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月夜の浜辺で~二日目の夜


 

 

林間学校二日目の深夜。

前日の枕投げバトルロワイヤルの疲れもあり、男子生徒たちは全員が寝静まっていた。
部屋は静まり返っている、とは言い難い大いびきが響いているのだが、それで目を覚ます者はいない。
二日目の夜は、このまま平和に朝を迎えるものと思われた。

「ぐふぅ!!」

そんな平和は突如として乱される。声を上げた彼は、哀れな被害者だった。


腹部への強烈な衝撃によって、少年は深い眠りから急激に覚醒させられてしまった。
ぼやける視界で腹に乗った異物を確認する。それはずっしりと重く、ゴツゴツと硬い質感の円錐形。
円錐の根本をたどると、大音量のいびきを立てる友人の背中に繋がっていた。

「お前………」

彼らの太く長く、そして重い尻尾は危険だ。
だからリザードマンの二人には、寝返りをうっても周囲に被害が及ばない位置まで離れてもらったはずなのだが。
その一人、竜崎利里の素晴らしい寝像により、彼は見事遠くで眠る親友、御堂卓の隣までたどり着いたのだった。

腹に乗るのが血の繋がらない可愛い妹とかならまだしも、
硬い尻尾のボディーブローで叩き起こされるなんて最悪の目覚めにも程がある。
こいつも叩き起こしてやろうかと卓は起き上ったが、すぐに上げた手を下ろした。

付き合いの長い彼は知っていた。利里が夜の眠りに入ったが最後、生半可なことでは決して起きない。
耳元で大声を出しても起きないし、叩けばこっちの手が痛いだけだ。時間と日光に反応して起きるのだ。

とは言え、叩き起こす手段はあるにはあるのだが…
やめておこう。利里に悪気はないのだから。

布団から立ち上がった。すっかり目が冴えてしまって、すぐには眠れそうにない。
携帯の時計は深夜1時30分を示していた。教師が見回りに来るのは確か2時半頃だったか。
危機回避に定評のある来栖による信頼できる情報だ。
襖を少し開いて周囲を警戒する。夜行性の猫先生たちやそら先生に注意。
廊下に人影がないことを確認して、部屋を抜け出そうとした、そのとき。

ボスン!

背後の音に慌てて振り向くと、利里が今まで卓の寝ていた布団を占拠、隣に寝ていた来栖に尻尾アタックを放っていた。
尻尾は来栖の頭があった位置。だが幸いにも来栖の頭はその下方、尻尾は角をかすめて空の枕に落ちていた。
さすが危機回避に定評のある男。あいつなら平気だろう。たぶん。

利里の相手は来栖に任せて、そろりと部屋から抜け出した。


寝静まった真夜中の旅館。窓からの月明かりがぼんやりと足元を照らす、海岸に面した廊下を歩く。
静寂の中で、自分の足音と遠くの波音だけが聞こえてくる。

バサッ

ふと、別の音に気付く。波音に混じり小さく断続的に聞こえてくる音。
外を覗くと、月明かりに照らされて海岸の上空を舞う影を見つけた。

それが何かはすぐに判断できた。馴染み深い羽音。独特のシルエット。風に舞うポニーテール。
海岸へと降下していく影、あれは朱美だ。

あいつ、こんな夜中に何してるんだ。
深夜徘徊、それも旅館の外に出ているとなれば、見つかったら注意だけじゃすまないぞ。反省文書かされるぞ。
今は1時40分、2時半には部屋に戻っていないとまずいんだぞ。わかってるのかあいつ?

