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納涼百物語会



どんよりとした曇り空によって、月の光すら届かぬ深い深い闇が世を支配する深夜の佳望学園。
定時制も既に終わっている時間帯にも関わらず、学園のある教室には、
火を付けられた数本の蝋燭を中心に輪になって座る教師と生徒達の姿があった。

「私の話はこれで以上です」

その言葉と共に、イヌの少女は目の前の蝋燭の火を吹き消した。
周囲をか細く照らす数本の蝋燭の内の一本が消えた事で、教室はその闇の色を濃くする。
その闇の深さに畏怖したのか、誰とも付かぬ唾を飲みこむ音が小さく響き渡った。

「はい、95話目のお話、芹沢さん、ありがとうございました」
「モエの話、怖かったなぁ……」
「まさかそんなオチで来るとは予想してなかったよー」

神妙な面持ちをした泊瀬谷先生の礼の一言を切っ掛けに、
細々と周囲を照らす蝋燭の周りに座った生徒たちが口々に感想を漏らす。
その感想はどれも、先ほど蝋燭を吹き消したモエの語った話に関する物。
そう、彼らがこんな深夜に学園に集まったのは他でもなく、高等部の夏休み恒例『納涼百物語会』の為である。

この『納涼百物語会』の歴史は意外に古く、その始まりは今からおよそ三十年以上も前に時代が遡る。
最初は数人の生徒が彼方此方から集めた怖い話を持ち寄って、教師に内緒で百話分話し合うだけの内容だったのだが、
時代が流れるうちに参加人数が増え、何時しか安全の為の監視役として教師も加わって、今のスタイルへ落ちついた。

会の大まかな流れとしては、参加者達は予めくじ引きで順番を決め、
その順番通りに怖い話を語った後、蝋燭を一本吹き消し、それを百本目まで繰り返す。と言うシンプルなスタイルである。
語られる話の内容は実際にあった出来事から、友達の友達から聞いた話に都市伝説、はてや作り話等、多種多様で。
どう見ても明らかな与太話に笑いあったり、または全身の毛も逆立つ恐ろしい話にお互いに抱き合ったり、
今やこの『納涼百物語会』は夏の夜を涼しくするよりも、生徒たちの親睦を深める行事となりつつあった。
そんな、生徒たちが各々取っておきの怖い話を携えて臨んだ今年の『納涼百物語会』も佳境を迎える中、
和気藹々と会を進行して行く様子を、何処か面白くないといった感じで見る一人の少年の姿があった。

(なんだよ……芹沢の話、ネットで見た事のある話じゃん)

如何考えても彼女の話はネットの受け売り、全然恐ろしくも面白くもない。
そう、頭の中でぼやきつつ、卓は教室の中心で揺らめく蝋燭の明かりをぼんやりと眺めた。
彼がこうなってしまうのも無理もない。何せ、卓は50話目の段階で既に自分の話を全て語り終わってしまい。
今や他のクラスメイト達の話を聞くだけの状態となってしまったのである。ぶっちゃけ、卓は暇だった。
これで他のクラスメイト達の語る話がどれも面白い(或いは恐ろしい)内容ならば、卓はこうはならなかったのだが。
生憎、その殆どが何処かの本やネットなどの受け売りであったり、
たまにオリジナリティのある話かと思えば、オチが直ぐに読める話だったり、
酷い物となると、ここで話すべき内容なのかと思わず突っ込みたくなるような笑い話だったりと、
そんな話を10話20話と立て続けに聞かされたら、卓の心が冷めてしまうのも無理もないだろう。

(でも、面白くないからと言って、途中で帰るなんて出来やしないしな……)

そんな微妙な立場に立たされた卓は、窓の外の曇り空を眺めながら、ただ、溜息を漏らすしかないのであった。

「それじゃあ次は……」
「あ、私の番です」
「では、永遠花さん。96話目、宜しくお願いします」

次の語り部となったのはモエと仲の良い永遠花。
泊瀬谷先生に促されて立ちあがった彼女は周囲をゆっくりと見回すと、意を決したように話し始める。

「あれは、2週間ほど前、買い物の帰り道の事でした……」

(今度は永遠花か……この子の事だからお涙頂戴系、かな?)

