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Blue sky ~この青い空に春を呼ぶ~ "後編"


天気は西高東低、そして風も穏やかで、見上げる空の青さが何処までも心地が良い。
今日は絶好の飛行日和のこの1日。
河川敷には今回で18回目を迎える飛行試験を行おうとする飛行服姿の俺が居た。

既に組立ての完了し、充電を行っている『ブルースカイⅨ』のソーラーパネルが
降り注ぐ陽光を照り返しピカピカと輝く。
その様子は、さながら翼を休める渡り鳥の様にも見える。

ふと、周りを見渡してみれば、
暇つぶしで見に来たであろう見物人やら、たまたま遊びに来ていた親子連れ、ジョギングの最中の老人
そして何処からかこの事を聞きつけ、様子を見に来たであろう烏丸先輩の姿が見える。
……他の人達は居たって別に如何でも良いのだが、出来れば4番目の人は帰ってもらいたい物だ。
万が一、これでまた墜落なんて事になったら何を書かれる事やら……。

「…………」

どやどやとざわめく見物人の声が何処か遠くの世界にあるように感じる。
今まであれば、俺は絶対に飛べる、と期待に胸を膨らませている筈だったのだが。
生憎、今日の俺は如何も心の内にもやもやとした物があって、気分が乗らないままでいた。

もやもやの原因は分かっている。
―――それは白頭の事だ。

まさか、アイツにあれだけ心配されているとは思ってもいなかった。
そういえば、飛行に失敗するたびに、俺は何時の間にか来ていた白頭に怒られていたような気がする。
ひょっとすると……アイツは何時も俺の事を見ていたのだろうか?

そう、自分を勇気付ける為に、怪我をしながらも努力を重ねる俺の姿を。

「惣一、今日こそうまく行きそうかな?」
「ああ、行けたら良いな……」

組み立ての手伝い兼見届け人である父さんの言葉に、俺はつい上の空で答えてしまう。
父さんは俺の様子に少し苦笑した後、携帯を使い関係者への最終確認を取り始めた。
……俺はもう一度だけ、視線を巡らせて見なれたハクトウワシの少女の姿を探してみる。
だが、何処を探しても、彼女の姿は見つからないままだった。

「そろそろ時間だぞ、惣一?」
「あ、うん……」

父さんに言われ、俺は『ブルースカイⅨ』の操縦席(といっても、自転車のサドルなのだが)に座り、風防を閉じる。
機体のフラップの可動を確認、バッテリーをモーターへ接続、そしてブレーキを解除し、ゆっくりとペダルを漕ぎ出す。
その力で機体がゆっくりと動き始め、機体が滑走路であるサイクリング用の道へと差しかかる。

其処で一旦機体を止め、進路がクリアである事を父さんが手旗信号で伝えるのを待ち、
俺はペダルの動力伝達先をランディングギアからプロペラへとレバーでガチャリと切り替え、
力強くペダルを漕ぎ始める。

しかし、漕ぐのはプロペラが動き出すまでの間だけ。そう、プロペラの回転自体をモーターの起電力とする為だ。
やがて、モーター自体の力でプロペラが回り始めたのを見計らって、俺はペダルを漕ぐのを止める。

ひゅん…ひゅん…ひゅんひゅんひゅんひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんんんん………

モーターの音が風鳴りの様な音へと変わり、回転するプロペラが丸く黄色い輪郭のみ見える所でブレーキを解除。
機体はプロペラからの推力のみで動き始め、ゆっくりと前進をはじめる。


「惣一、何かあったときは直ぐに通信するんだぞ」

横を追走する父さんの風防越しの言葉に、
俺は「ああ」と一言だけ頷き、ペダルの動力伝達レバーをプロペラからランディングギアへ切り替える。
力強くペダルを漕ぐ度に、機体は加速を強め、離陸速度へと近づいて行く。
コックピットに据え付けられたバイクの物を改造した速度計を見やりながら、離陸のタイミングをはかる。

V1、まだだ、加速は続行。……VR、フラップを動かし機首引き起こし開始。……V2、よし、離陸!

