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FORMAT:5章


祝いの花火がパンパンと打ちあがり、周囲には大勢のヒトが賑っている。
しばらくするとゆっくりと浮き上がり、ヒトが、建物が、徐々に小さくなっていく。
そして瞬く間にそれらは視界から消え、数分もしない内に、辺りは美しい空と母なる海だけになっていた。

今、俺達は最新の飛行船『スタークラフト』に乗っている。
このスピードなら、大陸ローナンに到着するのは時間の問題だ。

「やっぱスゲーなこれ。世界最速の名はダテじゃなかったみたいだな。」
「ホントにこれに乗るとは思わなかったなー。」
「あ、本来は乗らないのか……?」
「まぁ普通の気球は使うんだけどね。RPGに船や飛行船、大空を舞う竜みたいな移動手段は当たり前でしょ?」
当たり前かどうかは知らんが、ともかくラッキーなんだな、これは。
周りをザっと見渡すと、やはりピシっと正装しているヒトばかりだ。
服装だけで見ると俺達は明らかに場違い。
例えるならお城の舞踏会に紛れ込んだ迷子の子犬アーンド子猫ちゃんそのものだ。
俺達の事はあんまり気にしていないみたいだが……。
それでも船に乗り込む時、乗務員に白い目で見られたのは言うまでもない。
皆が皆他の人とワイワイ話しながら窓の外を眺めている。

そういえばこれ程騒がしくて気が付かなかったが、船のエンジン音が全くと言っていいほど聞こえない。
こんなに速く飛んでいるのに揺れもしないし、普通に立っていられる。
はぁ、やはり時代は科学なのですな。
やっぱアンタはスゴイおヒトです、ドクター。

そしてやっぱり、というか当然の如く、ソフィはどうしてるのかと聞かれれば言うまでもない。
窓にぺったりと張り付いて、一人でキャイキャイはしゃいでいる。
「うん、アレは当然よね。」
「あぁ、アレはしょうがないよ。」
端から見たら本当に子供だ。身長的に言っても18になんて到底見えないよ、ホントに。

「あ……。」
「ん?どうした?」
シンディは反対側の窓を見るなり、何かに気付いたようだ。
「……あれ、あの、帽子かぶってるロップ族のヒト。」
彼女が指差した方には、確かにニット帽をかぶったロップ族の男がいる。
暑苦しそうなコートを着て、壁によりかかっている。
一番の特徴は、かなり目が細い。なんか悪役チック。
「あのヒトがどうかしたのか?」
「……本来ならローナンでパーティに加わる。名前は確か…ディアス・ユークライト。」
「え?!」
あんなワルっぽいヒトまで愉快な仲間達の一員になるんですか。
でもよく見たらちょっと強そうだ。あのヒトなら頼もしい味方になるだろうなぁ。
……おっと、こりゃ失言だった。別に今のパーティに不服があるわけじゃないぞ?


「なんか随分と滅茶苦茶になってるみたいだなぁ。やっぱ、これもバグのせいなのかな。」
「………う、うん。そうかもね。」
随分と歯切れの悪い返事が返ってきた。思えば自分で言ってた事なのに…。

……そうだ。変な意味で言うわけじゃないが、今は2人きりだ。
朝言いかけてた事でも聞こうかな。
繰り返し言うが、決して変な意味で言ったわけじゃないぞ。
窓の外をボーっと眺めるシンディに、なぁと呼びかけようとしたら
「ねー!大変!大変だよ!!2人とも!!」
来たよこの子が。悪態つくわけじゃないけど、色々と邪魔されてばっかだ。
朝だっていい感じな雰囲気だったのに、ちくしょう。彼女は何かの手先なのか。
「…どうしたの?」
まぁ気になることに変わりはないので聞いてみる。

「さ、さっき外見てたらヒトが飛んでた!2人!!」
「おいおいヒトが空飛ぶわけな……いこともない、か。」
シンディは空を飛ぶ魔法を習得している。だから飛んでいる事そのものは不思議とまではいかない。
だがよく考えたら、この船のスピードについていける程速く飛べる事には些か疑問が湧く。
長時間の飛行は疲れると彼女も言ってたし、それが出来るとなるとかなりの使い手ではないだろうか。