何処か冷めた眼差しで眺める卓を余所に、永遠花は尻尾をゆっくりと揺らしながら語り始めた。




その時、私は頼まれていた物を思った以上に安く買えて、ホクホク顔で自転車に跨り帰宅している最中でした。
しかし、ある場所に来た所で、私は思わず自転車を止めてしまいました。

……生馬川の築堤の道にある踏み切り、知ってますよね? 毎月の様に自殺者が出ると有名な、
まるで築堤の上にぽつんと置かれているような、何処か寂しいイメージを感じさせるあの踏みきりです。
私は昔からそこが苦手でした。ネコの本能というのでしょうか、何故かここを通っては行けない様な気がしてならないのです。

しかし、その時は買い物の荷物も重かった事もあって遠回りする気にもなれず、仕方なしに其処を通る事にしたんです。
まあ、そう電車がしょっちゅう来る訳でもないし、一回通るくらいなら大丈夫かなと気楽に考えて。
しかし、それでも今まで苦手であった事もあって、私はなるべく素早く踏み切りを通りすぎようとした……その時です。

突然、ブレーキを掛けた訳でもないのに自転車が踏み切りの真中で動かなくなったのです!
余りにも唐突な事に、私は半ばパニックになりながらも踏みきりから脱出するべく必死に自転車を動かそうとしました。
しかし、まるで接着剤か何かでタイヤを地面に固定された様に、自転車はビクとも動きません。
そうしている内に、あろう事か踏み切りのアレがカンカンと鳴り始めたのです。

いけない、電車が来る。早く踏み切りから出ないと!
身に迫った危険を前に、私は何とか脱出しようと努力するのですが、自転車は動きません。
成す術も無く周囲を見まわした私は、ふと、ある物に気付きました。

それは、自転車の後カゴを掴む、私と同じネコ族の物と思しき肘から先の部分だけの手でした。

多分、これが後カゴを掴んでいる所為で自転車が動かないんだ。
そう気付いた私は咄嗟に、手にしていた買い物袋を後カゴを掴んでいる手へ何度も叩きつけました。
するとどうやらそれによって手が怯んだらしく、後カゴを掴む手の力が緩んだのを感じました。

無論、その機会を見逃す私じゃありません。空かさず思いっきりペダルを漕いで踏みきりから脱出。
直後、私の直ぐ後ろを電車が猛スピードで通りすぎていきました。……間一髪、危ない所でした。
何とか助かった事に、私は安堵の溜息を漏らしながら電車が過ぎ去った踏み切りへ目をやると、
踏みきりの真中で、片腕、片足のない顔が半分崩れたネコの女の人が立っていました。

『……もう少しだったのに』

そう、彼女は憎憎しげに私へ睨みつけながら呟くと、空気に溶けていく様に消えていきました。
……恐らく、未だにあの踏み切りに自殺者が絶えないのは、彼女の仕業ではと私は思っています。

 




「それより一番怖かったのは、その後、散々手に叩き付けていた買い物袋の中を確認する時でした。
私の話はこれで以上です」

ぺこりとお辞儀して、永遠花は目の前の蝋燭の火をフッと吹き消した。

(いや、永遠花の話、滅茶苦茶怖えぇぇぇっ!! なにこのスリリングな話!? しかも声真似上手いし!?
つーか、あんな目にあってながら、心配するのは買い物袋の中身かよ!?
というか、その踏切ってあそこだろ? もう絶対にあそこを通りたくなくなっちまったじゃないかっ!!)

永遠花の話にビビリまくった卓の正直な感想だった。

「はい。96話目の話、永遠花さん、ありがとうございました」

数秒の間を置いて泊瀬谷先生が永遠花へ座る様に促す。
なるべく冷静に取り繕っている泊瀬谷先生ではあるが、今、彼女がビビっている事は膨らんだ尻尾で丸分かりであった。

「それでは次は……因幡さん、97話目、宜しくお願いします」
「分かりました」

それでも何とか冷静を保っている泊瀬谷先生の呼びかけに、委員長こと因幡 リオが立ちあがる。
そして、気を落ち着けようとしたのか耳を揺らして深呼吸をした後、語り始める。

「この話は今から数ヶ月ほど前、委員会が終わった後、帰宅している最中に起きた出来事です」

(つ、次は真面目のまー子の委員長の話か……)

卓は永遠花の話に若干ビビっていた心を何とか立て直し、再び話に耳を傾ける。
そして、周囲を静寂が包む中、リオは静かに語り始めた。

 




その日、委員会が予想以上に長引いた事で、私が下校する頃には日も落ちかけているところでした。
グラウンドで遊んでいた生徒達の姿もなく、部活動を行っている部員達の姿もない夕暮れの学園は不気味なまでに静かで
その不気味さに私の足も心なしか早足になっていました。

そんな時、『もう良いかい?』と、小さな声が私の長い耳に聞えました。
それから数秒の間を置いて、『まぁだだよ』と言う声も聞えました。

声の質からして小等部辺りの子でしょうか。
もう下校の時間だというのに、まだ校内でかくれんぼをしている子が居る様でした。
当然、委員長である私はまだ遊んでいるであろう子へ注意するべく、声の主を探し始めたのですが……。
しかし、声が聞えた場所を幾ら探しても、隠れている子はおろか鬼役の子すらも見つかりません。

