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スレ2>>909-912 正義の鎌田


学園祭初日。
無事一回目のショーが終わった時、僕は芯まで冷えきっていた。
ヒーローは常に他がために命を張らねばならない。
子供達を楽しませるためには丹前を脱ぎ捨て、秋風の無慈悲な熱量に凍死の危機を背負った我が身を曝さねばならない。
だが僕はやる。やらねばならぬ。

「ひゃっはっはっ、笑われてたなライダー」
僕に気安く話かけるこの男は塚本。
よせばいいのに、わざわざ鹿と徒党を組んでいる奇特な馬男だ。いつの間にか僕も徒党に入っているらしいが。
「やあ塚本、見てくれたの?」
「ったりめぇだ。ライダーのヒーローショーなんて超しっくりくるもん見逃さねぇよ」
ヒーローショーがしっくりくる……なんて良いこと言ってくれるんだ。
「塚本!君は本当にハルウララみたいな男だ!」
「はぁ?うわ、いててて!止めろ抱き付くな!トゲトゲが!お前の手のトゲトゲが食い込む!」
「あ、ゴメン」

どうも僕の抱擁は嫌がられる。リアルカマキリの捕食行動そっくりだからかも知れない。
「ってーな。つーかハルウララってなんだ」
「そりゃあれだよ。成績は良くないけど勇気を与えてくれるっていうか」
「……馬鹿にしてんのか?」
「違うってば。褒めてんだよ」
僕の褒め言葉を素直に受け取れないツンデレ塚本は眉をしかめた。

「なぁライダー。ショー終わったんなら一緒に学園祭見てまわろーぜ」
「ん、次の回まで時間あるし、そうしよう」
「え、まだショーやんのか?」
「何いってんの。ヒーローショーは一日4回公演が基本だよ」
「んなもんの基本知らねーよ」

軽口を叩き合いながら、疲れてぶっ倒れている猪田先生に業務連絡を済ませる。
「猪田先生、ご協力ありがとうございました」
「いやいや、全、然、問題、無い、よ」
完全に息が上がっている。中年に無理させすぎたか。すみません猪田先生。
「僕、塚本と学園祭見て回ってきますんで、次のキャストに予定時刻にちゃんと来るよう言っといてください」
「ああ、わかったよ……少し、休ませて、くれ」
疲れきった中年を放置し、祭り浮かれた空気を楽しむ。

「クックック、いのりん死にそうだったな」下卑た笑い方が様になっている塚本。
「おいおい、手伝ってくれた先生を笑うなよ」
口では笑うなと言いつつ、僕自身、死にそうないのりんを思い出して吹き出しそうだった。
「いのりんの次のキャストってなぁ一体誰なんだ?」
僕に問い掛けながら、塚本は方々ガン飛ばして肩で風をきりつつ歩く。
元が草食動物なもんだから異様に視野が広く、無駄にガン飛ばしに適した顔面をブンブン振り回してあたりを威圧する。

「次の回は『怪奇!子泣きメイド犬現る』だから、サン先生だよ」
サン、と聞いて塚本が少し目を剥く。
「あの子供オヤジか……」
「そう、あの人」
僕の脳裏にサン先生の生み出した数々の武勇伝が駆け巡る。
街で行われた北海道物産展の生キャラメルを全てジンギスカン味に為り変えたとか、
実は芸大出身でジャンプに連載していたことがあるとか、体育大出身でサッカーを極めており生涯無失点の伝説的GKだとか、
調子が良い時は耳で飛べるとか、音大出身でオペラを選考していたからあんなに大声だとか。
噂通りだとすると大学をみっつも出ているじゃないか馬鹿らしい。
でもあの人なら……と多少なりとも考えてしまうのは、それだけサン先生が異常──もとい、才気に溢れているからだ。


