
そのお酒を譲っていただけないでしょうか?」
お酒のため、丁寧な言葉で男に話しかけるタヌキ。
対する男は、最初の『異常な登場』が頭に残っていたために不安になっていたが、タヌキの見せる『可哀相な人妻』の幻と
その言動に心を奪われてしまい、タヌキのお願いを拒否出来ない心境となっていた。
「えぇっと……よろしかったら、さっき買って来たお酒があるんで、よろしかったらこれを……。」
そう言って、買い物袋の中にあった酒瓶をタヌキ……いや、人妻に渡す男。
酒瓶の中には透明な液体が並々と注がれており、ラベルにはタヌキの読めない文字が描かれていた。
「これは……?」
「……ああ!僕、洋酒の……特に変わった物を買うのが好きなんですよ。」
「変わった……洋酒……。」
今までお神酒しか味わったことの無かったタヌキ。
そんなタヌキにとって洋酒は興味深い存在であり、さらに男の言う『変わった酒』という言葉にも心を踊らされ……
最終的にタヌキの頭は「今すぐ飲みたい!」という気持ちでいっぱいとなった。
「あの……。」
「何です?」
「申し訳ありませんが、味見してよろしいですか?あの……貰っておいて言うのも何ですが、
夫の口に合うか確かめたいので……。」
「……ああ、いいですよ。」
そう言って、酒瓶のフタを開ける男。
そして、金属製のフタをコップ代わりにして酒を注ぎ、人妻に渡すのであった。
「どうぞ。」
「それでは、頂きます。」
そう言って、タヌキはフタに入った酒を一気に飲み干した。
……その直後であった。
酒が体内に取り込まれた瞬間、まるで火傷したかのように熱を帯びるタヌキの喉。
その熱さにおもわずむせる……が、せき込むと同時にタヌキの視界はグニャグニャと曲がり始め、そして暗転した。
「……!だ……大丈夫で……?!」
顔を真っ赤にして卒倒する人妻を抱えようとする男であった…が、人妻の姿は消え去り、
そこには眼を回して倒れるタヌキの姿が露わとなるのだった。
男がタヌキに渡した変わった酒……それは100%に近い高濃度のウォッカであった。
おわり
2012-11-03T21:16:54+09:00
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ケモノ学校シリーズ:SS 10スレ目の作品
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-9スレ目の作品一覧
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***&bold(){&italic(){&sizex(5){ケモノ学校シリーズ:SS 10スレ目の作品}}}
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2012-11-03T21:13:45+09:00
1351944825
-
Happy Halloween!
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1149.html
**Happy Halloween!
「Trick or Treat!」
「……は?」
ドアを開けるや唐突に言い放たれた耳慣れぬ言葉に、私は咥えタバコが落ちるの気づかず間の抜けた声を漏らした。
季節も晩秋に入り風が若干冷たくなり、暖かい日差しが恋しく感じ始めたある日の夕暮れ間近、
この日は貯まりに貯まった有給を消化する為、休暇をとったは良いがやる事もないので、家のリビングのソファーで寝転がりうつらうつらとしていた矢先、
突然のチャイムで呼び出されて頭を掻きながら応対に出た時の事である。
今、私の前に居るのは身長や声から言って、学園の初等部の竜崎 奈緒と中等部の三島 瑠璃だろうか?
……だろうか? と疑問系になったのも無理もなく、その子達は一様に奇妙な格好をしていたからだ。
奈緒の方はインクでおどろおどろしい目と口を書いたシーツを被っているだけだったり、
はたまた瑠璃の方はパリッとしたスーツに裏地が血の様な真紅の黒いマント、そして閉じたマズルからも見えるやたらと大きな付けキバをしていたり、
おそらく、お化けと吸血鬼といった風体なのだろうか……しかし何でこんなコスプレを?
「ほら、獅子宮せんせー! 今日ははろうぃんだよ!」
「『Trick or Treat』って言われたら、お菓子を渡すかイタズラされるか選ばなきゃいけないんだよ」
「それともせんせーはイタズラされたいの? イタズラしちゃうよ!」
「あ? ……ああ、そうか」
状況が飲み込めず、落ちたタバコを拾うのも忘れて呆然と佇んでいた所で、
尻尾をぶん回す二人に囃し立てられ、私はようやく、今日のこの日が何の日であるかを思い出した。
――ハロウィン。
確か、もともとはある地方での収穫感謝祭が、他の民族や地域にも行事として伝わった物が始まりで、
それが宗教などの行事と入り混じる事で今の形へと変わって言ったものだった、と思う。
まぁつまりはこの日はこの年の収穫に感謝すると同時に、ついでに悪い物を追い払ってしまおうという志向で行ってる行事と思えばいい。
んで、その日はお化けやら吸血鬼などの魑魅魍魎のコスプレをした子供が、かぼちゃのランタン片手に各家を回ってお菓子をねだって行くとか……。
ああ、だからこの子達はこんなコスプレをしていたのか……
よく見れば、彼女らは恐らく母親の手作りと思われるかぼちゃのランタンを片手に下げていたりする。
「ほら、早くしないとイタズラしちゃうよー!」
「イタズラの準備は万端なんだよ!」
「ああ、分かった分かった。少し待ってろ」
ハロウィンの事を思い出していた所で子供達に更に囃し立てられ、
