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カボチャが笑う夜


「そう言う訳で今日はハロウィンなんだけど、皆集まってくれた?」
「ああ、先週辺りから散々言われたからな、忘れる訳無いだろ?」
「おう、俺も約束通りに来たぞ―」

夕闇色に染まった空に、切り抜いたような三日月が浮かぶ10月31日の夕方。
卓、利里、朱美の何時もの悪ガキトリオが卓の家の前に集まり、何やら始めようとしていた。

「あたしは三角帽子に黒系のドレスで魔女スタイルって所で」
「俺は、まあ、バンパイアってとこかな?」

何故か卓と朱美の格好は何時もの私服ではなく、異様な格好をしていた。
卓は黒系の服装に裏地が紅の黒いマント、そして口にはおもちゃの付け牙が装着されており。
朱美は翼に干渉しない様に脇が大きく開けられた黒いドレスに、ドレスと同じく黒系の三角帽子
その片手には小さな黄色いカボチャを顔の様に刳り貫いて加工したランタンを持っていた。

「ふーん、卓君の格好、中々似合ってんじゃん、ダークヒーローっぽくてカッコイイわよ?」
「そう言う朱美こそ、その魔女ルック、良く似合ってるぜ?」
「あはは、誉めたって何も出ないわよー」
「なぁ、二人ともさー、そんな格好して一体何するつもりなんだー?」

二人は互いの姿を見て、お互いに感想を漏らし合う。
が、その中で利里だけは話に付いて行けてない模様であった。
その様子に疑問を感じた卓が、私服姿の利里へ問い掛ける。

「利里……お前は何も準備してない様だけど、大丈夫なのか?」
「え? 準備って何の事だー?」
「何の事って……今日はハロウィンだってさっき朱美が言ってたじゃないか。
ひょっとしてひょっとすると、お前、まさかハロウィンが何する日だとか知らないとか?

「んー……残念だけど知らないぞー。まあ、今日集まるとは聞いてたけどなー?」
「や、やっぱりか……如何するんだよ……」

あっけらかんと言ってのける利里を前に、卓は思わず頭を抱え、うめく様に漏らす。
それを見た朱美はやれやれ、といった感じに腕組みをして考える、


「良いもの見っけ」

そして何気に廃品置場の方へ視線を移した所で、妙案を思いついて手をポンと叩いたつもりなのだろう、
ペシンと翼同士を打ち合わせると、廃品置場にあった手ごろな大きさの紙袋を手に取り

「んじゃ、これでも被ってて」
「うおっ? 前が見えにくいぞー」

紙袋に覗き穴を二つ開け、突起が引っ掛からない様に気を付けながら利里の頭に被せ始める。
その際、利里が抗議の声をあげるも、朱美は気にせず紙袋を最後まですっぽりと被せる。
そして、完全に被せた事を確認した朱美が卓へ披露する様に

「ジャジャーン、紙袋モンスター完成!」
「おお、これだけでもう一種のモンスターだな。怪しさ大安売りだ」
「うー、さっきから二人とも何がしたいんだー? 俺にも教えてくれよー」

利里を放ったらかしに騒ぐ二人に対し、遂に焦れた利里が不満げに疑問を投げかける。

「ああ、すまんすまん。何でこんな事するかって言うとな、今日はハロウィンだからだよ?」
「ハロウィンってのは分かってるぞー! 俺が聞きたいのはそのハロウィンが何をする事かと言う事なんだー!」

卓のアバウト過ぎる説明に利里は余計に不機嫌になり、尻尾をバシバシと地面に叩きつけ始める。
それを見た朱美が卓に取って代わり、

「んもぅ、卓君は説明が足りないわよ? あたしが代わりに説明してあげる。
あのね、ハロウィンってのはね。本来、キリスト教の諸聖人の祝日「万聖節」の前夜祭で、
この前夜祭の時は、あたしや卓君の様に魔女やお化け、怪物などの仮装をした人達が家々を回って
その家の人にTrick or treat(トリックオアトリート:お菓子くれなきゃ悪戯するぞ)と唱えて、お菓子を貰ったりするのよ。
まあ、これをするのにも意味があって、恐ろしい仮装する事でその家々から悪霊を追い払う魔よけの……」

「朱美、解説するのは良いが……そろそろ止めないと利里が寝るぞ?」
「――う……ホントだ」

卓の指摘に利里の方を見れば、
どうやら利里は長話に眠気を催して来たらしく、紙袋を被った頭がやや舟を漕ぎ始めていた。
それに気付いた朱美は仕方なく解説を中断し

「とにかく、そう言う事なの、分かった?」
「んあ?……んー、良く分からないけど、
恐い格好してトリックオアトリートと言ってお菓子を貰うってのは分かったぞー」

「何とか理解してくれたみたいね……」

利里の理解の仕方に少し微妙な物を感じたものの、
それでも理解はしてくれた様なので朱美はほっと一息漏らす。

「んじゃ、利里君の理解も得られた事だし、改めてハロウィン菓子大量ゲッツ作戦に出発しますか!」
「菓子大量ゲッツ作戦って……まあ良いけどさ」
「お菓子一杯貰えたら嬉しいなー、なあ、ハロウィンって楽しいんだろうな?」
「そりゃあもう楽しいわよ! 頑張ったらお菓子も一杯貰えるしね?」
「おお、凄いぞー、なら俺も頑張るぞ―!」
「果てさて、どうなる事やら……」