……ちょっと待て。
俺は……多分知ってるぞ、それが出来るヤツを。

「………ウルカ。」
「…だよな…それしか考えられない。」

イヤな予感がする。
風の噂で俺達が船に乗ることを聞いて、しめしめと急襲に来たわけじゃないだろうな。
しかも2人。仲間を引き連れている可能性が高い。
「とにかく甲板に出てみよう。ほぼ間違いなくこの飛行船に乗り込んでくる。」
「甲板?そんなのあった?」
「ほら、飛行船の頂にドーム状のガラスで覆われてる部分があったろ。」
「あぁ……あれね。」
あの女は、町を顔色一つ変えずに消してしまうような卑劣なヤツだ。
ヤツならこの飛行船を撃墜するなんて事もやりかねない。何かあってからでは遅いからな。

「……『立入禁止』って書いてあるよ。」
「構うもんか。緊急事態だ。」
ピンと張ってある注意書き付の鎖を乗り越え、階段を昇る。
眩い太陽の光が俺達を照らし、ゴウゴウと風を切るような音が響く甲板に出た。

「!!」
「お、わざわざそっちから出迎えてくれるとはねー。助かったわ、手間が省けて。」

やはり……乗り込んできていた。
「ウルカ……!」

ヤツの丁度真上のガラスが割れている。あそこから入ってきたようだ。
ウルカの隣には、やはり仲間らしきヒトがいた。
厚手のマントを羽織った、ロップ族の女だ。
「たった二人か?」
「少数精鋭ってヤツよ。」
「随分と自信たっぷりね。一体何しに来たの?」
ウルカは背中に収めていた大鎌を抜いた。
同時に俺達も武器を構える。

「……ザックス、まずは私がビリアルデを代表して、貴方への数々の非礼をお詫びするわ。」
「………何だと?」
「私達は崩壊を食い止めるべく、貴方を脅威と考え、今日まで活動してきた。
 その考えが改まったってコ・ト。」
そうだ。ヤツらは俺を狙っていた。
ウルカは、あのマントマンの一件も主任務は俺を始末するためのものだったという。
「…そりゃ今更だな。」
「そう、今更ね。だからこそ謝罪してるの。」
「わざわざご苦労なこった。で?なにしに来たんだ?
 それ言うためにここに来たわけじゃあるまい。」
「当たり前じゃない。もう貴方に用はない。あるのは………。」
ウルカは俺から視線を反らし後ろの方を見た。


「さ・て・と、全世界のために死んでくれるかしら?」
鎌が突きつけられた方向には、シンディが立っていた。


「………な、何言ってるんだ?」
「だから、私達はシンディを始末しにきたの。」
「違う!何でシンディを殺すのか聞いてるんだ!答えろ!!」
「……にっっぶいわねー崩壊の元凶がその子だからに決まってるじゃない。」

………シンディが……バグ、だと?

「ザックス君落ち着いて!敵の言う事なんか真に受けちゃダメだよ!」
「まー信じるもないも勝手なんだけどさ、当の本人はどうかしら?」
ウルカがそう言うなり振り向いてみると、青い顔をして俯いているシンディの姿が目に入った。
「――シンディ!何で黙ってんだよ!!言い返してやれよ!!」
それでも彼女は顔を上げようとはせず、ただプルプルと震えているだけだった。

「ま、いいや。どいてくれる?斬りたいんだけど。」
「一度は勘違いして俺を散々追っかけてたようなアホ共の言う事なんか、聞いてくれると思うか!?」
「そうだよ!そんな事させない!」
前に進もうとしたウルカに武器を突きつけ、威嚇した。

「はぁ、わかった。じゃあ納得させてあげる。」
ウルカは鎌の刃を地面に下ろした。
「納得だと?」
「何でそう思ったか…。説明してあげるって言ったの。」

説明の内容が本当に納得できるものなのかどうかは甚だ疑問ではあった。
こいつらはそれほどテキトーだ、という印象しかないからである。
だけど敢えて反応はしなかった。
甲板全体に低く響く轟音は、静寂の空間よりはまだマシだった。

