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Blue sky ~二筋の入道雲がやってきた~ "後編"


ずがしゃぁぁぁああん!

大きな人影が子供に投げられた玩具の人形の様にぽぉんと宙を舞い、凄まじい音を立てて植え込みへ落下する。
鈴鹿さんの投げっぱなしジャーマンによってブン投げられた、名もなき熊の女子プロレス部員の辿った末路である。

戦いが始まった当初。
俺も白頭も、相手の数が数だし、鈴鹿さんも流石に持たないだろうと思っていた。
無論、それでもしもの事があれば直ぐにでも誰かに連絡が取れるように。それぞれ携帯を用意していた、
のだが……それははっきり言って必要なかった。

「うぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

鈴鹿さんは強かった。――いや、訂正しよう。鈴鹿さんは凄まじく強かった。
もうそれこそ、並み居る敵をちぎっては投げちぎっては投げの獅子奮迅の大活躍。(まあ、鈴鹿さんは虎人だが)
俺よりも、いや、下手すると空子よりも背の高いケモノが、まるで玩具のようにぽんぽんと宙を舞って行くのだ。
無論、鈴鹿さんのプロレス技によって、である。

しかし、敵もさる者引っかく物で、対する女子プロレス部員達は何度もプロレス技を食らって投げ飛ばされても。
すぐさま不屈の闘志と根性で立ちあがり、負けるかとばかりに果敢に鈴鹿さんへと挑みかかって行く。

……こんな調子で、鈴鹿さんVS女子プロレス部員一同の戦いは約30分近くに渡って続いていた。

「ねえ、この戦いは何時終わるのかしら……?」
「さあな? どっちかがヘトヘトになるまで続くんじゃないか?」
「んー、なら、アタシは一時間後に100円と言った所かしら」
「じゃあ、俺は30分後に50円で」

もう、この時となると俺と白頭は観戦するのも飽きてしまい、何時戦いが終わるかの賭けを始めていたりする。
……あ、また一人、ジャイアントスゥイングで投げ飛ばされた。尻尾が長い蜥蜴人だから投げやすかったのかなぁ?

「ねえ……ソウイチ? 今、気付いたんだけど……」
「ん? なんだ、白頭?」
「何だか……だんだん闘いの場所が、この部室兼作業小屋に近づいているみたいなんだけど……」
「……げ、ホントだ」

白頭に言われて見下ろした先には、乱戦が作業小屋のもう直ぐ近くにまで迫ってきている所だった。
をいをい、このままだと下手すれば作業小屋が闘いの舞台になりかねないぞ?
いや、それ以前に、外に飛び出した時、作業小屋のドアを開けっぱなしにしてたんだ。
多分、このまま戦いが続けば、確実に作業小屋の中が闘いの舞台となるだろう。
もし、そうなれば、作業小屋に置かれている『ブルースカイⅩ』が大変な事に……!

「拙い……早く止めないと!」

そう考えると、俺は居ても立っても居られなくなり、部室兼作業小屋の屋根から下りようとする!

「ちょっと、ソウイチ、何をする気なの!? 危ないから降りるのはやめて!」
「止めるな、白頭! このままだとブルースカイが!」

がしゃぁぁぁぁぁん……。

白頭の翼手の羽毛に顔面を塞がれる形で俺が足を止めた矢先。
部室兼作業小屋の中から、俺にとってもっとも聞きたくない音が響き渡った。


「あの音って……」
「まさか……まさか!」

その音に動きを止めた白頭の一瞬の隙を突いて、
俺は彼女の翼手を振り払うと、呟きに焦りを入り混じらせつつ屋根を蹴って、地上へと降り立つ。

「うう……部長、酷すぎっス……」
「……あたし達、こんな役目で終わり……?」
「まさに……かませ犬、ね……」

俺が屋根から飛び降りた時には、既に粗方の戦いは終わっていたらしく、
女子部員達が木に引っ掛かっていたり、茂みに上半身を突っ込ませたりと思い思いの姿でうめいていた。
しかし、俺はそれを一瞥する余裕すらなく、ドアが開きっぱなしの部室兼作業小屋へ突入する!

