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※**枠内の文は本SSとは関係ありません、リンクを付ける為だけに添えた物です。

自転車にのって


「それではお先に失礼します」
「お気をつけて、泊瀬谷先生」
職員室の出入り口でぺこりと先輩の先生方に帰りの挨拶。今日も素直な一日が、時計の言うとおりに過ぎてゆく。

トートバッグを肩に掛け、学校の廊下を歩いていると、生徒たちとすれ違う。

「はせやせんせーい、バイバーイ」
「廊下を走るなあ!」
「はーい!クスクス…」
彼らも同じように家路に急ぐ者もいれば、居残りで勉学に勤しむものもいる。わたしの勤める学校はけっこう自由。

「泊瀬谷先生、お帰りですね」
「あっ、猪田先生。この間はありがとうございますっ!」
「いえいえ、喜んでいただければわたくしも嬉しい限りです。妻の親戚がみかん農家でしてね」
「それであんなに素晴らしいみかんを!はい、とても甘くて美味しかったです」

猪田先生から頂いたみかん、また食べたいな。わたしのネコミミをくるりと回して感謝を示す。
のんびり炬燵に入りながらみかんを食べるのはネコにとって最高のしあわせ。今年の冬も楽しみだな。

さて、家に帰るかな、学校の自転車置き場へと歩く。遠くの家の子もいるので、自転車で登校する子も多い。
しかし、ここは丘の上の学校。毎朝この坂道を登るのは生徒をはじめ、わたしたち教師も結構つらいことなのだ。
さて、前かごにトートバッグを入れ、
サドルに跨りぎりりと一歩扱ぎだすと自転車は素直にわたしの言う事を聞いてくれる。

校門を出ると下り坂。石畳の両脇には桜の並木。秋休みしている茶色の幹に挟まれて風を切って走る。
つらいこともあれば、嬉しいこともあるのがこの世の道理。

長い坂道を毎朝駆け登ったご褒美は一気に坂を駆け下ることなのだ。
ごらんなさい、この風を切る爽快感。
この快感と今日も一日終わった!との喜びで風がいっそう快く感じるではないか。

生徒たちも一緒に自転車で坂を下る。わたしの生徒も道一杯に自転車を走らせていた。

「スズナせんせーい!」
「こらーっ!あんまり広がって走るんじゃないよ!」
わたしは一応ここの国語教師、あんまり通学態度が悪いと怒っちゃうぞ。
でも、『いのりん』こと猪田先生みたいな威厳もないし、

もしかしたら生徒たちはわたしのことを只の『お姉さん先生』ってしか思ってないかもしれない。
ボーイッシュにきめたわたしの短い髪と自慢の尻尾は風を受けふわりとなびき、
身体中の五感で秋の空気を肌で感じる。

空は茜色に染まり、小さな街灯が優しく輝き始めるいちばん街がきれいに見える時間。
そんな夕暮れの雑踏の中の一人となる。


学校は生徒たちを苛める中間考査を終えて、ひと段落。
しかし、ここでたるんでちゃいけない。わたしも生徒たちのお手本にならなきゃと、
今日のホームルームで教壇の上から檄を飛ばす。

わたしのクラスの生徒たちに向かって、慣れない大声で一喝。

「みなさん、えっとお…テストが終わったからって、気を抜いちゃだめですよっ!」
わたしの言葉は生徒たちに届いただろうか。不安だが、届いたとしておこう。
しかし、どうしても気になる子が一人いた。

ヒカルだ。わたしの言うことなんか聞かずイヌミミをそっぽ向けて窓の外を眺めていた。
尻尾を見てもだらりと垂れているので、わたしなんぞに興味なしっていう所か。

彼は鋭い目つきでわたしをちらり。彼は不良とかの類ではなく、むしろ文学少年。
休み時間はしょっちゅう一人で本を読み、誰と群れることなく過ごしている。
社会に出て間もない新米のわたしには彼の気持ちが分からない。

