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Cry for the moon ~リオとオオカミさん~

            ××××××××××××××××××

欲しいものは、手に入りましたか。きっと手には入らないでしょう。

ウサギたちは鉄(くろがね)の剣を望み、オオカミたちは硝子の盾を望む。
決して手に入らないと分かっていても。
硝子の盾は鉄の剣に打ち砕かれて、破片は剣を握る手に突き刺さる。

きっと手には入らないでしょう。きっと手には入らないでしょう。

            ××××××××××××××××××

「夏だぁ!!」

中間テストも今日で終わり、午後からは自由な時間。更に衣替えの時期が存在するのは、本当に幸せだ。
初夏から夏への入り口。制服が変わる。街が変わる。空の色も変わる。そしてわたしたちも変わる。
学校から帰り、青空の似合う私服に着替えたわたしはテスト勉強の為にぐっと我慢をしていた鬱積を解き放つべく、
街のショッピングモールへと向かった。雨上がりの歩道は真新しいストラップパンプスの音を軽快に鳴らし、
温かかった日差しをぶん取った冷たい風がワンピースを揺らす。衣替えの季節があって本当によかった。

「今からは『真面目のまー子』はさよならして、一羽の自由なウサギだよ!わたしの耳で羽ばたいてやる!!」
愛用しているメタルのメガネはここからお留守番。帰ってくるまで、しばしのお別れなのだ。
使い捨てのコンタクトから広がる我が街を眺めると、ちょっとした開放感に小さな体は躍らせられる。
いつもの無造作ボブショートは店じまい。開放感溢れる外はねにしてみた。欲しいものがウンとあるから、
きょうの格好も気合を入れに入れているんですよ。待ってなさいよ、新刊マンガにラノベどもよ。
お目当ての書店が入居するショッピングモールへと足を向け、知った顔が見当たらないことを確認する。
ここで『風紀委員長・因幡リオ』だと馬脚を現すようなことがあったら、もうこの書店には行かないよ!
古浜海岸駅の古い駅舎が視界に入ると、お目当てのショッピングモールはもうすぐ。

目当ての書店は込んでいた。入り口は「夏の新刊フェア」と銘打って、売れ筋の本が平積みされていた。
「あ……。『片耳のジョン』の新刊が並んでる。『月夜の兎達―Cry for the moon』かぁ」
わたしの好きな推理小説シリーズもの。新刊がこのようなかたちで並んでいるのを見ると、やはりいちファンとしては嬉しい。
表紙の絵師も神がかったレベルの仕事を今回もしてくれているし、作者の池上祐一先生の名前も誇らしく見える。
ただ、いちファンとして出来るのは、本を買ってネットで広めることなので、わたしもがんばらなきゃ。

それはそうと、きょうの店頭のディスプレイは本当に才能の無駄遣いの領域に一歩立ち入っているのではないかと思う。
これらは書店の店員が頭を捻って創り上げ、おまけにコンテストまであるというからそりゃもう力の入れ方が違うのも当然。
著者の写真を切り抜いた見出し、美しいサインペンで飾られたポップ、ヘタクソながら描いた人気キャラのイラスト。
それに惹かれてかどうかは別として、平日の昼間というのに結構多くのお客が書店に詰めかけていた。
わたしのように、放課後の買い物を楽しむ学生に忙しい家事を一息ついた若奥さま。それに、上司の鎖から逃れたサラリーマン。
その中の一人にまぎれつつ、そして『因幡リオ』ということを隠しながら進む先はもちろん……コミックコーナーですの!が、しかし。

「ひどい。この本集めようと思ったのに、2巻からしかないよ!」
きっと、誰かが1巻だけ買ったのだろう。せめて書店は1巻を何冊か置いておく努力をして欲しいな、と勝手なクレーム。
店頭に力を入れるぐらいなら、わたしのような隙間的ファン層の耳を掴んでこそがプロの書店員だろ。と勝手な嘆き。
まあ、わたしって……そう。あまりにもマンガやアニメに熱を入れすぎた余り、大っぴらに人さまに趣味を言えなくなった子ですからね。
マンガコーナーで埋もれた一冊を物色していると、わたしの後ろで聞き捨てならん話をしている女子がいた。