私は可愛いお化けたちに何も渡さんのも難だと家の中へと引っ込み、尻尾を揺らしながら適当なお菓子がないか探し始める。
数分ほど戸棚を探した結果、出てきたものは酒の肴にと買っていたおやつカルパス一箱とあたりめ一杯、
そして禁煙の場所での口寂しさ避けのキャラメル一箱……と、まぁこんなものか。
更にそれ以外にもう一つあったのだが、これは子供に渡すのは少々酷だと戸棚の奥へと押しやり、
ひとまずおやつカルパスとキャラメルの箱を開けて、適当な数を可愛いお化けたちに渡してやる事にした。
「ほら、これで良いか?」
「わーい! ありがとー! でもせんせー、一つ忘れてるよー!」
「……ん? ああ、Happy Halloween。暗くなる前に、気をつけて家に帰れよ?」
「はーい! 先生もHappy Halloween!」
戦利品を手に、「後で分けっこしようねー」などとはしゃぎながら元気に駆け出してゆく子供たちの背を見送った後、
床に転がる煙草を拾ってゴミ箱に捨て、そういえば今年ももう後二ヶ月か、などと取るに足らない事を考えつつ、
玄関からリビングに戻った私はソファーの定位置に寝転がり――
ピンポーンピンポピンポピンポーン
「…………」
耳に飛び込んできた耳障りな位に連打されたチャイムの音に、私は再び玄関に向かわざるえなくなった。
……全く、行事にしても、もう少し寝る暇を与えてほしい物である……。
そう、少しだけ不機嫌になりつつ玄関へ向かい、ドアを開ける。
「Trick or Treat!」
「…………」
そこに立っていた者を前にして、私は無意識に咥え煙草を強くかみ締めると共に、尻尾を不機嫌にばたりと揺らした。
「おい、とっつあんぼうや……お前其処で何やってるんだ」
「えっ? やだなぁ、獅子宮センセ。僕はサン・スーシじゃないよ! ハロウィンに現れる妖精、ジャック・オー・ランタンだよ」
不機嫌に尻尾を振り回す私の問いに対し
私の前に立つ、やたらと大きなかぼちゃの被り物に、全身を覆う外套をつけた背の小さな犬の男、サン・スーシはおちゃらけた様に答えた。
おそらく、私の予想が正しいなら、こいつはお菓子目当てでこの変装をして各家々を周っていたのだろう。
その証拠に、片手に下げたバスケットには、既に彼方此方から集めたのであろう戦利品が山の様に入っている。
……無論の事だが、さっき自分で正体をばらしていた上にその特徴的な声とさっきからぶん回している尻尾で正体はモロバレである。
「で、そのジャックと豆の木が何の用だ? 新聞なら間に合ってる」
「ちょ、ジャック・オー・ランタンだって! それに新聞屋でもないって! ほら、ハロウィンだからさ、お菓子くれないとイタズラしちゃうよ!」
「あーあー、そういえばそうだったな…ったく、其処でおとなしく待ってろ」
一瞬、追い返してやろうかとも考えたが、このとっつあんぼうやの事だ、本気でイタズラをしてくるのは確実だろうと寸でで思い直し、
仕方なく私はさっきのおやつカルパスでも渡そうと戸棚へと向かい……先ほど見つけた”それ”の存在を思い出し、会心の笑みを浮かべた。
……そしてそれから数分後。
「ほら、これで良いだろ? 満足したならとっとと墓場に帰れ」
「……あれ? 妙に素直に渡してくれたね? どして?」
「……流石に菓子一個を惜しんでイタズラされるのは面倒だと思っただけだ。用が済んだならとっととどっか行け」
「変な獅子宮センセ……まあ良いや。そいじゃ、Happy Halloween!」
何も知らずに”それ”を受け取り、意気揚々と去ってゆくサンの奴の姿を最後まで見送った後、
笑いが堪えきれなくなった私は遂にその場で噴き出してしまった。
「ぷくっ…くくっ…くははっ! あいつめ、まさかタコヤキキャラメルを渡されてるなんて、夢にも思わんだろうな」
そうである、奴に渡したのは、あのジンギスカンキャラメルほど有名ではないが、それに匹敵、いやそれ以上の不味さのタコヤキキャラメルなのだ。
以前、大阪出張から帰ってきたいのりんから、何かの話のタネにとお土産としてもらった物なのだが(その際、サンの奴は出張で不在だった)、
噂にこそ耳にした事はあったが、一粒食べただけで全身の体毛が総毛立ち、箱ごとゴミ箱に投げ捨てたくなったと言うのは流石に初めてであった。
なんと言うべきか、ピリ辛のソース掛けたタコヤキそのままを甘くしたような味、と言えば分かるだろうか、
いや、むしろ分からないままの方が良いかも知れない。つまりそれだけ酷い代物なのだ、”それ”は。
その後、捨てるにしてもせっかく貰った物を捨てるのは気が引ける、かといってアレな味だから食べる気にもなれず、
結局、処分も保留のまま消費期限切れまで戸棚の奥で眠る事になったのだが……まさかここで役立つ事になるとは、世の中分からない物である。
……無論、渡すその前に匂いでばれない様、普通のキャラメルの箱へ、普通のキャラメルと混ぜるように詰め直しておいた。
「さて、タコヤキキャラメルを食った奴の吠え面が見物だな……くくっ」
そうして、私はタコヤキキャラメルを食べて浮かべたサンの表情に思いを馳せつつ、再び怠惰に耽るべく部屋に戻るのだった。
※ ※ ※
……それから翌日。
「――妙だな……?」
時刻は既に放課後の時間帯へと移り変わり、外の景色もやや薄暗くなりつつある頃。
私はこの時刻特有のけだるい雰囲気、疑問の呟きをもらした。
「あのとっつあんぼうや、何も反応が無かったが……まさか、アレを食ってないのか……?」
そう、私が疑問を感じたのは他でもなく、サンの奴の様子が何ら変わりが無いと言う事である。
何時もの奴ならば、私から何かしらの酷い目にあった後、次に校内で私に会った時に何かしらの態度を見せる筈なのだが……。
今日会って見た限りでは奴の様子は何時もの何ら変わりは無く、何時ものおちゃらけた調子であった。
……はて、これは一体……?
