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リオ『すいかさん』


 リオが真夏の光線を浴びながら、『こみけ』の会場を背にしてベンチに座っていると、すいか頭のガチムチ男が横に並んでいるのに
気付いた。こみけへと一緒に訪れた後輩を待ちながら食べようとしたすいかバーを齧るのをちょっと躊躇った。

 上半身は鋼のような肉体美、鍛え抜かれた筋肉を滑る一筋の汗は金剛石にも似た輝き。但し頭はすいか。
 隆々とした力こぶ、均整が取れた逆三角、無駄を全て排した正しく『ガチムチ』。但し頭はすいか。
 ぴたっと張り付いたレスラーパンツ、幾多の闘いをかい潜ったかのようなリングシューズ。但し頭はすいか。

 都会の海風に撫でられた『すいか』は明日への道を自ら切り開かねばならぬ宿命を持っていた。なぜなら彼は『すいかさん』だからだ。

 リオは失礼と思いながらもすいかさんの胸部から脇腹、恥骨までの完璧なるラインに、いにしえの人たちが追い求めてきた理想である
彫刻像にも負けない整えられた筋肉を横目で見ていた。そうのち横目では飽き足らず、気付かれぬように遠くの雲を見ているつもりで
ちらちらとすいかさんの姿を目に焼き付けていた。くわえていたすいかバーをセキレイの尾のように上下させる。

 「あの……!」

 すいかさんはすっくと立ち上がり、太陽のほうへと逆光の中、人が集う駅へのプロムナードを歩いていった。後姿もまた隆々としていた。
 繋がりかけた糸を切らぬようにリオがすいかさんを引き止める言葉をかける間もなく、その糸はぷっつりと切れて海風に飛ばされた。

 「因幡せんぱーい!買って来ましたよ!すいかバー!」
 「あ。うん。ありがと」

 ヲタ友で後輩の更紗がすいかバーを片手に駆け寄ってきた。数少ないリオとの共通の仲なので、先輩後輩の壁を感じずに
気を置くことなく相談出来る。袋に入ったすいかバーをぴたとリオの頬にくっつけた更紗は真夏の太陽のような笑顔を見せた。
リオは夕立の降る黄昏れどきのような顔を見せた。

 「更紗。見なかった?すいかさん」
 「すいかバーならここですよ」
 「いや。すいかさんってば」

 事細かにすいかさんの姿、筋肉、彼の持つ闘志を更紗に語るが彼女からはよい返事は返ってこなかった。

 「コスの人でしょ。第一、何のキャラ、アニメのコスか分かりませーん」
 「でも、見たんだよ。すいか……」

 リオが手にしていたすいかバーは暑さで次第に小さくなり、棒から滑るように落下した。

 「あ。ハズレだ」
 「え?うそ?」

 印字された三文字は冷静だ。今のリオには納得のいかない結果だった。
 静かにすいかバーを開ける更紗を恨めしく見ながら、更紗がハズレることを願った。