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若頭は12歳(幼女)外伝 隻眼の獅子編【終劇】


「ふぅ……やっと落ち付いて煙草が吸える」

あの戦いから数時間後。
すっかり日も暮れた森三一家の屋敷の、手榴弾の爆破の後も綺麗に修復された縁側にて、
縁側に腰掛けた私は夜空に瞬く星空見上げ、恐らく数日ぶりの煙草の味を満喫していた。

……あの後は本気で大変だった。
何せ、騒ぎに気付いた警察が来る前に、返り血の付いた服を別の服に着替えた上でビルから脱出しなくてはならず。
もう大慌てで予め持ちこんでいた衣服に着替えをした上で、用意していたバッグなどに返り血の付いた服を隠し、
更に変に目立たない様に気を使いながら、それぞれ車に分乗して大急ぎでビルを後にしたのだった。

特に、私はバイクに乗ってきていた物だから、バイク置いて他の皆と一緒に帰ると言う訳にも行かず、
結局、私は全身痛い上に疲労感で潰れそうな身体へ鞭打って、バイクで帰還する事となったのだった。

……それと、これは後で聞いた話だが、
私達がビルから脱出してきっかり5分後、黒狼会の事務所へ警察の強制捜査が入ったらしく、
その場に居た黒狼会の組員は全員、漏れなく警察病院へと直行し。怪我が治り次第、お上の沙汰を受ける事となったそうだ。
(その際、予め何らかの裏工作をやっていたのか、この件に森三一家と梶組が関わったという話は一切出てこなかった)

尚、肝心の黒狼会の組長である田宮 憲十郎であるが。
警察が到着した時には既にその姿は無く、警察では恐らく何処か海外へと逃亡したのだろう、との事で話が進んでいる様だ。
まぁ、その実際は憲十郎は逃亡した訳ではなく、今頃はゆみみの父親の所できっちり落とし前を付けさせられている事だろう。
無論、奴がこれから如何なるかなんて私には知ったこっちゃ無い。代わりにゆみみの父親の鏡下が優しい事を祈るまでである。

そして今、ここ森三一家の屋敷では、共闘した梶組も交えた祝勝会の真っ最中。
今回、黒狼会という共通の敵を倒したお祝いという事もあって、今夜だけは敵味方関係無しの無礼講と相成った訳だが……。
まあ、浮かれた状態の良い大人が、何人も同じ場所に集まれば、やる事はどの世界も殆ど同じらしく、
酒やカラオケは言わずもがな、腕相撲をやり始めたり、いきなり踊り出す奴もいたり、酔って倒れる奴もいたり
更には小話に、手品に、曲芸に、と訳の分からん宴会芸まで飛び出す始末。

当然ながら、私はそんな乱痴気騒ぎを前に嫌気が差してしまい、
もう付き合ってられんと尻尾垂らしてこっそりと宴会場を抜け出し、今の現状に至る訳である。
……にしても、今は皆、戦いの後で疲れているだろうに、良くやる物である。

「この騒ぎからすると、今日一晩は眠れそうに無いな……」

今居る縁側から大分離れている筈の、宴会場から聞こえる乱痴気騒ぎの音に、私は疲れを隠せずくぁ、と欠伸を1つ。
因みに、今の私の姿は、素毛皮の上にややサイズの合っていないダブダブ気味の長襦袢、そしてサラシにパンツ一丁。
更に身体の彼方此方に包帯が巻かれていると言う、人様には余りお見せの出来ない姿である。
……こう言う時は静かに身体を休ませたい所だが、今の状況じゃそれも望めそうにも無いな……。

「あれ? 怜子先生、こんな所に居たの?」

掛かった声に振り向いてみれば、其処には何故かタオル片手のゆみみの姿。
一瞬、誰かが宴会場へ連れ戻しに来た、と思った私は、それが違った事に思わず安堵の息を漏らし、
吸ってる最中だった煙草を携帯灰皿へ放りつつ、隣に座ったゆみみへ言う。

「ああ……ちょっとあの騒ぎに付き合い切れなくなってな……」
「あ、やっぱり……ゴメンね? 疲れているとこを皆に付き合わせちゃって」
「いや、良いさ……別にゆみみ少女が気にする事じゃない」
「うーん、そうは言うけど……」

と、苦笑いを浮かべるゆみみ。
森三一家の若頭としては、一家の衆の掛けた迷惑に対して責任を感じているのだろう。
……そう言えば、初めて会った時も、彼女は『一家の衆の掛けた迷惑が云々』とか言っていたな。
何と言うか、ここまで責任感が強いと、相手するこちらも疲れる気がするな……。
取り合えず、何時までもこうしているのも難なので話題を変える事にする

「所で、ゆみみ少女は何故この場所に?」
「ん? それがね、ちょっと日向君が無理やり酒を飲まされて、それで倒れちゃってね。今、その看病を終えた所なの」

なるほど。片手のタオルは看病に使った物、と言うことか。

「……日向君と言うと、確か、妙に白い肌してた梶組の次期頭首とやらか?」
「そうそう、日向君って男の子なのにすっごく虚弱体質で、吐血するのなんて日常茶飯事なのよ」

……いや、虚弱体質なのはまだ分かるが、日常的に吐血するのは如何だと思うのだが……? 

