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スレ4>>606-637 Blue sky ~二筋の入道雲がやってきた~ "前編"

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Blue sky ~二筋の入道雲がやってきた~ "前編"


「たーのもー!」

とうとつに戸の向こうから響いた声に、
俺と白頭は思わず議論を中断し、声の方へ振り向いた。

我が飛行機同好会の部室兼作業小屋、
何時もの通り、俺と白頭が新入生の勧誘方針の事について言い合いしていた時の事である。

お互いに無言で顔を見合わせた後、俺は白頭に「お前が応対しろよ」と目配せをする。
しかし、彼女から帰ってきたのは「嫌よ。アンタが行きなさい」と言う目配せ一つ。
そのまま暫く無言で睨み合った後、先に折れたのは俺の方であった。

「はいはい、どなたですか……?」

かなり面倒臭い気分を感じつつ、席を立った俺は戸の前に立つ。

ここ、部室兼作業小屋を使い始めてから、時折、こう言う風な客がやって来る事がある。
……そう、何を如何言う風に勘違いしたのか、ここを何かしらの武術の道場と思いこんでくる客が。
そう言う客がくる度に、俺は一々ここが道場で無い事の説明に追われる事となる。

酷い時となると、勘違いしたのは相手の方だというのに、
あろう事か「こんな所に如何(いか)にもな建物を建ててるのが悪いんだ」と逆ギレする人も居るのだ。

この前なんか、空手道場と勘違いした犀の道場破りが逆ギレした挙句、作業小屋で暴れる直前まで行った事があった。
あの時、たまたま通りかかった警官二人が止めて居なければ、今の作業小屋は跡形もなく壊滅していた事だろう。
その時の白頭が言った「勘違いした挙句逆ギレって……何処の子供よ?」と言う言葉が妙に印象に残っている。

……一応、そんな勘違いを防ぐ為に、
玄関先に「飛行機同好会部室&作業小屋」と言う大きな看板を掛けているのだが。
それでもここを武術道場と勘違いして道場破りに訪れる人が、未だ後を絶たないでいる。

やっぱり、ここがかつてはじいちゃんの道場だった事の影響なのだろうか……?
武術家としてはそんなに有名じゃない筈なんだけどな、俺のじいちゃん。

まあ、それは兎に角。
さっきの掛け声からして、今回も勘違いした何やらかんたら流の格闘家の人であるのは間違い無いだろう。
後ろを振り向いて見れば、白頭は既に「面倒はゴメン」とばかりに作業小屋の奥の機材の影に引っ込んでいる。
機材の陰から見える、時折揺れる彼女の尾羽が恨めしいと感じるのは俺だけではない筈だ。

さて、今回は逆ギレをされない様に上手く言いくるめないとな……。
そう頭の中で溜息混じりに思いつつ、俺は戸を開ける。


「………?」

戸を開けて最初に見えたのは、壁だった。
良く見ればそれが壁ではなく、ジャージの布地だと分かった俺はその正体を確認するべく、
ゆっくりと視線を上へと向ける。
しかし、向けた目線の先にあったのは、ジャージの壁から突出る横に二つ連なった丸みのある大きな出っ張り。
はて? 何だろうか、これは……?

「ここは飛行機同好会の部室と聞いたが、それで正しいか?」

唐突に上から降ってくるやたらと澄んだ声。
壁が喋った!……じゃなくて、目の前にあるのはとてつもなく大きな人か!?
それに気付いた俺が2、3歩後へ下がって、ようやく部室の玄関先に立つ人の姿を確認できた。

着ている陸上用ジャージから見て、恐らくは俺と同じ佳望学園の高等部であろう。
肩くらいの長さの金髪をゴムか何かで後に縛った、大まかに見て身長2m以上はあろうかと言う白虎の女性(!)
それが部室の玄関先で、腰に手を当てながら仁王立ちしていたのだ。
そんな彼女の問いかけに対して、俺が無言で首をカクカクと縦に振るしか出来なかったのも当然であろう。

「そうか、ならば良かった。 では、早速であるが本題に入るが、良いかな?」
「あ、ああ……」

驚きの余り、震えた声しか出せない俺の返答を彼女は肯定と取ったのか、
如何言う訳か大きく胸を張って言う。

「この私、虎宮山 鈴鹿(こみやま すずか)を飛行機同好会へ入部させてもらいたい!」

…………。

「……はぁ?」

ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
『とてつもなく大きな白虎の女性が我が飛行機同好会に入部を申し入れてきた』
な…何を言っているのか良く分からねーとは思うが、俺も何が起きたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった…
勘違いした道場破りだとか、腹黒な新聞部部長だとか、そんなチャチな物じゃ断じてねぇ!
もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ…!

