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スレ2>>265-267 最終鬼畜菓子"真スイーツマウンテンDX"

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lycaon

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最終鬼畜菓子"真スイーツマウンテンDX"


港通りをひっきりなしに走っていた市電の本数も、やや少なくなり始めた夜遅く。

「それにしても、あのお客さん、凄かったね」

営業が終了した『菓子店 連峰』の店内で、
メイド服姿が可愛らしいキジトラの猫のウェイトレス、美弥家 真央(みやけ まお)がデッキブラシ片手に漏らす。

「あのお客さんって……ああ、あのデカモリを人間の彼氏の分まで食い尽くしたコウモリのお嬢さんの事ですかぁ?
確かにアレは凄かったです、私ですらも思わず仕事を忘れて、あの子の食いっぷりを見続けてしまった位ですからねぇ……
にしても、中々取れないわぁ、これ……もぅ」

その言葉に、角にリボンを巻いた何処か優しげな目をした羊のウェイトレス、
金森 未井(かなもり みい)が床にへばり付いたガム相手に苦戦しつつ応える。

「ええ……難攻不落のスイーツマウンテンDXが二つも平らげられるとは思いもしませんでしたよ……
しかも、それが大男ならともかく、どう考えても多くは食えなさそうな少女がそれをやってのけたのです、
あの時ほど、私は敗北感を感じた事はなかった……」

その横で、鋭い目つきに何処か精悍さを感じさせるパティシエ姿の狐の女性店長、狐利山 香苗(こりやま かなえ)が
レジの売上を帳簿に書きこみつつ何処か悔しげに漏らす。

「……で、これから如何するんです? 店長」
「如何するとは、如何言う事だ?」

真央が何気に言った言葉に、耳をぴくりと動かした香苗の目がギラリと輝く。
その際、香苗が一瞬だけ発した殺気に、傍にいた未井がビクリと身体を震わせる。

「いや、だから、スイーツマウンテンDXを攻略されてしまった以上、
他に目玉を作らないと行けないかなーとか思ったわけで……で、如何するんですって言ったんですけど?」

「…………」

しかし、殺気を感じ取れなかった真央が何となくって感じで応える。
それに対し、無言で真央の方を睨む様に見つめる香苗。その膨れ上がった殺気に危険を感じ、後退りし始める未井。
だが、香苗は何する訳でもなく、暫く真央を見つめた後、やおら踵を返すと厨房の方へと向って行った。

「……ちょ、ちょっと、真央さん。何を聞いちゃったりしてるんですかぁ?」
「へ? いや、だからこれからの事を……」
「今の店長はものすっごい不機嫌ですよぉ? そんな時にあんな事を聞くなんて自殺行為じゃないですかぁ……」

香苗が去ったのを確認して、未井が慌てて真央に話しかけるが、
真央は何が起きていたのかも分からない調子で言う

「不機嫌って言いますけど、店長の尻尾は見たとこピンと立ってましたし、むしろ上機嫌な方では……?」
「え、えっと……あの、それはあなたと同じ猫であればの話ですよぉ?
けど、店長のような狐の人の場合、尻尾がピンと立っている時は逆に不機嫌な状態なんですよぉ……」

「え? マジ?………って事は、あたし、店長を怒らせたって事?」
「多分、そのとおりかと思いますぅ……だから、真央さん、覚悟した方が良いのでは?」
「……あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……あたしったら、なんと言う事を……」

未井の指摘によって、ようやく勘違いに気付いた真央は耳を伏せ、その場で頭を抱える。
しかし、今ごろ気付いた所で後悔後先立たず。真央は己の取った軽はずみな行為を呪うしか出来ない。
多分、髯を根こそぎ抜かれるかもしれない、と、彼女がこれから身に降掛る店長の厳罰に身を震わせていた矢先。


「…………」

香苗が先ほどと同じく、無言で厨房から出てきた。
それに気付き身を凍らせる真央と未井に、彼女がやおら振り向くと、

「二人とも、これからスイーツマウンテンDXに代わる次のメニューを考えましょう」
『………へ?』

香苗の言い出した事に、二人は思わず声をハモらせ首を傾げる。
そんな二人の様子に構う事無く、胸の前で腕組をした香苗は続けて言う。

「スイーツマウンテンDXが攻略されてしまった以上、次に我々がやる事は只一つ。
あのコウモリの子でも攻略できない新たなるスイーツマウンテンを作り出す事だけです!
そう、それが大食いメニューを作り出す者としての義務!」

そう宣言する香苗の目は、二人から見ても分かるくらい闘志に燃えていた。

「え、えっと……あの子でも攻略できないくらいって…どれくらいなんですか?」
「そうですね、ざっと考えて前の3倍強でも足りないと私は思っています」
「さ、3倍……」

恐る恐る問い掛ける真央に、香苗はごく平然と言った感じにとんでもない事を言ってのける。
只でさえ超ボリュームなスイーツマウンテンDXの3倍である、はっきり言って想像できない。
もはや唖然とする二人を余所に、闘志に火のついた店長は張り切って言う

「そう言う訳です、今晩は徹夜で新メニューの考案と行きましょう!」
「え、あの? 私達もやるんですか?」
「当然です」
「そ、そうですか……」

未井の質問に、毅然と応える香苗。
もうこうなると誰が何を言おうと彼女は止まらないだろう。
二人は、この店長の性格を誰よりも良く知っていた。

「さあ、早速試作品の製作開始です! 二人とも、張り切っていきましょう! エイエイオー!」
「え、えいえいおー……」
「声が小さいです! もう一回、エイエイオー!」
「え、エイエイオー!……ううっ」
「今日は、帰れそうになさそうねぇ……」

気合を入れる香苗と涙目になる真央を横目に、未井は疲れた様に呟きを漏らす。
そして、『菓子店 連峰』の夜はふけて行く。


そして数日後

「…………」
「あれ? 店長……如何したんですか?」
「今は話し掛けない方が良いですよぉ?」
「へ、何故?」
「あれから、あのコウモリの子が母親を連れてやってきたんですよぉ。
それで、店長が早速、真スイーツマウンテンDXをその親子に薦めたんですけどぉ……」
「……それで、どうなったの?」
「お二人とも、お代わりまで要求されたそうですぅ」
「…………」

完膚なきまでな敗北を味わい、床に突っ伏す香苗の姿が其処にあったと言う。

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