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スレ8>>347-348 喫茶・フレンドへいらっしゃい

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silvervine222

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喫茶・フレンドへいらっしゃい


とある路地裏の喫茶店。
古いたたずまいは個性のうち。時代遅れとは言わないが、ちょっと趣を感じさせる喫茶店。
誰の口とは言わないが、伝え伝わり広がって、ちょっとばかしケモノたちの住む佳望の街の人気を呼んでいた。
店の名は『喫茶・フレンド』と言う。

甘い声を店内に響かせて、二人の客は年代もののテーブルで向かい合わせに仲良く座る女子二人。
すらりと伸びた二人の脚は、よく磨かれたローファーで飾られる。紺のハイソとスカートからはケモノの毛並みが映える。
彼女らは、佳望学園の女子高生。春を迎えたカーディガンの制服姿は、二人をちょっとオトナに見せる。
ランプの明かりが温かく、椅子をぎししと軋ませながら、喫茶店は二人の女子高生を骨董の世界へと導く。
木目の感触をスカート越しに感じて、リオは恐る恐るメニューを眺めるが、向かい正面の子に笑われる。

「ねえ、リオ。何にする?どっちがいいかなあ!」
「えっと……」
メニューを見ながら決めかねているのは、白いウサギの因幡リオ。
ふだんは真面目な風紀委員、だけど放課後だけはみんなといっしょに寄り道でもと、イヌの芹沢モエとここへ立寄ったのだ。
彼女のカバンはきれいかつ質素に、美しくつやを放っている。飾り気は無いが、優等生。細やかかつ、神経質さがちらと見えるではないか。
椅子に立てかけていたリオのカバンがばたりと床に倒れ、頬を赤らめながら立て直すと、モエの尻尾が目に入る。

どう?見て見て?絶好調でしょ?
女の子は甘ーいものがやって来るとなると、もっと女の子になるんです。
御覧なさい、わたしの尻尾。ウソをつくことはイヤだし、隠すつもりはありません。
モエの尻尾が振り切れて、リオの耳がへし折れていた。メガネにメニューを写しながら、リオはモエの顔色を伺った。

「ご注文はお決まりでしょうか」
人間の女性がメモを片手にリオの横に立つと、モエはメニューの上で動かしていた指を止めて、目を輝かせてメニューを指差す。
「じゃあ!わたしは抹茶アイスね!!」
「はい。かしこまりました」
お姉さんは、モエの威勢の良い声にも臆せずニコリと笑ってメモの上に鉛筆を慣れた手つきで滑らす。
少し焦ったリオは、モエの声に圧倒されてまだ決めても無かった注文をお姉さんに伝えた。
後悔は……無いつもり。
「……わたしも同じのを……」
「だって!お願いね!アリサ姉さん!!」
いいよね?いいんだよね?これ以上、あのお姉さんを困らせても、とリオは短い髪を掻きあげる。
長くまとめられたアリサの髪は、二人の少女の目をずっとひきつけていた。女の子は女性に恋するんですよ?
だって、わたしらは女の子。

「リオも同じのにしたんだ」
「そうすれば、一緒に来るじゃないの」
なるほど。同じメニューなら、手間も同じ。リオの合理的な考えは正しい。
しかしながら、モエはちょっとばかし不満気のようにも見えた。リオはモエの顔を少し不思議そうに見ながら、お冷を口にする。
「ところで聞いてくれる?リオー!うちの弟ったら、わたしの……」
モエは弟のことになると話が長くなる。イヤでも耳に入るモエの話を長い耳で捕まえながら、リオはお冷を口にする。
黙っていれば、そこそこなのに。黙っていれば、結構もてると思うのに。と、リオは黙って相手するしかなったのだ。

「お待たせいたしました」
アリサが注文の品を持って、二人の席にやって来た。いや、正しく言うと注文の品では無い。
その証拠にリオが目を眼鏡越しに丸くしているでは無いか。抗することなく、リオは目の前に置かれた『バニラアイス』を見つめていた。
そして、モエの目の前には『抹茶アイス』。真面目のまー子のリオが見逃すはずが無い。
「お姉さん……」
「いいのいいの。女の子二人組みだからサービス、サービス」
「え」
ふと、正面の少女の顔を見ると、まるで夜空の瞬きのような瞳をしているではないか。
どんな山奥の純な空よりも清らかに、どんな春の星よりも輝かしく光るモエの周りは、リオが今まで見たことが無いものだった。
「リオー!わたしもバニラが食べたくなったなあ!一口ちょうだい」
「う、うん」
遠慮がちにモエはリオのバニラアイスに匙を伸ばし、ほんの一口ご相伴に預かった。

至福の顔、花をちりばめた笑み。モエは甘いものを口にしただけで、口数を減らす。
「おいしい!リオもわたしの抹茶アイスを食べなよ!一口だけだよ!」
「う、うん。ありがとう」
そうか。ちょっとずつお互いに違うアイスを楽しめるように、わざと違うものを持ってきたのか。
モエがしきりにメニューの上で指を動かしていたのは、抹茶かバニラか迷っていたからだったのか。
自分の幼さに恥ずかしくなったリオが振り向くと、アリサの長いポニーテールが揺れているところが目に入った。

結局のところ、一口どころか二人で交互に食べあったので、早い話、バニラと抹茶、半分こずつアイスを頂いてしまった。
ところが、お会計しようと二人がレジへと向かうと、お代はバニラアイス二つ分だけだった。バニラと抹茶アイスを頼んだときより100円少なめだ。
「あの…・・・。お会計が……」
「いいの、いいの。抹茶はおまけだよ」
「……いいんですか?」
「それに、あなたの白い毛並みがバニラアイスみたいで、見とれちゃってね」
アリサはリオの手を見て、にっと白い歯を見せた。リオはバニラアイスのように飾り気は無いが、シンプルな白さを持つウサギ。
なんとなくだが、自分に似ていると言われバニラアイスのことがちょっと好きになった。
また来る約束として、スタンプカードを作ってもらい二人は『喫茶・フレンド』を後にした。

「リオのお陰でおまけしてくれたね!」
あっけらかんとしたモエの声がリオの背中を叩くと同時に、モエのカバンが背中に当る。
甘いバニラと大人しい抹茶のアイスを頂いたモエは、再び弟の話でリオの口を閉ざす。


おしまい。
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