「くっ……」

俺が中に入った時、部室兼作業小屋を舞台にした戦いは既に佳境を迎えていた。
部室の奥のほうでガクリと膝を付き、疲労を隠せず荒い息を漏らすのは鈴鹿さん。

「最初から、これが狙いだったか、鈴華姉さん!」
「ふん、その通りだ。 流石の私でも、実力がほぼ同じなお前相手では、こちらが負ける可能性があるからな。
それを避ける為、予め我が女子プロレス部員全十二名を先にぶつけてお前の疲労を誘い、
こちらにとって有利な状況に持ち込んだ訳だ」

鈴鹿さんの怒りの声に、その前に立つ鈴華はしてやったりな笑みを浮かべて言い放つ。
……体育会系な人の割に悪知恵は働く様である。

「だが、私はそれでも、姉さんの思い通りにはならない!」

牙を剥き出しにして咆哮を上げ、鈴鹿さんは疲労に侵された身体を奮い立たせる!
と、其処でようやく、俺は鈴鹿さんの向こうにある物を目にする事が出来た。

それは、胴体の半ばでへし折れた『ブルースカイⅩ』の哀れな姿。
多分、鈴華によって鈴鹿さんが投げ飛ばされたその際、それの巻き添えを食ってしまったのだろう。

ぶちむ

……その時、俺の心の中の何かが、決定的な音を立てて切れた。

「まだ減らず口を叩ける余裕があるようだな。鈴鹿。
我が妹ながら中々の根性だよ。部員達にも見習わせたいくらいだ」
「その部員達を…捨て駒にした者が言う台詞か! 姉さん!」
「捨て駒ではない、部の為に懸命に戦ってくれた勇士達、だ……まあ、物は言い様だな?」
「くっ、何処までも卑劣な……」

何やら勝手に作業小屋の中でドラマを作り出している姉妹を余所に、俺は静かにその準備を整える。
これを繋げて、更に変圧器にかませて、コンデンサー接続、動作チェックもOK……。


「さて、お喋りもここまでだ、鈴鹿」

勝利を確信しているのか、鈴華は余裕綽々とばかりに悠然と構えをとるー―
と、その時。

ばちばちばちばちっ!!

「そろそろ勝負をはびゃばばばばばばばばっばばばっ!?」
「……!? 姉…さん?」

突然、何かが弾ける様な音が鳴り響き、鈴華は台詞の途中から奇声に変えて身体をびくびくと痙攣させる。
無論のこと、鈴鹿さんは何が起きたのかも分からず、目を丸くして呆然と呟く。

「……ったく、姉妹喧嘩なら余所でやってくれ」

やがて、頭から煙を上げながらばったりと倒れ伏し、
そのまま気を失った鈴華の向こうに立っていたのは、不機嫌な表情を浮かべる俺の姿。
その絶縁手袋をはめた手に持つのは、様々な機器を介して伸びる電気工事用に使われる赤と黒のプラグ。

「風間部長、何時の間に!? それに、姉さんに一体何を?」
「あんたらが自分に酔ってる間に、軽く高電圧をかましてやっただけだ」

プラグの間でバチバチと放電させつつ、俺は鈴鹿さんの質問に答える。

――俺は姉妹が自分に酔っている間、『ブルースカイ』に使われている大容量バッテリーに変圧器をかませ、
更にその回路へコンデンサーを加えて瞬間電力を増大、その上でこっそりと鈴華の後へ周りこみ
彼女の死角からその尻尾へ高電圧の流れるプラグを押し当ててやったまでである。

その場の怒りに任せて回路を組んだから、プラグ間に何ボルト発生するかとか一切考えていなかったのだが。
このプラグの間の放電具合から見て、発生している電圧は軽く数千ボルトは越えているみたいである。
……まあ、彼女はガタイが大きいし、押し当てたのもホンの数秒だから死にはしないだろう……多分。

「済まない、風間部長……危ない所を助けていただいて」
「助けるつもりなんてねーよ。 俺は単に、飛行機が壊された事に腹を立ててやっただけだ」

申し訳なさそうに礼を述べる鈴鹿さんに、
俺は未だに気を失っている鈴華(流石に数千ボルトはちょっとマズかったか。数千ボルトは)を見下ろし、
ごく当然とばかりに返す。

「ソウイチ! 何かさっき凄い音がしたみたいだけど、大丈…夫…?」

と、其処でようやく部室へ入ってきた白頭が、頭からぴすぴすと煙を上げて気絶する鈴華を見て絶句する。
俺は、ふぅ、と大きく溜息を漏らし。鈴華を指差しつつ呆然と立ち尽くす白頭へ言った。