かくて、意気込む朱美と利里、そしての何処か不安げな卓三人は夜の町へと繰り出していった。


「成果は上々って所ね、結構集まったわ」
「お菓子が一杯だぞー、大成功だー」
「一回は門前払いされるかと思ってたけど、皆親切な人達で良かったよ
まあ、一回だけ利里の格好を見て驚いた人に通報されかけたけどな」

「うー、何で紙袋被っただけなのにあそこまで驚かれるんだ―?」
「あはは、一回鏡見てみたら分かると思うわ」

それから約一時間後、3人はそれぞれ収穫を手に、歓談しながら道を歩いていた。

「ア、あの人達も私たちと同じかな?」
「ずいぶんと凝った仮装をしている人達だな……」

その最中、向かいから歩いてきた仮装グループに朱美が気付き、卓も利里もそのグループへ注目する。
卓たち3人の、悪く言えば子供だましな仮装に比べ、そのグループの仮装はとても見事な物で。
それはまるで本物さながら、と言える代物だった。

「うんうん、あれって昔の映画のフランケンシュタインの怪物じゃない? 本当に凝った仮装ね―
「その横に居るのは大アマゾン川の半魚人だぞー、まるで映画から抜け出たみたいだな―」
「そしてミイラ男ならぬ透明人間も居るわね……中々通な人達ねー」
「つーか、なんで二人ともそんなカルトな映画を知ってるんだ?」

二人のカルトな会話に、卓は何処かついて行けない物を感じつつ、話の種となった仮装グループと擦れ違う

「……? 何だろ、これ?」

その際、グループの内の一人から零れ落ちた何かに卓が気付き、咄嗟に拾い上げる。
暗くて良く分からなかったが、それは小さな丸く薄い板のような物だった。
当然、卓は直ぐにその拾った何かを、落とし主であるグループの一人に渡そうと振りかえったのだが、

「……あれ? いない?」

振り返った時には、そのグループの姿は何処にもなく、夜の住宅街の風景が広がるだけだった。
そうやって居ると、卓が立ち止まっている事に気付いた朱美が卓を急かす様に言う

「ちょっと、卓君? さっきから何をボーッと突っ立ってるの? 置いていくわよ?」
「あ……いや、さっきのグループの誰かが落とし物をしてな……あれ、おかしいな?」
「……? 何がおかしいの?」

周囲をきょときょとと見まわす卓に、朱美は不思議そうに首を傾げる。

「いや、それがさっき擦れ違ったばかりなのに、振り返った時には何処にも居なかったんだよ……何処に行ったんだ?」
「大方、其処らへんの家に入ったんだと思うなー? それより早く帰らないと皆心配するぞー」
「あ、ああ……そうだったな。皆待たせてる事だし、早く家に帰ってハロウィンパーティーをしないとな。
……これ(落とし物)は明日辺りに警察辺りに届けておけば大丈夫だろう」

そして、朱美と利里の二人に促される様に、卓も向き直り、二人と共に歩き出す。
ふと、卓は先程拾った落とし物をポケットから取り出し、街頭の明かりに照らして観察する。
その落とし物は、尋常ではない大きさの魚類の鱗だった。

「……こういった夜には本物が出るって聞くけど……まさか、な?」

呟きを漏らしつつ、もう一度だけ振り返って見たその光景に浮かぶ月は、不気味なまでに紅く見えたのだった。



(おまけ的な物)
その日の夕飯時、卓の家に御堂家 竜崎家 飛澤家の三家族が集まり、ささやかながらのハロウィンパーティーを催していた。
奥様方は唐揚げやフライドポテトなどをつつきながら世間話に花を咲かせ、
そして夫たちはつまみを前に、酒を交えながらお互いの妻帯者の苦労話に花を咲かせていた。

「この手作りクッキーは泊瀬谷先生がくれた物ね、美味しいわ」
「このドーナッツも結構イケるぜ?」
「それはいのりんの奥さんがくれた物だなー、皆良い人達だー」

そして悪ガキトリオ達はというと、卓の部屋で今夜の収穫を床に広げ、
それらを口にしながら三者三様の感想を漏らしていた。

「んで、この包みはサン先生から貰った物だが……」
「中身はなんだろうなー? サン先生がくれる物だけになんだか不安だぞー」
「そうよね……あの先生は悪戯好きだから何があるか分かったものじゃないわね……」