「みんなー! 僕にちゅうもーく!」
噂すればなんとやらと言うか、何時もの体格の割りに無駄に大きい声が私の耳を振るわせた。
その方向へゆっくり視線を向けてみると、そこには思った通りの妙に胸を張って尻尾ぶん回すサンの奴の姿。
……そして、その片手には何処かで見たバスケットが……何か嫌な予感がしてきた。
「おやサン先生、どうしたんですかいきなり」
「昨日、ハロウィンだったでしょ? その時にお菓子を集めたんだけど、皆親切だから結構な量になっちゃってね。
それを僕一人で食うのも難だし、ここは皆におすそ分けしようと思って」
「おお、そういえばそろそろおやつの時間ですね……折角ですし、ご相伴に与らせてもらいますか」
「猪田先生」
「良いじゃないですか、英先生。たまにはこういうのを楽しむのも」
「しかし……」
いのりんと英先生とのやり取りを他所に、私の視線はバスケットの中のある物へと注がれ、心中を焦りの色へと染め上げていた。
なぜなら、其処には昨日しがたサンへ意向返しにと渡した、タコヤキキャラメル入りキャラメルの箱があったのだから……!
こ、これは本気でまずい……まさかこうなるとは私自身予想だにしていなかった。
サンだけが被害を被るならともかく、他の同僚まで被害を被ってしまうのはさすがに私も望んじゃいない。
しかも、もし万が一これが私の仕業と判明しようものなら、それこそ英先生&いのりんによるダブル説教in生活指導室も三時間ではすまないだろう。
……それだけは何としてでも避けたい。いや、避けねばなるまい!
「さて、いのりんからも許可も貰った事だし、早速おやつタイムと行こうか♪」
拙い! このままでは本当に私の恐れていた事が現実になってしまう!
かくなる上は……仕方あるまい!
「さーさー、皆並んで……って獅子宮センセ?」
「ちょうど煙草切らして口寂しかったんだ、これを貰うぞ」
「え、あ、え? ちょ?」
突然の行動に戸惑うサンに構う事無く、私は徐に周囲にあったキャンディやクッキーごとキャラメルの箱を掴み取ると、
キャラメルの箱をあけて一息に口へ放り込み、包装紙が付いたままであるのも一切気にせず一気に咀嚼して飲み込む。
当然、それによる気持ち悪さが怒涛の如くこみ上げるが、持てる精神力の全てを使って我慢する。
「し、獅子宮先生……?」
「用事を思い出した。少し早いがここは早引けさせてもらおう」
そして、私は泊瀬谷を初めとした同僚達の視線から逃れるように踵を返し
その場で吐き出しそうな気分が表情に出てしまわないよう、必死に我慢しつつ足早に職員室を後にした。
ミッションコンプリート……これでダブル説教から逃れる事は出来た。
だが、代償はあまりにも大きく……うっぷ
……その後、私の素早い行動が功を奏したのか、幸いな事にハロウィンの件について、いのりんと英先生からは何のお咎めも無かった。
だがしかし、無茶をした代償かお腹を壊してしまったらしく、それから数日の間寝込んでしまう羽目になってしまい、
その上さらに聞いた話では、その時の事が誰かの口から漏れたらしく、「獅子宮先生乱心事件」として生徒の間で語られる事となったそうだ……。
因果応報、自業自得とは、この事か……。
―――――――――――――――――――おわれ―――――――――――――――――――
2012-11-03T20:14:16+09:00
1351941256
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本が読みたくなる、甘噛みしたくなる
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1148.html
**本が読みたくなる、甘噛みしたくなる
柴犬の犬太がこたつで本を読んでいると、背中が異様に寒く感じた。
どうやら今日はいつもよりか、手が凍えるくらい格別に寒いらしい。ページをめくる手をこたつから出すのも億劫なのに納得し、
背中を丸めて本の世界に入り込む。活字に集中していたはずだが、ちらと横切る陰が気になった。
小学生の犬太には、まだまだ遠い存在の女子高生。彼女は足を止めて、犬太の動向を覗いてみた。
別に、姉の姿に頬を赤らめているわけではない。
犬太の表情を確認した彼女は、肩にかけたピカピカのトートバッグを見せ付けるように振り向いた。
「犬太。ちょっとお買い物に行ってくるね」
「う、うん。どこに行くの?」
「本屋さんよ」
よそ行きの装いで長い髪をふわりと犬太の姉・狗音が弟を誘ってみたが、一緒が恥ずかしいことを理由に断られた。
優しい瞳で狗音はにこりと「じゃあ、いってくからお留守番よろしく」と、笑って居間を出た。襖から寒気が遠慮なく押し入るのを
犬太はイヌのくせに震えながら、そしてイヌだからと堪えた。
いくら毛並みに包まれた彼らも、寒いものは寒い。雪なんぞ降ってこようなら、
喜んで外出しようとする者など限られる。まだ遥か彼方の春。それまでどう過ごそうが、のほほんとしたものだ。