フラッター現象によって翼が震える音が俺の不安を掻き立てる。その中で俺は目を閉じて必死に祈る。
頼む、ブルースカイよ、今度こそ、今度こそ飛んでくれ! 彼女の為に!!


「…………」

フワリと浮かび上がる感覚と同時に翼が震える音が唐突に止む。
俺はゆっくりと目を開き、辺りを見まわす。ゆっくりと地上が離れていくのが見えた。
そして、俺は呆然と言葉をもらす。

「飛んでる……」

そう、俺は、機体は――空を飛んでいた。

「飛んでるぞ……ふふ、ふはは、やった、いぃぃぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

胸の内から湧き上がる喜びのままに、俺は叫びを上げてガッツポーズを取る。
頬を撫でる冷たい風が、この時ばかりは心地よく感じる。
白頭と約束をしてから約半年、俺は、ついに約束通り空を飛んでやったのだ!
俺はすぐさま通信機のスイッチを入れ、地上にいる父さんへと繋げる。

「父さん、今、見えるよな? 大空を飛んでいる機体の姿を」
『ああ、しっかりと見えているぞ。ここじゃ大喝采で沸きあがっている所だ』

通信機越しに聞こえるは見物人の上げる喝采の声。
俺に話しかける父さんの声も、何処と無く喜びに満ちている様に感じる。
多分、父さんの聞く俺の声も喜びに満ち溢れている事だろう。
……だがしかし、そんな中で俺は心残りが一つだけあった。

そう、この場に白頭の姿が無い事だ。
本当ならば、彼女へ今の俺の姿を見せて、空へ飛ぶ為の勇気を与える筈だったのだ。
しかし、それが果たせない様では、折角飛んだ喜びも半減してしまう。

……まあ良い、後で飛んだ事を伝えて、それでも疑う様であれば、またこうやって飛んでやるまでの事だ。
それより、先ずは着陸の為にとっとと機体を旋回させて河川敷へと戻らねば……            
「……あれ?」

機体を旋回させるべく操縦桿である自転車のハンドルを動かすが、何故かビクとも動かない。
2度3度同じ事を繰り返し、改めて異常に気付いた俺は、嫌な予感を感じながら方向舵の方へ視線を向ける。


「ギ、ギアがかんでやがる……」

俺の向けた視線の先には、方向舵を動かす為のギアにがっちりとかみ込んでいる小石があった。
多分、離陸する際に起きたフラッター現象によって機体が揺れた時に、
車輪が跳ね上げた小石をかんでしまったのだろう。
クソ、こうなる事だったら外装をケチらなければこういう事には……。

しかし後悔後先立たず、過ぎた事を悔いるより今はこの状況を何とかするしかない。
ならばフラップを左右違い違いに可動させる事で旋回すれば、と一瞬思ったが
そもそもこの『ブルースカイⅨ』はそれが出来る構造ではなかった事を思い出し、より絶望感を深めるしかなかった。

『如何した、惣一? そのままだと送電線にぶつかってしまうぞ!』
「えっ、送電線?……って、げっ!」

通信機の向こうの父さんの指摘に前を振り向いて見れば、百メートル程先に高圧線があるのが見えた。
……拙い、このままでは高圧線にぶつかってしまう!

「くっ、間に合えよっ!」

無論のこと、俺は即座にフラップを失速ぎりぎりまで可動させ、急上昇する事で高圧線を回避しようとする。
しかし、機体は思ったよりも速度が出ているらしく、このままでは上昇する前に高圧線に当たってしまう!

