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スレ2>>675-683 FORMAT:序章

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lycaon

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スレ2>>675-683 FORMAT:序章


俺は夢を見ているのだろうか
それとも君の夢の中にいるのが俺なのだろうか


『夢幻』に広がるアクションRPG 結末(こたえ)を探すのは、貴方―


"-Trace of the Dream-"


○月×日発売予定!乞うご期待!!







――へぇ。面白そうだなぁ。今ふところ温かいし、買ってみようかなぁ。




目覚まし時計がやかましく鳴る。
腕を伸ばしてスイッチを押し、重いまぶたを開き、ゆっくりと起き上がる。
カーテンの隙間から光が漏れている。
朝の到来だ。
窓を開けると雪が積もっている。
庭も、屋根も、道路も、そして吐く息も真っ白だ。
スキーウェアみたいな防寒着を着た小さな子が、塀に積もった雪を掴んで投げながら歩いている。
……が、いつもの光景だ。
こうブルブルと震えながら、家の前に敷きつめられた雪を除けるのはいつものことだが、
いつか年中気温の高い――トコナツとかいうらしい――クニへも行ってみたいものだ。
くだらない物思いは、俺の腹の虫がぐぅと鳴ると同時に停止した。
「飯・・食うかな。」
両膝をパンっと叩いて立ち上がり、キッチンに向かった。
「…何もねぇ。」
戸棚、冷蔵庫を一通り探ったが、ぎゅるぎゅると鬱陶しく鳴く俺の腹を満たせる食べ物は無かった。
そういえばここしばらく買い出しに行ってなかった気がする。
正直めんどうだが、飯抜きはイヤなので店に行くことにしよう。
顔を洗い、毛並みを整え、財布片手にドアを開ける。
冷たい空気が肌にしみ、長毛種のテリア族である俺を震わせた。
今日は一段と寒い。
こんな気温の中、外に出たがるような好き者は小学生くらいだろう。
だが、俺もギリギリ未成年だ。
めんどくさがりではあるがすぐ疲れてバテるようなタマじゃないし、毛並みだってまだサラッサラだ。
ここで「寒ーいやっぱ無理ー」なんて言いながらコタツに飛び込みようものなら、
今時のコラット族にすら笑われてしまう。
そんなのどうでも良くなるくらい重要なのは、繰り返すことになるが、「飯抜きはイヤだ。」
ポケットに手を突っ込んでバザーに急いだ。


すっ飛んでこちらバザーの出入口手前。もう買い物はとっくに済ませた。
だけどもビッグプロブレム発生。
朝飯と色々な食材を両手に抱えてバザーを出た俺に立ちはだかっていたのは、台風並の猛吹雪だった。
ほんの5、6分前まではカラッと晴れていたっていうのに。
しばらく入口で少しは弱まらないものかと待ってみたが、弱まるどころか更に轟音をたてて酷くなる一方だった。
………。
この吹雪の中をこんな軽いお出掛けスタイルで進めば、確実にカゼをひいてしまうだろう。
それはわかっている。わかっているさ。
だが腹の虫がこれでもかとわめいているんだ。そろそろ限界である。
朝飯優先、意を決せ俺。
まだお前は元気いっぱいピチピチボーイだぞ。
息をフンっと思い切り吹き、店を飛び出し、吹雪の中駆け足で家に急ぐ。
くう、薄目でいるのもキツい向かい風だぜ。
だがこの程度で参る俺じゃない。空腹を満たすためだ。
よーし、あと数十メートルほどで……。

「え?」

俺は突然の出来事に驚き、棒立ちしてしまった。
時間が止まったような感覚だった。

あの猛吹雪が、急にピタリと止んだのだ。

そしてしばらくして、俺の中の何かが反応して身震いを起こした。
朝、家から出る前の震えとは全く違う別の身震い。
直後、遠くから崩れるような音が響く。
辺りは静寂に包まれていたため、それはハッキリと、段々と大きくなって聞こえてくる。
「……マジかよ。」

崩れるような、という表現はドンピシャだった。
家の方向からこちらに向かって、地面がガラガラと崩れていく…!


