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腐れ縁


『其処のバイク、直ちに停車しなさい!』

私がバイクを軽快に飛ばし、家路に就いている最中、
いやに耳に障るサイレン音とスピーカー越しの怒声に近い停車指示が私の背を叩く。
どうやら、間の悪い事に少しスピードを上げ過ぎていた所を見つかってしまった様だ。
ったく、車通りの無い通りを気分良く流していた所を……こう言うのはとっとと振り切るに限る。

『其処のバイク……って良く見たらお前、怜子か! くそっ、正月早々からスピード違反しやがって!
お前のような事する奴が居るから俺達は正月早々から働く事になってるんだぞ! 分かってるのか!』
『ウルフさん、完全に私情がでてますよ! と言うかマイク切ってから叫んでください』
『あ、しまった』

……あの交機(交通機動隊のパトカー)に乗ってるのはよりによって私の知り合いか。
さっきのやり取りからすると、相変わらず間の抜けている所は変わってはいない様だな。 
そうなると尚更、奴等を振り切らねばならなくなった。

ちなみに、さっきからギャンギャンと叫んでいる方の狼がウルフ、
そして交機を運転している方の狐がウルフの弟分のジョー。
認めたくは無いのだが、あの二人と私との関係は昔っからの腐れ縁と言う奴だ。

中学、高校の頃から奴等とは何かにつけてはいがみ合って、殴り合いなんてしょっちゅうだった。
そして、その度に喧嘩両成敗とばかりに三人纏めて若かりし頃のいのりんに叱られていたのを思い出す。
しかし、それが何の因果か、私は学校の教師、そして奴等は警察官になってしまった。
つくづく運命と言うものを不思議に感じてしまう。

『おい、怜子、だから止まれって言ってるだろ? ここで検挙数稼いでおかないと俺達の給料に響くんだぞ!?』
『ウルフさん、また私情が出てますって!』
『うるせぇっ! お前は黙ってろ! 怜子、今度と言う今度は逃がさないからなっ! 
カメラでナンバー撮って後で検挙なんて回りくどい方法はやらないから覚悟しろよ!』
『ああ、もう……済みません、玲子さん。俺達の為、今回こそ挙げさせてもらいますよ』

ジョーの声と共にパトカーがスピードを上げ、ぐんぐんと私の乗るバイクとの差を縮めて行く。
奴等の乗る交機は最新型のスポーツカー、対する私の乗るバイクは三十年近く前の骨董品。
このままでは奴等に追い付かれるのも時間の問題だ。

それにしても、あんなのを導入する金なんて警察の何処にあったんだ?
いや……ひょっとすると、奴等が自腹を切って導入した訳じゃ……、
……ありうる話だ、あのウルフの奴ならやりかねん。奴は今までに何度も私に煮え湯を飲まされてきたんだ、
そんな私を挙げる為なら、あいつは自腹を切る事だって厭わない事だろう。
……多分、ジョーは無理やり自腹を切らされたとは思うが……。

しかし、だからといって、私は奴等に捕まってやる訳には行かない。
そう、捕まってしまえば最期、奴等は鬼の首を取ったかの様に私を馬鹿にするのが分かりきっているからだ。
無論、そんなのはご免被りたい所だ。


私はアクセルとブレーキを巧みに調節し、
追い付かれるか追い付かれないかの絶妙な間で奴等との距離を維持しつつ、ある場所へバイクを走らせる。
やがて、私の乗るバイクが古い民家が立ち並ぶ旧街道へと差し掛かった所で、


私は奴等に向けて捨て台詞を残し、華麗な二輪ドリフトを決めつつ自動車では到底入れそうに無い細い横道へと入る。
この旧街道沿いの細道はそれこそ迷路の様に入り組んでおり、一旦ここへ入りこめば逃げ切ったも同然なのだ。
多分、奴等は今頃、私が逃げこんだ細道を前に地団駄を踏んで悔しがって……

『逃がすかゴルァっ!』

声に思わず振りかえると、其処には車を横に傾けた片輪走行で追いかけるパトカーの姿!
私を挙げる為にここまでするとは……何と言う執念だ。 正直、私は本気で驚いたぞ。
ま、そうするなら私にも対抗手段はある訳だが、

『ふははは、どうだっ、見ろっ! 3ヶ月間の特訓の末に編み出した対細道用片輪追跡術!
この技さえあれば、お前が幾ら細道に逃げようとも無駄無駄無駄ァッ!』
『あの……二人で特訓したように言ってますけど、特訓をしていたのは殆ど俺じゃないですか……?』
『うるせぇっ、それは言うなって言ってるだろ! まあ、それは兎に角、今度こそ覚悟しろよ、怜子!』

勝利を確信したのか、更に距離を詰めてくるパトカー。
私はタイミングを見計らいつつ僅かに横へ逸れ、ちょうど良い所で急停車をかける。

『うをッ、いきなり止まるなっ――って、おい、ジョー。早く止まれって!』
『そうは言いますけど、片輪走行している時にブレーキかけたら事故っちゃいますから無理ですって!』
『な、なんだってぇぇぇぇぇぇ…………』

そして、停車した私の横をドップラー効果で声を残しつつ通り過ぎ行くパトカー。
少しの間を置いて、遠くで何かが壊れるような音が聞こえた。……多分、奴等は止まり切れず何処かにぶつけたな?

まあ、奴等の事だ。どうせ大した怪我もしていない事だろう。
その代わり、新型をぶっ壊した始末書はたっぷりと書かされるだろうとは思うが。

「さて、帰るか……」

そして暫くの間、私は奴等が通り過ぎて行った方を眺めた後、今度こそ家路に就いたのであった。


「ウルフさん、これは完全に減給物ですね……」
「くっそー、今度こそいけると思ったのに……」
「で……おまわりさん、あなた方が壊してくれた私の家の塀の修理費、払ってくれますよね?」
「「とほほほ……」」

そしてその頃、民家の土塀にボンネットを突っ込ませたパトカーを前に、
怒り心頭な家の主人に怒られ、耳も頭も尻尾も項垂れる二人の警官の姿があったと言う。



関連:獅子宮先生