少し考えた後で、音を立てぬように窓を開けた。周囲に特に注意を払って、窓枠を乗り越える。
冷たい地面に足が触れる。幸い地面は整備されていて、海岸まで人間の素足でも問題ない。
もう一度注意深く周囲を見回してから、朱美が降りたであろう方向へ歩いて行った。


月が明るいこともあり、朱美の姿は案外すぐに見つかった。
砂浜の外れに生えた一本松。横に長く伸びた枝に、海岸を向いて逆さまにぶら下がっている。
ふと芽生えた悪戯心。足音を忍ばせてある程度まで近づき、その背中に声をぶつけた。

「そこの非行少女!」

ビクッ、と、その背中が大きく揺らぐ。恐る、恐る、声の元へ顔を向ける。
その主を確認して、朱美はホッと息を吐いた。

「なーんだ、ビックリしたー。こんな夜中に何してんのよ」
「そりゃこっちのセリフだ」

やれやれと肩を竦めて、朱美の隣へと歩いていく。
松の根本に寄り掛かると、同じ顔の高さになった。

「お前が飛んでるのが見えたからな」
「やだー、こんな夜中にあたしに会いに来るなんて卓君ってばダイタンなんだからー」
「注意!しに来たんだよ! 深夜徘徊。見つかったら反省文書かされるぞ」
「それは卓君だって同じじゃん。いーけないんだー非行少年ー」
「ばれなきゃ平気だ。お前は飛んでる分目立つんだよ」
「ダーイジョブだってー」

ふぅ、と息を吐いて、改めて話題を振った。

「で?お前はなんでこんな時間にこんなとこにいるんだ?」
「ん……ちょっとね」
「ちょっとじゃわからん」
「えっと…ねぇ…」

朱美は言いにくそうにツンツンと指先を付き合わせる。

「まぁ言いたくないなら…」

「お父さんのこと…思い出してたんだ」

「………」

しまった、と、密かに思った。顔には出さなかったが。
朱美の父親。朱美と同じ蝙蝠人だった。詳しい事情は知らないが、朱美がまだ小学生の頃に…

「…ごめん」
「何で謝るのよ」
「野暮なこと聞いた。ごめん」
「あたしが勝手に言ったんだから卓君が気にすることないわよ」

トーンが下がる卓とは対称的に、あっけらかんとした様子で、それにね、と朱美が続ける。

「あたしもちゃんと思い出したのはほんの30分前なの」
「え…どういうことだ?」
「この海岸」

朱美が海岸を広く眺める。つられて顔を向ける。

「昨日着いたときから、前にも来たことあるなって感じてたんだけど思い出せなくてさ。
ずっともやもやしてて、ついさっき思い出したの」

朱美が簡単に過去を語る。

あたしが卓君と利里君に会うよりももっと小さいころ。
親戚の子たちはもう自由に飛びまわってるのに、自分はまだ上手に飛べなくて。
お母さんはまだ小さいんだから無理しちゃダメって言うんだけど、悔しくて。
見かねたお父さんが夜に内緒で特訓してくれたんだ。