「……ねぇ、怜子先生……」
「ん? 如何した?」

――そのまま他愛の無い事を二言三言交わした後、急に声のトーンを落すゆみみ。
様子の変化に気になる物を感じつつ聞き返す私へ、彼女は何か思い詰めたような声で言う。

「やっぱり、怜子先生は家に帰れるようになったら、ここから出て行っちゃうの?」
「……」

私は何も言わず、腕組をして考え込む。
元々、私はこの場所に長居するつもりはなく、帰り道である峠道の通行止めが解除されれば、直ぐに出ていくつもりだった。
まぁ、なんだかんだあってゆみみ達とは色々と関わり合う事になってか、少し名残惜しい物も感じるのだが……。

「そうだな……私にも教師と言う仕事があり、同時に私を必要としている者も居る以上、
何時までもここに残る訳には行かんだろうな……まぁ、名残惜しくないといったら、嘘になるが」

暫し考えた後、私は正直な気持ちをゆみみに伝えることにした。
どうせ、その場凌ぎに嘘偽りの言葉で誤魔化した所で、その嘘もいずれはばれてしまう事になる。
そうなれば、それだけ余計に彼女の心を傷付ける事になってしまう――そう言うのは、私のスタイルに反していた。

「そう…だよね。…怜子先生にも、怜子先生の生活があるもんね……。
それを…私の我侭なんかで…引き止めちゃ、行けないもんね?」

多分、泣くのを必死に堪えているのか、ゆみみの声に徐々に嗚咽が混じり始める。
ここで少しでも何かあれば、途端に彼女の目からは堰を切ったように、涙が溢れ出す事だろう。

「それに、私…あの時、銀虎と話しているのを聞いちゃったんだ……怜子先生は、何処か遠くの、知らない世界の人って事。
だから、怜子先生と別れたら、二度と会えなくなっちゃうかもと思って、そしたら、何だか…涙が出そうになって……」

しかし、まだ幼い彼女に、自らの想いを抑える事はまだ無理らしく、
次第に声の震えと嗚咽が大きくなり、時折、鼻を啜る声も混じり始める。
見れば、膝の辺りに置かれた彼女の両手は、何かを耐える様にスカートをきゅっと握り、其処へ雫が何滴か零れ落ちていた。
……やれやれ、こういう所を見ると、彼女もやはりまだ12歳なのだな……。

「でも、それでも、怜子先生を…引き止めちゃ行けないんだって思ってて……」
「もう止せ、私なんかの為に、そんなにめそめそ泣くんじゃない」
「――怜子…先生…?」

嗚咽混じりの言葉を遮って私に頭をくしゃりと撫でられ、ゆみみは言葉を止めてこちらを見上げる。
そんな彼女の泣き腫らした顔をじっと見据え、私は飽くまで穏やかな声で言う。

「良いか? 人生って物は、形の違いこそあれど、それこそ出会いと別れの繰り返しだ。
まだとっても若いゆみみ少女は多分、これから様々な人と出会い、そして別れを繰り返して行くだろう。
……お前は、これから誰かと別れる度に、そうやってめそめそと泣くつもりか? 違うだろう?」
「で、でも……」
「なぁに、別に私は、何も死出の旅路に行く訳じゃないんだ。ただ、元居た場所に帰るだけのこと。
だから、例え住んでいる世界が違おうとも、ひょっとすれば、何かの拍子でまた会えるかもしれないんだ。
……その時まで、ゆみみ少女には一つ、私と約束してもらおう」
「約束……?」

オウム返しに問い返すゆみみに、私は「そうだ」と相槌を返し、続ける。

「何があっても、辛い時や悲しい時には泣くな。代わりに、その泣きたい気持ちをバネにして頑張るんだ。
そして、泣いて良いのは、本当に嬉しい時、感動した時だけにするんだ。……それが、私からの約束だ」
「う…うん! 約束する! 私、もう悲しいからって泣かない! 泣くのは、嬉しい時にだけにする!」
「よし、良い返事だ」

そして、顔に貼りつかせていた涙色の表情を消し飛ばし、力強い言葉で頷いて見せるゆみみ。
やっぱり、こう言う年頃は笑顔で居るのが一番だ。……かつて、同じ年の頃の私が笑顔を忘れていただけに、それは尚更だ。
と、私が一人感慨に浸っていた所で、涙を拭いたゆみみがやおら立ち上がり、

「ねえ、怜子先生。私、これから取りに行く物があるから、ちょっとの間だけここで待ってて」
「…あ? ああ、別に構わんが……?」
「それじゃあ、5分だけ待っててね!」