別の日のこと。今日も一日が終わり、いつもの様に学校帰りの坂を下っていると、
見覚えのある後姿に追いついた。ヒカルだ。

彼も自転車に乗って石畳の下り坂を走る。わたしはわたしでブレーキを緩め加速、ヒカルの横に並ぶ。

「ヒカルくん?ヒカルくんっ!待って」
「……」
「一緒に帰ろ!」
「……」
顔色一つ変えないヒカル、沈黙を続けたまま坂を下りきってしまった。

路地を進んで電車通りに入る手前、もう一度ヒカルに声をかけようとすると、
彼はわたしの家と反対の方へ自転車を走らせてしまう。
わたしの目の前をガタゴトと古い路面電車が走り抜ける。今日も街は正しく回りつづけている。


「みなさん注目っ!今日は答案を返します」
先に行われた、中間考査の採点が終わり各々生徒に返すときがやって来た。

テストの採点は、始めのうちは支配者になった気分でふんふんふんと赤ペンを走らせたりするのだが、
後になればなるほどおっくうになってゆき、精神的にも肉体的にも疲労困憊するというのもだと
初めて採点する側になって分かった。しかも、わたしの担当は国語科。
数学と違って決まりきった回答がない設問もあり、これも始めのうちは「これは、なかなかよい発想ね」
と楽しんでいたのだが、それさえ面倒くさくなる。

つまり、わたしの気分で丸にでも三角にでも、最悪バツにもなるので、後の出席番号の生徒は泣かないで欲しい。
その点、数学科のサン・スーシ先生は採点の際は割り切っていて白いものは白、黒いものは黒とはっきりしている。
わたしには白いものが薄い灰色に見えたっていいじゃない、とか思ったりするのに。サン先生が羨ましい。
と、上の空で答案を返し続けていると、教室からイヌ女生徒の声が上がった。

「スズナせんせーい!ここの問題さあ、合ってるのにバツがついてますよー!」
「あ、わたしもだ」
「え…さっき配った模範解答とよーく照らし合わせて、違ってたら先生の所まで見せに来て下さい…」
なんということだ。わたしの前にはちょっとした行列が出来上がった。

どうやら、出席番号が後の方の生徒を中心に選択肢問題での採点ミスがあったらしい。ミスだ、わたしのミスだ。
これによって点数の上がるもの、逆に下がるものと悲喜交々。また、点数の計算やり直さなきゃ…。


しかし、どうしてツイてないことは立て続けに起こるのか、今日は学校に遅れそうになった。
昨日の採点ミス事件で落ち込んでいたので、気分を変えるために夜遅くまで本を読んでいたのが悪かったのか、
わたしの気持ちがたるんでいるのか。

この際、何もかも悪者にして自分だけが偽りのヒロインにでもなってやろうか、と悪しき考えが脳裏をよぎる。

必死で坂道を自転車で扱ぐ。
近づいてくる時計台の針は朝礼間際だと叫び、生徒たちへの挨拶なおざりに校門を突っ切る。
いつもの自転車置き場に突っ込み、そのままわたしの足で職員室になだれ込むと、
既に先輩たちの教師が朝礼で並んでいた。

校長先生の話は皮肉にも『最近、遅刻する生徒が多い』とのことだった。
ずきずきと自分のことを言われているようで、まわりの先輩たちとは目が合わせられない。

気の向くまま生きている自分を恨みながら、最悪な一日が終ってしまい、掃除当番を除いて生徒たちは帰ってゆく。
わたしも個人的な用事なのだが、家に弟がやってくるので早く帰らなければいけない。

「ほらー!用事の生徒は帰った帰った!」
「はーい、スズナせんせーい」
イヌの女生徒が友達を連れてそそくさと帰ろうとしている。いや、確か今日、彼女は掃除当番であるはず…。

ぽんぽんと肩を叩いて、彼女を呼び止める。しかし、彼女の答えはこうだ。

「今日の掃除当番はヒカルくんと交代してもらったんですう。これって当人同士の合意に乗っ取ったものなんだから、
とっても民主的で合理的な方法ですよねえ、スズナ先生!
さ、わんこはわたしの帰りを待ってるご主人さまのところに早く帰らなきゃ!」