『そ、惣一っ!? 惣一ぃっ!!』

通信機越しに父さんが叫ぶ声が何処か遠くに聞こえる。
頬を撫でつける風の冷たさも、まるで遠い世界の出来事の様に感じる。
灰色になった世界の中、ゆっくりと、ゆっくりとスローモーションの様に眼前へ迫る高圧線。
あれに当たれば、数千ボルトの高電圧が俺を機体丸ごとこんがりとローストする事だろう。

……俺は、死ぬ?

そして一瞬、最悪の結末が俺の脳裏をよぎる。


「ソウイチ! 今直ぐ飛び降りて!」

――と、その時、俺は聞ける筈の無い声が聞こえた。

……この声が死の間際に聞こえる幻聴だとか何とか考えている暇は無い!
高圧線に当たって確実に死ぬくらいなら、彼女の声を信じて死んだ方がまだマシだ!

「南無三!」

躊躇逡巡なんぞ一切合財かなぐり捨て、俺は叫び一つ上げると機体を捨てて空へとその身を投げ出す!
一瞬だけ、身体に自由落下する独特の感覚を感じ――

がっ

思いっきり上へ引っ張られるような衝撃を腰の辺りに感じると同時に、
地上へまっ逆さまに落ちる筈だった俺の身体は空中に留まった。

「ソウイチ、大丈夫!?」

上から掛かる聞き間違え様のない声に俺が振り向き見れば、其処には翼を大きく広げ羽ばたかせる白頭の姿。
見れば、彼女の頑強な脚が俺の腰のベルトをしっかりと掴み、落ちない様に支えている状態だった。

「白頭……お前、飛べたのか?」
「え?……あ、そう言えば――って、それより、ソウイチ、怪我は無い? 何処か痛い所とか無いわよね!?」
「いや、まあ、強いて言うなら、お前にキャッチされた時に腰を少し……」

一瞬だけ疑問に答えかけて直ぐにまくし立てる様に状態を聞く白頭に、俺は少し冗談めかして答える。
その答えに、白頭は深く安堵の息を漏らし。

「良かった、本当に良かった……結局、あれから気になって様子を見に来たら
ちょうどその時、ソウイチが空を飛んでいる所で、良く見たら何だかソウイチの様子がおかしいのが見えて……
それを見ていたら何だか居ても立っても居られなくなって……気が付いたら、アタシ、空を飛んでいたの」

白頭は笑みを浮かべ、穏やかな調子で言う。

「不思議な物よね、今まで空を飛ぶのが恐かったのに、今、こうやってソウイチを助ける為に空を飛んでいる。
やっぱり、アタシにとってあの日の事故の事とかより、ソウイチを失うのが恐かったのかしら……」
「……ったく、困るよな……」
「……へ?」

俺が不満げに漏らした言葉に、白頭が首を傾げる。

「後で空を飛んでやった事をお前に知らせて、
それからビシバシと空を飛ぶ為のリハビリをさせるつもりだったってのに。
お前にこうもあっさりと飛んでしまわれたら、その予定が全てパーじゃねーか」

「ぷっ、あはは、残念だったわね? 思う通りに行かなくて」
「ああ、本当に残念だ……けど、こうやって空を飛んでる白頭を久しぶりに見れて、俺は嬉しいよ」
「……え……あ……?」

思わぬ事を言われた白頭は頭の羽毛をぶわっ、と毛羽立てて嘴をぱくつかせる。
そして、俺はある方向を見ながら、ニヤけた笑みを浮かべて言う。

「お蔭様でナイスアングルが見放題だもんな? ……ふむ、青のストライプか」
「―――――っ!? なっ、何を見てるのよっ! 本気で落とすわよっ!!」
「う、うわわわわっ!? じょ、冗談だって!? だから落とすのだけは勘弁っ!!」

スカートの下を見られて怒り狂う白頭にぶらぶらと揺さぶられ、俺は悲鳴に近い声で謝る。
その横を、無人となった事で上昇が間に合い、あっさりと高圧線を回避した飛行機が何処かへ飛び去ってゆくのだが
その時の俺も白頭も騒ぐのに夢中だった為、それに気付きもしなかったのだった。


