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料理せざるもの食うべからず


「くっそー、あの糞兄貴め……」

日増しに強くなる夏の日差しを実感させる昼頃。
中等部の教室の片隅で、アキラが机の上に置かれた弁当箱を前に怒り混じりに愚痴を漏らしていた。
彼が尻尾をピンと立てて怒るのも無理もない。何せその弁当は白御飯の上にエビの尻尾ばかりと言う適当極まる代物。
こんな物を食うくらいならば、自腹切って購買部でパンなり何なり食った方が百倍マシなのであるが、
かといって、食わずに置くと余計に酷い弁当を出されかねないので、彼は仕方なくこの酷い弁当を食わざる得なかった。
と、其処へ同じクラスのネコ族の少女、三島 琉璃が弁当包み片手に通り掛り、彼の弁当にごく当然の感想を漏らす。

「うっわ…エビ尻尾弁当だニャ…アキラ、またアニキと喧嘩したかニャ?」
「ちげぇよ。多分、また糞兄貴のジョークだろうと思うけど……幾ら何でも酷いにも程があるだろ?」
「うん、酷いにも程があるニャ! だからあたしがウィンナー分けてあげるニャ。感謝するニャ」
「うぉぉぉぉっ! サンキュー! 琉璃ちゃんの優しさに涙が出そうだぜ!」

琉璃からタコさんウィンナーを分けてもらった嬉しさの余り、思わず尻尾の回転を全開にしてガッツポーズを取るアキラ。
と、その二人の前に、妙にげっそりとした様子の加奈が通り掛った。
無論、加奈の親友である琉璃は直ぐにそれに気付き、何事かと加奈へと声をかける。

「如何したんだニャ? なんだか妙に元気がなさそうだニャ……耳もべったりと伏せられてるし、何かあったかニャ?」
「あ、ああ……琉璃ちゃん、何でもないニャ。別に心配されるほどの事じゃないニャ……」

そう言うものの、今の加奈は何処から如何見ても心配されて欲しいオーラ満々である。
むろんの事、アキラも一端のイヌの男として黙ってみている訳にも行かず、尻尾をピンと立てて声を掛ける。

「如何したんだよ。何時もの元気一杯な加奈ちゃんらしくないぜ?」
「そうだニャ。エビ尻尾弁当出されたアキラでもこの通り元気なんだから元気出すニャ!」

アキラに続けて加奈を励ます琉璃に、アキラは『その一言は余計だろ』と頭の中で突っ込んだ。
しかし、二人の励ましにも関わらず、耳を伏せたままの加奈はハァ、と重苦しい溜息を漏らし

「エビ尻尾弁当なんてまだ良いニャ…」
『へ?』

アキラのエビ尻尾弁当を見やりつつ溜息混じりに言う加奈に、思わず首を傾げる二人。

「昨日、ボクはお姉ちゃんと喧嘩したんだニャ…
お姉ちゃんは仕事が休みの日はボクの弁当を作ってくれるんだニャ、だけど姉ちゃんの弁当は味付けが薄いんだニャ。
だからその事をジカダンパンしたら、ボクの言い方が悪かったのかお姉ちゃんが逆ギレしちゃって、そのまま大喧嘩ニャ。
そして、その翌日の今日……姉ちゃんが満面の笑顔で出してくれた弁当がこれだったニャ……」

言って、加奈は二人の前に持っている弁当箱を差し出す。
二人は何気にその弁当箱を覗き込み―――そして、そのまま硬直した。
そして、数秒ほどの間を置いて、二人は錆付いた人形の様にぎぎぃと顔を見合わせて確認する。

「な。なあ……俺の見間違いじゃなければ、加奈の弁当……中身がトマトケチャップで一杯なんだが……?」
「い、いや、これは…アキラの見間違いじゃないニャ。 
あたしから見ても、弁当の中がケチャップで満たされている様にしか見えないニャ」

そう、二人の前の加奈の弁当はトマトケチャップの赤一色だった。
それも、ケチャップの下に御飯が敷かれている生易しい代物ではなく、もうケチャップ以外に何も入っていないのだ。
多分、加奈の姉である真央が、加奈への怒りととびっきりの悪意を込めてこの弁当を作り上げた(?)のだろう。
そんな姉の怒りがひしひしと伝わる弁当に比べれば、アキラのエビ尻尾弁当はまだ食える分、百倍はマシといえた。
何とも言えない気分を感じたアキラは、加奈へ弁当を差し出して言う

「え、えっと……エビの尻尾と御飯で良いなら、食うか?」
「済まないニャ…感謝するニャ」

世の中には上には上がいる事を痛烈に思い知らされた、夏の昼休みの事だった。

――――――――――――――――――――――終われ―――――――――――――――――――――