スレ3>>426-428 えんびフライ
アキラが昨日、エビの尻尾ばかりの弁当を食べた、と、今日は愚痴ばかりこぼしていた。
何も味のしないおかずと白米では、思春期真っ只中の少年には辛いものがある、とアキラはこぼし続ける。
そんな話が職員室のごく一部で広がっている中、国語科の泊瀬谷先生は思い出したように、ポンと手を打つ。
何も味のしないおかずと白米では、思春期真っ只中の少年には辛いものがある、とアキラはこぼし続ける。
そんな話が職員室のごく一部で広がっている中、国語科の泊瀬谷先生は思い出したように、ポンと手を打つ。
「エビの尻尾って言えば…、昔、教科書にありましたよね。出稼ぎのお父さんが田舎に帰るときに
『エビフライを買って帰るから、ソースと油を用意しておけ』って手紙を送って…。
『エビフライを買って帰るから、ソースと油を用意しておけ』って手紙を送って…。
みんな東北の訛りで『えんびフライ』って言ってるんだっけ」
「そうそう!家族のみんなは『エビフライ』をはじめて見たから、尻尾まで食べちゃうだよね。
おばあさんがむせこんでさ、あーあ。エビフライ食べたくなっちゃったな!」
サン先生が椅子に座ったまま、ゴーっと車輪を走らせ泊瀬谷先生の側に近寄る。
サン先生が椅子に座ったまま、ゴーっと車輪を走らせ泊瀬谷先生の側に近寄る。
若い教師が学生時代の教科書話に花咲かせているとき、職員室で大きな『人影』が動いていた。
休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴る。さあ、午後の始まり。
それぞれ、教師達は各教室に移動し、受け持つ教科の授業を始める。
休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴る。さあ、午後の始まり。
それぞれ、教師達は各教室に移動し、受け持つ教科の授業を始める。
A組では泊瀬谷先生の現代文。
「この『永久欠番』と言う言葉、作者が伝えたかった意味は何ですか?
では、今日は5日だから…、出席番号5番の人!」
では、今日は5日だから…、出席番号5番の人!」
毛並みにチョークの粉が付くのを気にしながら、板書を続ける。
B組ではサン先生の数学。
B組ではサン先生の数学。
「この場合…補助線を引けば。ホラ!簡単じゃん!!」
ぐらつく椅子を踏み台に、図形の問題を解説する。
C組では山野先生の地理…のはずだった。
黒板には大きく『自習』の文字が力強くふんぞり返っている。
そして、今日一日は過ぎてゆく。いきなりの『自習』を除いては。
黒板には大きく『自習』の文字が力強くふんぞり返っている。
そして、今日一日は過ぎてゆく。いきなりの『自習』を除いては。
翌日、職員室の床には大きなイセエビが魚市場の如く並んでいた。誰の手によるものかは、もはや論じるまでもない。
「ははは。ちょっとね、三重県まで日帰り旅行してきたのよね。それでね、伊勢湾でイセエビをガッとね…。
この間、北海道の千歳川でサケを捕まえに行ったときの要領で捕まえたから、意外と楽勝よねー。
あっ!もちろん地元の漁師さんの許可は貰ってきたから、みんなは真似しないでね!!」
この間、北海道の千歳川でサケを捕まえに行ったときの要領で捕まえたから、意外と楽勝よねー。
あっ!もちろん地元の漁師さんの許可は貰ってきたから、みんなは真似しないでね!!」
豪快に笑う山野先生の右手には、昨日までしていなかった大きな絆創膏が何故か付いていた。
いきなり、ウサギの星野りんごが職員室の大きな扉を開ける。
大きな耳でイセエビの殻の音、ヒクヒク鳴らす鼻で潮の香りを嗅ぎ取って誘われたのか、
