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白先生『お互い様』


 マンションの窓を全開にしていると、風が心地よくビールが美味い。
 思えば遠くに来たもんだ……と初めてビールを口にした初々しい舌触りの感傷に浸っていると、さらに炭酸が染み渡る。
飲めば飲むほどお互いの相性が分かり合える、なんて人間らしいヤツなんだなと白先生は喉を鳴らす。

 今年の初すいかは学校で頂いた。同僚がすいかを貰ってきたから、遠慮がちにご相伴にあずかることにしたからだ。
 さくっと包丁が入ると、鮮明な赤色が切り口から溢れそうで、すいかの夏への手招きが白先生には聞こえてきそうだった。
真昼間に現れた赤い半月はやがて同僚たちの笑顔を糧に三日月へと成りを変えた。

 「来年も初すいかはまた学校でかな」

 ビールの泡が微かに残るきんきんに冷えたグラス。くらっとこめかみを刺激する程度のアルコール。頬が熱くなって、食が嫌でも進む。
箸をのばした先には『すいかの皮のかき揚げ』が皿に申し訳なさそうに夏の食卓を演出していた。
 まさか、すいかの皮まで食べられるとは知らなんだ。ちょこっと聞きかじったネットの情報を元に白先生は新たなメニューに挑む。
 人生、なんでも冒険だ。恥かいて、ベソかいて、そして……ババアになって。残り物の気持ちが分かるお年頃。
 夜汽車に揺られるように白先生はゆらゆらと心地よく目を閉じた。

 すいか。すいか。
 昼間の出来事が甦る。

 「残ったすいかの皮、頂いていいか?」と白先生は同僚たちに尋ねると、何人かは目をぱちくりとさせていた。
 すいかを持ち込んだ張本人である数学教師が「漬け物ですね」と食いついたから、白先生は「ああ」とそっけなく返事した。ウソだけど。

 水気を切って短冊にしたすいかの皮に衣を付けて油で揚げるだけ。白先生は一日の締め括りの共にすいかの皮を選んだ。
 すいかの皮をジッパー付きの袋に詰めていると、職員室に風紀委員長がノートを抱えて入って来た。白先生が手にした袋を
まじまじと見つめながら、風紀委員長はノートを担当教師の机に置いた。

 「白先生。すいかの皮にまで同情を禁じえないんですか。捨てられるだけの存在ですのにね」
 「因幡も自分の将来を見るようだろ。ちょっと保健室からオキシドール持ってくる」

 昼間の白はちょっと(教師として)違う。夜中の白はもっと(女子として)違う。
 いいぞ、もっとやれ。
 今のわたしには怖い物などない。

 憎まれ口を叩かれても、白先生はビールさえあれば何でもできると、昼間のやり取りを思い出しながらすいかのかき揚げを口にした。