私が妙なものを感じ、首を傾げていると、
『もう良いかい?』と、また声が聞えてきました。それも、私が先ほど探していた場所とは全く違う場所から。
そして、数秒の間を置いて『まぁだだよ』の声。無論、それも先ほど聞えた場所とは全く違う位置から。

……明らかに変でした。
先ほどの声はさっき声が聞えた場所とは大分離れた場所から聞えており、
もし、その場所へ移動して声を出すなら、移動する時は必ず私の視界に入ってもおかしくない筈なのです。
しかし、誰かが移動する様子なんて私は見ていません。……なら、この声は何?
そう私が思ったその矢先。

『 も う 良 い か い ? 』

声は、私の直ぐ後ろから聞えてきました。
それも、先ほどまでの小等部の子が出すような可愛らしい声ではなく、地獄の底から聞えてくるような野太い声で。
私がわき目も振らずその場から逃げ出したのも当然の事でした。

今思うのですが、もし、あの『もう良いかい?』の後に、私が『もう良いよ』と返していたら……。
それを考えるだけで、私は全身の毛が毛羽立つのです。

 



「対して怖くない話でしたが、私の話はこれで以上です」

言って、リオは目の前の蝋燭を吹き消した。

(いや、ちょ、対して怖くないって嘘付けぇぇぇぇぇぇっ!! 滅茶苦茶怖ぇじゃねえか!?
何? どんどん近付いて来る訳じゃなく、前触れも無しに直ぐ後から聞えてくるなんて反則だろ!?
しかも、リオの声真似も凄く上手かったからより怖さ倍増じゃねぇか!!
ああ、もう夕暮れ時の下校は一人で行きたくねぇよ! 畜生!)

リオの話に対する、卓の正直な感想だった。
無論、その想いは周りの皆も同じだったらしく、感想を語り合う事無くただ、シンと静まり返っていた。

「は…はい、97話目のお話、因幡さん、ありがとうございました!」

そのまま十秒程の沈黙の後、ようやく泊瀬谷先生が震えた声でリオへ礼を言い、座る様に促す。
見れば、膨らんでいた泊瀬谷先生の尻尾は既に股の間へと隠れていたりする。

「え、えっと…次は…」
「あー、俺だぞー」
「じゃ、じゃあ、竜崎君、98話目、お願いします」

若干涙目になりつつある泊瀬谷先生の呼びかけに、尻尾揺らして元気よく立ち上がる利里。
そして何故か何も無い方向を一瞬だけ一瞥した後、皆の方へと向き直って話を始める。

「アレは確かそうだなー、俺がまだ小等部だった頃にあった話だったかな?」

(あ…今度は利里か…良かった、こいつの話なら安心して聞けそうだ)

次の語り部が親友の利里だと知った卓は、心の中で安堵の溜息を漏らした。
忘れっぽい上に純粋な性格の利里の事、そう大して怖い話をしてこないだろう、とたかをくくったのだ。
そんな卓を余所に、利里は何時もの調子で語り始めた。

 


 


実は言うと、俺の家は玩具屋をやってるんだ。東佳望三丁目の、竜崎玩具店って所。
家が玩具屋だから一杯玩具があって羨ましいと皆も思うだろ? けど、現実はそう甘くは無いんだ―。
俺の父さん、商売に対しては真面目な人だったから、俺がうかつに商品に触ろう物なら即座にゲンコツだ。
だから、父さんが怖かった俺は、家に一杯ある玩具を指の爪咥えて見てるしか出来なかったんだー。

そんな俺を不憫に思ったんだろうなー、俺の母さんが父さんに頼んで家の倉庫から玩具を持ってきてくれたんだ。
確か、その玩具はスイッチを入れると頭をピカピカと光らせながら歩くロボットだったのを憶えてる。
それは売れ残りの玩具だったんだけど、今まで指の爪咥えて玩具を見てるだけだった俺にとってはすっごく嬉しかった。
とうぜん、俺は毎日の様にそのロボットで遊んでたよー。あ、無論、大事に遊んでたぞ。壊したら父さんが怖いからなー。

……その玩具で遊び始めてヘンな事に気付いたのは、それから1週間辺りだったかな?
ヘンな事と言うのは、そのロボットをキチンと玩具箱にしまってても、何時の間にか玄関の前に転がってるんだ。
その所為で、父さんから大事な物はしっかり仕舞ってろと何度もこっ酷く叱られてさー、本当に理不尽な気分だったよー。
挙句にさ、そんなに大事に出来ないならと、父さんにロボットを隠されちゃってさー、もうその時は泣きまくったよー。

……でもな、父さんが念入りに隠した筈のロボットが、翌日にはまた玄関に転がってた。
それで父さんも流石に変だと思ったんだろうなー、その日の夜、父さんは俺と一緒に玩具を見張る事にしたんだー。
勝手に動き出さない様に電池を抜いた上でロボットを部屋の真中に置き、それを俺と親父が物陰に隠れて見張ってた。

