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リオレウス利里の災難



「あともう少し、あともう少しで抜けるんだニャ。それまで待ってるんだニャ!」

と、俺が物思いに耽っている内に、少女が廊下に食い込んでいる剣を後もう少しで引き抜こうとしていた。
むろん、それを呑気に見ている程、俺はおバカじゃない。とっとと逃げさせてもらうぞ。

「アッ、こらっ! 尻尾巻いて逃げるのかニャッ! 本当にヘタレウスだニャ!」

ちょ、流石にヘタレウスは心外だぞ! 
分からない人に教えておくが、ヘタレウスとは某飛竜が余りにも良く飛んで逃げる事から付けられた蔑称だ。
言っておくが、俺は某飛竜みたいに火球を吐く事も無ければ、ましてや朱美の様に空を飛ぶ事なんて出来ないぞ。
其処をあの少女には分かって欲しいな。……あれ? 突っ込む所が違う? 細かい事は気にしないぞ。
と、それより、早く逃げないと……。
そう、俺が踵を返そうとしたその時!

「やっと見つけたぞ、利里。 何時もの屋上にいないと思ったら、こんな所で何やってるんだ?」

掛かった声に振り向けば、其処に居たのは小等部以来の俺の親友である卓の姿。
多分、何時もの場所に一向に現れない俺を探してここまで来たのだろう。

「卓、今はここで話している場合じゃないんだー! 今直ぐここから逃げ出さないと……」
「フギャッ! やっと剣が抜けたニャ」

何とかこの場から逃れたい一心で、俺が卓へ説明をしようとした矢先。
床に食い込んだ剣を尻餅をつく形で引き抜いた少女が、大剣を重そうに引き摺りながら尻尾の先で俺を指して言う。

「……さあ、いい加減覚悟するんだニャ、リオレウス!」
「……リオレウス?」

そんな少女の横入りに、卓は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた後。

「ぶっ、お前、前々から似てる似てるとか言ってたけどさ。ぷぷっ、遂に他の奴にまで言われる様になったか。
しかもハンターごっこの討伐対象役にさせられるとはな? くくっ、こいつは傑作だ!」

腹を抱えて笑い出した卓に、俺は尻尾の先を床に叩きつけながら必死になって言う。

「卓、笑っている場合じゃないぞ! この子は結構ヤバイんだー!
あの持ってる武器はコンクリートの床を簡単に割り砕くような代物なんだぞー!」
「はっはっは、中々本格的じゃないか。 見た所、あの子の持っている大剣は封龍剣【真滅一門】って所かな?
んで、着ている装備はリオソウルZシリーズか。結構良く出来たコスプレだな」

言いながら、卓は大剣を背中へ納刀しようとしている少女へ歩み寄る。
そして、卓は諭す様に少女の肩を軽く叩きながら

「言っておくけどな、お嬢ちゃん。あいつはあんなナリだけど俺の親友で、人畜無害な良い奴なんだ。
だから、そんなリアルモンハンごっこに巻きこむのは止めて……」
「五月蝿いニャッ! これでも食らえニャ!」

不機嫌に叫びながら、少女がポーチから取り出した物を卓へ投げつける。

それを何気に両手でぱしっと受け止めた卓は、感心した様にそれを眺め

「へぇ、何かと思えば小タル爆弾だよ。 これも中々良く出来――」

ど ぐ わ っ !

「――てべしっ!?」

閃光、爆発、コゲながら吹き飛ぶ卓。
まさか爆発物まで持っているとは、本気でやばいぞこの子は……と言うか、それはオトモアイルーの攻撃だ。
って、それより卓は大丈夫なのか!?

「ああっ、大きな音がすると見に来て見たら、爆弾テロに巻き込まれた人が居るじゃないか!?
この様子だと全身骨折に内臓破裂が考えられるぞ! 早く救護しないと」
「つつ……いや、爆発の割に対した事はなかったし、大丈夫……」
「重傷の患者と言うのは怪我した直後は最初にそう言うんだ。そう、自分の怪我の度合いを把握していないからな!
だから何かある前に、早く保健室へ連れていって救護処置を行わないと。こうしている間にも時間が惜しい!」
「ちょ、だから連れていくのは止めてぇぇええぇぇぇぇ……」

あ、通りすがりの保険委員の人に連れていかれた。 
引き摺られながらも騒ぐ卓の様子から見て、本当に爆発の割に大した事無かったみたいだな。良かった良か……

「邪魔者は消えたニャ。これで心置きなくお前の討伐が出来るニャ」

―――ちっとも良くなかったぞぉぉぉぉぉっ!?
これは早く逃げないと、本気でこの少女に討伐されかねないぞ!

