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スレ3>>297-313 FORMAT:4章


「とりあえず、どうする?」
「どうするったって…もう行くアテないんだろ?」

クロンファートでの異常気象。
あれは全てビリアルデの幹部と名乗るウルカという女の仕業だった。
何のためにあんな事をしたのかは定かではないが、何にしろバグに関しての件は結局振り出しに戻ってしまった。

「まぁ、どの道日は暮れちゃったんだ。明日に備えて休もう。」
「…そうね。」
長かったような短かったような。
今日という日は過ぎ去る準備を始めようとしていた。
ひとまず目に留まった大きな木の近くに腰を下ろした。
「今日はさすがに飯抜き…よね。」
シンディは空を見上げながらお腹に手を当てて言う。
「…だな。はぁ…規則正しく三食摂りたい。」
「ワガママ言わないの。…あれ、ソフィは?」
「……あれ、いねぇ。さっきまでいたよな…?」
どうりで随分静かだったわけだ。
ここまでの道のりはずっと一本だったから、はぐれたって事はまずないだろうが…。
「道端で蝶でも見かけたら追いかけていきそうなタイプよね。」
それは言えてる。
「しょうがない。探してくる。シンディはここにいて。」
「いってらー。」
と、俺がよっこらしょと立ち上がる前に
「オーイ!!」
ソフィが手を振りながらこっちに来ているのが見えた。
まったく心配かけさせて。18なんだからもっと自覚というものをだな――
「そこの林にピピールの巣あったから捕まえたよー美味しいよー。」
袋いっぱいに詰められた赤黒い生き物を差し出す。

前言撤回。
貴女はボクらよりしっかりした救世主たんです。陰口言ってサーセン。

そのピピールという小型の生物は、こんがりと焼くと良い香りを放ち、
とてもやわらかい食感で大変美味な肉だった。
正直今まで食べたどの肉類より美味い。

「ありがとうソフィ。なかなか頼りになるわね。」
「そんなーこれ見つけたのはグーゼンだよーグーゼーン」
ソフィは笑いながら後頭部に手を置く。
「美味しかったけど、ちょっと可哀そうだったかな…。」
「何言ってるのザックスくーん、ピピールは作物を食い散らかす悪い子なんだよー」
「えっそうなの?」

ソフィの話では、ピピールは時期を問わず畑の作物を食い荒らしに来ているらしい。
更にそれだけではなくピピールの歯には植物を枯らせてしまう成分が含まれているため、
ほんの一口でもかじられようものなら、その作物はあっという間にダメになってしまうそうだ。
ピピールはいわゆる『害獣』として、全力で完全駆除に向けて対策を進めているとの事だ。
その対策の一つに『いっそ食べてしまう』という項目があるわけで、
レストランには『ピピールの和風ソース和え』なんてメニューが普通にあるらしい。
それにしてもよく知ってるなこの子は。
さすが狩人。意外と彼女をパーティに入れたのは大正解だったかもしれない。


「んで何だっけ……そうだ、これからどうするか考えてたんだ。」
「あぁ、そうだった。…でもいくら唸っても案なんて出ないわ。」
二人揃って腕を組み考え込んでいると、後片付けを終えたソフィが言った。
「ハイハーイ!迷える子羊サンに朗報有りだヨー!」
「え、もしかしてアテがあるのか?」
ソフィは自分の胸をドンと叩いた。

「二人ともブレッガーって人知ってる?」
「あぁ、ちょっと前にスタークラフトって飛行船の開発に協力した人だろ?」
「私もそれ知ってるー。凄く頭良いんだってね。」
スタークラフトは今までの飛行船の十倍速く、静かな機械音で低燃費。
完全に実用化したら地上での交通手段は廃れてしまうのではないか、とテレビで大々的に放送していた。
そのスタークラフトの推進力・軽量化に貢献したのがグレイ族のクレート・ブレッガー。
若くしてとある科学研究所の長を担っているらしい。

…テレビで見たとは言ったが、これも設定、偽の記憶ってヤツなんだろうか。
はぁ、自分で自分が信じられなくなるなんて。もう堕ちたなこりゃ。

「聞いて驚けぇっ!なんとそのブレッガー君とこのあたし、ソフィ・バーティニーとは大の仲良しなのだー!!」

不覚にもちょっぴり驚いてしまった。
「友達…なのか?」
「そりゃもーマブだよマブ!アカデミーで二個上の先輩だったんだー」
彼女がそんなコネ持ってるなんてとんだ伏兵です。
俺は一体何回驚けばいいんですか。
「あ…もしかして、そのブレッガーに話を聞きにいく…って事か?」
「ピンポンピンポーン!」
「なるほどね…私はそれに賛成。わからない事は物知りに聞けばいいってコトよね。」
確かにそうだ。彼なら何か知っているかもしれない。
確実性はないが、どの道右も左もわからない身だ。
今はワラにでもすがる思いで行動するしかない。

