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リオレウス利里の災難



「―――ぉぃ……おい、おきろって。起きろよ利里」
「……う……?」

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか? 俺は誰かに揺り動かされた事で目が覚めた。
視線を動かし辺りを確認してみると、少女は俺より少し離れた場所で身体からぴすぴすと煙を上げて気絶しており、
それで用は終わったとこの場から立ち去ったのか、獅子宮先生の姿はこの場には無かった。
校舎につけられた時計を見やると、時間は昼休みが終わる十分ほど前だった。

「利里、大丈夫か?」
「……お、卓かー?」

声の方に目を向けると、俺を揺り起こした人は先ほど保健室送りにされたはずの卓だった。
しかし、今の卓は如何言う訳か、頭から水をぶっ掛けられた様にずぶ濡れだった。

「卓ー、怪我は大丈夫だったのかー?」
「当たり前だろ? 利里。マンションの三階から落ちた事もある俺からすれば、小タル爆弾ぐらい何て事ねーっての。
それを保険委員の奴が大げさに騒いだだけだよ」

卓は答えた後、頭についた水分を振り払う様に頭を軽く振って、更に続ける。

「……しっかし、マジで最悪だったぜ。
俺が保健室に運びこまれた時、白先生は如何言う訳かえらく不機嫌だったらしくてな。
俺の怪我の度合いを見るなり、『この程度ならこれで充分だ』って、おもむろにオキシドールぶっ掛けて来るんだよ。
それで、慌てて白先生から逃げまわっていたら、その様子をたまたま保健室に居てた朱美に指差して笑われてしまうし、
しかもそれを通りすがりの烏丸先輩に写真に撮られるし……」

どうやら卓も卓で俺の知らない所で大変な目にあってたんだなぁ……。
道理で、頭からずぶ濡れなのは白先生にオキシドールをぶっ掛けられたからなんだな。
しかし、不機嫌な時は本当にオキシドールをぶっ掛けてくるんだなぁ、白先生。
次から保健室行く時は、こっそりと白先生の機嫌を伺ってからにしよう。

「取りあえず、利里、そろそろ昼休みも終わりそうだし、とっとと昼飯を食って――」

しかし、卓の言葉はそれ以上続かなかった。
背後から伸びた、白の毛皮に覆われた手にその頭をむんずと捕まれた事によって。
卓の頭を掴む手の主は、不機嫌オーラ全開に尻尾を振りたくる白先生。
先生は卓の頭を掴んだまま、怒気混じりに言う。

「御堂……私が折角治療してやっていると言うのに、その途中で逃げ出すとは良い度胸だな?」
「……え、えっと、だから、怪我は大した事は無いんだし。それに、そもそもこれで充分だと言ったのは先生じゃ――」
「問答無用だ! とにかく来い! お前の様な奴は治療が終わるまで保健室から出してやらんから覚悟しろ!」
「ちょ、だから先生、俺の話を聞いて、つか、爪が頭に食い込んで痛い痛い痛いぃぃぃぃ……」

そしてそのまま、卓はドップラー何とかで悲鳴を残して先生に引き摺られて行った。
それを前に、俺には如何する事も出来なかった。そう、ここで迂闊に手を出せば俺もとばっちりを食らいそうだったから。
……すまん、卓、不甲斐ない親友の俺を許してくれー!

「なんだか良く分からないけど、気絶しているうちに邪魔者が消えたニャ。これでもう邪魔は入らないニャ!」

背に掛かった声に思わずびくりと震える俺の尻尾。
恐る恐る振り返ってみれば、其処には鎧の所々を焦げつかせた少女の姿。
どうやら、俺が卓と先生に気を取られている間にきっちりと復活を遂げていた様だ!

「さあ、ここがテングの納め時ニャ、リオレウス! 今度こそ覚悟ニャ!」←(テングじゃなくて年貢です)

大剣を頭上高く振り上げる少女。
対する俺は座った体勢の所為で飛び退く事も出来ず、ただ、振り下ろされる大剣を見上げる事しか出来ない!
――ああ、せめて討伐じゃなくて捕獲ですませて欲しいなー、と俺が心の内で諦めかけたその時!

「お兄ちゃんをいじめるなぁぁぁぁぁぁっっ!!」

ど っ ご し !

「―――へぶし?!」

―――叫び声と共に、横合いから凄まじい勢いと早さでやって来た小さな影のぶちかましによって、
少女は大剣を振り上げたポーズのまま思いっきり吹っ飛ばされ、土煙を上げながらごろごろと地面を転がった。
寸での所で俺を助けたその小さな影は、俺が良く見知った子だった。

「奈緒!?」
「お兄ちゃん!」

そう、その子こそ、俺の命より大事な妹の奈緒ちゃんその人だっ!
皆は小等部ではコレッタが一番可愛いとか言っているが、俺にとっては奈緒こそ小等部で一番可愛いと思っているぞ。
奈緒は俺が余程心配だったのか、捲くし立てる様に聞いてくる。

「お兄ちゃん、お怪我は無い? 痛い所は無い? 尻尾は斬られなかった?」
「おう、ちょっぴり焦げたけど俺は大丈夫だぞー」
「よかった、お兄ちゃんが大きな剣を持ってる人にいじめられてるってコレッタちゃんから聞いた時、
あたし、本当にお兄ちゃんの事が心配だったんだー」

俺が無事と知るや、直ぐ様喜びの声を上げて俺の胸へ飛びつく奈緒。
こんな不甲斐ないお兄ちゃんのピンチを救いに来てくれるなんて、奈緒は何て良い子なんだろうかー!
余りの良い子っぷりに思わず頭を撫でてやりたくなってくるぞ。

「く、く…まさか…最小金冠のレイアまで現れるなんて予想外だったニャ。
け、けど、しかしだニャ。勇猛なハンターたるボクはこの程度の事でリタイアはしないニャ!」

兄妹で喜んでいたその横で、ゆらりっ、と根性で立ち上がる少女。
何と言うガッツ! 多分、そのリオソウルZにはド根性珠を付けているに違いないぞ!

