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直情径行


「うー寒寒。名残雪にしても降り過ぎだろ、コレ」

春も目前に控えたとある休日、俺は文字通り凍えるような寒さに身を震わせながら独り呟きを漏らした。
もう啓蟄を過ぎた時期だと言うのに、冬の最後っ屁の様に雪が降り続いている。
この調子だと周囲が雪景色に変わるまでそう時間は掛からないだろう。

こんな雪の日となれば、イヌ族や白熊族のケモノ達はさぞかし喜び勇んで外へ飛び出して行くことだろう。
しかし、毛皮の無い人間である俺にとしては、こう言う日は自分の家でコタツに入りながら携帯ゲームと行きたい所である。
だが生憎、今の俺にはこのくそ寒い中、外へ繰り出さなければならない理由があった。

「ったく、利里の奴、何処へ行ったんだ?」

そう、TVニュースで啓蟄が過ぎた事を知った利里が外へと(それも雪が降る中)遊びに出てしまい。
利里が冬眠し出す前に探し出して欲しいと利里の両親から頼まれたのだ。

……本来なら、ここは利里の両親が捜索に出るべきなのだろうが、
この寒さの中だ、爬虫類の人がヘタに外に出れば親子共々冬眠する羽目になるだろう。
其処で、冬でも平気な人間であり、それで居て利里と一番親しい俺の出番となった訳で。
俺は最後っ屁の雪が降り続く中、恐らく冬眠しているであろう親友の捜索に出たのだ。

「しっかし、こうもじゃんじゃん降られると本気で周りが見えないな……」

多分、ここに居るだろうと適当に検討をつけた中央公園に到着した頃には、雪の降りは絶好調になっていた。
むろん、降り続く雪の所為で視界は最悪だ。殆ど白ばっかりで数メートル先の物ですらはっきりと判別できない。
コレが所謂、雪山で一番恐れられていると言うホワイトアウトと言う現象なのだろうか。まさかここで体験するとは……。
この調子だと、利里の捜索はかなり難航しそうだ。 

「ん? アレは……?」

それでもめげずに捜索を続けて数分経った頃、俺は降り続ける雪の中に動く物を視界に捉えた。
何だか黒っぽいもこもことした怪しい物体。それに対する最初の第一印象はこれだった。
取りあえず、それが妙に気になった俺は正体を確かめようと近づいてみる。

「うわっ、怪し!」

近づいて見ても怪しい物体は怪しい物体でしかなかった。
――いや、物体と言うより人、の方が近いかもしれない。パッと見た目はフードを目深にかぶった人、
なのだが、分厚いフード付きコートを何枚も着込んだのだろう、そのシルエットは完全に丸に近い形をしている。
コレに近い物の例を挙げろと言われたら、多分雪ダルマか太った熊族が近いかと思う。或いは歩くダルマストーブ。

当然と言うべきか、着こんだ生地の厚さの所為で両脇が完全に締められないらしく、両腕を始終ぶらぶらとさせていた。
そして下半身の方もズボンを何枚も着こんでいるのか、かなり歩き辛そうによちよちと歩いていた。
何と言う怪しい人、これは間違い無く通報される……。と、俺が思わず思ったのも無理も無いだろう。
当然、俺は余り係わり合いにならない方が良いと賢明な判断を下し、
そそくさとその場から立ち去ろうとした矢先。

「あれ? 其処に居るのは……」

背に掛かる何処か篭ったような声に、俺は思わず足を止めてしまった。
しまった! このまま無視してさっさと立ち去れば良かったんだ。なのに何で足を止めちゃうかな? 俺。
仕方なく、俺はその声を掛けてきた怪しい人の方へ振り向く。


「あ、やっぱり、御堂君だ。 如何したの? こんな寒い時に……」

そんな俺に向けて、よちよち歩きで歩み寄りながらやたらと親しげに話しかけてくる怪しい人
なんだかずいぶんと馴れ馴れしい奴だ。と言うか、こいつは何で俺の名前を知ってるんだ?
と、どうやらその思考が表情に出ていたらしく、怪しい人が何処か慌てた感じで言う。

「や、ちょっと。私だって、隣のクラスの蜂須賀だよ。
だからそんな『何だこいつ?』と言いたげな眼差しは止めて」
「へ……?」

思わぬ名に思わず間の抜けた声を漏らす俺。それをどうやら信じていない物と取ったのか、
怪しい人は声にむっとした物を混じらせ、目深にかぶったフードを捲り上げて見せた。
「仕方ないな、如何しても信じないなら……ほら!」

フードの奥から出てきたのはオレンジ色の般若…じゃなくて見間違え様もない蜂須賀さんの顔だった。
ここで同じ顔をした彼女の姉妹と言う可能性もあるが、ここで俺を騙した所で意味はないだろう。
……にしても、彼女の顔は何時見ても心臓に悪い。一瞬、驚きの声をあげそうになったし。

「いや、疑って悪かった。……で、所で蜂須賀さんは何でこんな寒い日にこんな所に居るんだ?」
「ああ、それはね……実は言うと今、堅吾のバカを探している所なんだ。 ここら辺で見なかった?」