俺達は明日、朝イチでクレート・ブレッガーのいる大都市、アグラヴェインへ向かうことにした。


――ふむ。今日で家を出てから三日目か。
ぐっすり寝るつもりだったが早朝に起きてしまった。
辺りは微妙に明るくなっている。
ソフィは木の根元でスースー寝てる。
寝顔見てやろうか、と思ったがそれは無理な話だ。
何故なら今回の寝ずの番はシンディなのだから。
ぐっすり眠ってる女に男が近づこうものなら、もれなく彼女の鉄拳が……。

あれ?

…シンディが…いない。
あいつ…どこ行ったんだ?
また「ゴフジョウ」か?
……なんというか、俺は世話焼きなのかな。
気付いたら目をこすりながら起き上がって、彼女の事探してたよ。

――!
いた…ビックリさせやがって。そんな離れた所でもないじゃないか。
平たい岩の上に座って、太陽が昇ってくる方を見つめている。
朝方の微妙に冷たい風によって、彼女の美しい髪がなびく。
……あぁ。これはアレか。感傷に浸ってるのか。
ここからではどんな顔をしているのかは分からないが…。
普段あんなにギャーギャー言う人がする行為とは……思えん。
うん、我ながらちょっぴり失礼だったな。

…どっちにしろお邪魔だよな。
その内戻ってくるだろうから、こっそりおいとm

「ザックス…?」

おーのー気づかれた。つーか何で気付いた。チクショー
「何こそこそしてんのよこの豚が」と罵倒されながら空の彼方にぶっ飛ばされている俺の姿が目に浮かぶ。
腹くくれ俺。歯ぁ食いしばれ俺。心の準備は出来たぜ。さぁ来い!

…来ない。
ずっと岩に座ったままこっち見てるだけ。

「何やってんのよ。こっち来れば?」

……その顔は怒るどころか、笑っていた。


「…シンディが物思いに耽るなんて、ちょっと意外だな。」
「失礼ね。私だって悩みの一つや二つあるわよ。」
俺はシンディの真前にあった小さな岩に腰掛ける。
どんな悩みなんだ?と聞いてみるところだと思ったが、生憎俺は口下手だ。
それらしいフォローをしてあげられる自信が全く無い。
だから敢えて聞かなかった。
といっても、聞いたところで教えてくれない可能性もあるわけだが。
しばらくはそんなとりとめのない話が続いた。
「あー……ザックス?」
「ん?」
シンディは突然流れを切った。
その言葉は何ともぎこちない口調だった。
「その…なんていうか……ごめんね」
「…え。ど、どうしたんだよ急に。」
何故か謝られた。ホントにどうしたんだ。
何だか俺、ここ最近ビックリしすぎ。あと何回ビックリすれば気が済むんだ。
「いや、ホラ。ほとんど何も知らないアンタを連れ回してさ、無茶言ったり…してたから、うん。
 私一人で…旅してれば良かったよね…。」
ホントにどうしたんだ…予想もしない言葉ばかり飛び交う。
言い終わるとシンディはうつむいていた。
チクショー出やがれ慈悲の神様。俺は何て言えばよろしいんですか。

…しばらくの沈黙の後、俺は口を開いた。
「シンディが突然現れて突飛な事言ってきた時は驚きもしたし、信じられなかったさ。今は違うけど。」
「…………。」
「でもさ、迷惑だとは思ってない。むしろ感謝してる。」
「!」
ここでようやく顔を上げてくれた。
「だってシンディは俺を助けに来てくれたんだろ?わざわざリュネットから。
 実際あの時来なかったら、ホントに死んでたかもな。ハハッ。
 フォスターだって追っ払ってくれたわけだし。あの時の俺じゃ敵いっこなかったよ。
 ……だからさ、別に謝んなくていいよ。今結構楽しいしね。
 逆に俺が言わなきゃな…。あの時は言えなかったけど、ありがとう。」
はぁ…はぁ…よくやった俺。自分でもナイスフォロー。ありがとう神様。
まぁ、思いつきではないんだけど…ね。
「……ザックス…私……私は」
「うわああああああ置いてかれたあああああ寝坊してごめんなさあああああああ!!!!」