言うならば、獣は偏屈だ。
それに対して、街は素直。
寒いなら、寒い。
暑いなら、暑い。
めぐる季節に振り回されながら、彩りを変えてゆく。
狗音が最寄の電停まで歩いてゆく途中、少しながら後悔をしていた。
「明日にすればよかったかな……」
いやいや。本は欲しいときが買い時と言うではないか。
狗音はダウンジャケットを深く羽織り、北風から首筋を守りながら欲しい本を思い浮かべては含み笑った。
ふわふわの髪にダウンのファーで防寒は完璧に思われたが、所詮は人が造りしもの。ぶるるっと、震えながら
街行く人々も自分と同じ気持ちなのを確認すると、ふと安心してしまうのだった。電車を乗り継ぎ、人の群に巻き込まれる。
「こんなことなら、ミコを道連れにする……?」
狗音の親友、ミコこと美琴の顔が灰色の空に浮かんだ。
彼女とは『甘噛み同好会』の仲。もっとも、狗音と彼女しかいない学校非公認の同好会。
美琴はネコだ。同級生のクロネコだ。人肌も恋しいし、寒いし、ミコと寄り添ってジャケットから覗く自分の首筋を
甘く噛んでくれれば、この寒さだって乗り切れる。ついでに無ア理して買ったブーツを自慢する野望だって叶っちゃう。
そう。彼女とはお互いに気が許せる限りの距離で牙を立て、爪を立て、ともに甘い果実のような時間を過ごす、
狗音にとってちょっと特別な間柄だった。快楽の追求こそ、幸福の極み。と彼女らは信じてやまない。
「メールしとこっ」
とりあえず、相手の都合もあろうし、狗音はつやが美しいトートバッグから、使い込まれた携帯電話を取り出し、
親愛なる友へ『今、暇かな』と、控え目な文章を送ることにした。
この場に美琴がいないことを悔やみ、そして新たな出会いを求め、こつこつと歩道をブーツの踵で鳴らしながら、
狗音は海沿いのショッピングモールに向かった。女子高生と言うより、何もかもを知り尽くした大人の女という出で立ちだった。
一歩一歩と歩くにつれ、ダウンのフードとファーがともに上下に揺れる。狗音の後ろ姿は、絹のような尻尾とファーとのふしだらな
絡み合いで魅力的に見えて、やゆんよゆんとフードと尻尾が揺れるたびに、甘い香りを歩道に振りまいていそうでもあった。
いざ、知る読む見るの森へ。
#
目当ての本が手に入った。
それだけで懐が温かい。
本を棚から探す幼き日のような不安、お目当ての本を見つけたときの安堵、その本がちゃんと取り扱ってくれたお店への感謝、
「この本、いいかも」と表紙買いする冒険心、レジに並んで順番待ちのときの期待感、いざ自分の番がやって来た際の胸の高まり。
レジ係からの「カバーお付けになりますか」という思いを「お願いします」と受け入れる勇気、そしてただで配布している
レジ脇の栞を二、三枚頂く悪だくらみ。本屋には生きる上で大切なものが詰まっている。
狗音はトートバッグのほんの少し増えた重みに幸福感を感じながら、再び肌寒い街を歩きだす。
帰宅したら、早速読書のディナーを頂こう。だけど、待ち切れずに『すたば』でつまみ食いするのもいいかもしれない。
インクの香りは最高の香辛料、こだわり屋の職 人による装丁は食欲をそそる。
「……やっぱり、ウチに帰って読も」
狗音は帰りの市電を待つ間、吹き抜ける風を鼻の先で感じながら、帰宅した後のことの妄想を始めた。
狗音が妄想モードのスイッチを入ると、リミッターをいとも軽く突破してしまう。
自分の脳内だけならフリーダム、目眩く豊かな官能の世界。色に乏しい師走の空だって、花咲き乱れる
温暖な離れ小島に舞台を変えちゃうことさえ出来るんだから、妄想ってヤツは素晴らしい。
こたつに入って本を読む。こんな幸せなことは他にあるか。
部屋着に着替え、こたつに身を落ち着かせる。先客の弟が見事なこたつむりに化けていた。
起こすのは忍びないので、こたつの中で膝を折る。きょうはよく歩いた。本を探すという目的ならば、いくら歩いても
構わないと思う。寒さを防いでくれたブーツも、本の森をさ迷う間お世話になった。そのせいか、狗音の脚は肌や毛並みの
蒸れた温もりに包まれていた。ほっこりとため息をついて、太ももをすり合わせる。
「あら……。ミコ」
向かい側で同じくこたつで暖をとるのは、美琴であった。何故、狗音の家に居るかは分からない。両手をふとんに入れて、
顔を綻ばせる。本から目線を反らすと、美琴の瞳が狗音を飲み込む。ちくりと、こたつの中で狗音の太ももに心地好い刺激が走った。
「もう、ミコ」
「わたしの爪で、くーを奪っちゃう」
「だめ……。いけないよ」
「わたしを連れて行ってくれなかった罰だから」
狗音の太ももには、美琴の足の裏の肉球と爪の感触が触れるか触れないかの加減で、付け根から膝までを行き来していた。
もしかして、誰もが家に閉じこもりたくなるような季節だからこそ、人の触れ合いに、ふわふわの毛並みに、
そして毛並みを掻き分けるように切り裂く甘くいじわるな美琴の牙を求めてしまうのだろう。
美琴をわたしが求めている!