「ちょっと、ソウイチ、何をボッと突っ立ってるのよ!? 新入部…員……じゃ……?」

呆然とする俺への白頭の叱咤の声が、言葉の途中で細まり、消えてゆく。
多分、白頭も部室の玄関先に立つ彼女を見て、本気でビックリしたのだろう。
後ろを振り向いてみれば、アホみたいに目をかっ開いた白頭が嘴をぱくつかせている所であった。


「えっと、粗茶だけど……」

それから数分後、未知との遭遇(違う)からようやく平静を取り戻した白頭が、
テーブルの席に付いた鈴鹿さんへ来客用のお茶を差し出す。

「ああ、有難う……えっと」
「アタシの名は白頭 空子。 適当に空子と呼んでも構わないわよ」
「なら空子先輩、お茶、有難く頂くよ」
「せ、先輩…ね?……はは……」

自分よりも大きな女性に先輩と呼ばれ、白頭は思わず苦笑い。
まあ、白頭自身も結構背が高いのだが、その白頭と比べてみても虎宮山さんは10cm以上も背が高いのだ。

……ちなみに、このテーブルは作業用にも使われる結構大きな物なのだが。
虎宮山さんが前に座ると、どう見ても3畳半の部屋に置かれているような折り畳み式の座卓の様にしか見えない。
う~む、とんでもないくらいにビックな新人さんが来たもんである。さて、如何するべきか……?
ま、とりあえず、先ずは入部すると考えるに至った理由を聞いてみるとしよう。

「あの、虎宮山さん……」
「他人行儀に振舞わなくても良い、鈴鹿と呼び捨てにしてもらっても私は構わん」
「なら、鈴鹿…さん。 最初に、ここ飛行機同好会に入部したいと思った、その理由を聞かせてくれませんか?」

俺からさん付けされた事に対して一瞬だけ微妙そうな表情を浮かべた後。

「理由と言うと…そうだな、これだ」

言って、鈴鹿さんは肩に下げたスポーツバッグから、
四つ折に折り畳まれた新聞と思しき紙を取り出し、意外と丁寧な手つきでテーブルの上に広げる。
……俺と白頭は何気にそれを覗き込み、

ぴ っ し !

――心の内から何かが砕ける音を立てて、その場で硬直した。

「少し前にこの新聞を見てな、私は甚く感動を覚えたのだ」

言って、鈴鹿さんが指差すテーブルの上に広げられた新聞。
それは2週間ほど前に発行された、俺を抱き寄せる白頭が写った写真が一面にでかでかと載っている学園週報!
発行された当時、他の生徒の目に入る前に俺と白頭が手分けして全て剥がして周った筈のそれである。

「それにしても、烏丸と言う上級生はなかなか良い人だな。
今までやっていたクラブをある事情で辞めた後、次にどのクラブに入ろうかと迷っていた私へ、
彼女はこの新聞を見せながら飛行機同好会に入部するように勧めてくれたのだ」

か、烏丸先輩の仕業か……。
道理で、俺と白頭が全部処分した筈の新聞が今、ここにある訳だ。
ったく、烏丸先輩は一体何のつもりで…………いや、考えるのは止めておこう。
どうせ、考えた所で頭痛がわき上がるだけで、納得できる結論なんて出そうになさそうだし。
無論、納得できる結論が出たとして、それで如何しろと言われると……何も出来ないだろうな、確実に。


「私は本当に感動した! 心の傷によって空を飛べなくなった幼馴染を助ける為。
あらゆる努力を惜しまず、更に怪我する事すらも厭わず、遂には幼馴染の心の傷を克服させ、
再び空へ飛べるようにした風間部長に!」

一通り叫んだ後、鈴鹿さんはふと、周囲を見まわして言う。

「……所でだ、その風間部長なのだが、今は何処に居るのだ?
君達部員の様子からすれば、直ぐ近くに居るのは間違い無いようだが……」

……おい?
いや、まあ、そりゃ確かに今、テーブルに広げられてる新聞の写真じゃ、
俺の顔は白頭の身体で隠れて見えないけどさ……。

「なあ、私の前に居る中等部の君、風間部長の居る場所を教えてくれないか?」
「…………」

ひききっ、と引きつる俺の顔、同時に後ろの方で「ぶっ」と白頭が噴出す声が聞こえる。
……ここだよここ、今、アンタが話し掛けてる中等部の人間がその風間部長だよ! つか、白頭、笑うんじゃねぇ!
前々からクラスメイトから、白頭と俺の様子を『蚤の夫婦』とからかわれる事が多かったけど、
遂には全然部長として見られなくなるまで来たか! こん畜生! つか、豆チビで悪かったな!(←言ってない)

――と、今すぐ怒鳴り散らしたい気分を必死に押さえつつ、
俺は飽くまで平静を装い、未だにきょときょとと『風間部長』を探しつづける鈴鹿さんへ言う。

「あの……俺が、その部長の風間 惣一なんだけど……?」
「何……?」

なんだ、その凄く信じられない物を見るような眼差しは! 瞳孔を細めてまで驚くなよ!
くっそー、何だか俺の後ろの方で白頭が必死に笑いを堪えているみたいだし。完全に赤っ恥じゃねえか!

