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ヌコ小学校


黒と三毛の仲良しコンビが大きな声で話している。
薄緑の耐火カーテンがはためく教室は、子猫達で溢れかえっていた。

次の授業は体育。
今年最後になるであろうプールの時間だ。

「スク水ってダサいニャ。フリフリのAラインとか着たいニャ」

お洒落好きの黒が三毛に話しかける。緑の瞳がクリクリとよく動く。

「同感ニャ。でもクラスの男子なんか誘う価値無いニャ」

三毛が金色の瞳に勝ち気な光を宿し、回りのクラスメイト達を一瞥して、同意した。

発育が良く、その上挑発的な二人に見とれていた男子達が、一斉に視線を泳がす。
皆驚きすぎて毛が逆立っている。バレバレ。

低学年クラスは男女で更衣室分けが無く、一様に全員が教室で着替えている。
だから、男子は目のやり場に困るのだ。

「ニャハハ!確かに価値無さそうニャ!」

黒は教室中の男子の反応を見てけらけらと笑った。
プールの授業を前に高揚感を隠し切れない同級生達の中、うかない顔をした娘が一人。

(なんでみんな楽しそうなんだろうニャ…)

なんか、水着ってエッチいし、毛並みもキシキシするから嫌いニャ。
コレッタは万年見学組で、プールに入るとすぐ貧血を起こしちゃう娘であった。
今年もまだ一度もプールには入っていない。

(やだニャ…また男子に、セーリだセーリだ、って言われるんだろうニャ…)

コレッタはかなり可愛い。実のところ、体型こそ黒と三毛に劣るものの、
美しい毛並と柔らかな髪をくしゅくしゅと舐めたり、ネズミを怖がったり、
猫じゃらしを本気で追いかけちゃったりなどなど、男子がついキュンときちゃう仕草を何気なくするため、
断トツ人気が高い。1位コレッタ2位黒3位三毛。

それゆえにかどうなのか、異性への興味をどう消化してよいかわからない男子達は、
トップ3の中で一番気の弱い彼女にちょっかいをだす。

クラスで一番の泣き虫もコレッタだ。おっきな瞳に涙を溜めている姿が、またなんとも“絵”になる。

(今日も見学にして貰うニャ…)

コレッタが教室を夏服のまま出ようとすると、

「あらぁ~ん?コレッタたんはまた見学ですかニャ~?もしかして“あの日”かしら?ニャハハハ」

と、黒の嘲る声。

「ほっとくニャ。きっとお腹壊してるニャ」

お腹を壊した音をクルルルと喉を鳴らして表現し、三毛も嘲りに乗じる。
ぶりっ子してるから悪いにゃ。ムカつくニャ。
人気No.1の座を、二人は結構妬んでいるのだった。

「……違う、ニャ」

コレッタは既に泣きそうになりながら、教室を駆け足で逃げ出した。

「ふん、泣けば許される問題じゃないニャ」
「キョーチョーセーの無い奴が悪いニャ」

ニャハハハ。
仲良しコンビは口々に自己の正当性を述べた。


コレッタは保健室の扉を開けた。
保健のオネーさん(オバサンと呼ぶとオキシドールで毛を脱色される!)こと白先生が、
コーヒーを飲みながらくつろいで居た。実際は30代で、オバサンとオネーさんの狭間のグレーゾーン。

一瞬躊躇したが、コレッタは保健室に入って扉を閉めた。

「せんせぇ、私お腹痛いニャ……プールの時間終わるまで、居ても良いかニャ……?」

鼻をひくひくさせてコーヒーを嗅ぎながら、白先生は、「担任先生に許可は貰った?」
と聞いた。尻尾が機嫌良さそうに上を向いている。

「……貰った、ニャ」ほんの少しのためらい。

キラリと光る白先生'sアイ。生徒の嘘をきっちり見抜く。ダウト!

「嘘だろ?」
「…………ニャ」一発で嘘を見破られたコレッタの耳と尻尾が、しゅん、と力を無くす。

白先生はにっこりと得意げに笑った。

「じゃ、プール終わるまで、な。大人しくしてろよ?」
パイプ椅子を差し出してくれる。

「……?許可貰って無いのに、良いニャ?」
「うん、いいよ。後で私から言っとく。コーヒー飲むか?」

コレッタが返事する間もなく、白先生はマグカップを取り出してコーヒーを注いだ。

「砂糖切らしちゃってんだ、ミルクだけで我慢な。はい、どうぞ」

マグカップを受け取って固まるコレッタ。
実は、コレッタはコーヒーがあまり好きではない。苦味で舌が痺れるあたり、すごく苦手、と言ってよい。

ジッと茶色い液体を注視してみる。なんだか暖かいコーヒー牛乳みたいに思えてきた。
意外と飲んでみたらおいしいのかも知れない。
恐る恐る一口。

「……苦いニャ」
やっぱり苦手だった。

「ぷっ…ふ、ふふふ、ははははは」
笑い出した白先生。

ひとしきり笑った白先生は、頬のあたりに笑いの余韻を残したまま、薬品の納めてある
スチールラックからスティックシュガーの束を取り出した。

「いや、ごめんごめん、あったよ砂糖。ははは」
「ヒドいニャ……オ バ サ ン」
白先生は無言で、猛然と、だがしっかりと、オキシドールを掴んだ。

「ご、ごめんなさいニャ~!」
謝るコレッタを見て、白先生がまた笑った。

「ははは、冗談冗談」
ぶっちゃけ、謝らなかったら塗るつもりだった。

「しかしコレッタは可愛いなぁ」
白先生がコレッタの猫っ毛を撫で梳きながら呟いた。グルーミング。

「…可愛いくっても、得なことなんか無いニャ」
「わー、先生もそんなこと言ってみたいナー、こんちくしょう」
「いたた、痛いニャ、ひっぱらないでほしいニャ。ほら、今も損してるニャ」