話の内容を聞きかじると、どうやらわたしと同志の者だ。お互い何者かは知らなくても、いやでもわたしの長い耳に飛んでくる。
わたしの好きなアニメのキャラやニ○動について、きゃっきゃと語り合っているところらしい。
出来れば、他の場所で出会いたかった。例えば、電脳の回線の上なんかがお誂えだろう。名前を隠した付き合いなんぞぴったりだ。
ロリっ子の愛おしさを語りたい!ボカロの素晴らしさを伝えたい!全ての萌えに乾杯したい!
話の内容は共感できるのに、出会った場所が最悪だったという神々のイタズラ。ああ!何でもいいから噛み付きたいよ!

彼女らの一言一言の破片を拾い上げ、地道に積み上げると、どこかで見たようないつも見ているような硝子の山になる。
硝子の破片は鋭利な角を持つから、ずきりとわたしの指に突き刺さる。真っ白な毛並みを染める紅のものは、
自分を省みるために顔を見せるということだけにしては、あまりにもいささか刺激が強すぎる。
その場にいるのはつらすぎるので、そそくさと人の隙間を縫うようにわたしは隣の本棚に移動することにした、
がその場に居合わせた、一人きりの少女のことが気になる。一人きりの子が気になるというのは、どうも『委員長病』と言う一種の職業病らしい。
メガネを外しても、趣味に没頭したいときにも発病するこの病は、どうにもならないし諦めもしている。

ラノベの棚をじっと見つめる一人のオオカミの少女。セーラー服というところから見て、わたしの学校の生徒ではない。
どこかで見たような気もしない、そして古臭さもなく、時代に媚びるようなデザインでもないおしゃれな制服だった。
歳は中学生ぐらいか、同じように中間テストが終わって、これから妄想の世界へと逃避しようと表紙のイラストに惑わされている場面か。
両手でしっかりとカバンときれいな洋品店の紙袋を携えて、買い物を楽しんでいるのだろうが、それにしてはいささか表情は硬い。
「あ……、あの子」
一冊の平積みの本を手に取り、じろじろと表紙のイラストとにらめっこ。オオカミなのにびくつく姿は萌えの領域。
買うのか買わないのか決めたいところだが、中学生ぐらいなら財布の中身の高が知れている。
そこで思考を止めては、人の上に建つものとしては考えとして浅はか。わたしは委員長。
他校の子といえども、深く考えのうちを察しなければならない。

(本棚に不自然に近づきすぎる!)
周りの目を盗んで、手にした本を片方の手にぶら下げた紙袋にすっと落としそうになった瞬間のこと。
どうして?どうして?ああいうことを言ってしまったのだろう。思考より行動の方が先に出る悪い癖!
「ルミ子でしょ?ルミ子じゃない!!」
「えぇ?……え」
「こんなところで出会うなんて、珍しいよ!久しぶりだから、ちょっと話そうよ」
ばさりと彼女が手にした本が、書店の床に舞い落ちたことに気付かなかった。
たった今『ルミ子』と名付けたオオカミの少女の手を引いて書店の外へ出て行った。一冊の本を床に残したまま。

―――「どうして、あんなことしようとしたの?」
いけない。慣れというものは悔しいけど、体が覚えてしまっているもの。風紀を乱すものは、学園でも書店でも許せなかったのだ。
このときだけは『風紀委員長』を忘れるはずだったのに!リオのバカバカ!でも、見てみぬ振りっていけないからなあ。
書店の外に彼女を連れ出すと、彼女のオオカミの牙が弱々しく見えた。噛まれても、痛くないかもしれない。
ショッピングモールの噴水を見ながら、見知らぬ女子学生を本気で心配するわたしは、本当にお人よしだ。