「君が、その風間 惣一なのか?」
「ああ、そうだよ。……どう見ても中等部にしか見えないけど、これでも俺は立派な高等部だよ」

問い返す鈴鹿さんに、俺は険悪な物を混じらせた眼差しを向けつつ答える。
すると、やおら鈴鹿さんは席から立ち上がり……

「そうか、君だったのか! 会いたかった!」
「――へっ? ちょ、止めっ…く、苦しい……ぐえぇぇっ!?」

――いきなり両腕で俺を抱き寄せた。
彼女の毛皮の感触と顔面に押し付けられた大きな乳房の柔らかさを味わったのはホンの一瞬だけ。
その次の瞬間には、俺は酸欠&全身の骨が奏でるミシミシメキメキと言う大合唱を味わう事になった。
つか、マジで……シヌルっ!?


「あ、ちょっと羨ま…じゃなくて、ソウイチが苦しがってるじゃない! 早く離して!」
「……あ、済まん。つい」

そのまま俺の意識がお花畑へ旅立つ寸前。
ようやく事態を飲み込めた白頭の制止によって、俺の身体は無事に鈴鹿さんの両腕から開放された。
そして、暫くの間、肩でゼヒゼヒと深呼吸した後、

「お……おんどぅるぇあいぎなりなにしゃがりゅんでぃすか!」
「ちょっと、オンドゥルが入ってるわよ! 落ちついて、ソウイチ!」

がばぁっ、と立ちあがり鈴鹿さんに食って掛かる俺へ、白頭が慌てて止めに入る。

「いや、その……本当に済まない」

そんな怒れる俺の迫力に圧されたのか、
鈴鹿さんは申し訳なさそうにしゅんと身体を縮み込ませて謝罪する。

「……私は感極まると誰彼構わず抱き締める癖があってな……。
実は言うと、今日の昼頃にも。音楽の授業で親切にしてくれたヨハン先生を保健室送りにしたばかりなのだ。
……私としては、この癖を為るべく治したいと思っているのだがな……」

……何と言うか、男性にとって嬉しいと言うか迷惑というか訳の分からん癖だな……。
つーか、ヨハン先生、あんたって人は……教師として色々な意味でダメだろ?

「……こんな私だが、どうか、どうか君達の飛行機同好会に入部させて欲しい!
力仕事だろうが汚れ仕事だろうが、頼まれれば私は何だってやる、だからこの通りだ!」
「いや、あの…鈴鹿さん? 土下座してまで頼まなくても……ねぇ、如何する、ソウイチ?」
「如何するって言われても……」

床に頭を摩り付けながら頼み込む鈴鹿さんを前に、
俺と白頭が色々な意味で困惑しつつ顔を見合わせた矢先、

「鈴鹿! ここに居るのは分かっているぞ!」

――外からの誰かの大声が、部室内に響き渡った。


「あの声は……まさか!」
「あ、ちょっと、鈴鹿さん!? 何処行くのよ!」
「おいおい、一体何なんだよ……ったく!」

声を聞くや鈴鹿さんはいきなり立ちあがり、外へと走り出す!
無論、何が起きているのかが気になった俺も白頭もその後に続き、部室兼作業小屋から出る。

「ふん、やっと出てきたか……」

部室前に腕組みして仁王立ちで立っていたのは、
髪形こそショートヘアと違うが、鈴鹿さんとほぼうりふたつの姿をした白虎の女性の姿!
彼女は出てきた鈴鹿さんの姿を確認するなり、びっ、と指差して言う。

「ずいぶんと探したぞ、鈴鹿!」
「やはり、貴方だったか……」

それに応える様に、鈴鹿さんは不機嫌に尻尾を揺らし、ぎりりと奥歯を鳴らして呟く。

「姉さん!」

……って、姉さん?