言うなり困惑する私を一人置いて、何処かへ走って行くゆみみ。
訳が分からず私が尻尾をくねらせて約5分後。何やら色んな物を腕一杯に抱えたゆみみが戻ってきた。

「お待たせ、怜子先生」
「何を取りに行ってたんだ? ゆみみ少女」
「ん、これを取りに行ってたの」

言って、ゆみみが私の前に置いたのは朱塗りの大きめな盃と小刀、そして良く冷えた瓶入りのサイダー。
そんな余りにミスマッチな取り合わせな物品を前に、思わず尻尾くねらせ眉をひそめる私の様子を、
彼女は説明を求める物と見たのか、何故か大威張りに胸を張って、

「これはね? 森三一家に古くから伝わる、ギキョーダイの契りに必要な朱塗りの盃なの。とっても価値のある物よ?」
「……そのギキョーダイの契りとやらに必要な盃を持ってきて、何するつもりだ……?」
「そりゃあ勿論、やる事は決まってるじゃない」

頭一杯に疑問符を浮かべる私へ言いながら、盃にサイダーを注ぎ始めるゆみみ。

「本当はこう言うのってお酒を使うのが慣わしなんだけど。私はお酒がダメだから、今回はサイダーで我慢してね?」
「いや、まあそれは分かるんだが……それで、その盃で"何をするのか"をまだ説明して貰ってないのだが?」
「……?」

私の困惑気味な質問の意が理解出来なかったのか、一瞬だけきょとんとするゆみみ。
それから数秒ほどの間を置いて、ようやく質問の意に気付いたらしく、「あ」と言わんばかりの表情を浮かべ、

「ご、ゴメンゴメン。まだちゃんとした説明をしていなかったわね?」

と、苦笑い浮かべて謝って見せるゆみみ。
……何と言うか、彼女は幼いながらにしっかりしているのだが、如何も何処か抜けているのだな……。
だがーーだからこそ、彼女はあの舎弟達に慕われているのだろう。

「ええっと、怜子先生。この屋敷に来た最初の日の夜の事、覚えているかな?」
「ああ……忘れる筈が無いが、それが?」
「それで、黒狼会の刺客が手榴弾投げ込んでくる直前に、私が先生へお願いしようとしてた事があったと思うけど……」

ゆみみに言われ、私は頬のケモ髯を弄りながら記憶を掘り出してみる。
……そう言えば、確かにあの時、ゆみみが私へ何かお願いしようとしていたな……。
――ふむ…となると、彼女の用意した物品から考えるに……。

「ひょっとすると、ゆみみ少女の言うそのお願いとやらは、私とギキョーダイの契りを交わしたい、とそう言う事か?」
「大当たり! さすが怜子先生!」

私の推理が的中していたらしく、飛びっきりの明るい笑顔で賞賛の声を上げるゆみみ。
……やっぱり、思った通りだったか……となると……。

「……つまり、ゆみみ少女は私にヤクザになれと?」
「ううん、そう言う意味じゃないよ」

私の問いに、首を横に振って否定するゆみみ。
そして、彼女は私の隻眼をじっと見据え、続ける。

「私が、怜子先生の事が気に入ったから。
森三一家の若頭としてではなく、私、森三 ゆみみ個人として怜子先生のことが好きになったから。
ぶっきらぼうで、乱暴で、素直じゃないけれど、とっても強くて、優しくて、仁義を重んじる怜子先生が好きになったから。
せめて別れる前に、義兄弟と言う関係でも、怜子先生との絆を繋げたいと思ったの……」

私を見据えるゆみみの双眸に宿るは、ある種の決意の中に悲しさを入り混じらせた物。
いずれ訪れるであろう私との別れを受け入れながらも、やはり心の何処かに心残りを感じている、そんな悲しい色。

「多分、怜子先生だったら、皆もギキョーダイになることを許してくれると思う。
だけど、もし怜子先生が嫌だと断るのなら、私も無理にとは言わない。素直に諦める事にする」
「…………」

私は何も言わず、ただ、こちらをじっと見据えるゆみみを眺める。
彼女の表情に浮かぶは、期待と不安。恐らく緊張しているのか、喉の辺りから唾を飲み込む音が聞える。
私は暫しの間、考えた後。ゆみみへ向けて、ゆっくりと言葉を紡ぐ、

「……私は、この世界にとって言えば、異邦人と言っても良い存在だ。
恐らく、ただこの場に居る事でさえも、本来ならば全く有り得る筈の無い異常な事なのかもしれない。
ましてや、この世界の住人に干渉するなんて事は、この世界にとってはあってはならない事態なのだろう。
だからこそ、私はこの屋敷へ来た当初は、長居は無用と直ぐに出ていくつもりだった」
「……やっぱり、そうだよね……無理言っちゃってごめんなさ――」
「まあ待て、まだ話は終わっていない」