「なあ……白頭? そろそろ降ろして欲しいんだが……」
「ちょっと待って、その前に行きたい場所があるの」

ややあって、そろそろ宙ぶらりんの状態に俺は苦しさを感じ始め、
スカートの下を見ない様にしながら白頭へ言うのだが、
どう言う訳か彼女は一向に降りる気配も無く、ある場所へ向けて飛びつづけていた。

「ここよ。 脚を離すから動かないでね」

そろそろ日が落ちようとする頃になり、
俺をぶら下げた白頭はようやく、海と山の中間に聳え立つ崖の中腹にある、棚の様に突出た場所へと辿りつく。
白頭は俺を地面に軟着陸させた後、フワリと舞い上がると同時に脚を離し、俺の横へと降り立った。
そして、俺は立ち上がりながら周囲を見まわし、白頭に問い掛ける。

「ここは……?」
「ん……ここはね、アタシのお気に入りの場所なの。今まで友達どころかパパやママにも教えた事の無い秘密の場所。
今は少し寂しい景色だけど、春になると色取り取りの花が咲き乱れてとっても良い場所なのよ。
それに……ここから見える夕日は他に無いくらいに綺麗なの。
……一応、言っとくけど、アタシがここを教えたのアンタが初めてよ?」
「へぇ……」

白頭の説明に、思わず感嘆の声を漏らす俺。
確かに、落ち行く夕日の照り返しを受けて、海がまるで宝石の様に輝いている様は何処までも美しい。
この光景を前にすると、彼女がここを秘密の場所にしたがるのも無理も無い思えてしまう。

「嫌な事や悲しい事があった時は、アタシは何時もここの夕日を見て気を落ち着かせてきたんだ。
けど、飛べなくなってから、もう2度とここの夕日は見られないかもって思うようになって居たの。
……でも、結果的にソウイチのお陰で、アタシはまたこの場所に来る事が出来た。 
アンタに言うのもちょっと癪だけど、本当に感謝しているわ」

夕日を眺めながら恥かしそうに言う、白頭の不器用ながらも想いの篭った感謝の言葉。
聞いている俺もなんだか恥かしい。


「所で、ちょっと頼みがあるんだけど、良いかしら?」
「ん? なんだ?」
「私が良いと言うまで目をつぶって欲しいのよ」
「………?」

何やらとってもベタな予感を感じつつ、俺は白頭の言う通りに目をつぶる。
ひょっとしてキスが来る? とか淡い期待を抱きつつ。

ぼふん

――しかし、目をつぶった俺に来たのは、期待に反して両頬を両翼で軽く叩かれる感触だった。
そんな予想外の事に思わず目を開けた俺へ、白頭は悪戯っぽく笑うと、

「ふふ、ひょっとしてキスしてくれると期待してた? バーカ、鳥人の堅い嘴とキスしても面白くないでしょ?」
「あ……い、一杯食わせやがったな! この白髪頭!」
「なによ、このチビ助。勝手に期待しちゃってるアンタの方が悪いんだからね?」

こ、こいつはやっぱり素直じゃない……!
そう思った俺が、更に声を張り上げようと顔を上げた矢先、

もふっ

―――俺の身体は、白頭の両翼にしっかりと抱き寄せられていた。

「アタシ達、鳥人はね? キスの代わりに好きな人とこうやってハグをするのが慣わしなのよ、憶えてて」

突然の事に呆然とする俺の耳元へ言った後、白頭は身体を離し、両翼を後に組んで言う。

「ここでの事はアタシとアンタだけの秘密。 分かったならとっとと帰るわよ? ソウイチ。
アンタの父さんもそろそろ心配している頃だと思うしね?」

そこで初めて浮かべる、白頭の心の底から見せる微笑み。
……彼女がこうやって笑うのを見るのは、本当に久しぶりだった。
ひょっとすると、俺はこれを見るだけの為に色々と苦労を重ねていたのかな? と、つい思ってしまう。

