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秘密の英先生


「そこをどうにかなりませんか?」
「そう言われましても…」

休み時間の職員室。サン先生と英先生が会話している。今日は説教という雰囲気ではなさそうだが。

「わかりやすい授業、大いに結構です。生徒にも好評です。
 ですが、もう少し音量をしぼることはできませんか。
 隣の教室で泊瀬谷先生が授業にならないと泣きつかれてしまったんですよ」

「うーん…ぼくとしても迷惑をかけるつもりはないんですが…
 声が大きくなっちゃうのは無意識なんですよ」

「そこをどうにか意識してもらえませんか?」
「極力努力します…」

これでは結局変わらないんでしょうね…。英先生はふぅと溜息をついた。
声が大きいことは悪いことではない。
わかりやすい授業と生徒にも好評だ。彼を責めることはできない。
ここは泊瀬谷先生に頑張ってもらうしか…

顔をしかめるサン先生を見ていて、ふと思いついた。
彼女にしては珍しい、冗談めいた、そして少し悪戯じみた思いつきだった。
しかしそれを試してみる価値はあると思えた。

「あの…もう授業開始時間になるので…」
「ええ、わかりました。でもその前に少しいいですか?」
「はい?」

カチャ

サン先生の眼鏡。あまり度は強くないその眼鏡を外してみた。

「あの…何するんですか…?」
「いえその…それで一度授業をやってみてくれませんか。見えないわけではないでしょう?」
「ええ? いや困りますよ。調子狂っちゃいます」
「ちょっと試しに一度だけですよ。この授業が終わったらお返しします」
「えええ? 試しって何ですか」
「はい、授業が始まりますよ。さあいってらっしゃい、フリードリヒ」
「…あんまりその名前で呼ばないでくださいよ」
「ではいってらっしゃい、フリード」
「……むー…」

彼の背中をポンと押して送り出す。彼は不服そうな顔をしながらも授業へと向かっていった。
さて、どうなりますかね。

英先生はこの時間担当授業はない。職員室で小テストの丸付け、資料の整理をしていた。
やがて午前授業終了、昼休み開始のチャイムが鳴る。
それから間もなく慌てて職員室に入ってくる生徒が3人。

「ザッキー! ザッキイィィ!! 助けてザッキイイィィィィ!!」

中等部のお気楽三人組だ。非常識に叫ぶ彼はアキラと言ったか。
彼らは先程までサン先生の授業を受けていたはず。

「サン先生が! サン先生がおかしいんだ!!」

あらあら、思った以上に効果が出ていたのね。英先生は一人、クスリと笑った。


「で? 何、どうしたのよ。サン先生がおかしいって? どんな風に?」

生活指導、帆崎は面倒くさそうにアキラとタスクの話を聞く。ナガレはあまり率先してしゃべらない。

「眼鏡がなかったんだよ!」
「そりゃ珍しい。けど別にそれでどうってわけじゃないだろ」
「それで…なんか性格が違ったんだよ! なんていうかいつもより大人っぽかったんだ!」
「あのなあ、サン先生はあんなにちっこくてもお前らの倍くらいは生きてる
 れっきとした大人なんだぞ?大人っぽくて何が問題なんだ」

「いやそーかも知れないけど! なんか人が違ったんだよ! どう見ても別人なんだよ!」
「別人て…そんなほいほい人が変わるかよ…」
「変わってたんだってば!!」

二人の必死の訴えを帆崎先生は軽く受け流していた。早く弁当食べたい。
そんなところで、サン先生が職員室に帰ってきた。見ると確かに、眼鏡をかけていない。
いつもならすぐ自分の机に戻るところだが、なぜか奥、英先生の机へ向かっていった。
声は聞こえなかったが、そこで英先生と少し会話しているようだ。
最後に彼女から眼鏡を受け取り、かけなおして戻ってきた。

「あれ? お気楽三人組じゃん、どうしたの? 何かわかんないことあった?」

…あれっ!? 戻ってる!?