なにやら独り勘違いして話を終わらせようとしたゆみみを、私は掌の肉球で制し、更に続ける。

「だが、結局はなんだかんだの内に面倒事に巻きこまれて、そしてなんだかんだの内に皆と関わり合いを持ってしまった。
もうこうなってしまった以上、毒食らわば皿までだ。…だからゆみみ少女の言う、ギキョーダイの契りとやらも、やってやるさ」
「ほ、本当!? ありがと――」
「ただしだ」

ゆみみを喜び思わず抱き付こうとするのを遮って、その額へぷにと押し当てられる私の指先の肉球。
それに彼女が一瞬だけ不安げな表情を浮かべた所を見計らい、私はにっと牙を見せて笑い、

「ヤクザへは転職しないからな?」
「うん! それは約束する!」

ぱあっ、と太陽の様な満面の笑みを浮かべて、元気よく頷くゆみみ。
そして、彼女はやおら小刀の鞘を抜くと、躊躇無くその切っ先で自分の人差し指の先を小さく傷付け、
傷口から出てきた血の数滴を盃の中へと落した後、私の方へ盃と小刀を寄越し、

「はい、次は怜子先生の番!」
「む……血を入れる必要があるのか……なら、私にこれ(小刀)は必要無いな」
「へ?」

小刀だけ突っ返され、思わず疑問符を浮かべるゆみみ。
しかし私は気にする事無く、自分の指の鋭い爪先で左手の指の肉球を軽く引っ掻き、其処から出た血を盃へ落す。
それに思わず「あ、肉球が……」と声を上げるゆみみ。そんな彼女へ、私は盃を押し出しつつ、

「さて、これで良いんだな?」
「う、うん……でも、怜子先生。肉球、痛くない?」
「なぁに、これくらい、連中とやりあった物に比べりゃまだまだだ。……で、ゆみみ少女の方は?」
「私は大丈夫! それより怜子先生、早く始めよっか」
「そうだな、サイダーの気が抜けたら不味いしな」

私とゆみみがお互いに頷きあった後、向かい合わせになる様に正座する。
そして、やはり慣れぬ儀式の為なのか、ゆみみは妙に神妙な面持ちを浮かべ、

「私、森三 ゆみみは天と地に誓います。
違う時、違う場所、違う家系に生まれた獅子宮 怜子と、血の繋がりを越えた絆を結ぶ事を!」

朗々とした声で宣誓した後、盃を呷るゆみみ。
そして、彼女から差し出された盃を受け取り、私も朗々とした声で宣誓する。

「私、獅子宮 怜子は天と地に誓う。
違う時、違う場所、違う家系、そして違う世界に生まれた森三 ゆみみと、血の繋がりを越えた絆を結ぶ事を」

この時の若干気の抜けたサイダーの味は、恐らく、二度と忘れない事だろう。

※  ※  ※

それから約二週間の後――
梅雨の晴れ間広がる空の下の、森三一家の屋敷の前。
既に出発の準備を整えた私は、一家の衆に見送られる形で、その時を向かえていた。
傷の方はまだ完全とは行かない物の、その殆どが塞がり。バイクを飛ばしても何ら問題ない位に回復していた。
無論、帰り道となる筈の峠道の通行止めは既に解除されており、今や出発するだけとなっている。

それまでの二週間の間、逗留する事となった森三一家では、それこそ様々な出来事があったのだが、
それを一々説明していたら何時までも話が終わらないので、ここは端折っておく事にする。

「俺、最初こそ獅子宮センセの事、気にいらねーと思ってたけどよ、今となっちゃ別れるのが惜しいと思えるぜ。
なあ、獅子宮センセ、悪い事いわねぇからここに残ってさ、お嬢の家庭教師やってくれね―かな?」
「悪いが、私にも帰りを待ってくれる人が居るんでな。それは勘弁させてくれないか? 綾近」
「冗談だって冗談。センセにもセンセの仕事があるもんな」

言って、ニシシと人懐っこい笑みを浮かべて私の肩をぽんぽん叩く綾近。
最初こそ、私を毛嫌いしていた彼ではあったが、黒狼会の件で私の事を見直してくれたらしく、
以前までの取っ付き難さはだいぶ薄れ、まるで友達の様に私と接する事が多くなっていた。
まあ、何処かイッちゃってるっぽいのは相も変わらず、なのだが

「またここに来る事があったらよ、その時はまた一緒に博打に行こうぜ? 怜子さん」
「ふふっ、その時はまたスッテンテンにならん様に気を付けるんだな、平次」
「へっ、あの時はたまたま運が悪かっただけだ。次こそは大勝してやるぜ!」

と、意味もなく拳を振り上げ、私へ誓って見せる平次。
出会った時がアレな事もあって、彼もまた、綾近と同じく私の事を余り良い目で見てはいなかったのだが。
黒狼会の件の後、色々とやっている内に私の事を気に入り、暇さえあれば博打に誘うようになっていた。
……まぁ、その時の結果が如何だったかとかに付いては、ここで語らずに置いておくとする。