なんだ、彼女も人探しの最中だったのか。こんな寒い中をご苦労様である。
んで、堅吾と言うと、あのワンタッチヒーターの異名を持つカブト虫人か……。
こんな寒い中を出歩くなんて、本当に考え無しなんだな。利里もそうだけど。

「残念だが、堅吾の奴は見なかったな。 と言うか、俺も利里の奴を探している所なんだが」
「あれ? 奇遇だね? 卓君も人探しの最中なんだ」

フードを被り直した蜂須賀さんが触角をピンと跳ね上げて聞き返す。

「ああ、そうなんだよ。利里の奴、啓蟄が来たとか何とか言って、このクソ寒い中を飛び出してってな。薄着で」
「うわぁ。 こっちもこっちで堅吾のバカ、我が春が来たとか喜び勇んで止めるのも聞かずに飛び出してね。薄着で」
「……お互いに考え無しな友人を持つと、本気で苦労するな」
「そうだね。フォローするこちらの苦労を、一度くらいは考えて欲しいもんだよね……」

言うだけ言って、俺も蜂須賀さんも深い溜息を漏らす。
どうやら、彼女も俺と同じ立場だった様で……

「じゃあ、二人で手分けして探すとするか? 一人で探し続けるより二人で探した方が見つかるかもしれないし」
「その方が良いね。このまま寒い中うろついてると私も生命の危機に直面しそうだし」
「そういや、蜂須賀さんも虫人だから寒さに弱かったんだよな……」
「そうだよ。 私達虫人は卓君の様な哺乳類種の人とは違って、体温の調節が出来ないからね。 
こんな寒い日はこんなダルマストーブみたいな格好じゃ無いと割と本気で死ねるし」

言って、着膨れした自分の脇腹(人間で言えば)の部分をパンパンと叩く蜂須賀さん。
……そう言えば、鎌田の奴は元気なのだろうか?
利里や堅吾みたいに啓蟄と聞いて外に飛び出していなければ良いのだが……。

「それじゃ、俺は公園の南門の方を探してくるから、蜂須賀さんは北門の方を頼む」
「うん。利里君を見つけたら直ぐに知らせるよ。 その代わり堅吾を見つけた時は頼んだよ?」
「ああ、それは分かってる。んじゃ、1時間後にこの場所で」
「りょーかい」

一通りやる事を決めた後、俺と蜂須賀さんは二手に分かれて捜索を再開する。
早く見つけてとっとと家に帰ってコタツでぬくもりたい、とか何とか考えながら。


「卓君、堅吾は見つかった?」
「駄目だ、影も形もない。 そっちは如何だった?」
「こっちも駄目。尻尾の先すらも見つからなかったよ」

そして1時間の時間が流れ、周囲が完全に雪景色に変わった頃。
俺と蜂須賀さんは約束した場所で合流し、お互いの成果を報告した。
寒いのを我慢して探し回ったにも関わらず、お互いに成果は芳しくない様で……。

「ったく、利里の奴、本当に何処行ったんだ? この公園じゃない…なら……」

苛立ち紛れに頭をぼりぼりと掻きながらぼやこうとした俺のその言葉が途中で細まり、消えて行く。
何故なら、俺の視線の先には、ベンチの上に二つ並ぶとても大きな雪ダルマがあったからだ。
ま、まさかとは思うが……?

「ね、ねえ……ひょっとするとひょっとして……」
「言うな。 俺だって『ひょっとしてあの雪ダルマがそうじゃないのか』とは考えたくないんだ」
「け、けど、だからといって確かめない訳には……」
「…………」

暫し無言で蜂須賀さんと顔を見合わせた後。
意を決した俺はゆっくりと雪ダルマへ歩み寄り、その表面の雪を払い落として見る。
どうか、ただの雪ダルマでありますように、と心の奥で祈りながら。
―――だが、

「うわぁぁっ! やっぱりか!」

祈りも虚しく、雪の下にはカチンコチンに凍りついた利里の顔があった。
それに俺が驚いた拍子に、隣の雪ダルマも表面の雪が崩れ落ち、同じく凍りついた堅吾の姿を露わにした!

「案の定とは思ってたけど、こうも見事に凍り付いてるとは……!」
「た、多分、たまたま堅吾と利里君がここで出会って、そのまま話をしている内に凍っちゃったって所かな?
……って、冷静に分析している場合じゃなくて、早く蘇生しないと完全にアウトだって!」
「ああ、そうだった! 早くお湯を用意……って、何処から持ってくれば(ry」
「そんなの私に聞かれても(ry」

むろんの事、如何すれば良いのカ分からず、パニックに陥る俺と蜂須賀さん。
だが、そんな俺達を余所にして、冬の最後っ屁である大雪はまだ尚もしんしんと降り続けるのだった。
……どうやら、この雪が解けきるまで、まだまだ春は訪れそうになさそうである。

追記、凍りついた二人をお湯に浸したらあっさりと蘇生した。単純にも程があるだろ……

―――――――――――――――――――終われ―――――――――――――――――――