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HEROと現実は甘くない


「えいっ、この、くそっ! ああ、吼えるなって! ちょ、グラビームはやめ…あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

遠くに見える山々が白く染まり始める冬も本番にさしかかった、ある晴れた日の昼休み。
何時もの学校の屋上で上がった素っ頓狂な叫び声に、
近くのベンチで購買部名物特製コロッケパンを齧ってた卓と、
同じく購買部名物パインジュースを啜っていた朱美が思わず顔を上げる。
二人が顔を見合した後、声の方を見やれば、そこには例の如く携帯ゲーム機を手にした利里の姿があった。
彼の尻尾の跳ね上げ具合から見て、余程の事が起きたと見て良い様だ。

「素っ頓狂な声あげて如何したんだ? 利里……まあ、見れば大体の事情はわかりそうだけど」
「またティガ辺りにハメられたの? 利里君」
「あー、それがなー、G級のグラビにてこずっててなー。
これ、キークエストだからクリアしないと先に進めないんだ―、くそー」

卓と朱美の問い掛けに、利里は二人をちらりと見やると何処か忌々しそうに携帯ゲーム機の画面を見やる。
携帯ゲームの画面には無様に地に倒れ伏したハンターと、それを踏みつける様に通りすぎる飛竜が表示されていた。

「あー、G級のグラビモスは流石に手強い相手だな、
良し、俺もちょうど鎧竜の重殻が欲しかった所だし、利里、手伝ってやるよ」

「あ、だったらあたしも手伝いたーい! あたしもちょうど延髄が欲しかったんだー」
「おおっ! 二人とも手伝ってくれるのかー!?」

言って、携帯ゲーム機を取り出す卓と朱美に、利里は尻尾を振り回して喜びの声を上げる。
そして、何時もの通り三人での協力プレイが始まる……筈だった。


それは卓がある事に気付き、不思議そうに首を傾げた所から始まった。

「……あれ? こいつ、誰だ?」

卓が首を傾げるのは当然だった。
本来ならば卓と朱美と利里の三人しかいない筈のオンライン集会所に、
何故か居る筈のない四人目のキャラが居たからだ。

「なあ、この【Syou】って名のガンナー。知ってるか?」
「知らないわよ? 誰なのかしら?」
「俺も知らないぞー? 一体誰なんだろうなー、こいつ」

すぐさま卓が二人に問い掛けるのだが、どうやら利里も朱美も心当たりがないらしく、
結局、謎の四人目の正体が掴めなかった卓は余計に頭を悩ませるだけだった。

「ま、まあ……時間も無い事だし、今はこの誰かさんの正体を考えたって仕方ない。 
利里、とりあえずクエストを発注しておいてくれ」

「お、おう、発注しておくぞー」

だが、昼休みの時間が有限である以上、
何時までも考えている訳にも行かなかったのでとっととクエストを発注する事にした。

「良し、罠とかのアイテムの準備も良いな?」
「大丈夫、落とし穴と爆弾は調合分も合わせてバッチリよ」
「なぁ、卓ー、なんか四人目の人も加わるみたいだけど大丈夫なのかなー?」

そして、利里が発注したクエストに卓と朱美が加わり、その準備を始めた矢先。
三人のキャラの周りをうろうろとしていた謎の四人目がクエストボードに向かい
あろう事か利里の発注したクエストに加わってきたのだ。

「……見た所、ハンターランクも俺達と同じだし、高級耳栓のスキルを付けてるから大丈夫……だと思う」
「……なーんか、嫌な予感がするわね……」

早速、アイテムボックスの前で準備し始めた四人目の動きを眺めつつ、卓と朱美は何処か不安混じりに漏らす。
とはいえ今更ここで止める訳にも行かず。結局三人は謎の四人目を伴ってクエストに出る事となった。


そして……三人の不安は案の定、的中した。

「うわ、こいつ、後から散弾撃つなって!」
「ちょっと、そんな所に立たれたら物凄く邪魔なんだけどぉ!」

そう、とにかく、謎の四人目は三人の足を引っ張りまくったのだ。
近接攻撃担当の卓と利里が戦っているその後からボウガンの散弾を撃ちこんで二人の攻撃を妨害し、
更にその上、遠距離攻撃担当の朱美のボウガンの射線上に割り込んでは朱美の邪魔までしたのだ。

「うあ、折角眠らせたのに起こしちゃってるし、この人!?」
「こいつ、本当に何考えてるんだ!?」

それでも朱美が不屈の闘志で睡眠弾を撃ちこみ、飛竜を眠らせるのだが、
その直後に四人目が攻撃してせっかく眠らせた飛竜を起こし、朱美を愕然とさせた。

「ぎゃー! 攻撃しようとしている所に爆弾置くなー!」
「おいおい、しかもグラビームをまともに食らってるし、こいつ!」

しかも、飛竜が麻痺で動けなくなったタイミングに卓と利里が攻撃しようとすれば、
その直前に二人の傍に大タル爆弾G(攻撃が当たると大爆発する爆弾)を仕掛けて、卓と利里諸共に吹き飛び。
挙句の果てには、動きを見ていれば簡単に避けられる筈の攻撃をまともに食らって乙ると、
もうとにかく悪意があるとしか思えないくらいに、謎の四人目は三人の足を引っ張りまくったのだ。

「や、やっとクリアできた……ここまでグダグダになって失敗しなかったのが奇跡みたいだ……」
「で、でも、生命の粉塵(使うと同じエリア内に居るキャラ全員が回復するアイテム)を使いまくってこれよ?
しかも、生命の粉塵を使ったのは全部、この四人目の所為だし……もう疲れた」

「うう~、四人目の人が2乙した所為で報酬がスズメの涙だ……しかも報酬素材も少ないぞ……」

数十分後、何とか飛竜を倒してクエストをクリアした頃には、三人は精神的にヘトヘトの有様であった。
まあ、普通ならば三人で戦えば十分も掛からなかった物が、四人目の所為で倍近く時間が掛かったのだ。
三人がヘトヘトになるのも当然の事だろう。

「そういや、クエスト前にギルドカード(キャラの個人情報が分かる)を交換したんだっけ……って、おい」
「え? 如何したの……って、ちょっと、これ……」
「ん? 如何したんだー……って、何だと……」

ふと、何気にクエスト前に謎の四人目と交換したギルドカードを見た卓のその表情が引き攣る。
それに気付いた朱美と利里が画面を覗き込み、それを見た二人は卓と同じく顔を引きつらせた。
(利里は爬虫類なので無表情だったが)

「……俺は重殻を一個しか貰えなかったのに、こいつはちゃっかり天殻(凄いレアアイテム)ゲットですか?」
「な、中々の運よね? あたし達の方は目的の物がさっぱりだったのに……」
「お、俺、このゲームやっててここまでムカムカするの初めてだぞ……?」

そう、散々な結果な三人を差し置いて、謎の四人目はちゃっかりとレアアイテムをゲットしていたのだ。
三人にとって、ここまで見事な寄生(他のプレイヤー任せで殆ど戦わない、
或いは邪魔をするプレイヤー)は初めてだった。

そして、三人は暫くわなわなと身体を震わせた後、口を揃えて叫ぶ。

『もう2度とこいつとは組むかぁっ!』 と……。


……同刻

「あれ? 帆崎先生、如何したんです? 一人で溜息付いて……」
「あぁ、泊瀬谷先生ですか……いえ、現実の厳しさと言うものを肌で感じまして……」
「……はあ?」

『謎の助っ人現る!』というシチュエーションを上手く出来ず、
携帯ゲーム機を前に一人落ちこみ、溜息を付く帆崎教師の姿があったという。