突然叫び声が、それは紛れも無く一人で寝てたソフィの声だった。
「…やっべ。放置プレイかましてた。」
「…フフ。おしゃべりが過ぎたわ。戻りましょ。」
シンディは俺を軽く小突いて先に行ってしまった。
何か言いかけてたのは気になるけど……これで良かったのかな。
俺も戻るとしよう。ソフィはなだめてあげるのが大変そうだ。

「もー!!ひどいよ!!」
「ごめんごめん。」
半べそかいてた彼女をなだめると、次はやはり怒り出した。
「すごく心配して淋しかったってのに、二人きりでデートなんて!!」
「ちょ、それは違」
「何よーもー!二人で勝手にイチャついてろー!」
ソフィはプリプリしながら先に行ってしまった。
うん、二人で勝手に赤面してる。
よく考えると、あながち間違ってはいないよな。
なんて言ったらシンディに何されるかわかんないから無論黙ってたけど。
誤解を解くのには街に着くまでの時間全てを費やすハメになった。やれやれ。


何というかまぁ、これが都会ってヤツなんだろうか。
アグラヴェインに到着するなり、車輪のない車が多く徘徊し、巨大な電子掲示板がドンと置いてあり。
そこには実際には見たこともないものだらけだった。
そして見渡す限りの人、人、人。
首が痛くなる程高い建物。
嗚呼、我典型的な田舎モン也。
二人を見ると、特に驚いている様子もなく、しれっとしていた。
ソフィはまだ分かるが何故シンディまで…。
俺が非常識なだけなのか。

「ほら何してるのー行くよー」
ボケーッとしている俺を見て、背中をグイグイ押すソフィ。
ぶっちゃけちょっと和んだ。

ブレッガーがいるという研究所は、ずば抜けてでかい点を除けば周りの建物とさして変わらない地味な風貌だった。
まぁ、俺の町エーダインにはこんなの無かったんだけどな。
「着いたのはいいけど、中に入れさせてくれるのか?」
「大丈夫だって。あたしがパスポートだよ」
そうは言うが、仲が良いってだけで入れてもらえるほど世の中は甘くないんだぜ、ソフィさん。
なんて言う暇もなくソフィはさっさと行ってしまった。
「ま、行くだけ行ってみましょ。」
「…そうだな。」
確かにここでモジモジしてても仕方がない。
俺達もソフィに続いて中に進んだ。

「だーかーらー!ブレッガー君は友達なんですってばー!」
「そんな事申されましても……。」
あらら、やっぱりこの展開ですよ。
ソフィがカウンターに身を乗り出して、ロビーの人ともめている。
だからそんなに世の中は甘くないんですよ。
そろそろ勘弁してあげてください、ソフィさん。その人困り果ててますよ。
と、その人は突然後ろを向いてパソコンをカタカタといじる。
おいおい、警備員でも呼ばれるんじゃないか、ヤバいって。
……だけどそれは違ったようだ。モニターにブレッガー本人の顔が表示される。
《どうした?》
「ソフィと名乗る女の子が、ドクターに会わせろと聞かないんですが……。」
《えっ……》
モニターをチラリと見るなり、ソフィは叫んだ。
「あ!オーイ!!ブレッガーくーん!」
もう、何てデカい声だ。手までブンブン振って。何だか恥ずかしくなってきた。
《…その声…本当にバーティニーか。》
「ほ、本当に知り合いなんですか?」
《あぁ…通してやってくれ。》
「!ですが…ドクターは今」
《分かってる。だが来るなと言っても聞かないからな、そいつは。》
「しかし……。」
《ま、スパイみたいな事するヤツではない。サーモスタットの件は俺が責任を持つ。
 5階の休憩室で待っていると伝えてくれ。》
「…了解。」

「どうやら、話はついたみたいね。」
「まったく…ヒヤヒヤしたよ。」
本当にソフィがパスポートとなった。まさかこれほどすんなり入れるとは。
「お待たせしました。5階の休憩室でドクターがお待ちです。」
「イェーイ!さぁ2人とも!行こー!」
しかし彼女の親は、ちゃんと躾というものをやってあげたのだろうか…。