「白頭、ちょうど良い所に来た。 取りあえずこの人を縛り上げるの手伝ってくれ」

※   ※   ※

「……う…う……ん……はっ!?」

暫く後、意識を取り戻したのか、やたらと乙女チックな呻き声を上げてうっすらと目を開ける鈴華。
慌てて視界を巡らせて周囲を囲む俺達を確認し、自分が縛られている事に気付くと、彼女はがっくりと項垂れた。
無論、女子プロレス部員達も俺の後の方で正座し、顔を項垂れさせている。

「私とした事が……目の前の勝利に気を取られて不覚を取ったか、だが……」
「姉さん……もう良いだろう? 私なんかの為に、これ以上誰かに迷惑をかけるのは姉さんにとっても良くない筈だ」
「ふん、お前には分からないだろうな、鈴鹿。 信頼していた自分の妹に逃げられた姉の気持ちなんか」
「いや、あの……最初に妹の信頼を裏切ったのはあんたの方だろ?」

即座にツッコミを入れる俺、だが、どうやら俺の話は耳に入ってないらしく、鈴華はさらに続ける。

「お前が女子プロレス部を辞めると言い出した時は、正直、私は愕然としたよ。
今まで、同道を歩んできた自分の分身と言うべき妹の心が、何時の間にか私の元から離れていた事に」

「姉さん……」
「笑うが良いさ。 結局、私は失うのが恐かったのだ。 そう、自分の片割れである妹をな?
だからこそ、無理やりにでもお前を連れ戻そうとした」

言って、鈴華は色々な思いを吐き出す様に、ふう、と深い溜息を漏らし。

「そしてその結果、こうやって見事なまでに失敗した。 情け無いな、私は」
「…………」

自嘲気に笑う鈴華を、鈴鹿さんは只、黙って見詰める。
この姉妹の間に如何言う確執があったのかは俺には分からない。
だが、ほんの少しだけ、そう、ほんの少しだけこの姉妹の気持ちも分かる気もする。

姉とは違う道を歩みたいと願う鈴鹿。
血肉を分けた分身と言うべき妹を失いたくないと願う鈴華。

俺の中にも、幼馴染である白頭を失いたくないと思っている自分がおり。
その一方で、そろそろ白頭から自立しておくべきかと考える自分もいる。
果たして、それのどっちが正しいかはまだ分からない。
……だが、何れは俺の目の前の姉妹のように、その結論を嫌でも下さなければならない日がくるだろう。
その時、俺はどちらを選択するだろうか……?

「だが、私はまだ諦めはしないぞ! 鈴鹿!
お前が女子プロレス部に戻ってくるその時まで、私は何度でも連れ戻しにくるぞ!」

そんな俺のしんみりとした気分をブチ壊したのは。何処までも諦めの悪い鈴華の叫びだった。

「ま、まだ諦めてなかったのね……?」
「当たり前だ! 私はネバーギブアップ精神を何よりも大事にしているのでな!」
「ね、姉さん……」

呆れ果てる白頭にごく当然とばかりに返す鈴華、そしてそんな姉を前に鈴鹿さんは余りの情け無さで涙を流す。
ふ……ふふふふふ……そうくるなら俺にだって考えがあるぞ?


「ちょっと、鈴鹿さんのお姉さん?」
「なんだ? お前も私に諦めろというつもりか?」

おもむろにポンと肩を叩いて言う俺に対して、鈴華は牙を剥き出しにして威嚇する。

「言っておくが、私は誰に言われようとも、簡単には諦め……」
「良 い か ら と っ と と 諦 め ろ !」
「…………」

が、すぐさま、俺に全く目の笑ってない笑顔で詰め寄られ、鈴華は耳を伏せて身体を引かせる。
ちなみに、俺の両手にはバチバチと放電するプラグを持っていたりする。

「イや、その、まあ、其処まで言うなら諦めてやっても良いかな―とか思ったり?」
「良し、分かれば宜しい」

よほど必殺エレクトリッククラッシャー(今、命名)を食らうのが嫌だったのか、鈴華はあっさりと態度を翻した。
良く見ると、既に彼女の尻尾は股の間に隠れていたりする。(やはり、ちょっとやり過ぎたかな?)