「ゲームの世界……そう考えると出てくるのは登場人物。
 実際に操作する個性豊かなPC (Players Character) は勿論、ちょっとしたイベントに出てくるキャラ、
 そこらの街にゴミのように転がっているNPC (Non-Player Character)。
 どんなキャラだろうと、脇役・チョイ役だろうと、ゲームに登場する分には皆『役割』が決まっている。
 逆に言えば、『役割』があるからこそゲームに登場しているってこと。」
確かに何の役も与えられていないヤツはゲームには登場しない。
ゲームに限らず、演劇なんかもそうだろう。
単につっ立っているだけでセリフも貰えない『木の役』も、実際は役を与えられているからこそ登場している。

「さーて、ここで問題。彼女、シンディの『役割』は何? 彼女は貴方の、何?」

シンディは、案内役だと言っていた。
……いや、正確には案内役『なんじゃないか』と言っていた。

「ホラ、ね。それ、自分が何なのか分かっていない証拠じゃない。
 ストーリーやPCの設定まで詳細に分かるヒトが、自分の事も知らないんじゃお話にならないわ。」

……何てことだ。これは…冗談だろ?

「………違う…私……私は…」
「…もう一つ。」
「――!」
「そもそも、何で大陸レードは消滅したの?
 貴方の町リュネットは、彼の故郷ブレンダンは、エーダインは、何で消えたの?」
「………。」
答える間もなく、すぐにウルカは続けた。

「『バグ』の侵食が原因?感染の進行?レードは消えてしまう運命だった?
 いいえ、全部違う。

 貴女が来たからよ、シンディ。」

「っ!!」
「おい!やめろ!!」
「部下の報告によれば、消滅したタイミングは全て、貴女がそこを立ち去った瞬間だった。
 リュネットも、フォスターに追われながらも転々と場所を変え、逃げ回っていた町も、エーダインも…。
 全て、そうだったわ。」
「――やめろって言ってんだろ!!」
俺はかなり血が上っていた。それほど腹が立った。
話している最中だったが、お構い無しに光の剣を出してヤツに斬りかかった。
少しも動じずに彼女は刃を鎌で受け、話を続ける。

――違ウ。
「さぁ、これはどういう意味?いくらバカでも、わかるでしょ?」
――私ハ、今マデ彼ノタメニ。
「そろそろ観念なさい!自覚があろうとなかろうと、貴女は脅威よ!」
――ヤメテ。ソンナ事、ナイ。

「…もう意地張るのやめたらどうかしら?
 本当に、本当に彼を、皆を、守るべき助けるべきヒト達を、絶望に追いやったのは、誰なの?」

――!!






         "シンディは、俺を助けに来てくれたんだろ?"
               "…ありがとう。"










「いやああああああああああああああああああああああっ!!!!」


「貴様!いい加減にしろ!!!」
「アンタ馬鹿?ここまでの説明、全部言い掛かりだと思う?もっと自分に素直になりなさいよ。」
「黙れ!!」
力任せに当たっていた。
膝をつき、蹲り泣き叫ぶ彼女の姿を見てしまった俺は、何も考えることができなかった。
ヤツの言うとおり、素直じゃなかった…イヤ、認めたくなかっただけなのかもしれない。

「……どいてくれそうもないから、力ずくで行かせてもらうわ。」
半端じゃなかった。
突然グイっと押し返されたと思ったら、俺は宙に飛ばされていた。
俺の剣をいとも簡単に薙ぎ払い、ガラスに思い切り叩きつけられた。

ツカツカと靴音を立てながらウルカはシンディに近づく。
すぐさまソフィはそれの間に割り込み、拳を構えた。
「……貴女もなの?おチビちゃん。」
「……………。」
「はぁ…クラム、お願い。」
「ん。」
ヤツの付き添いクラムは地面を蹴ってソフィに近づき、手に付けた剣で彼女の肩を貫いた。
「きゃあっ!!」
彼女もまた俺と同様、ガラスに叩きつけられる。