「ひっさしぶりーブレッガーくーん!」
「まったく全然変わらんな、バーティニーは。」
茶髪に黒縁のメガネ、テレビで聞いたあの声。
彼は間違いなくグレイ族のクレート・ブレッガーだ。
そういえば実際のグレイ族そのものに会うのは、彼が初めてかもしれない。
頭が良くて背が低い、という事しか聞いていなかったが、それは本当だったようだ。
彼は俺達より遥かに背が低い。1メートルあるかないかって感じ。
「ん、そっちの2人は?」
ブレッガーは入口で立ち尽くしていた俺とシンディに気付いた。
「…あ、初めまして、ブレッガーさん。シンディです。」
「ザックス・・です。」
「あー、いいよいいよ敬語は。俺そういうのニガテなんだ。あと俺の事はドクターでいい。」
ふむ、思ってたより軽いんだな、このヒトは。
『知の業界』っていうの?そういう所のヤツらは、みんなお堅いんだろうとばかり思っていた。
「ハハ、そりゃ偏見だな。仕事の時以外は、皆が皆こんな感じさ。」
ブレッガーはそう言いながらコーヒーを注ぎ、俺達に差し出した。
「んで、何の用でここに来たんだ?『遊びに来たヨー』ってワケじゃあるまい。」
「……実は」

俺はこれまでの事を簡単に話した。
ハッキリ言って非科学的だ。ハナから信じてもらえる話だとは俺でも思っていない。
ソフィみたいな子ならともかく、相手が博士とあっちゃあなおさらだ。
一通り話し終わると、彼はコーヒーを一気に飲み干した。
「……。」
正直、笑われると思っていた。バカじゃねーのかと、有りえないだろと。
だがその予想は音もなく崩れ去った。
「…そうか。」
「え、信じるのか…?」
「わざわざそんな遠くから嘘をつきにくるとは思えん。」
意外と話が通じるヒトのようだ。心底安心した。

「……大陸レードの消滅事件は知っている。公には発表されていないが。」
「どうして?これは大変な事よ。このランセルが消えないとも限らない。」
「……昨日それに関しての会議に出席した。あちこちの学者や研究員が集まって様々な説を主張してきたが、
 さすがに突然跡形もなく消えてしまうような現象は、今までの事例から考えて有りえないし、考えたことも聞いたこともない。
 結局その件は謎に包まれ、世間に公表する事を固く禁じてその会議は終わった。」
…なるほど。確かに彼の言い分には納得せざるを得ない。
あれから3日も経つのに、ちっとも知れ渡っていないのはそのせいか。

「それにしてもゲームの世界、か。さすがに想像したこともない。」
「だがそれは――。」
「あぁ、完全に否定はできないな……。そうだと仮定すれば辻褄が合う。」
ここまですんなり受け入れてもらえるとは思わなかったな……。
聞ける事は全て聞いておこう。
「じゃあ魔法も?」
「その件は理論上不可能ではないな。本当に使える者は限られているそうだが。
 俺もそれは実際に見たことはある。」
「え、そうなのか?」
こんなそこらの町より何年も先を行く街にいる立派な博士が、魔法を肯定してるなんてなあ。
彼はどこか違う・変わっている、いや、新しい考えを持っている?
「なに、そう難しいものじゃない。今現在考えられているのは、『陰陽五行』ってヤツがあってだな――」
「…ストップ。長くなりそうな話は勘弁してくれ。」
「ム、そりゃ残念。中々興味深いものなんだが。」
知に生けるヒトの興味深い話などたまったもんじゃない。
日が暮れても続くに決まっている。


「じゃあ突然地が割れた、あの亀裂は?」
「そいつは多分『ファンディエ』だろう。自然現象だ。」
マジかよ。あんな危ないものまで自然現象にノミネートされてるのか。
何らかの前兆がある竜巻とかよりよっぽどタチが悪い。
「……これの説明は」
「結構です。」
これも長くなるだろう、絶対。よっぽど話したかったのか、ブレッガーはちょっぴりうつむく。

「えーと、それで本題は何だっけ?」
「とにかく最近変わった事が起こっている場所か何かを知っていたら教えてほしい。何でもいい。」
ブレッガーは顎に手を当て、カラになった紙コップを見つめる。
「…そうだな……。」
換気扇が回る音しか聞こえない、この静寂の時間。
どうにもこの感じは俺にとって苦痛だ。