「んでもって、あんたら女子プロレス部員一同!」
『…………っ!』

いきなり呼ばれて、まともに身体をびくつかせる一同。

「あんたらもプロレスをやってるならば、部長の暴挙を力ずくで止めるぐらいの気概を見せろ!」
『は、はいっス!』
「分かったなら、とっととこの分からず屋の部長を連れて帰った!」
『りょ、了解っス!』

吼えるような俺の啖呵に、部員達は一様に尻尾を丸め怯えた表情を浮かべた後。
慌てて縛られた鈴華を担ぎ上げると、そそくさと部室兼作業小屋を後にしていった。

「全く、これだから融通の聞かない人ってのは困るもんだよな……」
「あ、うん……ソウイチって、実は怒ると恐いのね……?」

プラグを片付けた後、彼等の去っていった方を眺めながらぼやく俺に、白頭は僅かに声を引き攣らせながら問う。

「人が折角苦労して組み上げた物を理不尽に壊されたら、誰だってそうなるさ」
「それでも、強者揃いの女子プロレス部員を一喝して怯えさせるなんて……凄いと思うけど……?」
「いや、実際言うと、これで俺の啖呵が効かなかったら如何しようかなー?とか思ってた訳で……」
「なぁんだ、って事はあれはその場の勢いに任せたハッタリだった訳ね?」
「そう言う訳…我ながら情け無い話さ」

言って、恥かしそうに頭を掻く俺に、白頭は何処か楽しそうに笑う。
さて、これで一つの問題は終わった、と。次は……
「その……私の姉の所為で、風間部長と空子先輩には多大な迷惑をかけてしまった……本当に済まない」


俺と白頭が振り向いた先には、申し訳なさそうに身体を縮み込ませて正座し、謝罪する鈴鹿さんの姿。
彼女の大きな身体は、この時ばかりは俺よりも大分小さく見えるような気がした。
そんな彼女の前へ、俺は腕組みしながら歩み寄り、

「謝るんだったら、先ずはその誠意って奴を見せてもらいたいもんだな?」
「……誠意、とは? まさか、壊した飛行機の修理代か? しかし、私にそんな金は……」
「違うな。 俺に見せて欲しい誠意ってのは金なんかじゃない」

鈴鹿さんの言葉を遮って、俺は壊れた『ブルースカイⅩ』を指差し。

「誠意ってのは、金とかそう言うものじゃなくて、先ずは行動で示す物なんだ」
「……え?」

俺の言っている意味が分からず、疑問符を漏らす鈴鹿さん。
だが、その彼女を放って、俺は飛行機の方を向きながら白頭へ話しかける。

「しっかし、胴体フレームがこうも見事にへし折られちゃあ、修理に結構手間が掛かりそうだな……?」
「? そ、そうね……?」

最初こそ、白頭は俺が言いたい事が分かっていなかった様だが、
暫く俺の顔を見てようやくその意を汲み取ったらしく、
俺と同じく飛行機の方を見やり、翼手を腰に当てて話を続ける。

「これくらい壊れたらさ、直すのって結構力仕事じゃない? 胴体のパーツには結構大きな物もあるみたいだし」
「そうなんだよな。俺って身体が小さい分、力もそれ相応しかないだろ?
だから、大きな物をえっちらおっちらと運ぶのは結構大変なんだよ」

「私も、重量物を手で持つには不慣れな鳥人だからね、これを直すとなると本当に大変そう……」

一通り話し合うと、お互いに深い溜息を漏らす。
そして、俺と白頭はやおら鈴鹿さんの方を見やると、声をハモらせて言う。

『こう言う時、力自慢の人が居たらなぁ……?』

鈴鹿さんは最初こそ、ぽかんとした表情を浮かべていた物の、
やがて俺と白頭が言いたい事に気が付いたらしく、がばぁっ、と元気に立ちあがり、叫ぶ。

「力自慢ならここに居るぞ! この私ならば重い部品だろうが何だろうがへっちゃらだ!」
「おお、そうか。ならば百人力じゃないか!」
「良かったじゃない、ソウイチ。 これで『ブルースカイⅩ』も早く直せそうね?」
「ああ、本当だな、白頭」