そして夜中の2時くらいになった頃だったかな?
なんと驚いた事に、電池を抜いた筈のロボットが勝手に動き出したんだ。頭をピカピカ光らせながらな?
そして、何かに操られる様にロボットは玄関の方へ。無論、俺と父さんは直ぐ様、ロボットを止めようとした。そしたら……

『こ れ は 僕 の だ !  触 る な !』

ロボットがいきなり振り向いて、何時もの角張った顔と違う鬼のような形相で俺と親父へ叫んだんだ。
それは俺の聞き間違いじゃなかった。その場にいた親父も確かに見て聞いたんだからな。
それで恐ろしくなった俺と父さんは父さんの部屋のベットに逃げ込んで、結局、朝まで震えるしか出来なかったよー。

後で聞いた話だとな、そのロボットは本当なら、ある家の子供のプレゼントになる予定の物だったんだー
でも、プレゼントされる直前でその子供が事故で死んじゃってな、結局渡されずに倉庫に仕舞いこまれたんだとさー。
多分、その子供の幽霊はロボットを独り占めしたかったんだろうなー。俺もその気持ちが分かるなーと思うよ。
それで結局、俺は父さんから代わりの玩具を貰い、ロボットはお寺へ預けられる事になったんだー。
多分、今も、あの子はそのロボットで遊んでるんだろうなー?



「これで俺の話は以上だぞー」

言って、利里は鼻息で蝋燭を吹き消した。

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいどうせ怖くないだろうとたかをくくってた俺が悪かったですごめんなさい。
つーか、話す一瞬前にあらぬ方を見てたけど、その時、何見てたんだ利里!?)

土下座する様に床に突っ伏した卓の、余りにも正直過ぎる心の中での感想だった。

「は…はは、はい! きゅ、98話目のお話、りゅ、竜崎君、あ、ありがとうございました!」

水を打ったかの様な静寂の後、完全に声を震わせた泊瀬谷先生が利里へ座る様に促す。
最早、泊瀬谷先生の身体中の毛皮と言う毛皮は恐怖によって逆立っていた。

「え…えーと、えとえと、次の人は…」
「あ、もう俺の番だったか?」
「そ、それじゃあ塚本君! 99話目、お願いしますね!?」

泊瀬谷先生の今にも逃げ出したい気分を必死に堪えながらの呼びかけに、塚本がよっこらせっと立ちあがる。
そして、塚本は気だるそうに溜息を漏らすと、面倒臭そうに尻尾を揺らしながら話を始めた。

「あー、たしかアレは、新しく中古車を買ったオジキに起きた話だったな…」

(つ、次はおバカで有名な塚本か……流石にこいつは恐い話はしてこないだろう……つか、そう願いたい)

身体中から吹き出る冷や汗を必死に拭いながら、卓は次の語り部である塚本へと願った。
しかしそれと同時に、卓の冷静な部分は、この願いが叶わぬ物だと現実的に感じ取っていた。
そんな卓の願いなんぞつゆ知らず、塚本は後頭をぼりぼりと掻いて語り始める。

 



その車はとにかく出物だった。物は数年前の人気車種、走行距離2万km未満、オーディオ・クーラーつき。
この内容で値段は何と一万五千円、税金やら保険などその他諸々入れても合計10万ぽっちと言う破格の値段の車だった。
無論、オジキはその車が2台以上の事故車の無事な部分を組み合わせて作った、所謂ニコイチ・サンコイチを疑ったよ。
けど、何処を調べてもそんな形跡は無く。調べれば調べるほどその車が事故歴もない新品に近い車だと分かるだけだった。

俺も一度、オジキのその車に乗せてもらった事あるんだがよ。
本当に一万五千円で売ってた物とは思えないくらいに内装も綺麗で、走りも何ら問題がないんだわ。

でも、その時、俺がこの車に対して気になった事が二つだけあった。
一つは、芳香剤をやたらとガンガンに効かされている事。オジキが言うには、これは買った当初からだったらしい。
そして二つは、CDやラジオなどのオーディオを使うと、どんな時に使ってもプツプツと雑音が入る事。
まあ、所詮は一万五千円で売っていた代物だし、それくらいは当然だと、オジキも大して気にしなかった様だった。

……でも、それから三日くらいして、オジキは突然その車を手放しちまった。

その手放した理由についてなんだが。ここからがオジキから聞いた話なんだけどよ? 
その日もオジキは特に宛ても無く、その車で近くの峠道を流していたそうなんだ、時折、走り屋を煽ったりしながらな。
まあ、そんな調子で3時間くらい走りまわって疲れたオジキは、峠にあるパーキングエリアで休む事にしたんだと。
けど、その時は夜中の2時、当然店なんてやってない。無論、峠の真中だから暇を潰せる場所なんて有る筈も無い。
だからやる事とすれば、自販機で買ったコーヒーでも飲みながらオーディオの音楽を聴く事くらいだ。

