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コレッタ『夏が来た』


 コレッタが体操座りをしながら廊下の片隅で寝ていると、すいかがころころと引き寄せられるように転がってきた。
 夢見心地だった子ネコの放課後はひと玉のすいかによって脆くも壊された。細い脚に当たり、朝、母親が揺り起こすように
緑色の球体はコレッタに遅いおはようを言ったまま、そのまま黙り込んだ。返事を待ちながら。

 「もう少し、もう少し寝るニャ」

 無言のすいかはコレッタを許すのか。

 「にどね……ニャ」

 すいかへと覆いかぶさるように寝返りうったコレッタは帰りの会の途中からうとうとしていた。だって、ねむいニャと。
 教室から出ると廊下の日だまりに誘われて、ランドセルを下ろすと昼寝の寄り道に誘われてしまった。ランドセルを大事そうに抱いて
すやすやと廊下のひんやりとした床とガラス窓からの温もりで、ちょっと早いおやすみの園へとコレッタを引きずり込んでいた。
 子ネコのお仕事はお昼寝。寝る子は育つ、果報は寝て待て。昔から寝ることは随分と推奨されているではないか。
無論、コレッタの頭にはそんな理屈は一遍もないが、本能として刻まれていると言えば誰もが納得するだろう。

 暑い季節がやって来るとはいえ日差しは気持ち良い。そこにころころとひと玉のすいか。夢の中で夏休み気分のコレッタは言う。
「目の前にすいかが現れたもんだから『いただきますニャ』と捕まえるでしょ」と。今年初めてのすいかは新緑のように目に眩しい。

 眠気まなこのコレッタは放ったランドセルと同じぐらい大きな緑色の球体に両手でしがみ付いた。

 むにゅ……と。柔らかい。乳呑み児が母親にすがるときと同じように、頬触れ合って、爪立てて。

 「コレッター。おいてゆくニャよ」

 廊下の遥か遠くでランドセル担いだクロとミケが声を上げるけど、くるりと耳だけ向けてコレッタはすいかに甘えるように抱き続ける。
しかし、すいかはそんなに甘くない。みるみるうちに萎み、前髪吹き上げ、小さくなって、やがてはぺったんこと、コレッタの胸の中で
一枚の干からびたすいかと化した。うっすらと夢と現の境目を綱渡りするコレッタの夢はすいかのビーチボールと共に脆くも弾けた。

 「こ、こらーーー!コレッタがつめ立てるから、ミケのビーチボールがしぼんだニャ!」
 「あーあ……。もう、コレッタ!べんしょーのかわりにばつゲームだニャ」
 「ええ?ちょ、ちょっと待つニャ!ふぇぇ……クロのも、ミケのも重いニャ」

 身軽になったミケとクロはすいかのかわりに自分たちのランドセルをコレッタの右手左手に持たせて、萎んだすいかを振り回しながら
青い空が待つ校庭へと駆けていった。コレッタはもう少し寝てればよかったニャとあくびをした。