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あの後、高杉は家に帰った。一人で帰るのは危険だと思い、花音に頼んで護衛を頼んだが。昼間の騒ぎが嘘のように家の中は
静かになり、外を見ると綺麗な夕日が沈みかけていた。あの烏の獣人のことは、2人に話したが、高杉は知らないと言っていたので
脅していた奴とは別の奴ということになる。だが、高杉を狙っていたということは絶対に脅した奴と関係しているだろう。花音は、
同じ高校生が人殺しという話を最初は疑っていたが、俺が真剣に話した甲斐あってとりあえずは信じてくれた。

「烏の獣人か・・・・」

正直、この世界の獣人の中で鳥系の獣人は珍しい。例えば、犬の獣人と猫の獣人が結ばれて、子供が産まれたとする。その子供は
犬と猫の血が混じりあう訳ではなく、父親の遺伝子を色濃く受け継ぐため、必ず父親と同じ種族になる。だが、鳥系の獣人は父親
と母親、両方が同じ種族の鳥の獣人でないと産まれる事はない。仮に鳥系の獣人と犬系の獣人が結婚して子供ができたとしても、
その子供はお互いの種が混じりあった子供となり、血が混ざり合った子供は病気などに対しての免疫力がなく、体も弱いためほぼ
100%の確立で死ぬ。そのため、鳥系の獣人が結婚するには必ず鳥系の獣人が相手ではないといけないと決まりがある。その決まり
のおかげで、鳥系の獣人は中々数が増えない。ほかのクラスであるにも関わらず人の顔を覚えるのが苦手な俺ですら、あの烏の
獣人が同級生だということを覚えていたのは珍しい種族だからだろう。

「・・・・烏の野郎の情報を集めるのは後にして、色々と対策を考えないとな。」

相手は銃を持っていた。幸い、俺を殺す気はなかったらしく、弾は入っていなかったが。だが、そんな奴から目をつけられた今と
なっては護身用の道具くらいは揃えておくべきだろう。多少物騒な道具を揃えても、どうせ俺は一人暮らしだし誰かに見つかる心
配もない。とはいえ、流石に法に触れるものは調達するわけにはいかない。今、家にあるもので役立ちそうなものは・・・・お、催涙
スプレーと防犯ブザー発見。でもこれだけでは心許ないな。あの男が教師を殺した証拠が見つかって警察に捕まりさえすればこん
なものはいらないが、警察があいつを追い詰めることができるだろうか。もし証拠が見つからず、事件が迷宮入りしてしまったと
なれば俺たちは危険な状態のままだ。そっちの方も気になるが、気になる点がもうひとつ。あの男は俺の瞳の色のことを知っていた。
オッドアイの事は誰にも言っていないし、知るわけがない事をだ。つまり、この事を知っている人間があの男に教えた事になる。
考えられる人間とは・・・

「馬鹿親父・・・・まさか人殺しと手を結んでいる訳ではないだろうな・・・・」

俺が小学生の頃、病気で死に掛けている母さんを置いて失踪した親父。母さんは死ぬ間際も親父の名を呼び続けたが、結局親父が
戻ってくる事はなかった。オッドアイの事を知っているのは両親だけだ。親父があの烏と関わっている可能性が高い。元々最低な
親父だったが、もしあの烏の奴と関係しているとしたら、絶対に許すものか。




「ん・・・電話か」

親父のことを考えている途中で、突然家の中にある電話のベルが鳴った。誰からだろう。

「はい、柊です。」
「あ、柊君かな。担任の時任だけど・・・」

電話の主は、俺たちの担任である時任先生だった。下の名前は・・・楓だったかな。流石に担任の先生の名前くらい覚えていないとま
ずいよな。何の用だろうか。

「色々あって、月曜日は休校です。間違って登校しないように。休みの間は試験勉強を頑張ってください。」
「はい、分かりました。」

休校か。まあ、殺人事件があったのだからそんな簡単に生徒を学校へ行かせるわけないか。そういえば、楓先生も珍しい種族になる
んだっけ。俺たち獣人とは違う人間だ。毛皮も持たないし、牙も爪も持っているわけではない。だが、牙や爪を持ってはいないがそ
れを補うために自分たちを守る道具を作ることに秀でている。やっぱそれぞれの種族に長所と短所があるんだな。
受話器を置き、時計を確認すると時刻は18時を少し過ぎたところだった。そろそろご飯を作らないとな。そう思い台所に向かうと今
度は玄関のチャイムが鳴らされた。・・・・・今日は本当に来客が多いな。何かをしようとするたびに誰かが来るなんて本当に監視カメ
ラがついているんじゃないのかと疑いたくなる。

「もしまたあいつが来たら・・・」

昼間のように烏の奴が来たらまた危ない目に合う可能性もある。でも、あいつは今日のところは帰らせてもらうとか言ってたから
流石にそんなことは無いと思いたいが・・・・念には念をだ。催涙スプレーを持っていこう。