「自分の力だけで海まで飛んで来れたときは嬉しかったなぁ」
「それがこの海岸?」
「そういうこと」

今夜みたいに月の明るい夜で、並んでぶら下がってた。
何を話したかまでは忘れちゃった。でもね…

「ナデナデしてくれた手のことはよく覚えてるんだ」
「そっか…」

朱美は眼を閉じた。
肌に感じる潮風。静かな波の音が、幼い日の感覚を呼び起こす。
頭に触れる手の感触。その温かさ、確かな優しさが伝わってくる。

「よく頑張ったな、朱美」

うん。ありがとう、お父さん…


「………」

「よっ」
「…何してんのよ」
「いやこんな感じかなって」

眼を開けた朱美が隣に見たのは、父ではなく、卓だった。
朱美の隣で逆さまにぶら下がった卓。

明らかに無理に手を伸ばしている卓の姿を見て、朱美から自然と笑みが零れた。

「ふふっ。お父さんはそんなにちっちゃくないよ」
「無茶ゆーな。そんな足で掴まるなんて芸当できるか」

手を引いてその置き場所を思案した結果、頭の後ろで組むことにした。

「まあその、あれだ。お父さんの替わりにはなれないけど…。
俺も、利里も、クラスの皆も先生たちもいる。ずっといるから…さ…
朱美は寂しい顔…しないでくれよ」

気恥しくなり、そっぽを向きながら言う。我ながらくさい台詞だ。
朱美は少し驚いた顔を見せた後、クスリと笑って言う。

「なーに言ってんの、今更寂しいことなんかいないわよ。
もう五年以上も前の話よ。ちょっぴり昔を思い出してただけ」

「…そうか?」

不安に振り向くと、ニッコリと笑う朱美。

「でも卓君の気持ちは嬉しかったよ。ありがとう!」
「お、おう」

朱美が見せた満面の笑顔で、不意に高まってしまった鼓動を抑えるのに、卓は十数秒の時間を要したのだった。

卓と朱美はふたり、松の枝にぶら下がって海を見ている。
卓の声がその静寂を割った。

「こんな風に海を見るのって…そういえば初めてだ」
「あぁ、そっか。あたしは違和感ないけど、人間は普通逆さまになったりしないもんね。どんな感じ?」
「不思議な感じだよ。海と空が逆転してる」
「まさしく星の海、って感じかな?」
「ああ、そうだな。まあ今夜は月が明るいから星はあんまり見えないけどね」

体の下に広がる夜空を遠く眺める。

「この海を自由に泳ぎ回れたら気持ちいいだろうな」
「そう?」
「空を自由に飛べる翼。誰だって一度は憧れるさ」
「そうなんだ…。あ、じゃあさ、一緒に飛ぼうよ! そういえば夜に飛んだことってなかったじゃない」

これは良い考えと顔を輝かせる朱美。まるで花が開いたような。

「はは、気持ちはありがたいけどそれは遠慮しとくよ」
「どうして? 卓君が望むならいつでも……あっ」

開いた花が、突然萎んでしまった。

「そっか…ごめん。無神経だった」
「へ…? 何で謝るんだ?」

言葉の意味が掴めない。低いトーンで朱美は続ける。

「冬の…火事の時さ…卓君が怪我したのはあたしのせいだもん…。
あれ以来一緒に飛んでなかったけど…恐いよね。信じられないよね、やっぱり……」
「………」

そうか。朱美はそんなことを…。
普段の行動を見れば、天真爛漫を絵にかいたような性格をしている朱美。
だが見えにくいその本質はずっと繊細で傷つきやすい、年頃の女の子なんだ。

やれやれ、難しいお嬢さんだ。まあ、そこがいいところでもあるんだけどな。
ふっと頬を緩めて、朱美の頭に手を置いた。

「ハッ。なーに言ってんだか」

えっ…と顔を向ける朱美をポンポンと叩いて続ける。

「恐くなんかないさ。俺は朱美のことを信用してる。絶対にな」
「でも」
「おら!過ぎたことをいつまでもぐちぐち言わない」

額を指でコツンと突いて反論を止めさせた。

「もう気にすんな。そんな顔お前らしくないぞ」
「う…うん」

額をさすりながら一応の納得を見せる朱美に、自分の考えを話す。

「ただな…お前は鳥じゃないんだ。運んだ後は相当疲れてるのも知ってる」
「…? うん」


朱美の目をじっと見ながら言う。飾ることは何もない、自分の本心だ。

「もう無理はしてほしくないんだよ。朱美が、大切だから」
「…そっ…なっ…」

「朱美?」

わたわたと落ち着きなく翼をぱたつかせる朱美。何してんだ?と訊ねようとした矢先。

「何言ってんのよもー!!」

スパーン!

「ぶっ!」

振った翼の勢いをそのままに、思いきり後頭部を叩かれた。
突然の衝撃で揺れる体をなんとか止めながら、頭を押さえて反論する。

「ちょっ何すん」
「いい!卓君!」

目の前にビシッと指を突きつけられて、つい言葉が止まってしまう。

「大きなお世話よ。あたしはね、卓君に心配されるようなお子様じゃないの」
「そうは言ってもさ」
「あたしが! 卓君と一緒に飛びたいの!」
「なっ…」

そこまで言いきって、朱美はぷいと向こうを向く。

「もう…女の子に何言わせるのよ」
「   」

言葉を失った。

後ろを向いた朱美はどんな顔をしているのだろうか。
不機嫌にぷくっと頬を膨らませている? いや、違うだろうな。
たぶん、今の自分と同じような顔をしているんだろう。


朱美がぽつりと、静寂を破る。

「…何とか言いなさいよ」

「…くっ…」
「ハハハハハハ!!」

自然と笑いが零れた。
今までの自分が、自分たちのことが可笑しくて。

「な、何よ!」

怒ったような、驚いたような顔で朱美が振り返る。

「あーまったく馬鹿だよな。俺も、お前もさ」
「何よ!失礼しちゃうわね」
「お互い無駄に気ぃ遣いすぎてた。だろ?」
「う…まあ…そうね」
「わかったよ。一緒に飛ぼう、朱美」
「う…うん!」