美琴が白い牙を光らせたかと思うと、狗音はこたつの中で脚をくねらせる。俯いて聞こえない程の甘い声。
「犬太が起きちゃう」
「起こしちゃだめよ。くーの恥ずかしがる顔は、わたしのご馳走ね」
すやすやと夢心地の犬太には、姉が同じこたつの中で蕩けるような辱めを受けているとは気付かなかった。
こたつから抜け出せない体になった狗音は、汗ばんでくる太ももがむしろ快感だった。蒸れた脚が美琴の爪を誘い、
さらに美琴を挑発する。苦悶する狗音を美琴は美味しそうに賞味していた。
「……。やだ」
悪い癖だ。
妄想だ。
何もかも、膨れ上がる妄想は誰のせいだ。
「あっ。ミコからだ」
本屋に入る前に送ったメール。今頃返事が返ってきた。
多少かじかむ手で内容を確認すると、美琴はこたつの中でうとうとしていて、たった今、狗音からのメールに気付いたらしい。
狗音はにんまりと頬を緩め、添付されていた『イヌのぬいぐるみを甘噛みする動画』を見ながら自分と重ねた合わせた。
電車が来るまでの寒い中、美琴からの動画は狗音を汗ばませた。
「ミコったら」
お仕置きは、ミコだけにしか許さないから。
#
「遅かったね」
帰りを待ちくたびれた弟の声。心配する気もないなら、そんな言葉はいらない。
ただ、美琴なら受けてあげるから。甘い牙とともに。
おしまい。
2012-11-03T20:09:28+09:00
1351940968
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バイクとメガネ
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1147.html
**バイクとメガネ
涙の顔を愛車に見られるのが嫌だった。
ちょっと悔しかっただけだし、そんな顔は拭い去ればいいこと。
でも、愛車がそんな顔を見ちゃったら、どう思うかな……。関係ないよね。わたしの相棒だもの。
ミナは無理に笑ってみせて、自分の潤んだ瞳を誰かに認めさせたくなかった。
「わたし、泣いてなんかない」
ぐすりと、しゃっくり。
ぐすんと、鼻をすする。
泣いてなんかない。
本当か、その言葉。
ミナは耐え切れず、ヘルメットを被り、ミラーで自分の顔を見ながら息を吸い、愛車に跨ってエンジンを噴かす。
エンジンをかけると、下半身にリズムよい単気筒の鼓動が響き、小さな旅へと誘う約束をしてくれた。
そうだ。
そうなんだ。
気分も晴れるかもと、バイクに乗って風切ってみた。相棒との息遣いをタンクを通じて感じているうちに、
自分が悔しがっていたことが、なんだかくだらなくなってきた。まるで鉄の馬が生身のミナに語りかけてくるように。
気が付くとミナは、たいせつな男友達が勤めるとある学園のグランド脇にたどり着いていた。
ゆっくりとバイクを止めて、ネット越しにグランドを眺める。時間は放課後、たいせつな男友達も暇を持て余しているはず。
エンジンを切ると、余計に周りの声がヘルメットを伝って際立ってくる。
「……」
市電を追い抜いたときは、爽快だったのに。
「……やだ」
銀杏並木を潜り抜けたときは、ほっとしたのに。
「誰かに見られたら、どうしようかな」
曲がりくねった丘を一気に登ったときには、なにもかも景色とともに吹っ飛んでしまったのに。
ミラーはバカ正直だ。嘘つくぐらいの気を効かせろ。シートに跨がっていると、嫌でも今現在のミナの顔を写す。
きっかけは些細なことなんだから、それを忘れさせてくれるだけの清々しい景色を見せてくれるだけでいいのに、
ミラーがよけいな慰めをしてくれるから、思い出して目頭がついつい熱くなる。
遠くで生徒たちが、清く正しい学園生活を送る声が響き、ミナの胸に突き刺さる。
陸上部だろうか、短距離の走り込みを繰り返しは休み、繰り返しは休みと、まるで自分の体を虐めぬくことを楽しむかのよう。
寒いのによく頑張るなあと、ミナは風に晒されながら、彼らの練習する姿をじっと見ていた。
そのなかで、抜きん出て足の速い子がいた。小さな顔に、しゅっとした体が引き締まる。遠くからでも見栄えのする毛並みで、
彼はどうやらネコ科の者だと分かる。もしかして、ミナの知っている子かもしれない……。そんな思いがふつふつと沸いてきた。
「ゼンー!タイムまた縮まったなあ」
「はははっ。ごめんよ!」
そいつはチーターだ。
足の速いチーターだ。
チーター?見覚えがあるかも。
そんなヤツが陸上競技に血をたぎらせていた。
ヤツの姿はなんだか、気持ちがいい。
ミナがバイクに乗ってひとっ走りすれば気分が晴れるように、彼がトラックをひとっ走りする姿を見ればミナも気分が晴れる。
不思議なことだ。自分が走っているわけではないのに、彼が自分の気持ちを分かってくれているようで。
「清志郎くんだ」
以前、出会ったことがある。もしかして、彼はそのことを忘れているかもしれないけれど、自分ははっきりと覚えている。
確か彼には思いを寄せる子が居たんだっけ。素直すぎて、正直すぎて、その恋に引きずられて……そして、河原でこっそりと
彼の想いを聞かせてもらったのは内緒の話。彼の名は水前寺清志郎、チーターの陸上部。特異種目はもちろん短距離。
「ちょっと、りんごちゃん家まで40秒で走ってみせるぜ!」
「無理無理」
「お前ら、水前寺清志郎を見くびるなよ!」
イヤミのない明るい声は、陸上部のムードメーカーだ。清志郎が笑えば、みな笑う。
仲間に囲まれた清志郎は明らかに幸せ者だった。
清志郎の純粋さは、ミナをくすぐり、ちょっと笑える気になってきた。ヘルメットを脱いで、タンクの上に置くと
ミナは袈裟懸けしていたバッグからメガネを取り出した。度の入っていない、伊達メガネ。赤いアンダーフレームが、ミナの白い
毛並みに良く似合う。普段かけることのない伊達メガネ。初めてかけてみると、まるで自分が自分でないように思えてくる。
「ゼン、どうした?」
「いや……。また、ぼくは誰かの心を燃え上がらせてしまったようだ。罰を受けなければならない」
不穏な動きをミナは受け取った。明らかに彼らはミナの方を見て、何か話をしているのだから。