「ええ?ちょっと、待ちなさい!犬飼さん!!」
「先生さようなら!みなさんさようなら!また明日、遊びましょ!」

彼女たちの足に追いつけず、そのまま見失ってしまったのは教師失格だ。
これから恥の多い教師人生を送ってしまうのだろうか。

こんな時なら、猪田先生はどう言うだろうか。けっして上から目線でなく、生徒との対話を重んじ、
幾多の生徒からの信頼を受けた事か。猪田先生の影響で教師を目指した子も多いと聞く。

職員室に戻ると、猪田先生の大砲のような声が響き渡る。

「す、すいません!お義母さま!キチンと掃除したはずなんですが…」
「あら、いのりんさん。これでもお掃除したわけですの?ほら…まだまだ埃が残っていますわよ」
何故か『お義母さま』と呼ばれているサン先生にペコペコと謝る猪田先生、
それに乗じて帆崎先生が跪いてサン先生に擦り寄る。

「ほら…こんなにいのりんさんも謝ってることだし、母上さま…もうお許しになさっては?」
「そうね…お掃除しか出来ないウリボウを虐げるのはわたしの趣味じゃなくってよ!」
「お、お義母さま…ご慈悲を…!」*3教師のコントはきっとこれの続き*

ダメだ、取り込んでる。側でコーヒーを飲んでいたシロ先生も、渋柿を十も食べたような顔をしている。

おっと、弟が家にやって来る時間に間に合わない。小さく「お先に失礼します」と会釈をして職員室を後に。
しかし、廊下でわたしのクラスの生徒のウサギが困っていた。

「先生…、将来のことで…相談を」
不安に震える若人を見捨てて帰るようでは教師とは名乗れない。そのまま相談室へ。
しかし…わたしは大丈夫だろうか。猪田先生、わたしに力を…。


なんとか相談を終え、わたしも家路を急ぐ。やはり、不安そうな生徒が晴れ晴れとした顔になるのは快い。
ところが、自転車置き場でわたしは薄暗い真っ黒な曇り空になった。
たしか、バッグの内ポケットに…。ない、ないのだ。自転車の鍵がないのだ。
思い当たる所は全部探した。それでもないってことはどこかに落としたのだろうか。

いや、ぜったいバッグの中に入れたはずだ。いつもそうしているもの。
しかし、どう足掻いても自転車の鍵は掛かったまま。鍵を壊して帰るしかないのか。
もう、すっかり陽も落ちかけて下校する生徒も少なくなっている。

おそらく技術教室に工具があったはずだ。わたしには少し無理かもしれないが、やってみるしかない。
そう考えながら校舎に向かうと、中庭の池の側でヒカルが本を読んでいた。
ヒカルの視線がわたしを止めてしまうのは何故だ。

「……」
「ヒカルくん、なに?」
不思議だ。彼はわたしをじっと見つめて沈黙を続けている。鋭い目は何故か優しく見える。

「先生、何?」
わたしよりずっと年下なのに、ヒカルが兄のように見えてくる。

年上のネコが若いイヌをたぶらかすなんて話、みなさん聞いたことありますか?
でも、今わたしがそれを聞いたらきっと信じ込んでしまうだろう。わたしはヒカルにことの全てをさらけ出した。

「ふーん」
「…先生、バカね」
ヒカルに気を許してしまったのはきっと、ヒカルが無口な子だからだろう。
この子ならわたしのどんな失態でも、キチンと受け止めてくれるはず…、と勝手に思うのがわたしの悪い癖。