オジキがオーディオをつける。ノリの良い音楽に混じって聞えてくる何時もの雑音。
周囲が静かなもんだから、オジキはついついその雑音に耳を傾けてみたそうなんだ。
そして暫く聴いてみて、ようやくオジキは気付いた。それはただの雑音じゃないって事が。

……よくよく聴いてみると、その雑音はかなり低い物なんだけど、明らかに人の声なんだよ。
そして、声は音楽に混じって、途切れ途切れに『アツイ、クルシイ』と言っていた。

寒気と同時に、一気に全身の毛皮が逆立つ物を感じたオジキは、即座にオーディオの電源を切った。
けど、オーディオの電源を切ったにも関わらず、『アツイ、クルシイ』と声は聞えてくる。それもオジキの直ぐ横、助手席から。
おまけに、芳香剤の匂いに混じって、何とも言えない焦げくさい臭いまでしてくる。
オジキが言うには、何と言うか煙草に火をつけようとしてうっかり毛皮を焼いてしまった時の様な酷く嫌な臭いだったそうだ。
嫌な予感を感じながらも、オジキはまるで操られたかの様に声のする助手席へ振り向いた。

――其処に奴が居た。……そう、何の種族すらも判らない位に全身が黒焦げに焼け爛れた奴の姿が。
オジキは悲鳴を上げる事すら出来ず、そのまま気を失った。

翌日、通りかかったポリ公に叩き起こされたオジキは当然、その車を運転する気にはなれず。
結局、自分を叩き起こしたポリ公に懇願してパトカーで家まで送ってもらったそうだ。

後でその車を売った中古車屋を締め上げた所、その中古車屋はトンでもない事を白状し始めた。
実はその車、なんと最初のオーナーが借金かなんかの原因で車内で焼身自殺を図ってたらしいんだわ。
けど、火が弱かったのかそいつは死に切れず病院に運び込まれ、『熱い、苦しい』と苦しみながら三日後に死んだ。
で、そいつが焼身自殺を図った車は、焦げた助手席と内装の部分だけを交換して借金取りがうっぱらったんだと。
まあ、それでそのいわく付きの車は彼方此方のオーナーを転々と渡り、そしてオジキの手に渡ったそうな。
無論、オジキはそんないわく付きなんぞイラネと中古車屋に突っ返したのは当然の事だな。

ああ、そう言えば聞いた話だと、その車、今も中古車屋の片隅に置かれているらしいぜ?
気になるなら夕陽丘三丁目の中古車屋に行ってみな? 運がよければ聞けるかもしれないぜ?
そう、『熱い、苦しい』とうめき続ける、自殺者の怨嗟の声がな……?



「俺の話はこれで以上だぜ?」

言って、塚本は目の前の蝋燭をフッと吹き消した。
明かりとなる蝋燭の火が最後の一本になった為か、教室は殆ど暗闇に支配されつつあった。

(え、えと、何でこう言う時に限って何で本当に怖い話を話すんだ!? 塚本、おまえ、本当は頭良いだろ?!
それにその中古車屋の場所をさらりと言うなよ! 気になって見に行くバカが必ず出るぞ! 特に利里とか)

最早恐怖で涙目になりつつある卓の本気で素直過ぎる感想だった。

「ふ、ふぁい、きゅきゅ99話目のお話、つ、つかもと君、ありゅがとうごじゃいましたぁ!」

泥沼の其処の様な深い沈黙の後、泊瀬谷先生が身体の震えの余り台詞を噛みまくりながら塚本に座る様に促す。
全身の毛皮を逆立て尻尾を丸め更に涙目な泊瀬谷先生は、物音がすれば今にも悲鳴を上げて逃げ出しそうだった。

「え、えとえとえっと、ちゅ、ちゅぎの人は誰でしたっけ?」
「あ…ぼくでしたね…」
「え、あ、ひ、ヒカ…犬上君? なら最後のお話、おねがいしましゅ!」

最早半分ほど言葉になってない泊瀬谷先生の呼びかけにスッ、と立ち上がったのは犬上 ヒカル。
一本の蝋燭の火のか細い光だけが暗闇を照らす中、ヒカルのふさふさの白い尻尾だけが妙にはっきりと見えた。
そして、俯き気味のヒカルは静かに、最後の百話目となる話を語り始めた。

「皆さん、この学校の七不思議の一つに有る、『紅い尻尾』の話はご存知でしょうか?」

(最後のトリはよりによってヒカルか……こいつ、口下手だけど恐い話が得意そうだからな……
本当、お願いだからもうこれ以上怖いのは勘弁してくれよ? 只でさえ何か出そうな雰囲気なんだから!)