それは並のスピードではなかったが、
足腰だけが取り柄の俺なら逃げ切れる程のものだ。
って、ならさっさと逃げるべきだろ!
こんな落ち着いてモノログってる場合じゃねぇ!
俺は素早く180度回転し、一目散に逃げ出した。
始めはかなりリードしたが、段々と崩れる速度は増している。
追いつかれるのは時間の問題だ。
だが俺はとにかく走った。
もしかしたら、いずれどこかで崩れはストップするかもしれない。
根拠はないが、今はそう願いつつとにかく走るしかない。
あー、こんな淡い期待は小学生の頃の初恋以来だぜ。
やがて曲がり角に差し掛かる。
ここでバカ正直に左へ行くのは自殺行為である。
確かこの先はずっと一本道で、崩れていく方向に逃げられない。
珍しくとっさに頭を回転させた俺は、自分の身長くらいの塀を飛び越えた。
高跳び新記録更新。ああ、これが火事場のナントカってやつか。
…と、華麗な着地をする前に、突如崩壊が止んだ。
はは、思った通りになったじゃないk
「…っぐぇ!」
ホッと胸をなで下ろさせる時も与えられず、首が締まり宙吊り状態になる。
やべ、どっかに服がひっかかったか?
なんとか振りほどこうとジタバタしたが、ふと上を見上げると俺はもがくのを止めていた。


コラット族の女性が俺の服の襟首を掴み
青い長髪をなびかせて塀の上に立っている姿が目に入ったからだった。


彼女はぐいと俺を持ち上げ、塀に乗せた。誰なんだこのヒトは?
「動かないで。」
手のひらを俺に向け、彼女はそういう。
その際に初めて彼女の顔を見た。

青く大きな瞳、雪で染められたかのような真っ白な毛並み、蝶のように揺れる尾。
それはそれは夢でしか会えなさそうな程妖艶な姿であった。
彼女は数いる女性の中でも、相当の美人に部類されるだろう。
年齢は俺と同じか少し年上と見た。
腑に落ちない点を挙げるとすれば、この辺りでは見慣れない服装をしていること、
そして胸が少しばかり乏しいことぐらいか。
って何言ってるんだ俺は。

それより、動かないでって何?脅し?人質?
男が女にカツアゲされちゃうわけ?
なんてくだらない事を考えている間に、彼女は崩れた方を見て叫ぶ。
「さぁ!姑息なマネしてないで出てきなさい!」
俺は視線を彼女と同じ方向に向けた。
すると、砂煙の中これまた妙な格好をしたロップ族の男が現れた。
それよりも驚いたことに、奴は空中に浮いている。
「女…いい加減鬼ごっこは飽きたぞ。」
「奇遇ね。こっちだってストーカーは御免よ。あんまりしつこいとモテないわよ。」

……あぁ、何のこっちゃわからんが、少なくともこれは厄介事である点だけは確かだな…。

彼女の皮肉が気にさわったのか、男は怒鳴った。
「ならさっさと去れ!こいつが元凶だということがわからんのか!」

こいつ?…って俺か!?
この今にも大規模な喧嘩が始まりそうな雰囲気の裏には、俺が関係してるのか!?
ちょっとちょっと勘弁してくれよ。
俺は君達二人とも初対面だし、自分なりにまっとうに生きたつもりなんだぞ?
私は何もしてない、晴天白日だ。
神に誓ってそう言えるぞ。っていうか言わせてくれ。

はい、上記四行は心の声であって実際に割って発言したわけではないので、あしからず。
この二人明らかにヤバそうだし、割って入る勇気なんてありません。アイアムチキンボーイ。・・・犬だけど。
「…言いがかりね。根拠もない。」
しばしの沈黙の後彼女はそう言い、身構えた。やっぱりドンパチやるつもりらしい。
「なら力ずくだ。消してやる。」
男の方も手を上に掲げた。絶対やべえ。逃げたほうが・・いいよね?
「じゃ、俺はこれで…」
「ダメよ!あんたはこの世界の…あー今言ってる暇ない!とにかくそこにいて!動かないでよ!」
引き止められた。というか動けなかった。
初対面相手にここまで叫ばれるとは思わなかったので、思わず「は、はい」と言ってしまったのだ。
あぁ我ながら情けなし。


