※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「おーい。眠兎ー帰ろうぜー」
授業も終わり、挨拶も済んで皆が帰りはじめる放課後。机の中に入っていた教材や、休憩時間などに
読んでいた推理小説をを鞄に詰めて立ち上がったと同時に、俺は名前を呼ばれた。俺の名前は柊 眠
兎。種族は狼だが狼の獣人であるというのに兎という漢字が入っているから、小さいころはそのこと
でからかわれ続けてきた。故に今でもこの名前は好きじゃない。

「ああ、今行く。」

好きではないと言っても、生まれた時に決められたものだから仕方がない。少し不機嫌になりながら
も、俺の名前を呼んだ男のもとへ急ぐ。鞄の重さでよろけそうになったが、どうにか体勢を立て直し、
焦らず、なるべく早く歩き始めた。

「遅かったな。いつもの所に寄って帰るぞ。」
「分かった。」

放課後になると俺の名前を呼び、一緒に帰ろうと誘ってくれる彼の名は駿河 流虎。名前の中に虎と
いう漢字があり、その漢字の通り虎の獣人である。
性格は明るくて元気が取り柄のやつだ。悪く言えば、能天気で楽観的とも言うが。流虎とは小さい頃
からの友達であり、家も近いので学校の帰りはいつも一緒に帰っている。
帰り道の途中には駄菓子屋があり、学校の帰りにはその駄菓子屋に寄って帰るのが二人の日課になっていて、
流虎の言った、いつもの所とはその駄菓子屋のことである。
(今日はどんなお菓子を買おうかな・・・)
俺はそんな事を考えながら歩き始めた。チョコレート、飴玉、キャラメル、スナック菓子・・・食べ
たいお菓子のことを考えながら歩くと、ふとあることに気が付いた。
(来年は受験生だから、こうやって駄菓子屋に寄るのもあと少しかもしれないな・・・)
今の俺たちは高校2年生。来年は受験戦争の中にいるのだ。流虎と一緒に遊ぶ時間も長くはない。今
ある時間を大切にしなければ。



「眠兎。何ボケーッとしてるんだ?もう駄菓子屋に着いたぞ」



流虎の声でハッとした。考え事をしている間に駄菓子屋に着いていた。




「えーっと、おばちゃん、これ下さい。」



駄菓子屋に着いた後、どのお菓子を買おうか迷ったが、最終的にはチョコレート菓子、チューインガム、ラムネ、綿菓子に決めた。
今日は甘いものが食べたい気分なのだ。俺たちはこの店のの常連客なので、この駄菓子屋を経営しているおばちゃんとも仲がよい。
俺が勘定を済ませた少し後に流虎も買うものを決め、勘定を済ませていた。
駄菓子屋を出た後、俺たちはいつものように近くの公園のベンチに座りながらお互いにお菓子を食べ始めた。
俺は読みかけの推理小説があったので、本を捲りながら菓子を食べることにする。その後訪れた長い沈黙。その沈黙に耐えられな
くなったのか、流虎が口を開いた。



「お前本当に推理小説が好きだなぁ・・・だけど食べながら本を読むのは行儀悪いぞ。」



・・・確かにそうだ。続きは気になるが、このまま読み続けるのは流虎に失礼だと思って本を閉じた。
続きは帰ってから読むとしよう。



「でも、お前って本当に頭が切れるなぁ。いつだったかな・・・学校で起こった事件の犯人を暴いた
こととかあったよな。将来探偵とかになれるんじゃないか?」



・・学校で起こった事件か。事件といっても殺人事件とかそんな本格的な物ではない。女子の鞄を盗
んだ犯人を探し出したり、教材費などを横領した犯人を暴いたりしたぐらいだ。目撃証言や、残され
た証拠を照らし合わせれば自然と真実は暴かれるものである。



「・・・そうだ!眠兎。ちょっと知恵試ししてみないか?」
「・・・知恵試し?」



流虎が何かを閃いたかのようにそう言った。あまりに突然の事だったので驚いたが、彼の言う知恵試
しというのも気になる。何故突然そんな事を言い出したのかという疑問があったが、好奇心が勝ったので、
その話に乗ることにする。



「で、どんな知恵試しをするつもりだ?」
「俺のこのコーラを使った、ちょっとした問題だ。知ってるやつは知ってると思うが、知らないやつには難しいとかもしれん。推理
問題というより科学の問題だと思えばいい。」
「・・・?まあいい、さっさと始めるぞ。」




空は赤く染まり始めている。あまり遅くなっても困るので早く始めるように促す。



「ルールは簡単だ。このコーラの中身を外に出せばいい。ただし、この容器に触れたり、倒したりするのは駄目だ。容器を動かさず
に、中身だけを外に出すんだ。」



流虎は、コーラの蓋を開けながら問題を提示した。微かな炭酸の音と匂いがする。。



容器に触らず、中身だけを外に出す。・・・蓋をしたままの炭酸飲料を振った後に蓋を開けると中身が飛び出すが、このコーラの蓋
は開けてある。それに、『触ってはいけない』という条件を満たしていない。倒したりするのもアウトなら、容器を動かすのも駄目
という事になる。石を中に入れてこぼすとか・・・蓋が小さいので小石しか入らない。これでは溢れさせることはできないだろう。
・・・ストローなどで吸い上げるとか・・・?生憎、そのような道具は持っていない。・・?道具・・?