メイドサン見物、ヒーローショー公演、牛沢メイド見物(来栖が何故か手伝っていた)、
ヒーローショー公演、割烹着ハルカちゃん見物、ヒーローショー公演。色いろ見て居るうちに秋空は駆け足で赤く染まってしまった。
既に夕日は西に沈みかけているが、学園祭は三日間開催される予定のため、校内は今日の片付けや明日の準備の学生でまだまだ賑わっている。
僕と塚本は校門前で駄弁っていた。

「……なんか今日一日ずーっとお前のヒーローショー見てた気がする」
「はっはっはっ。きっと僕のヒーローショーが面白かったから印象に強く残ってるんだよ。
明日もやるから見てくれよ」
「え゙っ?あ~、考えとくわ」
何故だか塚本は苦い顔をした。さては照れているな。

「塚本、ヒーローショーは子供達だけのものじゃないんだぞ?正義は誰の心にも等しく、
正しく響き渡る。ヒーローショーを楽しいと思うことは、全く恥じることじゃ無いんだ」
「……何か俺、頭痛くなってきた」
塚本はいよいよ苦り切った顔で頭を抱えた。可哀想に、風邪でも引いたんだろうか。
「まーとにかくよぉ、今日はもうそろそろ帰ろーぜ。それかいつもの店いくか?」
「や、今日は遠慮しておくよ。明日の用意とかあるから先帰ってて」

僕の断りを聞いてますます塚本の顔は生気を失った。
「んっだよ付き合いワリーな……鹿もライダーも学祭エンジョイしやがってよぉ~……猛
もハルカにゃんとベタベタしてたしよぉ~……くそー!クリスマスまでに彼女つくったらぁボケがぁ!!」
塚本はぶちぶちクサクサ言いながら草食動物の眼でところ構わずガン飛ばして帰っていった。絶対彼女なんか出来なそうな惨めな背中だった。

塚本を見送ったあと、僕は屋上に登った。
ヒーローと言えど、見えない位置での悪意に立ち向かうのは難しい。
だから僕は屋上から出来るだけ広くを見下ろす。一欠片の悪意にも気付けるように。
日が落ち切った頃、僕の複眼に浮かぶ偽瞳孔は消え去った。複眼全体が黒に染まり、
可視光域の電磁波全てを知覚して増大し視神経に流し込む。
校内から漏れる蛍光灯の明りが眩しすぎる。

だが、これでいい。悪い奴ほど明りを嫌う。
僕が睨むのは賑々しい校内ではなく、澄んだ秋空の月明りが照らすほの暗い場所なんだ。
屋上をぐるりと囲む緑のフェンスによじ登り、校舎の一番高い所からできる限り高く跳ぶ。
運動エネルギーが位置エネルギーに移行し切った最高点で、翅をかき鳴らした。
飛ぶのが苦手な僕は、徐々に滑空するように校舎や周辺の路地を見て回る。
やっぱり居た。学校に程近い袋小路の突き当たり、柄の悪い輩に、我が校の生徒が取り囲まれて居る。
毎年必ず学園祭の時期に我が校の生徒を狙ってカツアゲがあるんだ。


上から見下ろす僕の翅音に気付いた不良達が空を仰いで訝しげな顔をする。不良は6人。
狩りの首謀者らしきライオンが二人、ジャッカルが四人。
カツアゲされかかっていた犬の男子達二人は、如何にもひ弱な感じだった。
はは、笑っちゃうね。百獣の王が二人も集まって、その上四人も手下を従えてカツアゲだなんて。
いのりんか花子先生くらい狙わないとかっこつかないでしょうに。

「おい!なに見てんだバッタ野郎!どっか行きやがれ!」
ライオンが大口を開いて喚いた。
僕はその声を無視して地面に下り立つ。

──ずしゃぁぁあ

……転んでしまった。
「なんだぁ?この馬鹿は?」
不良達の視線が痛い。ので急いで立ち上がった。
「トウっ!」立ち上がり様に決めポーズ!
「……」

不良達が訝しげに睨んで来る。
よしよし、登場シーンで手を出さない悪者は好印象だぞ。
「君達!僕が来たからにはもう安心だ!早く逃げたまえ!」
慌てず騒がすカツアゲされそうだった犬くん達を逃がす僕。やっべ、僕ったらパネェカッケェんじゃない?