「あの人って……?」
「虎宮山 鈴華(こみやま、れいか)……私の双子の姉。
そして、中等部の頃から女子プロレス部の部長をやっている実力者だ」

俺と同じ疑問を感じたらしい白頭の問いに、何処か忌々しげに言う鈴鹿さん。
なるほど、彼女の姿が鈴鹿さんとほぼうりふたつなのは双子だからか。
まあ、人間の俺の目からでは、同じ種のケモノの見分けなんて殆どつかないんだけどな……。
鈴華さんは1歩ずいと進み出て、鈴鹿さんを睨み据えるように言う。

「鈴鹿……突然、我が女子プロレス部を辞めるだけに留まらず、
まるであてつけの様にこんな端っ葉な弱小文科系クラブに入るとは……一体、如何言うつもりだ?」

くぉら! 弱小文科系クラブで悪かったな! そりゃ部員は俺含めてたったの二人だけどな!

「それは前も話したはずだ。 鈴華姉さんは今まで自分の影武者の様に私を扱ってきた。
しかし、私はもうそんな生活は懲り懲りだ。 そう、私は私自身で決めた道を行くと決意したんだ!」

対する鈴鹿さんも負けじと、鈴華さんを睨み返して声を張り上げる。

「それに私は知っているぞ! 私が姉さんの代わりに必死に戦っている間、
姉さんはあろう事か、『連峰』で期間数量限定スイーツを食べていたそうじゃないか!」

「ち……ばれていたか。 ……だが、それだけで辞めるとは。鈴鹿、お前は其処まで器量が小さくなったか!」
「をいをい、それは充分に辞められても文句が言えないレベルなんだが……?」
「それ以前に、器量云々とか言う問題じゃないでしょ……?」

呆れ混じりにツッコミを入れる俺と白頭。
しかし、俺と白頭のツッコミが聞こえているのか聞こえていないのか、鈴華は更に言葉を続ける。
(もう、この時点で鈴華に対してさん付けは止めた)


「まあ良いさ、お前が飽くまで他のクラブに逃げると言うならば、私は強硬手段に訴え出るまでだ!」
「強硬手段……何をする気だ、姉さん!」
「ふん、決まっているだろう!」

鈴鹿さんの問いかけに、鈴華さんは大きく胸を張って、

「お前が入部するクラブというクラブの部室の入り口の前で、私がずうっと爪研ぎをしつづけてやる!」
「くっ……なんて恐ろしい強硬手段を……!」
「ヲイ。 そりゃ確かにある意味じゃ恐ろしい強硬手段だけど……それって虚しくないか?」
「というか、鈴鹿さんもまともに恐ろしがらないでよ……って言ってももう二人とも聞いてなさそうだけど」

やっぱり二人ともツッコミを聞いてなかったらしく、鈴鹿さんは決意を秘めた眼差しを鈴華へむけて言う。

「しかし、それでも私はプロレス部に戻らないと決意したんだ! だからもう私に指図しないでくれ、姉さん!」
「ふん、どうやら交渉は決裂、と言った所か……仕方あるまい」

言って、鈴華はやおら右手を上げてぱちりと爪を鳴らす。
それを合図に、周囲の茂みから鈴華と同じジャージ姿の熊やら牛やら蜥蜴やらの女性達がゾロゾロと出てくる。
彼女らはみな、女子プロレス部に所属しているのか、いずれも身長が俺より30cm以上も大きかったりする。

「こうなれば、無理やりにでも連れ戻さなければならん。覚悟は良いな、鈴鹿!」
「ちっ、やはりそう来たか。……風間部長! 空子先輩! 危ないから下がっててください!」
「言われなくても」
「分かってるわよ」

鈴鹿さんに言われるまでもなく、俺は白頭の翼によって作業小屋の屋上へ退避済みである。
何せ、部室から出た時点で、茂みに隠れているつもりの身体を丸めた女子プロレス部員達の姿がモロに見えてたし……。
多分、こうなるだろうなぁとは思ってたけど、案の定だったよ……。

少し薄情な気もするが、所詮は文科系の俺と白頭が戦いに加わった所で、逆に鈴鹿さんの足手まといになりかねない。
下手すれば人質にされかねないし、それ以前に白頭が怪我するような事があったら目も当てられない。
まあ、そう言う考えもあって、俺と白頭はさっさと退避させてもらった訳である。

俺達の退避を確認した鈴鹿さんは前へ向き直り、

「姉さん。言っておくが、私を力で捻じ伏せようとしても簡単には行かんぞ!
今まで姉さんの影武者として戦ってきた分、私自身の実力も折り紙付きと言う事になるからな」
「ふん、その減らず口が何時まで持つかな?……掛かれっ!」

鈴華の号令と共に、部員達が鈴鹿さんへ殺到する!
―――そして、乱戦は始まった。




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