彼女の制服が泣いている。
幸い彼女を咎人として貶める前に救いあげられたものの、このあとどうしていいのか正直よく分からない。
よくよく見ると、彼女が着ているのは弟が通う天秤町学園の制服だった。わたしの通う佳望学園と並んで、この街に古くから建つ天秤町学園は、
厳しい校風と伝統でわたしたちの間では有名なのだが、そこの子とこういう形で話をするなんて予想にもしなかった。
「悪いことしたから……、親にも学校にも言ってください」
「やってないから、誰にも言わないよ」
「……ごめんなさい。もうしません」
わたしに謝まれても扱いかねる。しかし、彼女は真剣そのもの。
正直、わたしとこの子はなんの利害関係もないただの行きすがりだ。それでも、わたしは衝動を止められなかった。

彼女曰く、ほんのチョット非日常の衝撃を得たかったとのこと。学校での毎日に、なんとも言えない『ふわふわ』を感じ、
ついついいけないと思いつつ『わるい子』への一歩へと手を染めかけたというのだ。
「本が好きなら、作者さまに敬意を込めて!」と、彼女と共に誓うと、オオカミの少女は深々とわたしにお辞儀をして、その場で別れた。
このあと、わたしがこの事件を吹っ切る為に、頃合を見計らって予定以上の買い物をしてしまったのは仕方がない。

―――バッグに『萌え』を詰め込んで、財布を今月も空にして、真面目に廻る街の中、不真面目なわたしははちきれそうな小さな胸を
自信過剰に押さえつつ、わたしの愛でるキャラたちと自宅で堂々と出会うことを楽しみに「むっはー」と息巻く。
今日の収穫は大満足。いつもは時間だけ過ぎるのが退屈な電停も、このときだけはちょっと心躍るかも。
遠くから小さな鉄の車の固まりが見え、徐々にわたしの方へと近づいた。車輪を軋ませ、わたしの脇を滑るように電停に入る市電。
完全に停止したと同時にふわりと市電が拭かせた風が、わたしの毛並みの隙間を走ると扉が開き、車内の乗客があたふたしていた。

降りる客が降りてしまい、いざ市電に乗り込むと、友人のクラスメイトであるウサギの星野りんごに出会った。
出会ったと言うより、りんごから姿を見破られた。と言う方が正しい。幸い、書店で出会わなかったことにほっとする。
「髪型変えてみたの?」と。りんごが聞くので、恥ずかしながらわたしは「うん」とだけ返事を返す。
彼女は公設市場で買い物をした帰りのようで、一杯に新鮮な野菜、魚介類を詰め込んだエコバックをぶら下げていた。
りんごの目は本物だけを追求しニセモノを見逃さない、鍛え上げられたものだ。そりゃ、わたしの姿も見破るだろうしね……。
きっといいお嫁さんになるに違いない。と、余計な妄想を友人で描いているとりんごは堰を切ったように話し始める。

「リオちゃん、聞いてくれる?お父さんよりも料理の上手な男子がいるなんて!!」
星野りんごの憤慨にも似た呟き。共にウサギであるわたしたちは立っているだけでも目立つので、りんごを落ち着かせようとあめちゃんを渡す。
友人の星野りんごの家は料理店だ。シェフを父に持つりんごは、いつも父の背中を見て育ってきた。シェフを父に持つりんごは、
いつも父の作る料理を楽しみにしており、そして最高のものだと信じていた。そこに学園きってのお菓子男子、堀添と封土(ほうど)だ。
立派な毛並みを持つ彼らは、立派な洋犬の男子。気は優しくてお菓子好き。そして、ちょっとイケメンなのが『玉にキズ』。
いやいや、そういう方が何となく世の中に対して釣りあっていると思うのだ。決して言い間違いではないぞ。
父親を一人の男子として見てきた一人っ子のりんごが、同級生の堀添・封土に噛み付くことに無理はない。