「乗ってく?」
「ええ?何って言ったの」
「……」


ヒカルは黙って歩き出し、わたしは彼に取り付かれたように後を追った。
生徒用の自転車置き場に向かい、そのままヒカルは彼の自転車に跨るとわたしの前で自転車を止めた。

彼は何も言わない。まわりの生徒の声だけがやかましい。
わたしはトートバッグをぎゅうと肩に掛けたまま握り締め、尻尾を揺らしながらヒカルを見つめていた。

「乗ってよ、先生」
「だめよ、二人乗りなんて」
「…先生が困るだけだよ」
言葉巧みではないヒカルの不器用な気遣いに、なかなか気付かないわたしは大バカやろうだ。

後輪の軸に足を乗せてヒカルの肩に両手を乗せて跨ると、自然とヒカルの後頭部が目の前に。
こんな間近に生徒に近づくのは初めて。若いケモノの匂いがわたしの鼻に届いている。

「行くよ」

そうヒカルが言うと、静かに自転車は動き出し、わたしはヒカルにぎゅうと抱きつく。
理由はわからない、何かにしがみ付きたくなるのはきっと自分が不安だからだろうか。
ふっさふさの毛並みであるヒカルの首筋に、思わず顔を埋めたくなるわたしは悪いヤツだ。
いつもと同じように桜並木を駆け下りているのに、風も同じように感じているはずなのに、
胸の鼓動が幾ばくか激しい。

もしかして、ヒカルにわたしの心臓が幾らか心許なくなっているのということが、ばれてしまうのではないのか。
それを考えると少し怖い。どうして怖いのかが分からない。なのに、いつものように風が吹く。

今が桜の季節だったらいいのに。
ならば、この胸の鼓動を桜の花がきれいだったから、と言い訳することができるのに
それさえも出来ないなんて、わたしは全くツイていない女だ。季節にまでバカにされている愚直なネコだ。

風吹き抜ける坂の途中、いきなり自転車が止まる。


「ぼく、見たんだ」

「何のことかな…」
「昨日のテスト、返すとき…一番初めに『間違ってます!』って言った犬飼のこと」
ヒカルは淡々と続ける。わたしは黙ってヒカルにしがみ付く。

「アイツ、先に配られた模範解答を見ながら、こっそり間違ってる答えを正解に書き換えてた。
それでドサクサにまぎれて『間違ってバツ付いてます!』だよ。アイツ…いい加減にしろって思いませんか」

答案を持ってきたときに気付かなきゃいけないはずなのに、わたしは全く気付かなかった。
クラスメイトに心許さないヒカルのことだ。どうしようかと悩んでいたら、ヒカルが口を開く。

「ゴタゴタはいやだよ」
このことは忘れよう。ネコの得意技は『嫌なことはすぐに忘れる』こと。

ぐいと再びペダルを扱ぐヒカルにしっかり掴みながら、途中まで送ってもらう事にした。
夜の顔を半分見せだす電車通り。あいもかわらず路面電車は不器用に走っている。

「ここでいいよ。うん、ありがとう」
「…うん」
わたしはすたっと自転車から降り、ヒカルと別れて、最寄りの電停に向かう。今日は電車で家に帰ろう。
普段は雨の日にしか乗らない路面電車、きれいな夕焼けを見ながら電車に乗るのは初めてかもしれない。

最寄りの東通り16丁目電停に着くと、電車乗り場の安全地帯には保健室のシロ先生が立っていた。

「あ…シロ、先生…」
「ん」
「同じ方向なんですね…」
「ほう、泊瀬谷先生が晴れた日に電車で帰るのは珍しいな」
「そ、それが…」

遠くからやって来た路面電車が鋼の軋むブレーキ音を立てて電停に止まり、わたしたちは車内に入る。
ざわつく車内で事の顛末をシロ先生に話した。


白衣を脱いだシロ先生、わたしの話を聞くや否や髪を掻き上げながら推理をする。

「もしかして、バッグに鍵を入れたって錯覚をしてはないか」
「ええ?だって…いつもここに入れて…」
「それだ。その『いつも』が曲者なんだ。泊瀬谷先生は今日、遅刻しそうになっていた。
それであわてて自転車を止めて『鍵をかけて、バッグの内ポケットに入れた』と思い込んでいたんだ。
しかし、実際には鍵なんかはかけてない。 いつもの習慣が邪魔して、鍵がありもしないバッグの中を探していたんだ」