「スパイラルストーム!」
男はそう言うと円柱状の竜巻を彼女に向けて放った。
・・・これって・・魔法・・・か?
さっきから驚きの連続だ。
こんな摩訶不思議な出来事を立て続けに体験しているのに、精神がどうもならない俺はおかしいのか。
彼女は高くジャンプしてその竜巻をかわした。が、俺はその風で吹っ飛ばされそうになった。
とっさに塀にしがみつく。
風が止んだ。それと同時に彼女は着地し、男の方へ向かって跳んだ。
男はとっさに後ろへ下がり、何かをブツブツと呟く。
「詠唱なんかさせないわ!」
彼女は背中から何かをシャキンと引き抜き、両手に持つ。銀色に輝く鋭利なナイフだ。
それを素早く振り回し、男を斬りつけようとする。
男はよける事に気が紛れて、呪文を唱える暇などない様子だ。
だが素早い身のこなしで、男は彼女の後ろに周りこむ。
「遅い!」
「・・・・っ!!」
背中を思い切り蹴りとばし、すぐさま詠唱を再開する。
彼女は数少ない足場で受身をとり、またも男に向かって跳ぶ。・・が
「インフィジャールぅ!!」
「きゃあっ?!」
遅かったようだ。男の周囲から爆発的な突風が起こり、彼女は民家に跳ね飛ばされてしまった。
物凄い音と共に、民家が全壊してしまう。
「・・ふん。我々ビリアルデに敵うものか。」
男は構えを解き、服のホコリを掃った。
「・・・・さて・・お前を消そう。ザックス・フリーデル。」
空中から俺を見下ろす。ザックスは・・俺の名前だ。ここでかよ!なんて声が聞こえたような気がするがスルー。
「・・なんで俺の名前知ってるんだよ。」
「何も知らないのか?お前はこの世界の・・」

 セ カ イ ?

その時だった。
ドガアアアアン!
大きな音と共に、民家の破片が宙に舞った。

「ざーんねんだったね。」
「!?」

男の目前に彼女はいた。
服は多少汚れていたものの、身体はキズひとつ付いていなかった。
どうなってんだ?フツー死ぬぞ?!
だが俺以上に驚いていたのは男のほうだった。
「・・バカな・・っ!」
「油断大敵ってヤツね。あんた、私がどういう者なのか知ってるでしょ?」
ナイフをクルクルと回しながら言う。男はまた構えなおしたが、既に遅かった。
「今度はあんたが吹き飛ぶ番よ!ルーティンエール!!」
辺りがカッと光に包まれた。俺はとっさに右腕で目を覆う。

次に視界が開けたときには、俺と彼女の2人だけになっていた。


「ヨユーヨユー♪なーにがビリアルデよーん♪」
彼女は俺がしがみついている塀の上に着地し、泥を掃った。
「何なんだよ一体!?急に止んだ猛吹雪!まるで俺を襲うかのような崖崩れ!
 そしてお前ら2人が使ってた魔法みたいなの!どういう事だよ!?」
気が動転していたわけでは無かったが、この訳の分からない展開に少々焦っていたことは確かだ。
「・・ま、始まってないからしょうがないか・・。」
何言ってるんだよこのヒト。俺の質問無視かよ。
「じゃ、説明してあげる。あんたは誰?」
「・・ヒトに名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るべきではなくて?」
「はぁ、それもそうね。シンディよ。シンディ・システィ。リュネットから来たわ。」
シンディ・・か。
リュネット・・・は確か、俺の住む港町エーダインから見て北のほうにある町だ。
「・・・ザックス・フリーデルだ。」
「そっか。なら、あんたで間違いなかったみたいね。」
「え?」
シンディは耳をパタつかせ、一息ついて続けた。

「ザックス・フリーデル。19歳。テリア族の雄。親と姉の4人家族。去年故郷のブレンダンからこの町に引越し独立。
 好きな物は酸味のある果物で、苦手な物は虫。趣味は散歩と映画鑑賞。違う?」

・・・大当たり。俺は更に焦って言う。
「な、何で分かるんだ?名前聞いただけでそのヒトの詳細が理解できる・・とかじゃないよな?」
「んー正確には『知ってた』って事なんだけどね。あんたに会う以前から。」
何コレ。運命のなんたらかんたらってヤツか?
「違うわよ!何ていうのかな、自分でもよく分かってないけど、私案内人みたいな役割なのかも。」
「・・・はい?」
「私には分かる。これからあんたが出会うヒト。
 そして普通にコトが進んでいれば、進むはずだった道を、ストーリーを。そして結末を。」
「・・何言ってr」