「しかし、いざお別れとなると、本当に寂しくなるな。出来れば、怜子さんにはもう少しだけ居てもらいたかったのだが」
「お前の仮面の下の素顔を見せてくれたのなら、考えてやっても良いぞ? 秋水」
「はは、代わりに素顔を見せろってか、そいつは手厳しいな?」

仮面を指差しての私の冗談に、穏やかに笑って応える秋水。
最初の頃は年上だった事もあって、彼は私の事を子供扱いしていたが、黒狼会の件以降はそれも無くなり、
更には、黒狼会の件で受けた怪我のリハビリも兼ねた組手に、誰よりも率先して相手してくれたのは他でもなく彼であった。
尚、この二週間の間、何度か彼の仮面の下の素顔を見ようとしたのだが、結局は謎は謎のままに終わった。

「玲子さんの通ってる…佳望学園だったか? それの話、また今度来た時も話してくれや、面白かったからな」
「ああ、もしまた来る事があったらな? …その時はもっと面白い話を聞かせてやるさ」
「ほぉ、約束だぜ? 特に猛って不良の話、俺の若ぇ頃の様で面白かったからよ、楽しみにしてるぜ」

私の言葉に、口角を吊り上げたトカゲの笑みで応える唯鶴。
最初の出会いの時から、彼は私の実力をある意味認めていたからか、他の四人に比べて私を毛嫌いする様子は無く
思えば最初の時から今に至るまで、森三一家の衆の中で私と1番会話していたのは彼だったと記憶している。
それ故か、気付けば私の通っている学校の事とか、余計な事を話してしまったが……まぁ、別に大丈夫だろう、多分。

「しかし怜子さん、あんたが来てからのこの二週間、本当に長い様で短かったな。
気が付きゃお嬢の事といい、黒狼会の事といい……あんたには色々と世話になってしまった」
「いや、それはお互い様さ。私も、結局なんだかんだで、お前達には随分と世話になってしまったからな……」
「ふっ、そうかい? ならば、お互いにこの"巡り合わせ"に感謝しねぇとな?」
「そうだな、感謝しないとな」

言って、穏やかな表情で私と握手を交わす銀虎。
結局、彼は私が違う世界から来た、と言う事を、他の者へは決して話そうとはしなかった。
無論、私は一度だけ彼へその理由を聞いてみたのだが、彼は『さぁて、如何してでしょうね?』と笑みを浮かべるだけであった。
果たして銀虎のその真意は如何なる物なのか、所詮は他人に過ぎない私には窺い知る事は出来ないだろう。
ただ、一つだけ言える事とすると、これは彼なりの気遣いだった、と不思議と思えてくるのだ。

「所でよ、こんな時にお嬢は如何したんだ? トイレにでも行ってんのか?」
「そう言えばそうだな。もうお見送りの時だと言うのに、何処へ行ってるやら?」

ふと、この場にゆみみが居ない事に気付き、辺りを見回し始める平次に秋水。
その様子を前に、頭後ろに腕を組んだ綾近が何気なく言う、

「そーいや、さっきお嬢が何か探してたのを見たぜ? なんか獅子宮センセに……」
「お待たせー! 怜子先生はまだ出ていないよねっ?」
「ありゃ? やっと真打登場だ。何やってたんだよお嬢」

と、綾近が言おうとする間も無く、屋敷から急ぎ足で飛び出したのは当のゆみみ。
はてさて、彼女はこんな時まで何を探していたのだろうか? 頭に浮かんだ疑問に私の尻尾が左右に揺れる。
そんな私の疑問を余所に、まだ出発していない私の姿を見つけたゆみみは、真っ先にこちらへ駆け寄り、

「怜子先生、待っててくれたんだ! 良かったぁ、間に合って!」

余程必死に何かを探していたのだろうか、見れば彼女の髪や衣服にうっすらと埃が付いていたりする。
私はそれを軽く手で払い落としてやりつつ、若干息を切らしている彼女へ問う。

「こんな時に何していたんだ? ゆみみ少女。何か探していた様だが……」
「えっと、それは……これっ! これを怜子先生に渡したかったの!」

言って、彼女が私の前に差し出したのは、指輪かイヤリング辺りに使われていそうな、ビロード張りの小さなケース。
その際、一瞬だけだが、それを見た銀虎の表情達が何とも言えない物に変わったのを私は見逃さなかった。

「これは……?」
「あ! まって! それの中を見るのは家に帰った後にして欲しいの。お願い!」
「……む、そうか?」

まだ中を見られたくなかったらしく、ケースを開けようとした私の手を、慌てたゆみみの手が抑えて止める。
仕方なく、私はケースの中を確認するのを諦め、代わりにケースを掌の肉球で軽く弄びつつ彼女へ問う事にする。

「これは一体…何だ? 皆の様子からすると、どうも大事そうな物の様だが……」
「うん、これはとっても大事な物よ。コレはどんなに遠く離れていても、私と怜子先生が繋がっていられる絆だから。
だから、怜子先生にはこれを受けとって欲しいの」
「絆、か……」

