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穴があったら


「ふう、こんな物かな」
「終わったか」

とある昼下がり、機械の箱へ最後のケーブルを繋ぎ、俺と親父はようやく一息付いた。
我が家に到着したオークションで落札したPCの、しち面倒臭いセッティングをようやく終わらせた後の事である。
生来からの面倒臭がりである親父にとって、この作業は相当に疲れる物だったのだろう、
親父は作業が終わった事に尻尾を振るのも忘れ、今はただ尻尾を垂らしてぐったりとしている。

ああ、やっぱりPCのセッティングと言うのは面倒なもんだ。
こうなったのも全て、俺のPCを使っていた親父がうっかりPCへコーヒーをこぼしたのが悪いんだ。
しかし、一体何を如何すればコーヒーをパソコンの本体へ直接ぶちまけて、更に炎上するような事態に陥るんだ?
それに至った事情を聞いても、親父は耳を伏せるだけで何も答えてくれないし……。

――まあ、今は過ぎた事をとやかく言ったって何も始まらないか。
一応、データのバックアップをUSBメモリに何時も残しているお陰で、データ上は対した被害もなかった訳だし。
それにPCを壊した親父が新しいPCの代金を全面負担した上に、セッティングも手伝わせたんだからここは良いとしよう。

「……あれ? そう言えば義母さんは?」
「……」

ふと、俺は途中までセッティングを手伝っていた義母さんが居ない事に気付き、親父と一緒にその姿を探す。
今は外が雨だから、洗濯物を取りに行ったという訳でもないし。かといって夕飯の支度にしては早すぎる。
しかし、トイレに行ったにしても、義母さんはトイレに行く際は必ず一言言ってから行くからそれもあり得ない。
無論、買い物しに行ったにしても、あの義母さんが何の一言も無くセッティングを放り出して行くなんてそれこそあり得ない話だ。
……ならば、義母さんは一体何処に行ったのだろうか? 

「……」
「んお? 親父、如何したんだよ?」

義母さんの行方について独り考えていた所で、つんつん、と親父に背中をつつかれ、俺は何気に振り返る。
親父は俺の問いに答える代わりに、ある方向を静かに指差した。

「……なるほど、そりゃ探しても見つからん訳だ」
「…………」

呆れ混じりに漏らす俺の視線の先には、
PCの入っていた大きなダンボール箱の中で子ネコの様に身体を丸め、気持ちよさそうに寝息を立てる義母さんの姿。
恐らく、義母さんはダンボール箱を見ている内に、ネコ科のケモノが持つ、狭い所を好む本能に逆らえなくなったんだろうな。
何となく、義母さんの気持ちも分かるような気がする。あのダンボール箱、確かに俺も入ってみたいと思ってしまった位だし。

「取り合えず、義母さんが起きるまで、このままそっとしておくか…?」
「……」

俺の案に同意したのか、こくりと頷く親父。
そして、俺と親父は足音を立てぬ様に、そっと部屋を後にする。
後に残されたのは、ダンボール箱の中ですぴょすぴょと幸せそうな顔で眠る義母さんの姿。

……尚、義母さんはダンボールの中が余程心地よかったのか、夕飯の直前まで目覚める事が無く。
結局、この日の夕飯は店屋物を取る事になったのは、もはや言うまでも無いだろう。

―――――――――――――――――――終われ―――――――――――――――――――