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どんより日食


水滴が窓ガラスに当たって弾け、一筋の跡を残して消えていく。
梅雨は明けたというのに、外ではざあざあと雨が降っていた。

「ああ~、何故こういう特別な日に限って雨が降るんスか!」
「まったくですよ、皆既なんて滅多にないことなのに」

佳望学園の職員室では白倉と跳月が愚痴をこぼしながら窓辺で頬杖を付いていた。
いつもはハードボイルドな獅子宮の顔もどことなく曇っているように見える。
職員室では他にも数名が、仕事の合間に、夏休み最終日の小学生のような顔をしながら外を見つめていた。

「て、天気はどうにもなりませんからね……。お二人ともそんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか」

二人の傍へ寄り、泊瀬谷が声をかける。
彼女も数十年ぶりだ、と言われている日食を楽しみにしていたのだが、二人の背中を見て、落ち込んではいられないと感じたようだ。
だが楽しみを潰された二人には泊瀬谷の言葉も功を成さず。
跳月がどんよりとした声で呟く。

「そうは言ってもですね、泊瀬谷先生……。次の皆既は何年後だと思ってるんですか。たしか二十……」
「次は、二十六年後の九月二日ですよ」突然二人の足元から朗らかな声がした。

「うわぁ、そら先生いつの間に!」

三人が驚いて飛びのくと、足元には小柄な狸の女性が盆を持って立っていた。
背の丈は泊瀬谷と同じ年とは思えないほど小さく、サンより一寸ばかり高いか、というくらいだ。
かろうじて開いていると分かる細い目に、柔らかな光が宿っている。
そらと呼ばれた彼女、百武そらはにこやかに二人に湯飲みを差し出した。

「白倉さんも跳月さんもそんなに浮かない顔しないで下さいな。まあ、お茶でも飲んで元気を出してください」
「百武先生、アンタ日食って自分の専門分野じゃないスか。何故そんなに落ち着いていられるんスか。
 皆既ッスよ?滅多に見られないんスよ!?」

白倉の怒涛の問にも、百武は何時もののんびりした口調で答える。

「皆既日食なんて、生きていればいつかは見れますよぉ。私は皆既より金環食の方が好きですしね。すぐ三年後に見られますし」
「ああ、そうか。金環ももうすぐですね。たしか皆既よりも金環のほうが珍しいんでしたっけ」
「金環っスか……。まあ悔やんでいても天気がどうにかなる筈がないっスね。三年後に期待しますか」
「へぇ、金環ってのも結構すぐに見られるんですね。その頃には私、教師として落ち着いているのかなぁ」

百武の言葉に三人はいくらか励まされたようではあった。
その様子を見た百武は胸を撫で下ろしたが、何時もの面子に一人誰かが足りないことに気づいた。

「あれ?そういえばサン先生がいないですね」
「あ、そういえばいないッスね。雨だからプールにはいないはずですし」
「ひょっとしてわざわざ南の島まで見に行ってたりして……」
「泊瀬谷先生、いくらサン先生でもそれはないですよ」

跳月が突込みを入れ、職員室はしばらく暖かい空気に包まれた。

一方その頃、某島にて――
「こんな嵐になるなんて聞いてないよ!こんなんじゃ観測どころじゃ……うわぁぁぁぁ!」
この日、サンは生まれて初めて大空部の力を借りずに空を飛んだという。