「・・・道具は使用してもいいのか?」
「ああ。というか、道具を使わないと不可能だと思うぜ。」



道具を使わないと不可能。この問題の重要なピースの一つだ。他に重要なポイントを考えてみるとする。コーラは炭酸飲料だ。詳し
い原材料は、製造会社が味を盗まれないように非表示にしているらしいが、予想はつく。砂糖、コーンシロップ、炭酸水、カフェイ
ン・・・他にもあるだろうが大体はこんなものだろう。そして、蓋を開ける際に流虎が発した、『科学の問題』だと思えばいいとい
う言葉から察するに、炭酸水が重要なものかもしれない。そして、道具を使わないと不可能ということは、今俺が持っているもので
この問題は解けるという事になる。今俺の持っているものは、学校で使った教材、鞄、手元に置いてある推理小説、財布、先刻駄菓
子屋で購入した菓子・・・学校で使った教材は教科書ぐらいしかない。恐らく、これは役に立たないだろう。鞄でペットボトルを吹
き飛ばす訳にもいかないから鞄も駄目だろう。推理小説も教科書と同じで除外。財布の中身は・・・数枚の紙幣と小銭が入っている。
・・・紙幣を使うということは無いだろう。小銭は・・・何か使い道はあるだろうか。思い浮かばないのでとりあえず保留。そうな
ると後、残された物は駄菓子という事になる。何か飲み物を買っていれば、それを足して溢れさせる事もできたかもしれんが、手元
にないのでその方法では駄目だ。駄菓子屋で買ったお菓子・・・チョコレート、チューインガム、ラムネ、綿菓子・・・うーむ・・・



「早くしろよ。でないと炭酸が完全に抜けちまうだろ」
「分かってるよ。・・・ん?」



炭酸が抜けてしまう・・・やはり炭酸が重要なのか。ただの飲み物、大雑把に言えば水として考えてはいけないのだろう。炭酸は二
酸化炭素が水に溶けたもの。他にある炭酸の種類は、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、
炭酸ナトリウム・・・他にもあるのだろうけどこれぐらいしか思い浮かばない。・・・科学的な考えでいくと・・・化学変化を起こ
せばいいのかもしれない。だが、化学変化なんてそう簡単に起こらない。そうすると、何かの気体を含んだものとか・・・気体を含
んだり化学変化を起こすような物なんて・・・




(・・・いや、その考えでいくと・・・一つだけ・・・ある!)



駄菓子屋の袋から目当てのものを物色し、取り出す。



「投げ込むぞ」



そして、その中身を少しだけコーラの中に投げ入れた。コーラの中身は勢いよく噴出し、公園のベンチを濡らす。



「まさか、駄菓子屋で買ったラムネが必要になるとは思わなかったよ。」



つまり、こういう事だ。炭酸飲料には水分中に含み切れないほどの二酸化炭素が含まれていて炭酸飲料はその含み切れない二酸化炭
素を無理やり封じ込めているので、ちょっとした刺激で簡単に、溶け込んでいた二酸化炭素が泡となり膨張する。炭酸のジュースを
振った直後に中身が飛び出してくるのは、振ったことで膨張した二酸化炭素の泡が外に出ようとするためだ。ラムネ菓子は小さな粒
々が集まってできたものだ。その粒の間には小さな空気のかたまりがたくさん入っており、炭酸飲料にラムネを入れると、ラムネが
溶けることで、たくさんの空気のかたまりが水中にあふれ出してしまうわけだ。膨張した気体の泡をたくさん生み出し、それによっ
てペットボトル内の体積が膨張して、中身を噴出してしまうわけだ。ラムネの中に含まれている重曹は炭酸水素ナトリウム。炭酸水
はH2CO3で表し、ラムネ(重曹)をNaHCO3とする。噴出したときに出てくる気体は二酸化炭素なので、H2CO3とNaHCO3から二酸化炭素
を二つを取る。そうすれば2つ二酸化炭素が出てきて残りはH2OとNaOHが出来る。恐らくこのような化学変化が起きたのだろう。断言
はできないし、間違っているかもしれないが。



「お見事。・・・推理の問題では無いかもしれないが、楽しかったか?」



いや、推理とは、いくつかの情報、事実からある結論を導き出す事だ。この問題は『触ってはいけない』という事と、『動かしては
いけない』という条件が、謎を生み出した。そして、流虎の言葉から大切なキーワードを引き出す。そのキーワードからさらに情報
を絞ったりする。・・・恐らく流虎は炭酸にラムネを入れたら噴出すという事だけ知ってたんだろうが、知らない俺は、難しく考え
ざるを得なかった。知ってる人はラムネを入れておしまいだろうが、俺にとっては十分、推理の問題だった。



「結構、おもしろかったかな。」



「それはよかった。おっと、もうこんな時間か。早く帰ろうぜ。」



もうすぐ日が落ちるだろう。宿題もまだ終わらせていないし、推理小説の続きも気になる。推理小説を今日中に読み終えたいが、間
違いなく徹夜になる。寝坊したらクラスの女子委員長からこっ酷く叱られるかもしれないな・・・・まあ、学校に行くときも流虎と一
緒だ。遅刻するなら二人一緒だから一人だけで叱られるという事はないだろう。



願わくば、明日も幸せな日であるように。