「駄目! お兄ちゃんをいじめさせないよ!」
「フギャ! 一度ならず2度も邪魔する気かニャ!」

小さな両手を一杯に広げて少女の前に立ちふさがる奈緒。
対して大剣を振り上げ尻尾をくねらせながら不機嫌に叫ぶ少女。
ああ、何てお兄ちゃん想いな良い妹なんだろうか。けど、危ない事は駄目だ!
こんな不甲斐ないお兄ちゃんの為に、お前を危険に晒したくは無いぞ!

「俺の為に奈緒を傷付けさせはしないぞ! ぎゃおー!」
「お兄ちゃん!?」
「こ、こら! 兄妹愛を見せつけるのは良いけど、庇うのか庇われるのかどっちかにするのニャ!」

両手を広げて少女の前に立ちふさがった俺の行動に、奈緒は驚き、少女はごもっともなツッコミを入れる。
確かに言いたい事は分かるけど、俺は自分が傷つくのはイヤだけど、それより奈緒が傷つく方がもっとイヤなのだ。
さあ、来い! 自称ハンターの少女! 幾ら部位破壊されようとも妹には指一本触れさせやしないぞ!
と、俺が覚悟を決めた所で、気を取り直した少女が大剣を振り上げて、

「ま、まあいいニャ、こうなれば二人まとめて狩ry―――はうん」

――ぱむ、と乾いた音が響くと同時に妙な声を上げ、大剣を振り上げたポーズのままぶっ倒れた。
やがて周囲に聞こえ始めたのは、すぴーすぴーと言う何とも気の抜けた少女の寝息。
見れば、少女の後首には飾り羽のついた注射器のような物が突き立っていた。
……コレは一体……?

「……」

ふと、こちらに向けられた視線に気付き、寝ている少女へ向けていた視線をその方へと向けると、
其処に立っていたのはこれもまたモンハンに出てくる装備品を身に纏った、俺と同級生と思しき兎の少女の姿。
彼女と俺を討伐しようとしていた少女との違いを挙げるとすれば、
その身に纏っている装備品は映画に出る様な踊り子を思わせる全身に、顔の下半分を隠す布製の覆面。
(俺の当てにならない記憶がたしかならば、これはブランゴZシリーズのガンナー用だった筈)
そして手にしているのが、擦ったら何か出てきそうな薄紫色のランプ型ライトボウガン。
(たしか、これはマジンノランプだったかな? それもロングバレルの)
恐らく、彼女はこのライトボウガンの麻酔弾で俺を討伐しようとした少女を眠らせたのだろうか?
そしてもう一つ言うなら、俺の頭に大剣が当たる直前で逸らしたのも、彼女がやったのだろうか?

「…えっと…その……後輩が…迷惑をかけました……」
「え? あの、ちょっと?」

俺達が礼を言う間すら与えず、彼女は何処か恥かしそうに長い耳を揺らしてぺこりと頭を下げると、
おもむろに眠っている少女の後首を掴み、そのまま凄い勢いで走り去っていった。

……少女をずりずりと引き摺りながら。
しかも少女をコンクリートの出っ張りとか石とかにガン、ゴンとぶつけながら。
おまけに何かぶつかる度に、少女から「ぐえっ」とか「みぎゃっ」とか悲鳴のような声が聞えた気もする。
まあ、それは気の所為にしておくとしよう。俺は深い事は気にしない性質なんだ。

「な、何だったんだろうね?……あの人達」
「さ、さぁ……?」

呆然と漏らす奈緒の言葉に、同じく呆然としている俺は生返事を返すしか出来ない。
多分、あの兎の人と猫の子はモンハン好きが高じてコスプレまでする様になった人達、なのだろう。
モンハンが好きなのは俺も同じなのだが、流石にコスプレをしてリアルでモンハンごっこをする程ではない。
世の中は広い、と親友の卓が偶に言う事があるが、今回ほどその言葉を深く理解した事はなかったぞ。
あんな人達が校内に居るなんて、世界は本当に広いんだなぁ……。

……あ、そういえば、俺達を助けてくれた彼女の頭のレースのリボン、何処で見たような……。
そう、あれはたしか、二月の中頃に―――

「ねぇ、お兄ちゃん。所でさ…何か重要な事を忘れている気がしない?」

しかし、半分ほど開き掛けた記憶のタンスは、奈緒の何気ない問い掛けによって再びピシャリと閉じられてしまった。
まあ、無理して思い出すほどの物じゃないのだろうなー……多分。

「何か重要な事って……何だったかなー? 思い出せないや。 奈緒は分かるかー?」
「うーん、それがあたしも思い出せないんだよねー。何だったかなー?」

トゲトゲの尻尾をゆらゆらと揺らしながら考える俺と奈緒。
そしてしばらく考えた後。は、と二人同時にその『重要な事』を思い出し、尻尾を跳ね上げて叫ぶ。

「「あぁっ! 昼御飯食うの忘れてたぁっ!!」」

しかし無情にも、それと同時に俺達へ昼飯のお預けを告げる昼休み終了のチャイムが鳴り響いたのだった。



竜崎兄妹が慌てて校舎へ戻ったその頃。

「……所で、私は何時までこうやっていれば良いんだ……?」

大タル爆弾の爆発によって吹き飛ばされて中庭の木の枝に引っ掛かり、
そのままの状態で忘れ去られた獅子宮先生がすっかり不貞腐れていたという。

――――――――――――――――――――了――――――――――――――――――――