「そうだな、帰ろうか?」

そして、俺も白頭に向けて笑いかけたのだった。


……其処からが大変だった。
白頭にぶら下がる形で帰還を果たした俺に待っていたのは、
目が全然笑ってない笑顔を浮かべる父さん及び学校関係者の皆さんの姿だった。

聞いた話では、俺が乗り捨てた『ブルースカイⅨ』は、
まるで乗り捨てられた恨みを晴らす様に無人で飛びまわった挙句、
あろう事か、バッテリー切れによって俺の通う佳望学園の校庭へと不時着したのだ。
しかも、その不時着する際に校長先生の銅像を粉砕したと言う、かなり有り難くないオマケ付きで。

そして、怒りに燃える彼らから俺へ下された判決は、
3週間の部活動停止と学園高等部棟全てのトイレ掃除一ヶ月間。そして小遣い約30%カット3ヶ月。
俺にとって何より痛かったのは小遣いが減る事だったのは、今更言うまでも無い事だろう。

白頭はと言うと、俺の弁明も効して一切のお咎め無しで済んだ。
それ所か、白頭が久しぶりに空を飛べた事で、彼女の両親が人目も憚らず咽び泣いたのは敢えて言うまいか。

さらに、その翌日、一面に俺を抱く白頭の姿の写真が載った俺と白頭の熱愛を報道する校内新聞が張り出され、
白頭と共に慌てて新聞を剥がして周った事は余談である。

まあ、そんな感じで、俺にとって初めての、そして白頭にとって久しぶりの飛行は幕を閉じたのだった。

……そして、今

「今日は良い空だな。 遠くの美山連峰がはっきりと見渡せるよ」
「そうね、こう言う日に飛ぶと本当に気持ちが良いわ」

あれからようやく部活動停止が解かれた俺は、
早速、改良に改良を重ねた『ブルースカイⅩ』に搭乗し、白頭と共に空の風の一つとなっていた。

部活動停止になってるのに飛行機の改良なんて出来ないんじゃね?、と思う人も居るかもしれないが
そりゃ部活動として飛行機を飛ばす事は出来ないが、家に帰った後で改良点の洗い出しと改造は出来るのだ。
そう、家に帰った後、がミソ。 流石の校則も帰宅後の個人的な、しかも目立たない活動までは口出し出来ない訳で。
まあ、流石に試験飛行が出来ないのは少し辛かったが。今、こうやって飛んでいる限りでは問題はなさそうである。

ちなみに、ⅨからⅩへのおもな改良点を上げるとすれば、
機体構造の強化、航続距離の延長、そして搭乗定員の増加、である。
一番の目玉は言うまでも無く、搭乗定員の増加であろう。(とはいえ、一名から二名に増えただけなのだが)
俺はそれを生かし、新学期において新入部員獲得の為の体験飛行を行おうと画策しているのだ。
果たして、これが上手く行くと良いのだが……。


「やあ、白頭、そしてついでに風間、気持ち良く飛んでいるようだな!」
「あれ? 宮元先輩……如何したんですか?」

風鳴り音の鳴り響く中でも大きく聞こえる声に振り向けば、
其処には翼を大きく広げて滑空する飛行用ジャージ姿の大空部部長、宮元先輩の姿。
つか、俺に対して『ついでに』って何だよ? ちょっぴりムカつくぞ?