「お菓子作りには、人生の深さが必要なんです!」
「そうなの?お菓子って」
「世の中の富や名誉と何もかも手に入れて、贅沢の粋を極めた尊き人たち。彼らの舌を唸らせるのは、他でもない一切れのお菓子なの!
道楽だけで世の中を過ごす貴族たちを満足させる甘味!それを青二才の若人が簡単に創り上げてたまるもんか!」
「ふえぇ。りんごちゃん……落ち着いて」
「全てを手に入れた者だからこそ味わえるのが、そう!お菓子なんです!」
炎立つりんごの瞳は、夏の太陽よりも熱い。車内のクーラーも効いていないかのようにも感じる。

りんごの声に耳をぴくりと動かして、ぽつんと一人の中年オオカミが腕組みをして車両前方に座っていた。
ゆるやかな尻尾捌きは大人の貫禄。研ぎ澄まされた耳が他の乗客を寄せ付けらぬほど精悍だ。野性味溢れるオオカミは名に恥じない。
その姿を見るやいなやりんごは今までの熱き料理人魂を忘れ、一介の恋する乙女に様変わりしていた。
「見て見て、リオちゃん!カッコイイよね!」
庶民的な車内に不釣合いともいえる彼は、何か哲学的なことを深く考えているようにわたしたちの目に映る。
同級生たちがハナタレに見えてくるとは、口にはしない。わたしとりんごはオオカミに気付かれぬようこそこそ話。
「やっぱりカッコイイよね」
「う、うん」
「わたし、あんな人の為なら頑張ってワッフル作っちゃうね!渋ーいオジサマと甘ーいお菓子のめぐり合いは最高だね」
先ほどまでと違うりんごの息巻きぶりに、わたしは簡単に相槌を打つだけ。りんごの胸騒ぎが伝わったのか、
中年オオカミは尻尾と耳をピンと張り上げわたしたちの方を睨む。「ごめんなさい」と小声で小さくなるりんごは悔しいけど可愛い。
お互い食材たっぷりのエコバッグとマンガに設定画集満載な書店の袋をコツコツとぶつけながら、市電は走り続けわたしたちを運ぶ。

そう言えば、どこかで見たような。今さっき見たような。記憶の糸を辿りながら、中年のオオカミの手元を見つめるが、思い出せない。
それでもくるりと耳を回す余裕さえ感じられるオオカミは、わたしたちを無視するように深い考えの世界に入り込む。
残酷にも市電はわたしの家の近くの電停に止まり、りんごと目の前の中年オオカミと別れることになったのだ。
でも、どっかで見たんだよね。

―――帰宅してわたしが自宅の居間に上がると、弟のマオがソファーの上でだらけていた。
ウサギたちは、暇さえあると高いところにだらりと足を伸ばして休んでいることが多い。
しかし、わたしにはマオのだらけた姿が、市電の中で見かけたオオカミの中年男性と比べて余りにも弟とは言え、だらしなく見えるのだ。
「まだ夕方よ」と諭すと「もう夕方じゃん」と反論するマオ。ソファーのくぼみが丁度ウサギ穴とお誂えで気持ちがいいらしい。
「きょうは塾がないんだから、好きにさせてくれよ。今日の体育疲れたぁ」
マオの言葉を無視したいから、テレビをつけて安眠を妨害。大きな画面には、ドラマの再放送なのか
オオカミの俳優が咥えタバコをしているシーンが映った。画面に見入るわたしは、ぎゅっと紙袋を握り締める。
「テレビ消していい?」
「だめ」
「姉ちゃんも知ってるだろ。オレ、オオカミ苦手なんだよ」

以前、オオカミの子に嫌な思いをしたらしいマオは、妙にオオカミを毛嫌いする。
ちょっとふざけてられて尻尾を噛まれただけなのに、オトコノコとしてはだらしないぞ。
「オオカミの牙を見てると尻尾が痛くなるよ」
ブツクサと文句を垂れる弟は、わたしからリコモンを奪取すると強制的に画面を別のチャンネルに切り替えた。
いくら地デジが進もうとも、チャンネル権の争奪戦はアナログな戦いが続くのだろう。関係ないか。
マオが適当に切り替えた別のチャンネルでは「今夜は綺麗な満月を見ることができるでしょう」と、夕方のアナウンサーの笑顔が突き刺さる。