ゆみみの言葉に、私は手の内のケースへと視線を移す。
コレがどう言うものかは今は分からないが、一家の衆の反応とゆみみの向ける眼差しからして、
このケースの中身は一家にとって、かなり重要な物なのだろう。――果して、これを受けとって良い物か……?
暫し考え、胸中で結論を下した私は、ふっと穏やかな笑み浮かべ、

「分かった、ゆみみ少女がそんなに言うのなら、素直に受け取ってやるよ」
「本当!? 怜子先生!」

喜びの声を上げるゆみみへ、私は「ああ」とだけ応えた後。
ケースを腰のポーチへと仕舞いつつ、彼女の頭をくしゃりとひと撫でして言う。

「さて、そろそろお別れだな……。
もし、また何時か、何かの巡り合わせでこちらに来る事があったら、その時はよろしくな?
まぁ、お前達にはすこし迷惑かもしれんが……」

私が言いきる前に、ゆみみが手を差し出してきた。
あの夜の約束を守っているのか、涙を堪えながらも、しっかりとした笑顔で。

「――また、何時か会おうね?」
「ああ、また何時か――」

応えて、私は差し出された彼女の手を取り、優しく握り返す。
肉球に触れるゆみみの手は、しっとりと柔らかく、確かなぬくもりを感じさせた。

「バイバイな―獅子宮センセ―!」
「達者でなぁ―!」
「またこいよー! 何時でも待ってるからな!」
「また来る事があったら、連絡くらい寄越せよ―?」
「あばよ、怜子さん! また会える日を待ってるぜ!」

それぞれ手を振って声を上げる森三一家の衆へ、私は軽く手を振って応え。
私はヘルメットを被りつつ、既にエンジンを掛けている相棒のZⅡへと颯爽と跨り、アクセルを少しずつ捻る。
ゆっくりと速度を上げて行くZⅡ、次第に離れて行く景色、小さくなって行く一家の衆と、そしてゆみみの姿。
ミラーの向こうに写るゆみみの姿は、表情が判別出来なくなる最後まで、涙を見せる事無く、力強く手を振り続けていた。

――結局、私は最後まで、さよならは言わなかった。
また会えると信じるのなら、さよならの言葉は野暮なのだから――

私と相棒は路上を吹く一陣と風となりて、焔の街をひた走る。
離れつつある森三一家の屋敷、森三一家と初遭遇した公園、遠くに見える激戦の地となったSPTビル。
この街を出ると共に、思い出の向こうへと消えてしまう景色。私は少しでも長く、その景色を脳裏へと焼き付ける。
……らしくないとは、私自身も思う。だけど、今の私にはやらずにはいられなかった。

「ここを抜ければ……この街ともお別れか」

やがて、私と相棒は街の外れにある、車通りの少ない峠道の前へと辿りつく。
土砂崩れによる通行規制は既に解除され、前に通った時と同じ光景が広がっている。

今の私には、確信にも似た二つの予感があった。
――1つは、今ここを通らなければ、二度と元の佳望学園の有る世界へと戻れぬと言う予感。
――そして、もう1つは、今ここを通ってしまったら、もう焔の街へは戻って来れなくなると言う予感。

多分、この二つの予感は何れ確実な物となるだろう。
……迷いは無いと言えば、それは嘘となる。正直な気持ち、私には迷いはあった。

――このまま帰るべきか、それとも残るべきか――酷く単純だが、答えの出し難い選択肢。
一先ず峠道入り口傍の路肩にZⅡを止めた私は、その傍らで咥え煙草に火を付けて、空にくゆる煙を見上げ、独り考える。
そして、暫し考えた私は、ふと森三一家の屋敷がある方へと視線を向ける。

……ここからでは、林立するビルの影に隠れてしまって、森三一家の屋敷は見えはしない。
たぶん今頃、ゆみみ達は私が帰って行った物だと思い、既に何時もの通りの生活へと戻っている事だろう。
――なんだ、もう考えるまでもないじゃないか。……本当、私らしくないな。

ふっ、と自嘲気な笑みを浮かべた私は、再びZⅡへと跨り、アクセルを捻り、路上の風となる。
その向かう先は、元の世界へ通ずるであろう峠道――そう、私は帰る事に決めたのだ。
そう、この世界において私のやるべき事は終わった、と気付いたから。

峠道に入って程無くして、道の向こうにもうもうとたち込めるは、あの時と同じ濃霧。
私は迷いを振り切る様に目一杯アクセルを捻り、放たれた矢の様に加速して濃霧へと突っ込む。

さっきから目頭が熱く視界も歪む様だが、気にしない。同時に、胸が張り裂けそうな感覚がするが、それも気にしない。
そうさ、私は別れが悲しくて泣く女じゃないんだ。ましてや、今更になって涙を流すような事なんて……。