元気いっぱいに頷く朱美を見て、久しぶりに満ち足りた気分になった。

「ま、今日は場所が場所だからそれはまた今度な。よっ」

と、足をかけていた枝を掴んで体を反転させる。
世界の向きが正常に戻り、海に背が向く。そして足は正しく…地面を…

「うお…っと、っと、うわっ!」

地面に落ちる衝撃と同時に、襲いくる強烈な立ちくらみ。
目を回したように後ろへ数歩たたらを踏み、ずしゃ、と砂浜に尻もちをついてしまった。

「っつー…」
「だ、大丈夫っ!?」

いつの間にか地上に下りていた朱美が背中を支え起こしてくれた。

「あー…いや、大丈夫。ちょっとふらついた」
「え?え?でも!?」
「平気平気」

心配そうに見つめる朱美にひらひらと手を振って無事を訴える。
海へ向きを変え、足を伸ばして楽な体勢をとった。

「あー…すげー頭に血が上った」
「え……あ、ああ! そういうことね!」

朱美はどこか大げさに納得して、心底ほっとした様子で隣に座り込む。
なんだこれ? まず考えられるありがちな理由を言っただけなんだが…

「しっかしお前はよくずっとあんな逆さまでいられるよな。頭に血ぃ上ったりしないのか?」
「あのねえ、あたし達蝙蝠はあれが普通なの。家ではあれで眠ってるのよ」
「へ!? マジでか!?」
「あたしにとっては頭に血が上るってことがありえないのよ」
「へぇー」