ガタガタと恐怖で震える身体を必死に抑えつつ、卓は最後の語り部で有るヒカルへと祈る。
その卓の眼差しの先で俯き加減に佇むヒカルは、何故か酷く存在感がないようにも見えた。
そして、全員が息を飲む中、『納涼百物語会』最後の話が語られ始めた……。



それは深夜の2時ちょうど、ある場所で『ふさふさの尻尾は何処にある? この場所さ』と唱えると。
『ぼくの尻尾…』と言う声とか細い共に、尻尾を血で紅く染めたイヌの少年の霊が現れ、こう問い掛けてきます。

『ぼくの尻尾は何処?』

この時、何も答えなかったり、正解の答えを言えなかったりすると、彼に尻尾を引き千切られてしまうのだそうです。
無論、尻尾が無い種族の場合はお尻にある尾底骨を引き抜かれてしまう、と言う恐ろしい怪談です。
……実はこれ、かつてこの学園で本当に起きたある事件が元となって作られた話だったりするのです。

昔々、佳望学園の高等部に、純白の長い尻尾をもつイヌの少年が居ました。
彼のそのふさふさの尻尾は他の生徒が羨むくらいに美しく、彼自身も自分の尻尾を自慢に思っていました。
自慢気に自慢の尻尾を振る彼の姿が学園の中では良く見られたそうです。

ある日の休日、学園の中で友達と遊んでいた彼はかくれんぼの最中、
工事中の幕をくぐった先で見なれない物が置かれているのに気が付きました。
それは金属製の壷を斜めに傾けた状態で金属製の台に固定したような奇妙な物体でした。
当時の佳望学園は木造の旧校舎から新校舎への建替えの真っ最中、恐らくは工事をしている人が置いたのでしょう。
これはイヌのサガと言う物なのでしょうか、彼はこの見慣れぬ物体に対して強い興味を抱きました。

取り敢えず匂いを嗅いでみたり、揺らしてみたり突っついてみたりと彼は色々とやってみた後。
彼は何を思ったか、自慢の尻尾を壷のような物の中へ入れて見たのです。
そう、壷のような物の正体が何なのかを知らずに……。

―――悲劇の幕は機械の音と悲痛な悲鳴から上がりました。
それに気付いた彼の友人が駆け付けて見ると、其処には地に倒れ伏し、悲痛なうめきを漏らす彼の姿がありました。
『ぼくの尻尾が、ぼくの尻尾が』と漏らす彼の尻尾は途中から失われ、其処から血が止めど無く溢れ出していました。
その時、尻尾のあった場所から溢れ出る血の所為か、今の彼は紅い尻尾を生やしている様に見えたのだそうです。

そして、彼の側にはゴウンゴウント唸り声を上げる壷の様な物。
そう、彼が尻尾を入れて見た壷の様な物、それは工事に使われる可搬型のコンクリートミキサーだったのです。
恐らく、彼が尻尾を入れる前に、突付いたり揺らしてみたりした事で誤作動を起こしたのでしょうか、
彼が尻尾を入れると同時に、コンクリートミキサーは与えられた職務を全うすべく中の物を掻き混ぜ始めたのです。
その中の物がコンクリートではなく彼の尻尾だったとしても……。

その後、騒ぎを聞きつけた教師の通報によって、彼は病院に運ばれたのですが、
傷口から悪い菌が入ったのでしょう、可哀想に彼は高熱にうなされたまま死んでしまったのです。
そう、意識を失う最後まで『ぼくの尻尾が、ぼくの尻尾が』と言いながら……。

しかし、こんな痛ましい事故が起きたにも関わらず、
工期が差し迫っていた事もあって工事は中断される事も無く、何事も無かったかのように続けられ、
その上、事故を起したコンクリートミキサーも、少し点検された程度でそのまま使われ続けたのです。

……そして、新校舎が完成した後、それから数ヶ月もしないうちに、冒頭で話した噂が流れ始めました。
新校舎のある場所は彼の尻尾の血肉が混ざったコンクリートを使っている、と言う根拠の無い噂と共に。

因みに、皆さんは知ってますか?
彼の亡霊が現れると言われ、同時に彼の尻尾が混ざったコンクリートが使われているとも言われている場所。
その場所は高等部の3階の左端から3番目にある教室……そう、今、ぼく達が居るこの教室なのです。
ひょっとすれば、今、ここで呪文を唱えれば彼が現れるかもしれませんね?
そう、『ふさふさの尻尾は何処にある? この場所さ』 と。


「ぼくの話は以上です」

言って、彼は最後の蝋燭の火を吹き消した。
百本目の蝋燭が消えた事で、深夜の教室は光一つすらない完全な暗闇に包まれた。
生徒も教師も、皆、沈黙を守り通していた。何時もならば騒がしい生徒ですらも、今は只、押し黙るだけであった。
そう、何か物音を立てたら最後、何か恐ろしい物が現れるんじゃないかと言う根拠の無い不安によって。
聞える音とすれば、風に揺れるカーテンが鳴らすカタカタと言う音だけ。

