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リザードマンたけし


三階の男子トイレの窓から少量の煙がたち登っている。タバコだ。
校舎の外からその煙を見つけた猫の少女が、声を張り上げて呼び掛ける。

「猛(たけし)~!帰ろー!」
呼び掛けから5秒ほど遅れて窓から、にゅ、と顔を覗かせたのは、リザードマンの龍ヶ谷猛(りゅうがやたけし)。
顔面凶器の二つ名を持つ彼の眼光は心肺機能の弱い方には絶対にお見せできない雰囲気を醸しており、
その凶悪さたるや小動物なら確実に目が合っただけで死ぬレベルである。

タバコを最後に一吸いし、指で摘んでもみ消す。吸い殻は便器……ではなく携帯灰皿へ。
妙な所に律義。

煙を口角からほろほろたなびかせる様は、ドラゴンが炎を吐き出す準備動作をしているようであり、
まるでファンタジーの世界から召喚された凶悪なドラゴンだ。

思わず形容に“凶悪”を何度も使ってしまう恐ろしげなそのリザードマンは、ゆっくりと窓の外に身を乗り出した。
校舎の垂直な壁面に手足でしっかりと張り付き、安定した動きで降りて来る。

トカゲの手足は微細な刺が無数に生えており、マジックテープの要領で壁面に張り付く事ができるのだ。
二階の半ばあたりまでくると手足を一斉に剥がし、ずしゃ、と地面に着地。
猫の少女は呆れた態度を隠そうともせず、

「猛に今度、階段の使い方教えたげる」
 馬鹿にした。

 猛は悪びれもせず答える。

「しゃあねーじゃん。タバコくせーままガッコん中あるったらマジーし」
「じゃ、ガッコで吸うなよ」

「だってさぁ~」
「だってもさっても無いの!もー、高三で停学とかシャレんなんないよ?」
「まま、そう怒るなって」
「きゃっ!」
 猛のごつい手が、少女のお尻をスルリと撫でた。当然、手のひらの刺に引っ掛かってスカートが捲れる。

「うむ、白は正義──ぐはぁ」
ニヤけた猛が、少女のネコぱんちをみぞおちにモロに受けてよろける。

「こんのエロトカゲが。セイカツシドーに言ったろか」
「ちょ、停学はヤバいです……どうかご勘弁を」
でっかい巨体を縮こまらせて、猫の少女に恐縮する猛。その姿は若干カワイイ。
もちろん眼光は鋭いし、縮こまっても全然でかいままだが。

───────

他愛ない話をしながら電車までの道を歩くと、夕暮れの西日が二人の影を長く引く。
猛の少し前を歩く少女が、ふと真剣な口調で話し始めた。

「きいて猛、わたしね、九月の面談で、いのりんに、国立狙えるって言われたの」
「……ふーん」
──マジかよ。

気のない返事を心掛けたが、猛は内心動揺せずに居られなかった。