「白頭が怪我を乗り越え、再び空を飛べる様になったと聞いたからな。早速、我が大空部に勧誘しに来た」
「おいおい、随分と節操無いな、大空部の部長さん」
「仕方ないだろう、最近はスポーツに傾倒してくれる若者が少なくなってしまってな。
そんな状況の中、有能な部員は一人でも多く獲得したいのが本音なのだ」

ジト目を向ける俺に、宮元先輩は何処か申し訳なさそうに言いながら翼をばさりと羽ばたかせる。

「でも、無駄足……じゃなくて無駄羽だったわね? 宮元先輩」
「何? 何が無駄羽だと言うのだ?」

横から割って入った白頭の言葉に、思わず首を傾げる宮元先輩。
そして、白頭は答える様に続けて言う。

「アタシはもう既に飛行機同好会の部員になってるのよ? だから今更先輩が勧誘しに来てももう遅いの」
「ぬ……」

完全に出遅れた事を知り、思わず痛恨のうめきを漏らす宮元先輩。

……そう、あの初飛行の日から数日経った後、白頭は唐突に我が飛行機同好会に入部すると言い出したのだ。
俺がその理由を聞いてみると、彼女は何処か偉そうに胸を張って、

『アンタ一人だけでやらしていたら、また何かの事件を起こしそうだからね。
これから何が起きても良い様に、アタシがきっちりと監視して上げる事にしたの。感謝しなさい』

とか言ってのけてくれたのだ。
……以来、俺が部活動を行う時には、必ずと言って良いほど彼女が付いて周る様になった。
そう、飛行機を飛ばす時だけではなく、部品の買出しの時や整備の時でも、終始付きっきりである。
それで少しは大人しくしてくれれば良いのだが、彼女は相変わらず俺のやる事成す事に口出しして来る訳で。
おかげで白頭が入部してから、俺が落ちついて部活動を出来た日は殆ど無いと言って良い位だ。
……だがしかし、同時にこれも悪く無いと思っている俺もいる訳で……。

「やれやれ、既に白頭が他のクラブへ入部している以上、ここは素直に諦めるしかないな」

ふう、と溜息を付いて宮元先輩が至極残念そうに漏らす。
白頭が「そうよ」と返した所で、宮元先輩は俺と白頭を見やり

「それに、流石にお似合いの二人を引き離せるほど、私は野暮ではないのだ」
「……なっ!? ちょ、それって如何言う……!」
「では、さらばだ!」

白頭が思わず問い質そうとするのを待つ事もせず、宮元先輩は翼を翻して何処かへと飛び去っていった。

「もうっ! 先輩ったら何を勝手な事を!」
「まあまあ、宮元先輩は元来からああ言う人だから仕方ないって」

宮元先輩が飛び去っていった方向を見やりながら憤慨する白頭を、俺は言葉で宥めようとする。
その俺を一瞬だけ睨みつけた後、彼女は「そうね、宮元先輩だもんね」と諦めた様に溜息を漏らした。


そして、そのまま数分ほど会話も無く飛び続けた後、白頭がふと思い出した様に言う。

「所でさ、前々から聞こうと思ってた事があるんだけど」
「ん? 聞こうと思ってた事ってなんだ?」

オウム返しに問う俺に、白頭は言う。

「その飛行機につけてる『ブルースカイ』って名前、如何言う理由があって付けた名前なのかなって」
「それは……」

俺は思わず答えそうになって、途中で思い止まる、そして……

「悪いけど、もうそろそろ日が落ちそうなんでな、安全の為にさっさと地上に降りるとするよ」
「え? ……ちょ、ちょっと! 質問に何も答えてないじゃない! 名前の由来くらい教えなさいっ!!」
「じゃあな、白頭。 質問に関してはまた明日と言う事で」

俺は言うだけ言うと、抗議の声を上げる白頭を振り切るようにスロットルを引き上げ、機体を加速させる。
多分、明日、学校で会った時にこの事で文句を言われそうだと思うが、その時ものらりくらりと誤魔化すとしよう。

なんだって、今更恥かしくて言える訳無いだろ?
翼を広げて青空を行く白頭の姿を再び見る、と言う願いを込めてつけた名前だなんてな……。
そう、この事は俺の胸の内に仕舞っておくので充分だ。

そう思いつつ眺めた青空は、まるで俺の考えを見透かす様に蒼く、何処までも澄んでいた。

――――――――――――――――――――――了――――――――――――――――――――――



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