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ぱんつじゃないから恥ずかしくないもん!


「一体何があったか、説明してもらおうか…因幡」

何たる不覚。風紀委員長を務めるわたしがこのような形で保健室に運び込まれるとは、末代までの恥。
けっして大怪我をしたわけではない。ただ、足をくじいただけだ。

しかし、保健のシロ先生の質問への答えようによっては、全校中の笑いものになりかねない。
横で心配そうに見つめる保健委員と宮元は、答えにのどを詰まらせる。
シロ先生はコーヒー豆の袋を見つめながら、わたしたちを尋問する。

「あの…。因幡さんが…」
やめろ、宮元。わたしのメガネ越しの訴えが分らないのか。
確かに、わたしは宮元に迷惑をかけたかもしれない。これ以上生き恥を描きたくないという乙女心を分ってくれ。
頼むから、『廊下でコケた』ということにしてくれないか。それを宮元と保健委員が目撃した、でいいじゃないか。

しかし、青空の向こうの地平線のように真っ直ぐな性格の宮元は、
羽根を震わせながらシロ先生に打ち明けようとしている。

「因幡さんが…、わたしの所に来て…」
「『ぱんつじゃないから恥ずかしくないッス!』って委員長が言ってたッス」
頼むからやめてくれ。今まで築き上げた、わたしの実直で勤勉なイメージが音を立てて崩れてゆく…。

そう。あれは、ほんの出来心だった。
アニメショップのポスターで『若頭』のDVD予約を忘れてしまい
初版特典の「若頭も愛用・日本刀ストラップ」を手に入れなくて

悔恨の情にかられていたときのこと、店内のプロモーション映像でわたしと同い年位の子が空を舞い、
銃器を持ち、戦う姿が凛々と描かれているシーンを見たのだ。それがすべての始まりだったのだ…。

「わたしも空を飛びたいな」

どうしてこんなことを考えたのか、今でも不思議だった。
かつてわたしたちうさぎ族の耳を羽根に見立てて、一羽二羽とわたしたちのことを
空を自由に舞う鳥のように数えていたと言うお話も聞くではないか。

地上で跳ねるうさぎが、月に昇るというお話も聞くではないか。
澄んだ冬の空を巨人オリオンと共に地球を回るというお話も聞くではないか。
こう考えると、うさぎが大空に思いを馳せることは、なんの変哲もないことであるということ。
うさぎが空を飛んで何がおかしい。


御堂から土曜日の午後に大空部の活動があると聞いて、早速わたしはこの思いを大空部部長の宮元巴にぶつけてみた。
返ってきた答えは言うまでもない。

「どうにかなりませんか?」
「どうにもならないね」
当たり前である。しかし、自慢の長い耳で空を飛ぼうと思うほどわたしはバカではない。
ほんのちょっと、ほんのちょっとでもいいのだ。天空の支配者になったつもりで居たいのだ。
あのアニメの少女のように銃器を持って青い空に溶け込みたいのだ。
そのためには宮元巴よ、あんたの力が必要なんです。

「出来れば…あの。体験飛行っていう形で、わたしに肩車で乗って…飛んでいただけませんか」
「なんだと?」
「ほら…この空の素晴らしさを知った人が増えたら、大空部に憧れる子たちが一人でも増えて…」
「ゴクリ…」
「体験飛行ってやつですよ!お試し期間、送料無料!」
宮元が毛を逆立てているのは興味を示した証拠。興奮したのか、尾羽が扇のように開きかけている。
もう一押し…。待ってなさいよ、わたしの空。

「そして、この素晴らしさを委員会で生徒会長に伝えたら…きっと大空部の予算もアップ…」
「させていただきます!!」
宮元の気が変わらないうちに、グラウンドへわたしたちは即刻移動。

土曜日と言うことで学校の周りには誰も居ない。
人気のないグラウンドに着いたわたしたち。宮元は朝礼台に立ち、わたしに肩車するフォーメーションを取る。
ところが宮元は不安そうな顔をしてわたしに問いかける。そうもそのはず、わたしは清く正しい制服姿なのだ。

「ぱ、ぱんつじゃないから恥ずかしくないもん!!」
着替えているうちに宮元の気が変わったら元の木阿弥。

実を言うと制服のスカートの下にはブルマを穿いている。制服のまま空を飛べば、純真な男子の注目度もアップ。
『純粋に空を飛びたい』わたしの気持ちが通じ、宮元がわたしの肩に腰掛ける。
ぐっと力強い宮元の足を握り締め、いざゆかん。


「い、いくぞ?」
「う、うん!」
ばさっ!ばさっ!!ばさっ!ばさっ!!ばさっ!ばさっ!!

地上に吹き付ける宮元の翼の風が、思いっきりわたしの頭上を叩きつける。髪が乱れる!腕が痛い!寒い!
大空の大嘘つき。風を切る爽快感なんかひとっつもないぞ、という言葉が脳内を駆け巡ろうとしたときのこと。
わたしの目に星が飛び込んだ。そうか、宇宙まで飛んで行ったんだ。やあ、あれがオリオン座かな…。

違う、小石だ。星は星でも地球を間近に見ていたのだ、と言うより地球にぶつかったのだ。
足からわたしは落っこちた。飛行距離、約2メートル。わたしの空への夢は足の痛みという代償を抱えて潰えた。
今頃飛んでいたであろう自由な天空を見上げると、宮元巴が一人で呑気に飛んでいたのであった。

保健室の窓は、いつの間にか赤い夕焼けの日が差し込んできている。
さっきまでの青空はわたしを見捨てて消えてしまったのか。

「いまいち、きみたちの言っていることがわからないんだ。パンツがどうしたんだ」
「えっとッスねえ…。宮元さんが言うには『ぱんつじゃないから…』」
「待て、そんなことわたしは言っていないぞ!」
足を抱えて倒れているのをパトロール中の保健委員が見つけ、搬送中にわたしがついこぼした言葉らしい。
女の子だから、わたしもパンツが見えた見えないを気にしていたんですう!ブルマですが。

このままではらちが明かない。シロ先生に最高級のブルーマウンテンを進呈することで、
このことは内密にしてもらうことになった。
シロ先生にはコーヒーで黙らせるのが一番、…とサン先生が言っていたっけ。

「よかったッスねえ。『ブルマ』を進呈ッスよ!」
「略すな!!」

シロ先生は夕焼けのように赤くなった。


おしまい。