「く、くそ……やめ、ろ…っ!」
力いっぱい叫んだつもりだったが、気を失う寸前の状態で出る声量なんてたかが知れていた。
必死に起き上がろうとするも、力が入らない。
ずりずりと地面を這っていこうとしたが、そんな事で間に合うわけはないと、
ましてやヤツの元に辿りついたとしても、どうする事も出来ないのは分かっていた。
シンディの事で頭がいっぱいだった。

ウルカはシンディの目前に立ち、こちらを向いた。
「そうそう、たった今大陸ランセルが崩壊したって情報が入ったわ。」
「…っ!」
「もう確定的よね?それでも納得できないなら、そこで見てなさい。
 彼女が死ねば崩壊した全てが戻るかもしれないし、そうでなくともこれ以上の崩壊は間違いなく止まる。」
「…シン……逃げ…ろ…。」

彼女は微動だにしなかった。ただその格好のままで、顔から地面に滴り落ちる液体。
聞こえるはずもない声、逃げられるような状況でもない。
逆境とはこういう状態の事を言うんだろう。
……いや。


――運命を受け入れろ。


ドクター、早速だけどその忠告、無視させてもらうよ。

もしも、このまま彼女が死ぬというのが、俺達が何も出来ずに殺されてしまうだけなら、
そんな運命、壊してしまえばいいだけだ。
主人公なんて、そんなモンだろ?
ヒトは理屈ばっかりで動いているわけじゃない。
好きだから、守りたいから、ただそれだけだ。
彼女の泣き顔なんぞ見たくもない。


鎌が振り下ろされようとしたその瞬間、俺は立ち上がった。
かつてない程の輝きを放つ巨大な剣と、銃を構えて。

さっきまでビクともしなかった体が、今は空気のように軽い。
自分で自分に驚いていたのが本音だ。
ウルカはそんな俺を見るなり、微笑した。
「…なかなか面白いじゃない、貴方。」

ヤツに向けて銃を撃った。
難なくそれをヒラリと避け、斬りかかってきた。
さっきはぶっ飛ばされるほど敵わない力だったのに、今は互角だ。
「アハハ最高!!パワーオブラブってヤツかしら?!」

喋る気にもならない。それほど俺は怒っていたようだ。
だがさっきとは違って今は冷静。静かな怒りだった。
不思議とヤツの動きが手に取るように分かる。
どこを攻撃するのか、どのような攻撃をしてくるのか。
武士の守護霊でもついたのだろうか。

「思ったより厄介ね。クラム!」
もう1人の方も俺に向かって攻撃してきた。だけどさっきとは大して変わらなかった。
クラムは剣の両端に付いた機関銃でウルカを援護するが、俺も負けじと剣を交えながらクラムに向け銃を乱射する。
それだけでかなり怯ませる事ができた。
段々とヤツの顔が険しくなる。今度は向こうがイライラしてきているようだ。
「あー鬱陶しい!!」
後ろに宙返りして間をとり、両手をこちらに向けた。
「くたばれ!ヴェルツエール!!」
激しく燃え盛る炎が放たれた。クロンファートを消し去ったあの炎だ。
「ぅおおおおおおおおおっ!!!」
出来るだけの魔力を使って電撃を放った。
それはいとも簡単に炎を飲み込み、ヤツらに向かって飛んでいく。

「うあああああっ!!!」
あの弾をモロに受けた。倒せはしなくともかなりの痛手を負わせたに違いない。
「シンディ!ソフィ!」
この間にすぐさま2人に近づく。流れ弾が当たってしまったかもと思ったが、どうやら無事みたいだ。
「ん…ダイジョブ。いたた…。」
「思ったより丈夫だなソフィは。」
「当たり前だよー。…シンディちゃんは……?」
「……ウンともスンとも言わない。」
「…。」
いつの間にか正座の状態で俯くシンディは、まるで魂の抜け殻だった。
俺だってヤツらの話は信じたくない。潰すべき目標が自分自身だったなんて、あまりにも皮肉だ。
図星だったから、納得してしまったからこうなったのか、それは分からない。
あぁ、またこういう時に来てほしいんだけどな、慈悲の神様。

「!!ザックス君!」
ソフィの呼びかけに反応して振り向いた。
ヤツら2人が血まみれになりつつも武器を振りかぶろうとしている。
だがヤツらは俺ではなく、シンディに目線が行っているのが分かった。
「こいつさえ殺れば全て終わるのよ!!!」
「くそっ!」
武器を構えなおそうとしたが、今一歩間に合わなかった。

ガキィン!!