「私らしくないじゃないか……私らしく……」

――景色白く染める濃霧の中、
相棒の鋼鉄の心臓の鼓動に混ざり、小さな嗚咽が何時までも響いたのだった……。

『エピローグ…世界隔てても繋がり続けるモノ』

※  ☆  ※

「……暇だ」

電源落したPCの前、私は口に咥えた煙草を牙を使ってピコピコと揺らしつつ、気だるさを隠す事無く呟きを漏らした。
何でもない平日の放課後特有の、何ともいえない空気に包まれた佳望学園の職員室。
私がその日の仕事をとっとと終わらせた後の事である。

……あれから、あの濃霧に突入した私は、予想通りというか運良くというか、
濃霧を抜けた先――佳望学園のある元の世界の峠道へと辿りついた。

……結局、何だかんだで二週間の長きに渡って焔の街に滞在してた事もあり、
もう、とっくの昔に私の休暇も終わって、今頃は学校で英のおばさんが尻尾立てて怒っているかと思っていた。
――のだが、辿りついた峠の麓のコンビニに売られている新聞と壁に掛けられている時計で、今の日時を確かめてみれば、
何と驚いた事に、あの濃霧に巻き込まれる直前から、たったの2時間も経ってやいなかったのだ。

かくて、何だか腑に落ちない物を感じつつも、なんだかんだの内で休暇も終わり。
甘ったるく気だるいながらも少し刺激的な、若干気の抜けたサイダーのような日常は戻ってきた。

ひとクセもふたクセもある生徒たちに授業をして、その最中いきなり小テストを始めてブーイングを貰って、
昼前に早弁している生徒へチョークを投げ付け、そして昼休み中こっそりと生徒の相談に乗ってやって……。
あの焔の街での刺激的な日々が、まるで嘘だった様に平和で何ともない日常。

だが、その中で、あの日々が確かな物であった事を伝える物は残っている。
1つは、黒狼会との激しい戦いで刻まれ、まだ治り切っていない全身の傷痕。(バイクで転んだと誤魔化している)
そして、手元に置かれたビロード張りのケース――別れ際にゆみみから貰った、大切な物。
……実の所、私はまだ、その中身を確かめてはいない。

果して、これの中身は何なのか……。

「あの―、怜子先生?」
「っ!?」

物思いに耽っていた横に掛けられた声に、そして其処に立っていた者を見て、私は2度、驚きに体毛を逆立てた
――その姿と声に一瞬、私はゆみみがここに来たのかと思ったが……良く見ればそれは似ているけど違うものだった。

「何だ…更級少女か……」
「何だとは何ですかぁー! 怜子先生、呼び出したのはそっちの方でしょー?!」

私の思わず漏らした言葉に、尻尾を左右にぶんぶか振って叫ぶは、中等部のネコの少女、美作 更級。
この髪型といい、そして頭のリボンといい、更にこの小柄な体型といい、一瞬見間違ってしまったじゃないか。
と、そう言えば、彼女は何故、わざわざこんな所に来たんだ? しかも呼び出した? ……覚えがないな。

「ところで更級少女、私に何か用か?」
「ちょ、ちょっと怜子先生! まさか忘れちゃったんですかっ?
『このmi-Phoneとやらを返して欲しかったら放課後、職員室へ来い』って言ったの、先生じゃないですか!」
「…ん? あ、ああ、そう言えばそうだったな」

……言われてやっと思い出した。確か、今から数時間程前の授業中だったか。
更級は新しく手に入れたmi-Phoneとやらが余程気に入ったのか、授業中にも関わらずずっと弄っていたんだよな。
まぁそれを見かねた私は、他の生徒への見せしめも兼ねて、彼女からmi-Phoneを取り上げた訳だが、
……彼女に言われるまで、その事をすっかり忘れていた。いかんな、私とした事が。

そんな愚にも付かぬ事を考えつつ、
私は机の引き出しに仕舞っていたmi-Phoneを取り出し、更級へ軽く投げて寄越す。

「これか? ほら」
「うぉぉぉぉ、サンクスです怜子先生! ああやっと帰ってきたよmi-Phoneちゃんちゅっちゅ!」

帰ってきたのが嬉しかったのか、喜びの声を上げてmi-Phoneへ頬摺りして見せる更級。
そんな余りにも反省の色の見えないその姿に、私は呆れ混じりに言ってやる。

「……更級少女。次、同じ様な事があったら、取り上げる事なんてせず、その場で握り潰すから覚悟しておけ?」
「…うげっ! 怜子先生がそれを言うと冗談に聞えないッスよ! マジで勘弁してちょー」

余程壊されるのが嫌だったらしく、さっとmi-Phoneを身体に隠して言う更級。
……全く、ゆみみも更級も同じ位の年だというのに、何故こうも性格が違うのだろうか?