白先生の手から逃れながら、コレッタは不服そうな顔をした。

「可愛いってだけの理由で、いじめられたり、いじられたり…もうたくさんニャ」
「ん~、コレッタ、それは違うぞ。可愛いからいじめられるってのもあるけど、お前は立ち居振る舞いが下手なんだ」

「タチイフルマイってなんニャ?」
「ようするに、可愛いから許されてる、特別扱いされてると思われてるってこと」

「特別扱いなんてされてないニャ」頬を膨らませるコレッタ。
「いやいや。私だってコレッタが可愛いから許してあげたけど、
男子だったらひん剥いてプールに投げ込んでるよ。二階から」

二階からニャ?!ちょっとビビるコレッタ。
そう、二階から。ぽいっと。至って真面目な白先生。

「ぶっちゃけお前可愛いからな。美人なりの身の振り方、覚えた方がいいぞ。
戦を征する者先ず自らを征するってな。今年は一回もプール入んなかったんだよな?」

「ニャ」こっくり頷くコレッタ。
「う~ん」しばし思案顔の白先生。

「よし、今から着替えてプール行ってこい」
「え~…いやニャ」
「いいから行け。ベッドのカーテン閉めて更衣室にしていいから」
「ふにゃ~ん…」


コレッタは教室から水着の入ったビニールバッグを抱えてまた保健室にやってきた。
「お、よしよし偉いぞ。逃げなかったな」
「二階から投げられたら死んじゃうからニャ」コレッタはベッドの回りのカーテンを閉めた。

振り返ると、白先生がベッドに座っていた。
「…何してるニャ」
「え?」
「出てってほしいニャ」
白先生をベッドのカーテンの外に押し出す。

スカートのファスナーを下ろし、それを脱いだところで振り返ると、
「あっ」「ニャ!」
カーテンの隙間から覗いている白先生と目が合った。

「な、なんで見てるニャ!センセーへんたいニャ!」
「え~だって~。わ、可愛いパンツ」
「だってじゃないニャ!見るなニャ!」

「はいはい。あーあ、可憐な青い果実見たかったナー」
「わけわかんないニャ!」
「ほら急がないと時間無くなるぞ。一分以内に着替えないと無理やり手伝う」
「そんニャ!んうー」

はぐらかされた気分になりつつ、コレッタは着替えを済ませた。

「き、キャワユイ!!!」
白先生の第一声だった。

「…先生、ヨダレ出てるニャ。こわいニャ」
「へ?あ、ごめん、見とれてた」
スク水バージョンのコレッタを、ヨダレ垂らして見ていた白先生は、慌てて意住まいを正した。

「しかしこれはマジで……かわいい」
「あんまり言われるとはずかしいニャ」
抱き締めて眺めてふにふにフモッフして一生悶えて居られそうなスク水コレッタを前に、白先生は考えた。

「なぁ、お前をいじめたのって、女?」
「…男子もニャ」
「ふ~ん……安心しろ、今日から敵は女子だけになる」
「?」
疑問符を浮かべるコレッタを保健室からつつきだす。

「さぁさぁ、早くプールに行け。窓から投げ出されたくないだろ」

プールに着いて、コレッタはびっくりした。
男子どころか、ほとんどの女子までもが、先ほどの白先生のように、惚けた顔で自分を見ているのだ。

視線にトゲを感じるのは、黒と三毛の二人のみ。

コレッタ、すげーかわいくね。
だな、チョー水着似合ってる。
クラス内ランクどころじゃねーよ、ユニバースだよ、WBC世界タイトルだよ。

男子達が囁きあって、クラスの美人ランクが変動した。
殿堂入りコレッタ、2位黒、3位三毛。

コレッタの水着姿は、幼さのうちに完成された至高にして最高、
それでいて成長によって移ろう刹那的な儚さを秘めた、正に芸術品であった。

きゃー!コレッタたんかわゆいー!
超ラブリーじゃね?
天使だ…。
むしろ小悪魔?

女子からも歓声があがった。
着る人が着れば、スク水とは魅力を数千倍まで高める視覚凶器と変わるのだ。
その魅惑には、女性とて抗えるものでは無い。

(《戦を征する者先ず自らを征する》……意味わかんないけど、先生の言葉。これが、私の武器、なのかニャ……?)

羽織って居たタオルを取り、プールに入ろうと歩き出した。
コレッタの戦はまだ始まったばかりだ。

FIN