※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

二勝一敗


前回の件のせいで、数日間老狐と顔を合わせていなかったのだが、昨日の夜、老狐がやってきて、今回こそ詫びをすると言ってきたのだ。
もう騙されないと追い返そうとしたのだが、そこで取り出してきたのが例の幻の酒。
「今回は中身ごと手に入ったのでな。」
老狐が蓋をあけると、確かに極上の酒のにおいがした。これは本物だ!
それに蓋をしてから、「飲みたければ、夜に我が家へ来てくれ。」と言って老狐は帰っていった。

酒の誘惑に負けて、疑心暗鬼ではありながら老狐の家へと向かと、そこには確かにとても旨そうな料理の山と、例の酒が待っていた。
「ずいぶんと、からかいすぎたものだと反省してな。これで水に流してくれんか。」
今日の老狐はずいぶんと素直に思えた。
その姿勢に不安を覚えて、食べるものに毒でも入っていないか、酒は偽者じゃないかと考えたのだが、料理も酒も上等のもので、何も心配はいらなかったようだ。
「これだけのもてなしをしてくれるんだから、本当に反省してくれているんだろうって分かったよ。水に流そう。」
「そうか、そう言ってもらうと安心した。さあ、飲んでくれ。」
旨い料理と酒を堪能し、楽しい時間は過ぎていった。

ずいぶんと遅くまで飲んでいたので、そろそろ帰ろうかとしたとき、老狐が包みを取り出した。
「もう、帰るのかね。では土産を持っていってくれ。」
「それは受け取れない。これだけのもてなしをしてもらって、土産までもらうなんて申し訳なさすぎる。」
「まあ、そう言わずに。この料理は痛みやすいものなので、家に帰ってから食べるようにしてくれんか。」
と、お重を風呂敷で包んだ、包みを持たされた。
「帰りの明かりは要るかね?」
軒先まで出たときに老狐が聞いてきたが、今夜は満月なので明かりは要らなそうだった。
「いや、十分な明かりだから大丈夫だよ。今夜は楽しかった。」
別れを告げて家路に向かった。

料理と酒の味を思い出し、老狐も反省したのだなと感心しながら家路へ歩いていくと、田んぼのあぜ道に誰かが立っているのが見えた。
物盗りかと危ぶんだが、それはどうやら女性のようだった。
「すいません、通りがかりの方、助けてくださいませんか。」
走り寄ってきた女性は川獺(カワウソ)で、狸の自分から見てもかなりの美人だった。
「そこの水路に、財布を落としてしまったのです。取りたいのですが女性の身ゆえ、ここに降りられません。変わりに、私の財布を取ってきてもらえませんか。お願いします。」
本来なら不自然さを感じるところだが、酒に酔っているせいもあり、簡単に引き受けてしまった。

もらった包みを地面に置き、水路へと降りる。水路は自分の背丈と同じくらいの深さなので、確かに女性では降りられないだろう。
水路の下を月明かりで探すが、いくら見ても財布など見当たらなかった。
「どこらへんで落としたのかね? 川獺のお嬢さん?」
水路の底から呼びかけてみたが、返事が無い。
「お嬢さん?」
怪しんで水路から道を見上げると、そこには誰もいなかった。
それどころか、せっかくもらった包みが無くなっていたのだった。
「しまった! やっぱり、物盗りだったんだ!!!」
自分が騙されたことに気づいたが後の祭り。仕方なくトボトボと家路に帰った。


街で”一仕事”した後での帰り道、盗人の川獺は新しい”カモ”を見つけた。
それは、少々大きな荷物を持った酔っ払いの狸だ。奪うのは簡単だろうが、走ってそいつから逃げるのも面倒だ。
しばらく考えて、嘘の落し物によって、持っている荷物から引き離し、その隙に奪うことにした。
案の定、狸はありもしない財布を捜すために水路に下りてくれた。
荷物を拾い上げると、さっと藪の中に消え、得意げに住処へと向かった。

家に帰り、さっそく荷物を広げると、それは1つのお重だった。
「なんだ、金目のものかと思ったら喰いもんか。中身は入ってるようだな・・・」
中には、いくつかのヨモギ団子が入っていた。
「ちっ、もう少し豪勢なものが良かったのに・・・」
愚痴を言いながら、川獺はその1つを何気なく口に入れた。


老狐は家で、うきうきしながら狸が来るのを待っていた。
怒鳴り込んでくる狸に対して、いったいどんな言い訳をしようか・・・
今から楽しみでしょうがなかった。
「・・・爺さん、いるかい・・・」
ところが、予想に反して、狸はひどく沈んだ様子でやってきたのだった。
「聞いてくれよ。昨日の夜のことなんだが、せっかくもらった土産を、物盗りに取られてしまったんだ。」
「なんだって!?」
老狐はひどく驚いたようだった。
「自分の無用心のせいなんだ。せっかく土産をくれたのに済まなかった。」
「・・・あ、いや・・・ああ、無事で済んでよかった。土産のことは気にせんでくれ。」
狸を慰めて帰らせると、ふうと溜息をついた。
「なんてことだ。せっかくの宴会が、すべて無駄になってしまった。」
久しぶりの失敗に、老狐はがっかりしてこういった。

「・・・それに、作るのが大変だったんだがなぁ。あのワサビ団子。」




関連:老狐  川獺