―――中間テストも終わったこと。髪型も戻し、メガネをかけて、思う存分誰にも邪魔されることなく、今日買ってきた本に没頭する。
まずは、今日買ってきたコミックを書店の紙袋から取り出す簡単なお仕事。分かっているけど、本のタイトルが袋から透けて見えるのがチョット嬉しい。
袋から取り出した新刊を手にする。ビニール袋に包まれた買ったばかりの本の手触り。インクの若い香り。凝った装丁。
ゆっくりとビニール袋に筋を入れて、中身を取り出すと上等な紙を使っているのか、カバーの感触が心地よい。
「くんくん……」
新古書と違って、出来立てのコミック本は何もかもが生まれたときのままでわたしたちの手に入る。それを独り占めできる幸せ。
新刊を手に入れたときのもう一つのお楽しみは、カバーを開いた後にある。おお、おまけの四コマとは作者も力を入れているな。
では、ちょっと失礼して……。

―――今回も収穫ざかり。読後のすうっと頭に吹き抜ける風が心地よい。
ふと時計を見ると草木も眠る丑三つ時。しかし、後悔のない時間を過ごしたのは言うまでもなきこと。
本というものはわたしたちの時間を容赦なく奪う。しかし、キチンと自分のことをわきまえているのか、
奪った分だけわたしたちにシアワセをお裾分けしてくれるのだから、何ともういヤツだ。近こう寄れ、近こう寄れ。
静かにふける夜の空。紙面の世界から戻ってきた証に、一筋の声がわたしの耳に入ってきた。

「わおーーーん」
「わおーーーーーん」
窓から聞こえてくる、孤独な咆哮。
冷たい月光に照らされて、なお孤独さが増して聞こえる満月の夜。つきではウサギがオオカミの遠吠えをのほほんと聞き流す。

満月の夜のたびに、街ではオオカミたちの遠吠えが漆黒の闇を切り裂くのだ。彼らのコミュニケーションの名残といっても差し支えない。
もしかして、午後に出会った『ルミ子』も同じように月に叫んでいるのかもしれない。帰りの市電で出会った、
中年のオオカミもきっと同じように声を伸ばしているのだろうか。そんな彼らが羨ましい。

月(ルナ)は狂気だ。『ルナティック』な月明かりは、わたしたちケモノを狂わせるというのにオオカミたちは勇ましい。
もしかして、彼らは月に対して己の力を誇示して「わおーーーん」と、牙を剥いているのかもしれない。
わたしのような地を這うウサギには分からない。ウサギは月に媚びへつらって、ご機嫌取りに餅を突いて差し上げることしか出来ない意気地なし。

「あ……。思い出した」
昼間、市電の中で出会った中年のオオカミ。その人こそ『片耳のジョン』シリーズ作者の池上祐一先生ではなかろうか。
グーグル先生の画像検索でちょっとはお目にかかったような気がしていたはず。わたしたちの街に住んでいると知っていたが、
まさか間近に出会うとは思わなかった。「むっはーーー!?サイン貰っとけばよかったぁ」と思ったけれど、先生の休日は奪えません……。

今回の新作のサブタイトル『Cry for the moon(月に吠える)』という成句はオオカミよりもわたしたちウサギの方が相応しいのではないのかと思う。
だって、意味は「手に入れられないものを望むこと」だから、臆病風に吹かれるウサギのための言葉かもしれない。
いや。オオカミたちもきっと、未だに手にしていない力を求めてわたしたちを惑わす月に向かって、ちょっとした反逆を試みているのだろう。
力も牙も何もかも手に入れて、ケモノの王者たるオオカミでさえも、手に入れなれないものがある、
と思うとわたしは彼らのことがちょっと可愛らしく思えた。


おしまい。