あぁ、そうか、朱美の場合頭に血が上るって発想がそもそもないわけか。道理で心配するわけだ。
一人納得して、正しい向きを取り戻した空と海を眺めながら言う。

「俺はやっぱりこっちの方がいいや。空は上に、海は下にあったほうがいい」
「そっか…」

少しの間があって、朱美が呟く。

「…うん。あたしもこっちの方がいいな」
「そうなのか?」
「うん。だってさ…」

ぽふ、っと。
肩に感じる重み。少し頬に触れる、短い毛の感触。

「こうやってできるじゃない」

囁くような朱美の声が、今までよりもずっと近くから届く。

「…そっか」

ほんの小さい声で、言葉を返した。それでも十分に届く距離だから。


風に揺れる前髪が視界を踊る。わずかに感じる花の香り。
触れた肩からじんわりと伝わる体温と、静かな息使い。
このまま、時間が止まればいいのに。

「ふふっ、卓君。ちょっとドキドキしてるね」
「変なことゆーな。お前も似たようなもんだろ」
「えへへ…」

「………」

「朱美」「卓君」

ふたつの声が重なった。完全に同時だった。

「…お先にどうぞ」
「今度は卓君から言ってよ」
「う。あぁ」

小さく深呼吸をした。

「なあ…朱美…」
「うん」
「あの…さ……」


『予定の時間です。予定の時間です。予定の…』

ポケットから響く、無機質な機械音声。
体を離して目を丸くする朱美。少し操作して、空気の読めない音声を止める。

「……もうじき部屋に教師が見回りに来るんだよ」

携帯の時刻は2時20分を示していた。

「…え、それまずいじゃ」
「うん、帰らないとまずいんだよ」
「今何時なの?」
「2時20分。2時半頃に来るって話」
「うわ、本当にもう帰らないと」

焦る朱美を見て、小さく溜息をついた。

「よし朱美、お前は今すぐ飛んで帰れ。俺は歩いていく」
「ええっ!? 卓君置いてくの!?」
「歩いても十分間に合うから」

それになぁ、と、あまり考えたくはない可能性を続ける。

「万一、一緒にいて見つかった場合! …問題が余計こじれる。わかるだろ?」
「そっ!? そう…かもしんないけどぉ…」

恥ずかしそうな顔で、何てこと言うんだと文句を言われた。
仕方ないだろ。言ってるこっちだって恥ずかしいんだから。

「じゃな朱美、また明日。グッドラック」
「うん、卓君も見つからないですぐ帰ってね」

別れを告げて飛び去る朱美を見送った後で、頭を抱えて深い深い溜息をついた。


…携帯を本気で海に投げ捨てたいと思ったのは生まれて初めてだ。
俺の馬鹿。一時間前の俺ホント馬鹿。何でアラームなんかかけてんだよ俺。
アラームは余計だろ馬鹿。セルフで邪魔してどーすんだよ俺。

いつまでもこうしていても仕方ない。
ふぅ、と息を吐いて、旅館へ歩き出した。

歩きながら、口の中で呟く。
まあ実際帰らないとまずいわけだし。アラームなきゃ時間に気付かなかったわけだし。
おかげで俺も朱美も無事なわけだし。そうだよ助かったんだよ俺。ありがとう一時間前の俺。
ありがとう携帯のアラーム。おかげで反省文書かなくてすん

ガシッ

むんずと、何者かに頭を掴まれた。大きくはないが力強い手。

「やあ、奇遇じゃないか卓少年」

快活ながらも、内に迫力のこもる声。
ギリギリと頭に食い込む爪。ギギギと背後へ首が回る。

不機嫌に揺れる尻尾。黒の眼帯。白い咥えタバコが闇に映える。

「あ、あの、これはそのですね…」
「よりにもよって私が見回りの日に深夜徘徊とはいい度胸してるじゃないか。なあ、卓少年?」

英教師とはまた違う、このケモノには見つかりたくなかった教師。獅子宮怜子の姿がそこにあった。

「…おかげで一本無駄にした」
「は?」
「ほら、さっさと歩く」


「痛ーててて…」
「黙って歩く」

頭を掴まれたまま、寝室まで連行された。今夜のところは部屋に返される。
明日はたっぷり説教と反省文が待っているぞと楽しげに言われ、心の底からげんなりした。
明日の運命を呪いながら歩いて、やがて部屋にたどり着く。
部屋へポンと投げるように、やっと掴まれた頭が解放された。

「今夜はさっさと寝ろ。トイレも無しだ、いいな」
「ええっ!」
「最後に一つ!」

振り向いた額に、ぷに、と意外と柔らかい肉球が押し付けられる。

「もっと積極的にいけ。青春は待っちゃくれないぞ」

謎の一言を残して、獅子宮教師は廊下の暗闇に消えていった。

教師の消えた廊下を眺め、額をさすりながら言葉の意味を考える。程なくして気付く。
無駄にした一本。待ってくれない青春。
あ…あの不良教師…

「……見てやがったな」

既に誰もいない暗闇に向かって卓は呟いた。


部屋の様子は変わらず平和なものだった。
利里は元卓の布団をすっかり自分のものにしていた。尻尾は隣の来栖の腹部へ。
それを来栖は体をくの字に曲げて見事回避していた。さすが危機回避に(ry
ここまで戻ってはこないだろうと踏んで、卓は元利里の布団に入り眠りについた。

翌日、長々と説教を受け反省文を書かされ課題は3倍にされ、と、散々な一日であったことは言うまでもない。
そもそもの原因である朱美がお咎めなしだったのは少々納得いかないが、本当に申し訳なさそうに眼で謝ってくる朱美を見て、
朱美だけでも助かったならまあいいや、と思うことにした。

余談だが、翌朝は利里と来栖の苦しげな唸り声で卓は目を覚ました。
布団の乱れっぷりから察するにあれからもいくつかの攻防が行われていた模様。
最終的には来栖の角が利里の尻尾を動かないようにホールドして決着がついていた。
さすが(ry

っていうかホントに寝てたのかこいつら…


<おわり>