※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

お受験


獣人の獣人による獣人のための学校、佳望学園。

ゆえにこの学園の人間生徒は、希少な種類の獣人生徒よりも少ない。
それでも毎年、必ず数名の「人間」が入学試験を受ける。
獣人間の交流や異種間コミュニケーションに興味を持つ「人間」が増加の傾向にある今、この時代。
こちらの道にすすむなら今が一番ラクだと踏んで、人間の少女は中等部を受験する。


「算数は余裕だったね、次の社会が山場かねぇ」
「あ、あの試験官、いつも山登ってるオバサンじゃね?」
「しらない。 私の予知夢が確かなら次の試験でリアス式海岸が出る」
「リアルで出そうだから困るし」
「ああもう、落ち着け、この試験さえ通過すればいいのよ、そうすればあとは高校までは安泰よ、美千代は出来る子」
「ミッチーがまた自己暗示にかかってるし……受験はヒトを変えるってつくづく思い知らされるよ」

美千代の後ろの席のリス獣人、大(ひろし)が溜息をついた。
美千代は椅子ごとガガガと振り返り、大(ひろし)を小突く。

「チビ男はいいよねぇ、勉強しなくても頭良くてさー」
「ミッチーのほうが遥かに成績いいだろーが。もはやイヤミにしか聞こえないし、チビ男じゃないし」
「しっかし、まさかチビ男が私とおんなじところ志望してたなんてね」
「だーからチビ男いうなっての」
「こうやって一緒にテストうけるの、運命感じるわ」
「小指見てるし、繋がってないから、赤いモノなんて絶対」
「ああ、もうすこし身長が高ければ」
「……」


チャイムが鳴った11時50分。もっともハングリーな時間帯。
前では早くも熊獣人の女教師が、手馴れた手つきで問題用紙を配る。
ちらっと等高線の問題が見えた。

静寂に包まれた教室で、美千代の席からズドドドと光速で答案用紙を埋める音が聞こえる。
がめついし。尾の無い背中が怖いし。

(絶対合格しなきゃ)
リスは集中できなかった。

(リアス式海岸とは何か3文字以内で説明せよ、だと?)
(……ミッチーの予想当たってる、だが、これは難問だし)
(3文字、「海岸!」とかか?  ……「ぎざぎざ」ダメだ4文字だし ……)
(これはワナだ、罠だから、ここを間違えたら即刻失格になるかもしれないし!! 解かねば)
(だめだ、あたまが、あついし、死ぬし)



「先生!」



突然、目の前で美千代が手を上げた。
受験生の視線を集めながら熊獣人の先生が静かに歩み寄る。
「なにかしら?」
「この⑤の問題、まちがってませんか?」
「あらぁ? やーねーごめんなさい」


熊獣人の先生は、黒板まで戻り、⑤の問題の修正を書き出した。
これは、今まさに大(ひろし)を苦しめる、リアス式海岸。

「3→30」

簡潔で明快。分からないところがすべて分かったかのような爽快感につつまれた。
これなら解ける。
これほどの幸せを感じたことがあっただろうか。
これほど、目の前の尾の無い背中が天使に見えたことがあっただろうか。


束の間の幸福は、試験終了を告げるチャイムで掻き消された。
リスは焦りを隠せない。
未練のある答案用紙は、目の前の天使によってふんだくられていった。


~~~~


佳望学園の中等部合格発表は、試験当日その日に出される。
美千代は余裕しゃくしゃくだが、大は胃が痛い。

やがて模様のおかしいパンダと小学生みたいな先生が、
合格番号がずらっと書かれた紙を丁寧に壁に貼り付けていく。
高いところに画鋲が刺せない小さな先生。それを傍観しニヤリと笑うパンダ。


「チビ男が暗い顔してる」
「な、なんでもないし。     あ、俺はチビ男じゃないし」
「私は受かった、余裕よこんなの、あんたは?」
「まだ見つからない」
「おちろ、おちろ、おちろ、おちろ、おち」
「やめい!」


やがて、小学生先生がこちらを指差して、パンダ先生が猫背でこちらを見る。
二人ともメガネの光り方が怖い。
楽しそうな小学生先生、愉しそうなパンダ先生。

「いた! いたいた!」


「板? この子? この子がどうしたんスか?」
「丸谷大くんだよ、中等部のクラス3の一番後ろの窓際二列目の席で受験してた」
「すんげぇ記憶力っスね、あいかわらず」
「だって、人間の子の後ろだったから、すっごく印象に残ってるの。 ボクと同じぐらいの背丈だし」
「先生の方が小さ、いや、なんでもないっス」


小学生先生がポケットから小さく折りたたまれた紙をとり出した。
この紙は、大の未練がましい社会の解答用紙。

「ひろしくん、名前欄も埋めてね」
「え!?」
「ほら、いま書いちゃえ! 内緒にするから」

小学生先生が微笑む。パンダもニヤリと笑う。

「ここだけの話、名前書き忘れの常習犯は学園内にもいるからね」
「いまスからねぇ、サンタクロース先生」
「へへへぇ~」
「むふふう~」

「チビ男、おまえ名前書き忘れたのかよ?」
「うっさい   チビ男じゃないし」
「以後きをつけるように」
「シカみたいにならないように、むふっ!」

ほのぼのとした空気の中で、大は赤面していた。
大急ぎで鉛筆をとりだし名前欄を埋めた。
するとすぐに小学生先生が大から突然鉛筆を奪い、合格発表の一番最後に番号を書き足した。

「じゃあ、入学式で」
「シカみたいにならないようにお会いしましょう、くふっ」
明るく笑う先生と、陰湿に笑う先生。 光と影。


きっと学園生活は素晴らしいものだろう、と大は思った。
こんなに楽しい先生がいる、そして幼馴染とまた一緒。



「チビ男さ」
「チビ男じゃないし」
「もーさ、中学生にもなってチビ男じゃかわいそうだからさ、リス男にする」
「それも嫌だ」
「じゃあリスカ」
「もっと嫌だし! ……ミッチー、昔みたいに『ひろし』って呼んでよ」
「わかった、じゃあねチビ男!」
「……」


今日は良い一日だった。