そして、粗方収穫を口にした後、
最後に残ったサン教師から貰った包み紙につつまれた丸い円盤状の品を前に、
3人はまるで危険物を見るような眼差しを包みへ向けながら論議し合う。
まあ、くれる人が人だけに、3人がそうなってしまうのも無理はない話であるのだが……。

「とりあえず、先ずは不安がる前に包みを開けて中を見てみましょ? いきなり爆発する事はないだろうしね」
「そうだな、朱美の言う通り、先ずは開けてみない事には話は進まん。……んじゃ、開けるぞ」
「何が出てくるかなー? どきどきだぞー……」

一通り論議した後、先ずは中身を確認すると言う事に話が落ち着いたらしく。
卓が恐る恐ると言った手つきで厳重に包まれた包み紙を剥がし取っていく。そして……

「こ、これは……!」
「まさか……!」
「う、嘘でしょ……!?」

その中身を見て、3人は一様に驚きの表情を浮かべる。

「これは噂に聞いていた、花○牧場名物、生キャラメル!」
「口に入れただけで解けて消えてしまうと言う噂のキャラメル……
あたし、これをTVで見た事はあったけど、この目で見るのは初めてよ」

「俺も噂で聞いたり、TVで見たりしただけしかないけど、とっても美味いんだろうなー?」

包みの中にあったのは、はるばる北海道に行かなければ手にいれる事が出来ない至高のキャラメルであった。
一箱12個入り840円、新鮮な素材を40分以上根気良くかき混ぜながら煮込む事で完成するキャラメル至上最高の味。
それが、3人の前で燦然と輝いていたのだ。


「サン先生……俺は前々から先生の事を変な先生だとか思っていたけど、今からそれは撤回するよ。
サン先生、あんたは最高に生徒想いな良い先生だ! 俺は感動した!」

「あたしもサン先生は子供っぽくてその上悪戯好きで本当に先生なの?とか思ってたけど、
その考えは今日のこの時から捨て去るわ! あたし、サン先生の事を尊敬しちゃう!」

「俺、何ていったら分からないけど、サン先生はちびっこくて踏み潰しちゃいそうになったりするけど
サン先生の心の大きさは俺達が思っている以上に大きかったんだなー」

当然、3人は感極まってサン教師に対する感謝の言葉を思わず口にしてしまう。
まあ、つまり言えば、それくらい3人はこの生キャラメルと言うものに憧れを抱いていたのだ。

「それじゃ、サン先生への感謝の気持ちを感じながら、このキャラメルを食うとしよう」
「そうね、生だから早く食わないとサン先生の気持ちが無駄になっちゃうわ」
「すっごく美味いんだろうなー、どきどきしちゃうぞー」

3人は口々に言いながらキャラメルの箱を開け、一粒ずつキャラメルを手に取る。

『それじゃ、頂きまーす』

そして、3人同時にキャラメルを口に放りこみ……

ぴ き ぃ っ !!

――――口に広がった味に、心の何処かで何かが壊れる音を立ててその場で凍りついた。

「な、なんだこれは……何と言うかエグしょっぱい……!?」

舌を壊滅的状況に追いやった味に、めまいのような感覚を感じながら卓が漏らす。

「ひ、酷すぎる味だぞ……これが生キャラメルなのか……?」

同じく、口に広がった酷い味に利里は尻尾を振るわせながらその場に突っ伏す。

「こ、この味、あたし知ってるわ……」

そして、朱美もまた酷い味に頭痛を感じながらも、その味に覚えがあったらしく、その名を口にする。

「これは、同じ北海道でも最凶と名高い極悪名物、その名も……ジンギスカンキャラメル!」
「な、なんだって……あの、北海道土産の中では一番ネタ系としても名高い、あれなのか!」
「お。俺知ってるぞ、親父が友人から送られたそれを食って、その場でゴミ箱へ投げ捨てたアレかー!?」

そう、3人が生キャラメルだと思って食べたそれは
生キャラメルとはまさに真逆な意味で有名な、極悪非道の激マズキャラメルだった!
(筆者も一度食べた事あったが、その味の酷さにその場で吐き出してしまった)

「これをする為だけに、先生は北海道に行って生キャラメルとジンギスカンキャラメルを仕入れたんでしょうね……」
「それで、本物の生キャラメルを食べた上で、中身をジンギスカンキャラメルと入れ替えたんだな……」
「こんな手の込んだ悪戯をするなんて……先生、あんたって人は……」

恐らく、この仕込をしている時のサン教師はそれこそ尻尾をぶんぶん振りまわして喜喜としてやっていたのだろう。
その光景が3人の脳裏にありありと思い浮かんだのだった。
そして3人は口をそろえて叫ぶ。

『なんて酷い先生だ!』 と……。

……当然、サン教師に対する3人の好感度は、最低まで下がったのは言うまでもないだろう。