清志郎がアキレス腱を伸ばし、軽くアップをしている様子も伺える。
「罰ってなんだよー」
「鉄の馬に勝利するまで、走り続けることさ!」
ダッシュをかました清志郎は、仲間たちから離れ、グランドから離れ、ミナが走ってきた公道へと飛び出してきた。
チーターの脚は思ったより速い。目で追っているうちに、清志郎の瞳に焔立つのが見えるまでに近づいていた。ミナは慌てて
ヘルメットを被り、エンジンをかけようとキーを回そうとした。軽く走らせて、清志郎を巻いてしまおうと思ったのだ。
だが、焦るときほど思うようにいかない。セルモーターの音がしたかと思えば、クラッチを繋ぐのに失敗してエンストしてしまった。
「あれ……。ちょっと、やばっ」
再びキーを回すも、背後から清志郎の気配が近づいて、上手くエンジンがかかってくれない。
そのうち、清志郎はぴったりと足音をさせずにミナの真横に現れた。素足だ。道理で足音がしないはず。
「杉本ミナさんですね!」
「……聞き覚えのある声だなー」
「ぼくも見覚えのある姿だと思いまして!」
清志郎はミナのバイクの後部シートに手を置いて、陰のある男のポーズを決めてみたもの、ミナは振り向くことはなかった。
後姿のままミナは清志郎との会話を続けていた。自分の今の顔なんて、彼には見せたくないもの。たとえ、メガネで隠していても。
「ミナさんがイヌになれと命じれば、ぼくはイヌにだってなります」
「じゃあ、イヌになれっ」
「わんわん!」
真剣な眼差しの清志郎と一刻も早く涙を脱ぎたいミナの目がミラーを通じて合ってしまった。ミナは涙の理由をバイクの風が
目に染みたからと、子どもじみた言い訳をしたくなったが、あまりにも清志郎の気持ちにねじ伏され、その気を失せてしまった。
だから、ミラーはバカ正直なんだから。
ミナはヘルメットを脱いで、自分の顔が写っていたミラーにかけて写る顔を隠した。
おしまい。
2012-11-03T20:07:54+09:00
1351940874
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金曜日のネコたちへ
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1146.html
**金曜日のネコたちへ
白い毛並みの猫がいる。
彼女は玄関の鍵を開け、部屋に入る。
「ただいま」とは言わない。「お帰り」ってこだまが期待できない以上、言うだけ虚しい。
バッグをソファに放り、賃貸マンションを選ぶ際にちょっと重視したバスルームに入る。
セーターを脱ぎスカートを降ろし下着を外す。
押し付けられていた毛並みがくたびれている。
白い猫は鏡に写るくたびれに眉をひそめ、くしゅくしゅ、と撫でて掻き混ぜてみる。
直らない毛並みに、ふぅ、とため息をつき、タオルを持って洗い場に入る。
シャワーを浴びて、ちょっと良いシャンプーで全身を洗う。
ちょっと重視したバスルームなのに、浴槽に湯を張るのが億劫でもっぱらシャワーしか活動していない。
濡れそぼった毛並みの下にはそれなりに魅力的な曲線と隆起が見られるが、それを見せつけて誘惑するべき殿方は今の所彼女にはいない。
寝間着に着替えたらすぐさま冷蔵庫から麦酒を取り出す。
ぷしゅっ、シュワー。
くっくっくっくっ……。喉がシアワセの音を奏でる。
「あー、しあわせ」
ただいまは言わないのに麦酒に対する感想は口から零れる。
習慣が家や家族から遠ざかり酒に近づいている証拠のようでもあるが、今の所注意してくれる人はいない。
カレンダーを見る。
2011年11月11日。時刻は既に22時を回っている。
彼女はふと思う。
──2011年11月11日11時11分11秒、私は何をしてたっけ。
稀に見るポッキー日和にいったい自分は何をしていたのかしらと考えてみれば、当然の答えが閃く。
──間違いなく仕事だなぁ。
味も素っ気もない答え。
ルーティンに囚われざるを得ない社会人には仕方のないこととは言え、彼女は無味乾燥な自分の日々が少し恨めしくなる。
金曜日のその時間だと、たぶん保健室でコーヒーをいれてたりしたに違いない、と彼女は考える。
──そうして、初等部の体育があって……そうだ、クロが、転んで膝を擦りむいたコレッタを連れてきたっけ。
保健委員がやたらに包帯を巻いて、コレッタはまだしもクロまでまきこんで包帯の繭にしたのが、ちょうどそのころ。
「ぷ」と吹き出し、「あははは」と、白い毛並みの猫は笑う。
子供達との賑やかな日々が、単なるルーティンで済むはずがない。
何処までも続くルーティンに眩んで、ディティールを忘れていたのだ。
残ったビールを飲み干し、洗面所で口を濯いで、特注の猫ベッドに丸まる。
「おやすみなさい」
返事はないけど、月曜日に会う子供達に夜の挨拶をし、彼女は眠りについた。
おわり
2012-11-03T20:06:17+09:00
1351940777
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エリア51
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1145.html
**エリア51
リオ「ババ……シロ先生はエリア51って漫画知ってますか」
シロ「おい今なんて言いかけた」
リオ「バステト(猫女神)とワーウルフ(人狼)が恋する話しがあるんですよ」
ヒカル「……」(ぴくっ)
ハセヤン「……」(どきっ)
シロ「おい質問を流すな。なんて言いかけたんだ」
ハセヤン「シロ先生!生徒が必死に!教師である貴女に!伝えたいことがあって喋っているんです!」
シロ「え、えぇ…?いやあの……」
ハセヤン「しっ!黙ってきく!」
シロ「は、はい」
リオ「バステトは父親であるラーに反対されながら、下級モンスターのワーウルフと恋におち、子供までつくってしまいます」
ハセヤン「ま……」(ぽっ)
シロ「人と猫と犬だなんてとんだミックスだな」
ヒカル「……先生、フィクションにそういう批判は野暮…です」
シロ「わぁい何言っても反駁くらうわぁ」