りんごの目は真剣である。いわゆる『料理の鉄人モード』か。ひとり、炎立つ。
大きな耳でイセエビの殻の音、ヒクヒク鳴らす鼻で潮の香りを嗅ぎ取って誘われたのか、
りんごの目は真剣である。いわゆる『料理の鉄人モード』か。ひとり、炎立つ。
「古くから『ハレ』の日に食され、見た目が勇猛果敢なつわものに似ているため『威勢がいい』とひっかけて、
縁起物とされているイセエビ…よ、わたしに戦いを挑むと言うのか…。この星野りんごが料理してくれるわ!!」
縁起物とされているイセエビ…よ、わたしに戦いを挑むと言うのか…。この星野りんごが料理してくれるわ!!」
もはや、彼女を止めることは、サン先生に『台車に乗るな!』と言うのと同じことであった。
むんずとイセエビの尻尾をりんごは掴むと、家庭科教室へと消えて行った。
むんずとイセエビの尻尾をりんごは掴むと、家庭科教室へと消えて行った。
この日の午前の家庭科教室は初等部が使う予定なのだが、彼らが来る前にイセエビのエビフライがずらりと家庭科教室に並んでいた。
コンロには特大の鍋がずしり、今だ中の油は落ち着くことはない。小麦粉や卵の跡が、この戦いを物語っている。
興奮冷めやらぬ勇者・星野りんごは、剣の代わりに包丁、盾の代わりにボールを手に午前のか弱い光を浴びて呟く。
コンロには特大の鍋がずしり、今だ中の油は落ち着くことはない。小麦粉や卵の跡が、この戦いを物語っている。
興奮冷めやらぬ勇者・星野りんごは、剣の代わりに包丁、盾の代わりにボールを手に午前のか弱い光を浴びて呟く。
「…この程度か!」
がやがやと初等部の生徒たちが集まると、目にしたのは大きなエビフライ。
こんなエビフライなんか見たことない。お子たちが興奮するのは言うまでもなかった。
こんなエビフライなんか見たことない。お子たちが興奮するのは言うまでもなかった。
「すごいニャ!見たことないニャ!!」
コレッタ、クロ、ミケの三人は目を星のように輝かせ、ちょいちょいっと片手でネコパンチを試みる。
折角だからと、山野先生と海の恵みに感謝しながらみんなで頂くことに…。
折角だからと、山野先生と海の恵みに感謝しながらみんなで頂くことに…。
「ふう、お腹いっぱいニャ!」
「もう、一年分のエビフライをたべたね」
「もう、一年分のエビフライをたべたね」
食べ盛りのお子たちのこと、大皿に犇き合っていたエビフライが尻尾を残しているのみだけになってしまった。
それを見た星野りんごが一言。
それを見た星野りんごが一言。
「母なる海の恵みを残してしまうのは…心苦しい」
「星野さん、ちょっと」
「星野さん、ちょっと」
星野りんごは勝手に午前の授業をサボったために、山野先生に呼び止められた。
「山野先生、ちょっと」
山野先生は勝手に昨日の授業を自習にしたために、教頭先生に呼び止められた。
大皿の上にのっかるエビの尻尾が笑っていた。
大皿の上にのっかるエビの尻尾が笑っていた。
授業を終え、職員室に戻る通りがかりにサン、泊瀬谷両先生が家庭科教室の窓越しに宴のあとを目の当たりにする。
すると、サン先生の頭上にひと玉の電球が灯り、泊瀬谷先生が話しかける前にサン先生は何処かへすっとんだ。
すると、サン先生の頭上にひと玉の電球が灯り、泊瀬谷先生が話しかける前にサン先生は何処かへすっとんだ。
「ほら!こっちこっち!!白米はちゃんと持ったよね!」
「うおー!!豪華なる弁当のおかずがあるのはここの教室ですかー!!」
「うおー!!豪華なる弁当のおかずがあるのはここの教室ですかー!!」
サン先生が連れてきたのは、アキラだった。
おしまい。