「でも…自転車に鍵が付いてなかったんです」
「そこまでは知らない」
うん…そうですよね…。無茶振りでしたか。

「ところで、泊瀬谷先生…。この毛は」
わたしのほっぺたに手を伸ばして、引っ付いたヒカルの羽毛を取ろうとすると

「次は十字街、十字街です。お乗換えのお客様は…」
空気を読まない車内アナウンスが、シロ先生の手を遮る。

街の中心、十字街電停でシロ先生とはお別れ。どうせ壊せば自転車にまた乗れる。
盗まれなかっただけ幸い、とシロ先生に励まされ、そのまま電車に揺られてわたしの住む町へ。

わたしたちオトナや生徒たちと同じくらいの子と乗り合わせ、時間を共有する。
自転車と違って電車から眺める既に真っ暗な秋の街のる景色は何故か新鮮だ。

「次は蕗の森ー、蕗の森です」
わたしの住むアパートが最寄りの電停。ここで下車をして、アパートに向かう。弟が待っている。
しかし、弟の代わりに待っていたのは玄関のドアノブに引っかかった麻の袋、その中に差し込まれた置手紙であった。

『姉ちゃんへ。あんまり遅いんでお土産だけ置いて帰ります。弟より』

ごめん、姉ちゃん間に合わなかったね。袋を広げてみると、中身は熟れかけたみかんだった。
その黄色いみかんの中にふわりとヒカルの白い羽毛が落っこちた。


自転車は学校に置きっぱなしなので、翌日も電車と徒歩で学校に向かう。いつもより早い時間に出るのは
今日これっきりにしたい。しかし、足で登る坂とペダルで登る坂はこんなに違うのか。
自転車がこんなにも頼りがいのあるヤツだったとはしらなんだ。スイスイ登ってゆく生徒たちが恨めしい。
だけど、予定より少し早く職員室に着いたのは嬉しい。

見渡すと帆崎先生にシロ先生、そして猪田先生がお茶を飲んでいた。
緑茶の香りに誘われて、先生方へと近寄ると猪田先生、わたしを見てこう言い出した。

「いやー、昨日は悪いことをしてしまいました、泊瀬谷先生」
「わ、わたしに?何でしょうか?」

「実はですね、昨日のお昼休み校内の見回りをしていたところですね、
泊瀬谷先生の自転車に鍵が付いたままの所を見つけたんですよ。
最近、自転車の盗難が多発しているとよく耳にするので、
鍵を掛けておいて泊瀬谷先生にお渡ししようと思っていたんですよ」

巨体に似合わず恥ずかしそうな声で続ける猪田先生。

「ところが、その後は先生とすれ違いばかり。
結局、先生に会うことなくお日様が落ちてしまったというわけなんです。
ああ!面目ない!!どうも失礼いたしました、泊瀬谷先生」

猪田先生は深々と頭を下げながら、わたしにわたしの自転車の鍵とお詫びにと、みかんを差し出す。
シロ先生は静かにみかんを剥いていた。

青空に映える飛行機雲のような猪田先生の真っ直ぐさに心打たれ、わたしの曇り空も少し晴れたような気がする。
片隅でニヤリとしているシロ先生。昨日の推理は当っていたのだ。

少し早めに教室に行くと、ヒカルが一人で本を読んでいた。
昨日感じたヒカルの温もりと、自転車の風がわたしの胸に蘇ってきた。

「いつも、本…読んでるね」
「…猪田に勧められたんだ」
へえ、他人嫌いなヒカルのいつもと違う一面を見た気になる。ヒカルは目を擦りながら読み続ける。

あんまり目を使いすぎるとよくないぞ。そっとみかんをヒカルに差し出す。

「みかん?どうしたんですか、これ」
「…猪田先生に勧められたんだ」


おしまい。