「ここランセルと隣の国、ローナンとが睨み合っているのは知っているな?」
そういえばシンディがそんなこと言ってたな。
「実はつい最近までは、特に仲が悪かったわけじゃなく、普通に貿易も行なっていた。
 ……コトを吹っ掛けてきたのは向こう側からだった。」
「何をしたんだ?」
「輸出入する品物の価値がそっちと釣り合わない、と不満を言ってきた。
 こっちにしてみれば言い掛かり以外の何でもない。品物の額そのものは、大きな差が出ないように出しているつもりだったし、
 それで向こうも納得していた。誰かに感化されでもしたんじゃないかと思った。」
……それで険悪な関係になってしまったのか。
そう言われてみれば、フィンで見た市場の品揃えは、はっきり言って良い方ではなかった。
恐らくローナンとの貿易をしていなかったからなのかもしれない。

「じゃ!決まりだね!目指せローナン!」
ソフィはバっと立ち上がり、窓に指を突きつける。
「おいおい、そうは言ってもここからじゃローナンまではかなり遠いぞ?時間が掛かりすぎる。」
「それなら大丈夫だ。」
ブレッガーはネクタイを締めなおしながら言った。
「実は例のスタークラフトの試運転日が今日なんだ。目的地はローナンの工業都市、コルネリ。」
「え?乗ってもいいの?」
「他にも大勢乗るが、定員オーバーには程遠い。お前達3人くらい余裕で乗せられる。
 ……それに例えダメだと言っても聞かないヤツが約一名いるからな。」
ソフィの目はキラキラと輝いていた。
あぁ、こうやって彼女は彼を困らせていたんだろうな、今までずっと。
嫌いってワケではなさそうだが、彼はソフィが苦手そうだ。
「運転手には俺から話をつけておく。気にせず乗ってくれ。」
「わかった。恩に着るよ。」
「ワーイ!シンディちゃん!!空だよ空!」
「空か…初めての体験ね。良い思い出になりそうだわ。」
まったく呑気なモンだな。コトは深刻、まだ何が起こるかわかったものじゃないのに……。
やれやれ、まぁせっかく乗せてくれるんだ。どの道それ以外にアテはなさそうだし、
ここはお言葉に甘えて……。

「…ザックス、だったっけ?」
「!」
キャーキャーはしゃぎながら部屋を出る二人の後を追おうとする俺を、ブレッガーは呼び止めた。

「……俺はアクマでも研究者、科学の進歩に貢献していかなければならない身であって、
科学的説明も証拠もない発言をするのは、研究者にとって物笑いされて当然な行為だと思う。
それを踏まえた上での発言だと思って、これから言うある一言を、お前の頭の隅にでも置いておいほしい。」

…突然どうしたんだ?でもそんな言い方されると気になってしまう。
「………何だ?」


「この世界には、神がいる。」


「…どういうことだ?」
「ここがゲームの世界だと仮定して考えた、いくつかの仮説の内の一つでしかない。その『いくつか』の中で最もそれらしい仮説を言った。
 証拠もないし科学的説明もできないが根拠はある。」
「……逆にその他の仮説の方が聞きたいね。」
ブレッガーはカラの紙コップを片づけ始めた。
少々間をおいて俺はまた聞いてみる。

「何故そう思った?それに……何故俺にそんなことを?」
一瞬ブレッガーの表情が曇ったような気がした。
「……ゲームなんてのは自然現象なんかで出来るようなものじゃない。100%間違いなく人為的に創られたものだ。
そこから考えたのは、この世界の創造主の存在……故に神、って感じだな。」
確かに世界を創るなんてのは、誰が何人いれば――なんて話では到底納まらない。
そうなるとやはり神がいるのだろうか……。
「後者は……愚問だな。」
「え?」
「俺を誰だと思ってる。ここに来た理由、質問や話の内容、これまでの経験。
これだけ材料が揃っていれば、お前の立ち位置くらい容易に分析できる。」
……見透かされていた。天才は侮れん。
「間違いなく一番の受難を被るのは、世界の中心であるお前だ。
 だがこの先、辛くても逃げ出す行為だけはするな。運命を受け入れろ。」

運命……。

「……分かった。」
「…それだけだ。呼び止めてすまなかった。」
「いや、意味のない話ではないと思うよ。それより試運転って事は今日初めて飛ばすんだろ?
 大丈夫なのか?墜落しないだろうな。」
「ッハハハ!そりゃ暴言だな。この俺が設計したんだ。その時は俺もそこの窓から『墜落』してやる。」
「こりゃ失礼。それじゃ、ありがたく乗せてもらうよ。」
「ボン・ヴォヤージュ。」

俺は軽く会釈して部屋を出た。


ボン・ヴォヤージュ、『良い旅を』か。
本当に、良い旅になりゃあ大歓迎なんけどな。