リオ「ま、最後はワーウルフが死んでバステトも死んで子供だけ残っちゃうバッドエンドなんですけどね」
ハセヤン「シロ先生、私その子がババアと言うの聞きました」
ヒカル「ええ、確かに聞きました。ぼくも証言します」
リオ「?!」
シロ「やっぱり因幡、薬品掛けても大丈夫!!」(毛が白いから脱色してもわかりにくい)
ヒカル「いや…それはダメですよ。ドクハラでパワハラです」
シロ「いやこれは体罰ではなく……き、教育的指導?」
ハセヤン「れっきとした体罰ですよ!振り上げたオキシドールを降ろしてください」
シロ「……」(ちゃぽん)
リオ「(やった、なんかわからないけど助けられた)」
ハセヤン「悪口を言うことくらい、担任に言って内申書に書いてもらえばいいんです」
シロ「うん、たまには正式な処罰をくだすか」
リオ「ぎゃふーん」
2012-11-03T20:03:07+09:00
1351940587
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われら三銃士
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1144.html
**われら三銃士
帆崎「われら!三銃士!」
跳月「え?ぼくもですか」
帆崎「あと一人は…白先生!」
白「え?わたしが?はは…男装の麗人か。悪くないな」
リオ「白先生にぴったりですよ。だって『さんじゅうし』だなんてリアリティありすぎるよ」
白「ひらがなで書くな!」
帆崎「どういう意味ですか」
白「聞くな!」
跳月「どういう意味ですか」
白「……」
リオ「えっと、はづきちに説明するよ。女一人身・三十四近くになると…きゃー!!」
え?白先生って、幾つ…だなんて言いませんよ。
2012-11-03T20:01:15+09:00
1351940475
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ヒカルとバイク乗り
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1143.html
**ヒカルとバイク乗り
仕事をサボった杉本ミナは、愛車に跨り街並みと街並みを風切って走っていた。
「お父さん、お母さん。ちょっと悪い子に育ててくれてありがとう」
Tシャツが涼しかった頃が懐かしい。懐かしいとは大げさかもしれないが、季節の移り変わりだから仕方が無い。
「ミナはこれから、仕事を……忘れに行きます」
仕事はバイク屋、自宅もバイク屋。家に居ても仕事と離れられる環境ではないので、要は家からちょっと離れたかっただけだ。
気まぐれな性格なもので、空が青かったからと父親に言い残し小さな旅の支度をする。ネコだから、ふらっと出たって不思議ではない。
ネコの家だからお互いのことは干渉せず、父親もミナの気まぐれをさほど気にはしていなかった。
自分と同い年ぐらいの者たちは今頃仕事に汗流している時間だというのに、自分だけの時間を築いて風で吹き飛ばすのは快い。
大通りは昼間だから閑散として走りやすかった。通りの中央を走る市電も運転士と僅かな客を乗せているだけで、モーターの音が
街の隙間に響き渡る。嫉妬をしたのかミナはスロットルを廻し、意味もなくヒマそうな市電と競争をしてしまった。
市電の方がミナの跨るエストレヤより随分と年上なのに、胸を貸すようにミナを先へと譲る。
品性正し過ぎる大通りに飽きて、ちょっと捻くれた脇道に入ると望みどおりの手ごたえを感じる。左手に丘を見ながら曲がり道も多く、
未だコンクリートで固められた道を走り続けると、学生たちが下校している姿がちらほらと見えてきた。この辺は学校が近い。
制服ではなく、ジャージや体操着のまま下校している生徒がちらほらといた。紅白の鉢巻を通学カバンにくくりつけている女子もいる。
「そっかあ。もう、そんな季節なんだ」
彼らに気をつけながらスピードを緩めると、見飛ばしていたものが見えてきた。さらにブレーキを握り、クラッチを切る。
街中ながら曲がり道が多い丘陵地域、耳を突き抜けるエンジンの音がミナの気持ちを高ぶらせ、学生時代を思い起こさせていた。
自由との引き換えに財力を。でも、財力は新たなる自由を生み出すことも出来る。バイクのおかげで。
「あれ?ヒカルくん?」
顔見知りのイヌの少年が、自転車を脇に止めてしゃがみこんでいた。ペダルを乗ってくるくると廻すも、後輪は空回りをしている。
カチカチという刻むような音だけがヒカルをせせら笑うように鳴り続けていた。自転車のチェーンが外れるなんてよくあることだ。
だけど、思いもしないときに出会うのはちょっと勘弁して欲しい。
あまりいじくると自分の白い毛並みが汚れてしまう。お年頃の男子は過剰なぐらいに毛並みの汚れを気にする。
「外れちゃった?もしかして」
「あ。杉本……ミナさん?」
「いかにもー。杉本ミナでーす」
バイクに跨ったミナから話しかけられたヒカルはペダルを廻す手を止めて、イヌ耳を彼女のほうに向けた。
ヒカルはそんなに表情を表に出さない子だ。逆を言えば、気を許した相手にだけ表情を露にする。
ミナはヒカルの気持ちが分かっていた。
ミナはバイク屋の娘だ。
機械いじりなど、生まれたときから見続けていた。ヒカルを困らせる事態なんて、ミナにとっては見飽きたもの。
うずうずとライディンググローブからネコの爪が突き抜けそうであり、ミナはとてもじゃないが我慢出来ない。
「わたしに直させてくれるかな」
「……え?」
ヘルメットを脱ぐと金色の髪がふわりと襟首に広がる。バイクに跨って居たときとは違う表情だ。ミラーにヘルメットをかけて、
エンジンを止めるとヒカルと一緒に自転車の横にしゃがみこんだ。仕事に向かう顔は獲物を追う姿に似ていた。
「どのくらい乗ってる?」
「結構……」
「へえ」
変速つきのシティサイクル。チェーンはカバーで覆われている。とりあえず、ミナはバイクのシートを外して車載工具を取り出した。
シートが外れる光景にヒカルはちょっと意外そうな顔をして、ライディンググローブを外して本気になったミナの腕を見守ることにした。