白頭と手を取り合って喜んだ後、俺は鈴鹿さんの方へ向き直り、

「そう言う訳だ、鈴鹿さん。入部届、あの姉さんに邪魔される前に直ぐに出してくるんだぞ?」
「あ、あ、あ、あ…」

俺の言葉に、鈴鹿さんは喜びの表情のままぶるぶると身体を震わせ始める。
……なにかすっごく嫌な予感。 と言うか、それ以前に白頭がそそくさと俺から離れて……。

「ちょ…す、鈴鹿さん…抱き締めるのは止め―――」
「有難うっ! 風間部長っ!」
「―――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

そして、案の定と言うべきかなんというか、
鈴鹿さんにフルパワーで抱き締められた俺の悲鳴が作業小屋中に木霊したのだった。

                               *   *   *

「この部品はここで良いのだな? 風間部長」
「ああ、其処に置いててくれ、鈴鹿さん。また何かあったら頼むよ」
「うむ、任された!」
「ちょっと、鈴鹿さん? このバッテリーを作業台まで運んで欲しいんだけど」
「了解した! 空子先輩」

……それから1週間経って。
晴れて正式に我が飛行機同好会の部員となった虎宮山 鈴鹿はその力を遺憾なく発揮していた。
彼女が来てからと言う物、今まで俺と白頭だけでは1週間以上も掛かっていた作業が
三日未満に短縮出来るようになり。
我が飛行機同好会の活動は円滑に進められるようになった。

最初の数日こそ、まだ諦め切れてない姉の鈴華が鈴鹿さんを連れ戻すべく何度か訪れた物の、
あの時の俺の一括が効いていたのか、部員達が身を張って鈴華を説得し、あるいは力ずくで止めるようになり、
四日も過ぎようとする頃には、鈴華が訪れる事はなくなっていた。

しかし、それでもまだ諦め切れてないらしく、時折、鈴鹿さんと顔を合わせた時は言い争う事もあるそうで。
……まあ、その問題もいずれは時間が解決する事だろう。と、俺は思っている。

でも、その代わり、新たな問題が俺達に訪れていた。それは……

「風間さん。本日も手伝いに来ました!」
「我々に出来る事なら何なりと言ってくださいっス!」
「もう力仕事から部員の勧誘、果てやあんな事やこんな事も何だってします!」

唐突に俺の背に掛かった声に振り向けば、其処に居たのはガタイの良いジャージ姿のケモノの女性達数人。
そう、如何言う訳か女子プロレス部の一部の部員達が、我が飛行機同好会の手伝いに来るようになったと言う事だ。
一度、白頭が如何して手伝いに来るのかと、彼女達へ訳を聞いてみたそうだが。
その白頭の話によると、

『あの時の惣一さんの啖呵にはしびれたっス!』
『あたしよりも凄く小さな身体で部長をひるませたあの迫力! 本当に尊敬します!』
『一瞬で部長を倒す強さがありながら、あの可愛らしさ! もうたまらないです!』

と、変な意味で俺を慕っているのだそうだ……。
そんな彼女達に、俺は引きつった笑顔を向けながら言う。

「え、えっと……じゃあ、部室の周りの雑草を取っててくれないかな?」
『了解っス! 惣一さん!』

元気の良い返答と共に、彼女たちは雑草取りをしに外へと出ていった。
多分、1時間もしないうちに、この部室兼作業小屋の周りの雑草は根こそぎなくなる事だろう。

俺は少しだけ恐れている。何時か彼女達の想いが暴走して、俺へ”何か”しないだろうか? と。
まあ、その”何か”については詳しくは言うつもりはないのだが。


「何だか、本当に騒がしくなっちゃったわね……?」
「そうだな……本当に騒がしくなったな」
「如何したの? 何だか凄く残念そうな顔をして……」
「……いや、何でもねーよ。……ちょっとションベン行ってくる」
「ちょ、ソウイチ!? まだ話は終わってな……!!」

不思議そうに首を傾げる白頭へ言いかけて、思い止まった俺は誤魔化しついでに外へと歩き出す。
なにやら後の方で白頭が喚いているようだが、ここは暫く無視を決め込むとしよう。
どうせ、素直に言った所で、恥ずかしいし、また馬鹿にされそうだからな。

二人で居る時間がだいぶ減ってしまって残念だ、

……なんて。ヨハン先生じゃあるまいに言える筈ないだろう?

そう思いつつ見上げた空は、素直じゃない俺を優しく見守る様に、黄昏色に輝いていた。

―――――――――――――――――――了―――――――――――――――――――




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