刃は止められた。だが俺がやったわけじゃない。
「……んー野蛮な女の子はいくら可愛くても好きじゃないな。」
「!!」
「どの道キセルだし、悪いけどここで降りてもらうよ。」
そういうと彼は2人を思い切り蹴り飛ばした。
ガシャアアン!!
ガラスにまた2つ穴が開き、ヤツらは空の彼方へ消えた。

「あ、あんたは……。」
黒いニット帽にコート、細目のロップ族。
紛れもなくディアス・ユークライトだった。


「ったく、立入禁止のトコに入っちゃダメだろうに。…と言いたい所だけど、被害はガラスだけみたいだね。
 感謝しなくちゃあ。」
怖そうなイメージが一変した。ずいぶんと軽いヒトだったようだ。
「あ、ありがとう。」
「…あんたは、一体」
「ぼかぁただの傭兵さ。騒がしいから見てこいって言われて来ただけ。」
 しかし派手にやったねー。子供の仕業とは思えないな。」
ディアスは周りをグルリと見回しながら言った。
「とりあえず席に戻ってよ。そろそろ乱気流の域に入る。…そこの穣ちゃんも。」
「……シンディ。」
「……………。」
「あんなヤツらの言葉、真に受けるなよ。俺もソフィも信じちゃいない。」
「そうだよー。ヒトそのものがバグだって事自体怪しいしー。」
建前のようなフォローで立ち直ってくれるとは思わないが、こんな状態の彼女はらしくない。
一秒でも早く普段の彼女に戻ってほしいのだが…。

「……しょうがない。俺がおぶっていくよ。」
とりあえず今は席に戻らなければ。
シンディをおぶろうと前屈みになったその時だった。

ドガアアン!!

「おわっ!?」
物凄い音と共に機体が激しく揺れる。
「なんだ!?もう乱気流とやらに入ったのか?」
「…いや、違う!!」
ふと外を見ると黒い煙が流れているのが見えた。
「え?!じゃあ今のバクダン!?」
「……あいつらだ…!」
恐らく任務を失敗したときのための保険だろう。
船ごとシンディを殺すつもりだったに違いない。
「ちっ、とりあえず早く中に…。」

バアアアン!

今度はガラスが割れた箇所から次々と吹き飛んだ。
「うわああっ!!?」
空気が外に勢いよく出ていく。まるで掃除機だ。
「まずい!何かに掴まれ!」
「そんなもんねーよ!!」
甲板に置いてあったロープや木箱は全て吹き飛ばされてしまった。
そこに残っていたのは、俺たち以外に何も無かった。
何の抵抗も出来ないまま、あっさりと全員外に投げ出される。
「きゃああああ!!」

耳や尻尾が千切れそうなくらいの速度で落下していく。
船はどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。








………………。










…死んだんだろ、俺。
天国か?はたまた地獄か?コンテニュー画面か?
だが、いずれも考えられない光景だった。
周りには俺しかいない。
何だここは?

と、突然目前に誰かが現れる。
「…誰だ?」
見たこともない変わったローブ、長髪のコラット族の男が立っていた。

「ザックス、貴方を待っていました。」
「…だから誰だよ。何で俺の名を……。」
「ご覧の通り、ここはゲームの世界ではありません。私だけの空間、プログラム。」
「プログ……? !あんた、まさか…!?」

空も地面も真っ黒で、白い何かの文字が辺り一面に流れるように映っている、この光景。
ドクター、あんたの考えは的中したよ。今はもういないみたいだが…。
「……ミュラーです。よろしく。」


「あんた……本当に神なのか?」
「神…ですか。まぁ、この世界を創ったのは私ですから、そうなりますね。」
普通のヒトなら、「あんたバカか?」とか「これは夢だ!」って言うだろうな。
けど、もう何度も信じられない経験を積んでいる俺には到底通用しないサプライズだし、
夢にしては感触がハッキリしすぎている。