このお年頃の男子には堪らないメカ。ヒカルも例外ではない。鋼がかみ合う曲線美、吸い込まれるのではないのかと錯覚する
マフラーの光り具合、良い旅へと誘うシート。そして頼もしく唸るエンジン。ヒカルは自分の自転車とミナのバイクをちらと見比べた。
男性の野性味あふれるマシンのメーカーだというのに、ミナのバイクは女性らしい優しさと勇敢さがヒカルを揺すぶらせる。
ふと、ヒカルは考えた。
自分もバイクに乗ることが出来たなら、自分と想い人それぞれのバイクに乗って、いっしょにそれぞれの風を感じてたい、と。
二人いっしょに海岸沿いの道を走る。エンジンむき出しのネイキッドだが、粗暴さはない優等生の黒いバイクにヒカルは跨る。
教習所で初めて乗ったマシンと同じ型、四気筒のエンジンが揺れ動くのが体全体でひしひしと伝わってくる。
ヒカルは自分のバイクの音を確かめて、後から続く想い人が付いてくるのを耳で感じる。ヒカルの無垢な尻尾が潮風になびいて、
彼女も必死に追いかける。スロットルを緩めカーブミラーの側でバイクを止めて見上げると、ミナと同じ型のバイクで彼女が
だんだんと近づくのがミラーに写っていた。ぎこちないブレーキ裁きで彼女は走り足りないバイクを落ち着かせ足を着く。
彼女のレトロ調のマシンは、隅々まで磨かれて主の几帳面さを体現していた。
「こらー。ヒカルくん、速いぞ」
「……」
「250と400じゃあ、しょうがないよね。でも、ヒカルくんの後姿を見ていたいから、先生ずっと付いていってあげるよ」
ヒカルが想うのは先生ではなく一人の女の子だ。確かに250ccのバイクに跨っているのは、教壇で現代文を教えている先生だ。
でも、今はそんなことを吹き飛ばしてもいいじゃないか。ヒカルは黒いヘルメットを脱ぐと、自分の顔が写りこむほど磨かれた
グラマラスなボディ自慢な黒いタンクの上に置いて、肌寒くなった潮風の恩恵をイヌ耳で受ける。風の音を改めて聞きなおす。
一方、彼女はライディンググローブを外し、ヒカルと同じようにヘルメットを脱ぐと同じ潮風にショートの髪がなびく。
彼女はネコだ。ネコ故に不安になるとちょこっと爪を伸ばしてしまい、がりがりがりとタンクに爪立てる。その姿は子ネコ。
彼女が懸命になる姿を見ていると、先生を好きになってよかったのか悪かったのかがヒカルには判断が付かなかった。
バイクから降りて彼女の方へ近づいてと「だめっ?」と軽く胸にネコパンチをお見舞いされた。
「いつか、わたしもヒカルくんみたいに乗ってみせるんだ」と、バイクのミラーで崩れた髪形を整えて白い毛並みを自慢する。
冗談めいてヒカルは子供のようなオトナをからかうと「女の子なめんなよー」と照れながらお返しを頂いた。
お互い尻尾の付け根に結んだ色違いのバンダナ。ヒカルは水色、彼女は桃色。後姿でも分かるようにと、彼女が提案したものだ。
初めは「恥ずかしいですよ」と拒んだもの、彼女が無邪気に見せびらかすので付けてもらったものだ。だからお返しに付け返した。
誰も知った顔がいない田舎道。エンジンの音を止めると波の音しか聞こえてこないような田舎道。
「先生」
「先生じゃないよっ」
「ごめんなさい」
「えへへ。ヒカルくんは相変わらずだね」
バイクのタンクの上に折り重ねてあったライディンググローブがぽとりと落ちると、ヒカルはそっと拾い上げて我に返る。
ヒカルの目の前には、先生なんかいなかった。海岸沿いでもなかった。そして、自分が乗りこなしていたのはバイクでなく自転車。
「ヒカルくんは好きな子とかいるのかな」
「……えっと」
「好きな子とタンデムとかしちゃう?でも、ヒカルくんは一人で走るのが好きそうだからなあ」
ミナは着々と修理の準備に取り掛かりながら、器用にヒカルをおもちゃにした。
「『鉄の馬』って言いえて妙だよね。コイツと一心同体で海岸沿いを走ってるときなんて、ホントコイツったら嬉しそうだよ」
「……うん」
ヒカルがタンクに手を置くと、ミナは「撫でてもらってよかったな」というような顔をしてヒカルをからかった。
「そういえば、今度ぼくも……」と言いかけるとミナは再び真剣に自転車の修理へと取り掛かった。
ラジオペンチで器用にカバーが外されてゆく。さほど時間はかからない。露になった自転車のチェーン。左手で後輪の歯車に
チェーンを掛け直し、右手でペダル側の歯車にチェーンを引っ掛ける。外れないように抑えながらペダルをゆっくり廻すと自転車が
息吹を吹き返してきた。ペダルを廻しても十分な手ごたえがあるのだ。全てを終えたのにはさほど時間はかからない。
「もしかしてチェーンが緩んでいるかもしれないから、今度はお店で見てもらったほうがいいよ」
「あ、ありがとうございます。あの……」
「御代はいらない!頂くならヒカルくんの出世払いでね!それか、ヒカルくんが騎馬戦でいいところを見せてくれる。か、だね」
ぱんぱんっと手を叩くミナの毛並みは油で汚れていた。
ヒカルもミナの一言でほっとしていた顔が驚きに変わった。
「びっくりした?カンが当たったね。『そういえば、今度ぼくも』ってヒカルくんが言うから、何かに乗るのかなあって。
ここに来る途中、体操着姿の子たちを見つけたから多分体育祭で乗るって言ったら、騎馬戦しかないよねーって。ね」
「……はい」
「ちゃんと、聞いてるよっ。女の子なめんなよー」
ヒカルはミナに年齢の差をさほど感じなくなってしまったことに驚いた。
「ヒカルくんのきれいな毛並みを汚しちゃいけないから」と、ミナは平気な顔をして言う。
「ヒカルくんが砂埃に塗れながら闘ってるのもいいな」とも、ミナは平気な顔をして言う。
ヒカルは近づく体育祭のことを考えながら、そしてミナの方を振り向きながら、尻尾をなびかせ自転車に乗って去っていった。
「ホントは仕事サボりに出かけてたのになあ。わたしのばかばか」
ミラーにかけたヘルメットを被ろうと手を伸ばしたが、自分の手のひらを見てそっと引っ込めた。
おしまい。
2012-11-03T19:59:13+09:00
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