「どちら様ですか。」

ゆっくりと、玄関の扉を開けるとそこに立っていたのは・・・・




「よう、何やってんだ?スプレーなんか持って。」

・・・・・何だ。流虎か。危うく催涙スプレーを噴射させるところだった。危ない危ない。

「な、何でもないさ。それより、こんな時間に来るなんて珍しいな。」

催涙スプレーを近くの棚に放り込みながら俺はそう言った。やばい、何か悪いことしてるみたいで動揺する。なるべく、自然な話し
方をしようと心がけるがこいつは人の心読むのがうまいから怖いんだよな。

「学校で事件があったから月曜日は休校だってな。」
「・・・・そうらしいな。」

その事件と思いっきり関係してるとは口が裂けても言えない。たった一日や二日で人の人生がこうも簡単に変わるとは。

「まさかとは思うが、事件に首突っ込んだりしてないだろうな?お前、こういうことに首突っ込みそうな奴だからなー」
「そ・・・そんな訳ないだろ」

本当は事件に首どころか全身突っ込んでる感じだがな。やばい、何か見透かされていそうで本当に怖い。

「それならいいがな・・・・いいか、もし俺に隠し事や嘘をついたら許さないぞ。」
「・・・・・肝に銘じておくよ」

正直、流虎に嘘をつくのは嫌だ。だが、下手に事件に巻き込むのはもっと嫌だ。花音も本当は巻き込みたくはなかったが、高杉の
件に彼女も関わったので後には引けないだろう。巻き込む人間はなるべく少ない方がいい。
その後、他愛もない世間話を少しした後、流虎は帰っていった。玄関の扉を閉めようとした時、ふと下を見たら昼間の烏の男の羽
が目に付いた。やっぱり、昼間の出来事は現実だったんだな・・・夢だったらどんなに良いことか。

「こうしていても始まらないか・・・・学校に行ってみよう」

殺人事件があったので、校内に入ることはできないだろうが行くだけ行ってみたい。もしかしたら何かあの烏の男に関する手がか
りがあるかもしれないから。本当は、体を動かして気を紛らわせたいだけなのだが。




すっかり日も暮れて、薄暗くなった時間に学校に向かうのって新鮮だ。立ち入り禁止のテープがしてあって校内に入れないが。
さて、学校に来たはいいがこれからどうするべきか。どこかに忍び込めるような場所はないものか・・・

「・・・仕方ない」

人の居ない裏口の方のフェンスを飛び越え、人に見つからないように職員室のほうに向かう。流石に職員室の近くには人が居て近
づけないか。さて、ここからどうしよう。ん・・・?何か今視線を感じたような・・・?気のせいかな。
とりあえず、勢いでここまで来たが現場にいけるわけでもないのに手がかりを掴めるものなのだろうか。
にしてもあの烏は夜の学校にどうやって忍び込んだのだろう。鍵はかかっていただろうに何故あいつは校内に・・・・

「・・・・そうか!あの日は・・・・」

放送室の騒ぎのとき、ガラスの割れた音がした。あのガラスの音は教師の注意を引き付けるだけではなく、校内に侵入するための
ものでもあったんだ。もし高杉が失敗したときのための準備までしておいたのか!だが、割れたガラスをそのままにしておくと誰
かが入ってくるかもしれない。そのため昨日は宿直の教師が居たのかもしれない。そして、不運な事にその教師は・・・

「もっと考えなくては・・・・あいつを追い詰めるぐらいの証拠を見つけなければ・・・・」

少しでもあいつを追い詰める証拠を集めようともっと職員室の近くに行こうとしたその時、背後から何かの気配がした。驚いて、
後ろを向くとそこには・・・

「こんな所で、何をしてる。これ以上首を突っ込んだら殺してしまうかもしれないと言っておいたはずだが。」

昼間の烏の男が立っていた。さっきの視線はこいつのだったのか!?何故わざわざこんなところに・・・・

「俺が教師を殺したという証拠を集めようとでもしてるんだろうが、そうはいかない。」
「貴様・・・!何故俺がここにいることを・・・!」

俺がそう言うと、男は少しだけ笑みを浮かべながら俺の前に何かを突き出した。それは何かのモニターのようなもの・・・




「あの煙幕に紛れて、お前の服に発信機を滑り込ませて置いた。わざわざ人気のないところに来てくれて助かったよ。」

そう言われたので、ポケットの中を探ってみると男の言ったとおり小型の発信機が出てきた。こんなものまで用意してたのか・・・
これはまずいかもしれない。

「学校の裏なら、警察は居ないし簡単に人を殺すことができる。まさか警察も同じ場所で続けて死体が出るとは思わないだろう
がな。さて、何か言い残すことはあるか?」

烏の男は、そう言ってナイフを俺に突きつけた。昼間と違って、近くに人は居ないし刃物なので銃声も出ない。これでは打つ手
がない。どうすれば・・・

「うおおおおおおおっ!!!」

観念して目を閉じようとしたその時、獣の咆哮に似た誰かの声がした。それと同時に烏の男はバランスを崩しその場に倒れる。
誰かが烏の男の背後に突進したのだ。その誰かとは・・・