「と、討伐されるのは本当にゴメンだぞっ!」
「あ、待つんだニャっ!」

少女へ叫ぶと、踵を返した俺は全速力でその場から逃げ出すのだった。
――卓、巻き込んで本当にゴメンよ――
などと心の内で謝りながら。


「フゥ……ここまで逃げれば大丈夫かなー?」

それから暫く経って、何とか少女を振り切った後。
俺は高等部のある1号棟と小等部・中等部のある2号棟の間にあるテニスコートほどの広さの中庭で、
持っていたパック牛乳を飲みつつ一息付いて。周囲を見やりながら一人、呟きを漏らした。

「全く。本当に酷い目にあったぞ……。
それより、卓は大丈夫かなぁ? 白先生にオキシドールをぶっ掛けられてなければ良いけど」

中庭に据え付けられたベンチにどっかと座り、更に独り言を漏らす。
白先生、普段は優しいんだけど、不機嫌な時となると軽症のヒトにオキシドールをぶっ掛ける事があるからなぁ。
でも、何で不機嫌な時があるんだろ? 朱美に聞いたら「セーリだからね」とか言ってたけど……セーリって何だ?

「本当に卓が心配だぞ……」
「ヒトの心配をする前に自分の身の心配をするのニャ」
「……っ!?」

横から掛かった声に驚きつつ振り向けば、其処には振り切った筈の少女の姿。
ここの場所は校舎と校舎の間の入り組んだ場所だから、そう簡単に見つからない筈だと思ってたのに!?
そんな俺の驚きを、尻尾の動きで見て取ったのか、ネコの少女は自慢気に胸を反らし、

「どうやら、お前はボクから逃げ切った気になっていた様だけど、
お前の尻尾に付けたペイントの匂いを追って行けば直ぐ見つけられるニャ! 残念だったニャ!」

言われて見れば、確かに尻尾の先にピンク色の粘性の液体が貼りついていた。
ペイントボールまで持っているのか、この子。 卓が言うように中々本格的だぞ……って、感心している場合じゃない!

「さあ、今度こそお前を討伐してやるのニャ! リオレウス、覚悟するのニャ!」

叫んで、少女が剣を振り上げて俺へ襲い掛かる!
―――マズい、避けきれない!

かん――ず ば き ん

「……!?」

しかし、振り下ろされた大剣は俺に当たる直前にいきなり横に逸れ、ベンチを叩き割るだけで終わった。
……今さっき、横から飛んできた何かが大剣に当たってた様に見えたけど……俺の気の所為かな?
当然、少女の方も当たらなかった事に対して不思議そうに首を傾げ、

「あ、あれ? しっかり狙った筈なのに……って、ああ! またベンチを壊しちゃったニャ! お前の所為ニャ!」
「ちょww如何見ても完全に君の所為だろー!?(ガビーン)」

ベンチを壊したのを俺の所為にされ、堪らず抗議の声を上げる俺。
だが、少女はもとより俺の言葉を聞くつもりはないらしく、

「剣が当たらないならば、これなら如何ニャ!」

言って懐から取り出し、両手で頭上に掲げたのは、
小さなポーチの何処に入ってたのだろうか、少女の身体程はあろうかと言う大きい樽。
まさかとは思うが、アレは……!

「この大タル爆弾で死なば諸共ニャ! 特攻だニャ!」

その言葉と同時に、タルからシュンシュンと上がる火花。
や、やっぱり、思った通り、アレは大タル爆弾だったか! と言うか、それもオトモアイルーの技だ!
……となると、卓を吹き飛ばしたアレよりも爆発がかなり強烈になるぞ!?

「リオレウス、ボクと一緒に死ぬのニャ!」
「ちょwww、おまwwww」

驚きうろたえる俺へ、少女が大樽特攻で迫ろうとしたその矢先!

「其処までだ」

唐突に、横から俺と少女の間に人影が割って入る!
恐らく、この辺りで煙草を吸っていたであろうその人影は、俺にとって良く見知った上に、とても頼もしいヒトだった。

「獅子宮先生!」
「大丈夫か? 利里少年」

俺の上げた声に、獅子宮先生は俺の方へ軽く振り向きながら、咥え煙草をセキレイの尾羽の様に揺らして言う。
ピンチの時に現れた先生の後姿は、かつて聞いた噂の通りのヒーローその物だった。かっこいいぞ、先生!
獅子宮先生はそのまま数秒ほど俺を見た後、俺が大丈夫だと確認したのか、ふむ、と呟いた後、
尻尾を揺らしながら少女へ向き直り、

「さて、如何言う事情でこんな事をやっているかは私には分からんが。
今、加奈少女が利里少年へやっている事は流石に教師として見過ごしては置けない行為なのでな。
加奈少女には悪いが、ここは実力行使で止めさせてもらうぞ?」
「ちょ、ちょっと、邪魔したら駄目だニャ、巻き込んじゃうニャ!」
「……?」

獅子宮先生が1歩踏み出した所で、妙に慌て始める少女。
その態度の急変に、先生は一瞬だけ怪訝な表情を浮かべた後。

「そう言えば、さっきから気になっているが、君の持っているこのタルみたいな物は何だ?
火花が出ている所から見ると花火の様だが……」
「ああっ! 叩いたら駄目ニャ! 爆発――」

不思議そうに首を傾げながら、何気に少女の掲げているタル爆弾をこつんと軽く叩いた。
ちょ、先生、それは一番ヤバ――

ド ワ ォ ッ ! !

次の瞬間、叩かれた衝撃で起爆したタル爆弾の爆発と閃光が、俺の意識を光の彼方へ吹き飛ばした――