「うわぁ……」
意図のよく分からない声をあげて犬くん達はドン引きした様子で袋小路のどん詰まりの壁際に引っ込んだ。

「さぁかかって来い悪党共!」
うろんな目付きで成り行きを窺っていた悪党共が、僕を取り囲むように散開した。
「なんかわかんねぇけどテメェ頭おかしいみたいだな。俺らが治してやんよ」
頭の悪そうな口上を垂れ、ガチャ、だの、チャキ、だの、細かな金属音を立てて、彼らがエモノを取り出した。
折畳み警棒にナイフにメリケンサック。

どん詰まりの奥でエモノの金属臭を嗅いだ犬くん達が悲鳴を上げる。
「心配しないで!正義は必ず勝つから!ははは」
犬くん達に声をかけながら、僕は“全方向を”見る。
夜の闇に在ってなお黒に沈む僕の複眼を構成する単眼の集積が、
スキを窺う悪党共の一挙手一投足をつぶさに凝視し、僕の頭に──叢(くさむら)の本能に紫電を駆巡らせる。
僕の外骨格の内を走る筋繊維にエネルギーが蟠(わだかま)る。熱い。この瞬間だけは丹前なんか要らない。
今、僕は──無尽蔵の発熱体だ。

「何、余裕かましてんだっラァ!」
痺れを切らしたジャッカルの一人が警棒を振翳す。僕の後方二歩の間合。
「ハハ、“見えてるよ”!」
僕は警棒の振りより速くバックステップし、ジャッカルの腕を取る。
反射的に山嵐を掛けそうになるが、下がコンクリなのを思い出して投げ放つ。

「ぐあっ!」
僕の前方に居たライオンを一人巻き込んで揉んどり打ち、ジャッカル一人とライオン一人が沈黙した。
「残り四人、だね」
ニヤ、と笑って見せる。彼らに昆虫の表情が判るかは知らないけど。


ちっ、とライオンが舌打ち。
「こいつ、強ぇ。マジで殺すつもりでやっぞ」
喉をぐるぐると低く鳴すライオンの号令を聞き、ジャッカル達が油断無く再度僕の周りにつく。
「まだヤるんだ?懲りないね」
呆れた風を装い、僕はまた全方向をねめつける。

本気の狩りモードに入った肉食獣をナメてかかったりはしない。さり気なく壁を背にして後ろを取られない様にする。
さっきと違い、取り囲む全員の間合まで完全に目測する。
前方にジャッカル、二歩半。そのジャッカルの後方にライオン、五歩。
右にジャッカル、二歩半。
左にジャッカル、二歩半。

「うおお!」「ぶっ殺す!」「死ねやぁ!」
ジャッカル三人が同時に動く。
左のジャッカルが腰溜めに突きかかるナイフを腕の外骨格で弾き落し、同時に右のジャッカルが伸したメリケンサックの拳を掴んで引付ける。
太腿に蟠るエネルギーを爆発させ、引付けた右に渾身の当て身。
吹き飛ぶ右のジャッカルに巻き込まれて前方のジャッカルも昏倒する。
エモノを失った左のジャッカルは後ずさって、ライオンの大将を置き去りに逃げ出した。

「はい、君がラスいち。まだヤる?」
「ぐっ……覚えてやがれ!」
いやぁ、最後まで悪役っぽいなぁ。彼ら、ヒーローショー出てくんないかな。
「あ、ありがとうございます!」
「助かりました!」
僕が場違いな事を考えているうちに、危機からの生還を漫然と感じ取ったらしい犬くん達が礼を述べた。
「いや、礼には及ばないよ。ヒーローは困っている人を助けるために存在するんだからね。 それじゃ!」
全速力で駆け出した。颯爽と飛び立って行けたらもっとカッコイイんだけどなぁ。
僕はまた、学校の屋上から世界を見守る飛翔に赴くのであった。






関連:鎌田 塚本 いのりん