「ザッキーの生活指導? お昼休みはちゃんと休んだほうがいいよ!」
「いやサン先生、こいつらが妙なことをふおぅっ!」

ザッキーの言葉を止めた。尻尾だ、ナガレがザッキーの尻尾を掴んでいる。
ギュッと握っているわけではない。一部を持って逆毛方向に撫でている。
ザッキー実に微妙な顔だ。どうやら猫人にしかわからない微妙に気持ち悪いポイント攻撃らしい。
ともかく、ナガレグッジョブ!

「いや、あの、サン先生、その…」
「どーしたタスク?わかんないことあった?」
「いやそれが…その…」

タスクが時間稼ぎになっているか定かではない時間稼ぎをしているうちに、
残った二人は距離をとって打ち合わせ。結果的に帆崎先生も加わっている。

「てめこらナガレ気持ち悪いことすんじゃねえよ」
「いやすいませんて今度ゲーム持っていきますから」
「いやいらないから」
「やっぱ眼鏡だよな。あれ取ると人格が変わるんだよ」
「ああそうだな」
「ザッキー、頼む!ちょっとサン先生の眼鏡取ってみてよ」
「ええ、俺が!?」
「頼むよザッキー!サン先生とは友達だろ」
「今度ルルさんとこにゲーム持っていきますから」
「それはやめてガチでやめて」
「よし決定!」

一応打ち合わせは済んだ。しどろもどろになっているタスクを助けてやらなければ。

「ザッキーよろしく!」
「ああもうわかったよ!」


「あのサン先生、ちょっといい?」
「なーに、ザッキー?」

カチャ

眼鏡を外した。いたって普通の眼鏡だ。サン先生にも変化はない。

「…ザッキーまで何するのさ」
「いや、何するってわけでもないんだけど…」
「…?」

今度は三人組で打ち合わせ。

「で!? 見た目変わんないけどこの後どうするのさ!?」
「タスク…あれ、やれ」
「ええっあれって! あれ!? 相手がのってこないとさみしいんだけど!?」
「それを試すためにやるんだって」
「えええっやだよ!」
「いいからやれっ!早くしないと眼鏡かけちゃうぞ!」
「ち、ちくしょー」

タスクは覚悟を決めた。

「サ、サン先生!」
「なんだよータスク」


「サン先生! 野球しよーぜー!」(某中島の真似で)

「おう! 今行くー!」(某鰹の真似で)


………。

…返したよ。

ああ、返したな。

いつも通りだね。

うん。


「…で、何? ホントに野球する? いいけど、お昼食べてからね」
「いや…いいです」

「ふーん…で、ザッキー、そろそろ眼鏡返してほしいんだけど」
「あ、うん、ごめん」

サン先生は眼鏡をかけなおした。
しかしそれは、外しても何も変わらない、ごく普通の眼鏡だった。

「で? ホントに何の用なの?」
「いえ…もう解決しました。おつきあいありがとうございました」
「ふーん…。まいいや、じゃ、またね」


結局目的を達成できず、お気楽三人組はとぼとぼと廊下を歩いていた。

「でもホントに何だったんだろうなー。タスクどう思うよ?」
「うーん、わかんない。眼鏡じゃなかったもんね」
「完全に別人だったもんなー」

はあぁー…

二人の大きな溜息が重なった。

一歩後ろを歩いていたナガレがポツリと呟く。

「英先生…か…」

「!!!??」

二人が驚いて振り向いた。

「そうだ! 何か英先生と話してた!!」
「それから普通に戻ったんだ!!」

「英先生がサン先生をまるで別人に…」
「あの時に何かが…」

「そうだ!つまり英先生は…!」

 Ω Ω<ナ、ナンダッテー!!



それから。少しの期間。

中等部の一部で、ある噂が広まるのだった。

噂の名は


「英先生、魔女説」



<おわり>