「……なぁ。バグって何なんだ?何でここにいるんだ?神なら分かるだろ?」
「そういくつも問われてもいっぺんに答えられませんよ。
 まずゲームの方の世界に侵食しているバグの正体は、私にも分かりません。」
そう簡単にはいかない、か。神でも知らないことはあるんだな。

「例え知っていたとしても、私には何の対処もできかねます。」
「…何故だ?世界を創ったあんたなら、異物の一つや二つどうにでもなるんじゃ……。」
「長々と話すのは性に合わないのですが…。
 私が世界を創ったのは事実です。しかしそれは私の意思で行なったものではありません。
 ゲームを製作するのは神じゃない、ヒトです。
 このゲームは私から見た・貴方から見た、ソトの世界のヒトの意思によるものの世界なのです。
 私はそのヒトの命令を聞き、一つ一つ作っていった。街を、モンスターを、貴方達PCを。
 私は神と言いましたが、ソトの世界のヒトの単なる操り人形でしかないのですよ。
 それ故に、ゲームに異常があったとしてもソトの世界のヒトがそれを取り除こうとする意思がない限り、
 私は動くことも出来ないのです。」

ソト…また想像したこともない事実を聞いてしまった。
だが筋は通っている。納得せざるを得ない。

「少し前までその、今世界を蝕むバグとは違うバグを取り除く作業を黙々と行なっていたのですが、
 命令はパッタリと途絶えてしまいました。もう作業は終わってしまったのかもしれません。」
「そんな……じゃあどうすることも出来ないのか?」
「いえ、そこで貴方の出番ですよ。」
「!」
「唯一私に出来ることは、このような口からの言葉での伝達とPCの思考の支配。
 貴方は今気絶しています。その間失礼ながら貴方の意思を支配しました。
 貴方をここに呼んだ理由は、これを託すためです。」

ミュラーはそういうと俺の頭に手を置いた。
何かが、キュルキュルと流れていくような感じがした。

「何だこれは…?」
「いずれ分かります。これは貴方にとっても私にとっても、ベストな解決をしてくれるでしょう。
 それは、時が来たら貴方の意思なく発動します。しかしそれは普通に待っていて訪れるものではありません。
 時は貴方が導き出してください。」
「……そんな事、出来るのか?」

「貴方なら。運命を壊すことが出来た貴方になら、必ず出来ます。必ず。」
「!!」


最後に俺の目に入ったのは、彼の微笑だった。
段々と視界がボヤケ、頭がモヤモヤする。

――ガランヒル。そこへ―――。



………。



「………ス…」
誰だ?
「ザ……ス…」
うるせーな。ミュラーの声が聞こえないじゃねーか。
少し静かに――。
「ザックス!!」
「!」

大きな声に驚き、俺は勢いよく体を起こした。
そこはだだっ広い草原だった。
ミュラーの姿は当然、ない。
真横にはシンディだけがいた。
ソフィとディアスはいない。
「ザック……!」
「うわ!?」
俺の顔を見るなり、彼女は突然抱きついてきた。
「ちょ、シンディさん!?」
「良かった……死んじゃったかと思った……。」
「……。」
どうやら気絶してた俺を心配してくれていたみたいだ。
彼女の頬は湿っていた。
それは嬉しいけどさっきまでのだんまりはいかんぞ。
「…ごめん……私…。」

まったく、この状態は俺にとって一生に一度あるかないかっていうスペシャルイベントなわけだが、
そうもゆっくりとしていられない。
「…ガランヒルへ行くぞ。」
「……え?待ってよ。ソフィは…?」
「これ以上は巻き込みたくない。多分次が最後だと思う。」
「………分かった。ザックスを信じる。」

運命を壊す、か。今思えば中々くさい事を言ったもんだな。
だが世界を救うには、それぐらいの力があって当然なのかもしれない。


終焉を迎える段階まで行っていない事を祈りつつ、スっと立ち上がった。

結末(こたえ)を導くのは、この俺だ。