「ここはゲームの世界。そしてそのゲームの主人公は、ザックス、あんたよ。」

目が点になった。ますますわけわからん。
「今あんたの詳細を言ってみせたけど、アレは設定よ。わかる?」
「設定・・?」
「あんたの過去の記憶は、ゲームを成り立たせるために作られた偽の記憶。
 つまりあんたには家族なんていないし、ブレンダンで過ごした日々も『そう思わせてる』だけ。」
そんなの信じられるか!と叫びたいところだが、数々の妙な出来事を体験した俺は、正直迷っていた。
魔法だって、そうでないと説明がつかないような気もしてきた。
偽の記憶・・家族と過ごした日々・・覚えてはいるが、鮮明に残っているわけではない。


自分という存在を証明できるものは、何も、なかった。


「けど、今こうして話しているイベントは、ストーリーとは全く違うものなのよね。」
ただでさえ脳がついていけない話なのに、コトは更に複雑なのか?
思考回路はショート寸前。今すぐ泣きたいよ。
「泣くなら後で思いっきりどうぞ。泣いても事実は変わらないけど。」
ひどいわ。
「んで、何で設定通りに動いてないかというと、バグってヤツがプログラムにあるみたいなの。」
「・・バグ?」
「深刻なものよ・・。それにより私の町リュネットは昨日消滅したわ。」
「!!」
ということは、さっきの崖崩れはそれによるものなのか?
「リュネットだけじゃない。ここから見て北側はもう全壊したわ。今一番損傷が少ないのはここエーダイン。」
「じゃあシンディが俺の元に来たのは・・」
「そう。主人公であるあんたを助けるため。」
そうか・・ここが本当にゲームの世界なら、主人公がいなければ話は成立しない。
もしいなくなれば、この世界そのものが崩壊する・・って事なのだろうか。
「まぁ正解ね。」
シンディは手を腰に当てて空を仰いだ。
「もうここも危ないわ。早く脱出しましょ。」
脱出って・・ここ以外が崩壊したなら、もう逃げ場はないんじゃないか?
「あんた・・ここは港町よ?船の1つ2つあるでしょ?」
「いや、船でどこに逃げるんだよ?海か?海の上でアダムとイブか?」
「・・・・・世間知らずって、あんたの事を言うのね。」
これがマンガなら、今の俺の頭上にはガーンと書かれているに違いない。
「南東にあるのよ、クニが。大陸ランセルとローナン。」
シンディは地図を広げ、指をなぞりながら教える。
この地図は見たことなかった。今いるこの大陸レードだけが書かれている地図なら知っていたが、
シンディの地図の左下には大きな大陸が書かれてあった。
「今この2国は睨み合ってるんだけどね。」
戦争が起きそうなのか・・。そんな危ないところに逃げるのも、と思ったが
どの道ここにいては確かに危ない。
「・・わかった。俺も死ぬのはゴメンだしな。」
「んじゃ、港に急ぎましょ。船・・操縦できる?」
「もちろん。父さんから教わった・・・という設定だからな。」
「上出来。」
この状況は把握したが、事実を完全に受け入れたわけじゃなかった。


だが今は彼女についていくしかない・・それしかないような気がした。


やがて港に到着。
見覚えのある、中型の船に飛び乗った。
「なるべく急いで。『崩壊』は一瞬だからね。さっきの崖崩れは地震で言えば初期微動みたいなもんよ。」
エンジンをかけ、船は海へ出た。
ハンドルを手にかけながら、港の方を見る。
それから数秒もしない時だった。
「なっ!!」


港は、いや、エーダインが、消えた。


壊れたんじゃない。一瞬で、消滅した。
残骸のかけらも浮かんでいない。
さっきまでそこにあった町は、すでに大海原の一部となっていた。

もう、受け入れるしかなかった。
崖崩れも、魔法のような力も、そして大陸の消滅も。
信じざるを得なかった。
「・・大丈夫。きっとバグを見つけ出すから。」
シンディは町があった方を呆然と見ていた俺にそう言った。

だがこの時の俺が思っていたのは、『ケータイとかも持ってこれば良かった・・』であった。
逆にこういう緊急事態の時は落ち着いてる、というヒトがいるが、俺は呑気すぎるね。ホントに。

そしてシンディに襟首を掴まれ、上を見上げた時、
彼女のスカートの下の白いものを見てしまったコトは、俺だけの秘密である。


船は真っ白な轍をゆらゆらと作りながら、南東に向かう・・・。





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