「ー――――っ!!」

その暗闇を打ち消す様に、不意に灯される教室の蛍光灯。
女子生徒達数人がそれに驚き、思わず甲高い悲鳴を上げる。

「ちょ、皆さん!? お、落ちついてください! 私が蛍光灯を点けただけですから!」

その悲鳴に慌てて声を上げたのは泊瀬谷先生。
どうやら彼女は皆が押し黙る状況にしびれを切らし、側にあった蛍光灯のスイッチへ手を伸ばしたのだろう。
怯える生徒達を必死に宥める教師を横目に、その場の誰もが様々な感情を入り混じらせつつも安堵の溜息を漏らした。

「しっかし、今回の『納涼百物語会』の最後辺り、怖い話が目白押しだったなぁ」
「そうそう、私はリオの話が怖かったかな? 最後の『もう良いかい?』のくだりが一番怖かったわ」
「いえ、永遠花さんの話が怖かったと思いますよ?」
「塚本、お前、あんな長い話をキチンと覚えていられたんだな? 感心したぜ?」
「へッ、俺に掛かれば怖い話の一つや二つ訳ねぇっての来栖」
「ねえ、塚本君。なんかポケットからメモが落ちたよ? ひょっとしてこれ、カンペ?」

蛍光灯の見なれた明かりによって、恐怖に染まっていた心も落ち着きを取り戻したのか、
生徒達が口々に百物語の感想を並べ始める。

「卓ー、俺、今回の話を覚えるのすっごく苦労したぞー! どきどきだったぞー!」
「あ、ああ、そうだったな、お前の話、充分怖かったぜ」
「おお、それは良かったぞー!」

尻尾を振り上げて喜ぶ利里に少し苦笑いを浮べた所で、卓ははと有る事に気がついた。
しかし、卓がそれを言い出す前に、恐らく同じ事に気付いた泊瀬谷先生が不思議そうに声を上げる。

「……あれ? ヒカ…犬上君は?」
「え? 犬上だったら……あれ? 居ねぇ? 何処行ったアイツ?」

と、周囲を見やる塚本、ここで生徒達全員がヒカルの姿が無い事に気付き、
まるで静かな水面に小石を投げ打ったかの様に生徒達の間からざわめきが広がり始めた。


――――と、その矢先。こちらへ掛けこむ足音と同時に教室のドアが開いた。

「やっとついた! 皆、遅れてゴメン!」、

教室のドアを開けて入ってきたのは、皆が探していたヒカルだった。
彼は余程急いで来たのだろう、舌を垂らしたマズルから荒い息を漏らしていた。

「もう、行く直前になって父さんに用事を頼まれちゃってさ…とにかく、遅刻してゴメン。百物語はもう終わっちゃった?」
『…………』
「……あ、あれ? 皆、何で黙るのさ……?」

驚いたように硬直する皆を前に、ヒカルは不安に駆られて思わず耳を伏せる。
この時、この場のヒカルを除く誰もが気付いた事であろう、
ヒカルは今さっき到着した。なら先程、百物語の百話目を話していたヒカルは一体……?
それに気付いた皆はほぼ同じタイミングで、百話目を話していたヒカルの立っていた場所へゆっくりと視線を向ける。

……其処には、紅い血溜まりだけが残っていた。

余りにも信じられない物を前に、毛並みを逆立てて沈黙するその場の全員。
(ただし、今しがた来たばかりで事情が飲みこめていないヒカルは除く)
水を打った様に、シン、と静まり返る教室。夏にも関わらずひんやりとした空気が流れ、古い蛍光灯がジジジと音を立てる。
そして――――

『ぼくの尻尾……』

その静寂に滑りこむ様に、何処からか響く悲しげな声。

『うわぁぁぁくぁwせdrftgyふじこlp; !?!?』

当然、それによってその場の全員の恐怖のボルテージが一気にMAXとなり、
皆、全身の毛を逆立てて悲鳴を上げながら土石流の如き勢いで教室から逃げ出したのであった。


【それから数分後】


百物語後の怪異によって生徒も教師も全員逃げ出し、誰も居なくなった教室。
蛍光灯が虚しく教室を照らす中、唐突に教卓がごとりと音を立てて動く。

「ふぃ~、もう大丈夫かな?」

教卓が二度三度動いた後、其処からひょっこりと顔を覗かせたのは、佳望のトリックスターことサン・スーシ。
ご機嫌に尻尾を振る彼は、何故か頭に白の長髪のカツラを付け、その上に髪と同じ色の付け耳を装着し、
更にその側には先の部分にスニーカーを付けた竹馬まで転がっていた。