「……これではゆみみの方がだいぶ大人じゃないか……」
「ををっ!? 怜子先生はひょっとして『若頭』をご存知なんですか!?」
「……は? 何の事だ?」

思わず漏らしていた呟きに過剰反応する更級に、思わず首を傾げ尻尾もくねらせる私。
それを彼女は説明を求めた物と取ったのか、尻尾立ててまくし立てる様に

「いや、さっき怜子先生は『ゆみみの方が』とか言ったじゃないですか!
そう、ゆみみってもう確実にアレじゃないですか! 大人気マンガ『若頭は12歳(幼女)』の主人公である森三ゆみみちゃん!
あ、そうだ! 今日は丁度、最新刊持ってるんですよ、折角ですから先生も見ます?」

言いながら更級が取り出したのは、布教用と書かれたシールが貼られた、一冊のマンガ本。
それを受け取った私が、何気にページをぱらぱらと捲る始めるのも気にせず、彼女は更に続ける。

「彼女、私がこの道に入った切っ掛けなんですよねー。この今の格好もそれをイメージしてるんですよ? 髪もカツラだったり!
で、だから、多分先生も『若頭は12歳』を見ているのかなーって思っちゃったり……して……?
って、ええっと、あの、如何しました怜子先生? なんか急にポカーンとしちゃったりして? 煙草落ちちゃいましたよ?」
「……」

この時の私は既に、更級の声はおろか、煙草が口からポロリと零れ落ちた事さえも、最早気に留めなくなっていた。
私の手にしたマンガに描かれた、多少はデフォルメされているが、かつて会ったゆみみその物の姿を目にした事で。

――そう言えば以前、休憩中に跳月の奴がこんな事を自慢気に話していたのを思い出す。
奴の話によると、線、平面、立体の三次元へ、更に時間の要素を加えた四次元的な目線で世界を見ると、
それは巨大な大木のような形をしており。この宇宙が生まれたビックバンの瞬間を根元とした大まかな流れの幹を中心に
其処から無数に分かれた枝先の一つ一つが、もしもあの時アレがああなっていたら、という分岐の上で生まれているのだと言う。
その枝先の事を、ある偉い科学者はIF(もしも)の枝先と呼んでいるそうで。それは可能性の分だけ無数に存在するそうだ。
まぁ、言わばIFの枝先というのは、簡単に言えばパラレルワールドの事と思えばいいだろう。

そして、跳月は続けてこうも言っていた。
僕達が何気なく見ているTVドラマやアニメ、マンガと言った、いわゆる虚構(フィクション)の世界も、
実はIFの枝先の一つとして存在していて、それを原作者などが想像という形で垣間見ている物だと言う可能性もある。
そしてそれと同時に今僕達が存在しているこの世界もまた、ひょっとすれば誰かが想像と言う形で垣間見ているかも知れない。
……などと、話していた。

まぁ、つまりはだ、私はあの濃霧に包まれてからの二週間の間、
佳望学園のあるIFの枝先から、マンガの中の世界の森三一家のあるIFの枝先へ行っていた、という事になる訳だ。
……道理で、学園の生徒がゆみみの名を知っている筈だ。
生徒の中に、その『若頭は12歳(幼女)』を読んでいる者がいるなら、それを知っていて当然の事なのだから。

こんな荒唐無稽な話、例え跳月の奴に話したとしても、信じてくれるかどうかである。
恐らくは「そんな事言うなんて、獅子宮先生らしくないですね」と言って、一笑されるだけで終わる事だろう。
だが……1つだけ確証出来る事はある。

「をやをや? それってひょっとして……」

私はそれを確かめる様に、手元においてあったケースを手に取り、その蓋をゆっくりと開ける。
それを見た更級が、何やら瞳孔を細め耳をピンと立てて反応するが、私は気にする事無くそれを手に取り、見る

「そ、それってままままさか!! 森三一家の代紋ですか!? ちょ、凄いじゃないですか!
よっぽどの『若頭』ファンじゃないと手に入らない、幻中の幻の超レアものですよ!?」

そう、それは名も知れぬ花をデザインした、黄金色に輝く森三一家の者である証。
そして同時に、血の繋がりよりも遥かに濃い、義兄弟――いや、義姉妹の繋がりの証。
例え、世界の壁を隔てようとも、決して切れず、ずっと繋がり続けている事の証。

……なるほど、確かにこれはゆみみの言う通り、とっても大事な『絆』だな。

「あのあのあの! 怜子先生、それ、何処でどうやって手に入れたんですか!? 私に教えてください!」
「ん? ……何処でって?」

私が代紋を上へかざして眺めていた所で、何やら興奮しきりで問い掛けてくる更級。
暫し考えた後、私は代紋を見上げつつ、にっと牙を見せた笑みを浮かべて言ってやる。

「そうだな、今回の現社の期末テストで、100満点取ったら考えてやる」
「ちょ、ええぇぇえぇぇぇっ!? そんなのムリィィィィィ!!」

更級の素っ頓狂な声響く、放課後の職員室のごく平和な光景。
上にかざした私の手の中で、代紋に刻まれた花が、夕日の照り返しを受けてキラリと煌く――

――何故かそれは、遠くて近い世界に居る少女が見せた、太陽のような笑顔を思い浮かばせた。

―――――――――――――――若頭は12歳(幼女)外伝、隻眼の獅子編…おしまい―――――――――――――――