「流虎!?何でこんな所に!?」
「気になってお前の後を追ってみたら案の定、危ないことに巻き込まれてるじゃねえか!!」

そう言いながら彼は烏の男の落としたナイフを拾い上げそれを遠くへ投げ飛ばした。

「ちっ・・・!邪魔が入ったか!」

烏の男は受信機をその場に放り投げ、物凄い速さでこの場を去った。逃げ足が速い奴だ・・・・烏の男が去ると、学校裏は先程の
ように静寂を取り戻し、残されたのは俺と流虎だけ。何か話さなければいけないと思うのだが言葉が出ない。

「・・・・眠兎。お前、やっぱり俺に嘘ついてたな。」

静寂を破ったのは流虎の方だった。流虎は低い声でそう呟いた。微かに怒りが篭った声だ。





「俺に嘘が通用するとでも思ったか?」

流虎がそう言ったかと思うと、次の瞬間俺の体は吹き飛ばされて地面に倒れた。その時に頬に強い痛みを覚えて殴られたこと
を理解した。

「お前、俺が来なかったら殺されてたんだぞ・・・・分かってんのか!?」

流虎の言う通りだ。流虎が来てくれなかったら、多分俺は殺されていただろう。だけど、それでも俺は流虎を巻き込みたくな
かった。首を突っ込んだのは俺だ。流虎には関係のない話なんだ。

「だけど、俺たちに関わったらお前もこんな目に遭うかもしれないんだぞ!そんな事になるぐらいなら死んだほうが・・・」

言葉の途中でまた殴られ、最後まで言うことができなかった。

「・・・もう一回言ったら、絶対に許さねえからな。それに、こんな事になった以上、俺ももう無関係じゃないんだ。
さあ、洗いざらい話してもらうぜ。覚悟しな。」

結局、俺は全てを話すことになった。昨日の放送室の騒ぎのこと、花音と高杉のこと、今日の事件にそのことが関係してること、
何もかも全てだ。すべて話し終わった後、もう一発殴られた。流石に続けて三発は痛い・・・

「まったく・・・守らないといけない奴がいるんなら死んだっていいなんて思うなよ。それにお前が死んだら委員長も、高杉って
奴も悲しむことになるんだぜ。勿論俺もな。」

「・・・・そうだな。すまない。」

全てを話したら心が軽くなった気がする。不思議と話してしまった事に後悔はない。何だかんだで巻き込んでしまったが、巻き
込んでしまった責任は俺が取ればいい。あの烏の男を完膚なきまでに叩き潰す。こうなった以上全力であいつを追い詰めて早く
この事件を終わらせてやる。



クタクタになって家に帰り着いたときにはもうすっかり暗くなっていた。あの場から男が落としていった発信機セットを有難く
頂戴させてもらったので有効に活用させてもらうことにしよう。流虎は、あの烏の男を警戒してるのか、俺が家に帰り着くまで
見送ってくれた。

「それじゃ、俺もそろそろ帰るわ。今度何かあったときは、絶対に俺を呼べよ。」
「・・・・今日は、ありがとな。」
「気にするな。俺が困っているときはお前が助けてくれるだろ?お互い様ってやつだ。それじゃあな。」

殴られた頬は痛むけど、それ以上に痛かった心の痛みはこれでもうすっかり無くなった。さて、今度はこちらから責める番だ。
住んでいる場所も、名前すら知らない奴を追い詰めるのは難しい。だが、それを知ることができれば策を練ることができる。
相手が教師を殺した証拠を見つけるのが一番だが、現場に入れない以上それは難しい。そっちは警察に任せるとして、こっち
はこっちでやらせてもらおう。幸い明日と明後日は休みだ。考える時間は沢山ある。とりあえず、明日花音たちに来て貰って
それから考えよう。メールで呼ぶことができるからメールアドレス知っていて良かった。・・・・・ん?
ちょ・・・何で花音は俺のメールアドレスを知ってたんだ!?勝手に見やがったな!・・・・見られて恥ずかしいものは無いからいい
が・・・・はあ・・・・

「そういえば・・・宿題・・・・」

今日は色々あって結局宿題ができなかった・・・テスト勉強もできなかったし。時任先生を怒らせると怖いんだよな・・・・
また生徒指導室に呼ばれる・・・

「・・・・寝よう」

もうどうでも良くなってきた。疲れてクタクタだしもう寝てしまおう。明日起きたら全て夢だったらいいのになぁ・・・
とりあえず頬をつねらなくても痛いから夢ではないだろうが。窓の外から微かに聞こえる雨の音を子守唄代わりにし
ながら瞼を閉じる。ああ、雨が降ってほしいという祈りが今頃通じたよ。本当、うまくいかないもんだな。