「まさかここまで上手くいくとは思っても無かったよ。仕込に苦労しただけあったね」

言って、サン先生は手にしたレコーダーと床の血溜まり?を見やる。
そう、『納涼百物語会』の百話目からの怪異は、このサン先生の仕込んだ手の込んだ悪戯だったのだ。

流れとしては先ず、予めくじ引きに細工をする事でヒカルが百物語の一番最後になるように仕向け。
その後、サン先生はヒカルの父へヒカル本人を会に遅刻させる様にこっそりと頼み、最初の仕込みは完了。
当日、会が始まる1時間前にヒカルに似せた変装をしたサン先生が教卓の下へ隠れ、ある程度会が進行するのを待つ。
そして、蝋燭の光が殆ど無くなり暗くなった所で気付かれない様に参加者達に紛れ、その時が来るを待つ。
後は怖い話をしたサン先生が最後の蝋燭を吹き消し、真っ暗闇になった所で紅いインクを床に垂らして再び教卓の下へ隠れ、
そして遅刻したヒカルが来るタイミングを見計らって、レコーダーから録音した音声を流す。と言う算段。

ここまでした苦労の甲斐あって、悪戯は面白いくらいに成功した。
悲鳴を上げて逃げ出す生徒の顔を思い出すとホントに笑いが止まらない。お陰で尻尾の振りも絶好調だ。
この仕込に協力してくれたヒカルの父には、後で何かしらの礼をしておこう。
そう考えながら、サン先生は身長を誤魔化す為に履いていただぼだぼのズボンを脱ぎ、何時ものサイズのズボンへ履き直す。

「…あ、でも、巻き込んじゃったヒカル君と泊瀬谷先生にはちょっと悪いコトしちゃったかな?」

ポツリと漏らすサン先生の独り言に答える者は無く、代わりに気の早いコオロギの鳴き声を立てた。
と、其処でサン先生ははとある事に気付き、ピンと尻尾を跳ね上げる。

「いっけね! 床に垂らしたインクを拭かなきゃ! これで拭き忘れたらぼくの悪戯だってバレバレじゃないか」

慌ててサン先生は後処理用に持ち込んでいた雑巾で床の紅いインクをふき取り始める。
幸い、床がリノリウム張りな上にインクが水性だった事もあり、殆ど後を残す事無くふき取る事が出来た。
何とか後始末が出来た事にサン先生はホッと胸を撫で下ろし、尻尾をゆっくりと揺らした。

『ぼくの尻尾…』
「―――っ!?」

安心した矢先、不意に聞えた声にサン先生は思わずぎくりと硬直し、全身の毛を逆立てた。
そして、暫くキョトキョトと周囲を見やった後、声の正体に気付いたサン先生はやれやれとばかりに溜息を漏らす。

「……な、なんだ、レコーダーの声か……ビックリさせるなぁ、もう……」

無論のこと、また鳴り出さない様にレコーダーの電源を切るのを忘れない。
もう、最後の最後でぼくまで驚かせちゃって、このレコーダーは持ち主のぼくに似て罪な奴だなぁ。
などと心の内でレコーダーに対する愚痴を漏らした矢先。

『ぼくの尻尾は何処?』

―――再び聞える悲しげな声。

「…………」

サン先生は背筋が凍りつく物を感じていた。
レコーダーの電源はしっかりと切ったのだ。当然、声なんて出す筈が無い。
それ所か録音した音声は『ぼくの尻尾…』の一つだけ、それ以外を録音している筈が無い。
いや、そもそも、さっきの声は背後から聞えたような……?

もうこの時点で声の正体は大体想像がついているのだが、それでも嫌な想像が思考をうめ尽くす。
そして、サン先生は全身の毛がざわざわと毛羽立つ嫌な感覚を感じながら、恐る恐る後ろへ振り返った。
声の正体を確かめる、と言うよりも、思考をうめ尽くす不安を紛らわす為に。

「うぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

……そして、深夜の学園にサン先生の悲鳴が響き渡った。


その後、たまたま見回りをしていたベンじいが悲鳴を聞きつけ、教室に駆け付けて見ると。
其処には全身の毛を逆立てて気を失ったサン先生の姿があった。

無論のこと、それによって『納涼百物語会』の怪異がサン先生の仕業だと判明し、
結果、サン先生は幽霊よりも恐ろしい英先生の説教をみっちりと受ける事になったのだった。


ただ……一つだけ、不可解な事がある。
それは悲鳴に気付いたベンじいが教室に駆け付けた時。
気絶しているサン先生の尻尾は何故か大量の赤いインクにまみれ、さながら噂の『紅い尻尾』の様になって居たと言う。

そう、あの時、サン先生は悪戯に使ったインクは全て使い切り、一滴も残していないにも関わらず……。

『ぼくの尻尾は何処?』

―――――――――――――――――――――涼、じゃなく了――――――――――――――――――――――